19.円卓が示す、平穏の終わり
60年前の旅の終わりの地から、目と鼻の先にある町のギルド支部。突然のギルド長の訪問に慌てていた。
「……なにかやましいことでもあるのか?ジェイ」
辺境の地に設けられたこのギルド支部は、ゼンの復帰による、ギルド復興に伴って再び、その扉を開くことになった支部のひとつだ。
魔界との距離が近いこともあり依頼される討伐の難易度も高い。実力のある、高ランクの冒険者の利用がほとんどのため、中心都市よりも落ち着いた雰囲気で、騒がしく落ち着きがない者は、いない。
「ない!なにもないけど!」
「後で手伝いを呼んでやる……だが、せめてその報告書と依頼の紙の束だけでも整理しておけ……奥を借りるぞ」
「は〜〜い!さすがパパ!優しい!」
支部長であるジェイだけが、ひとり、やかましいだけだった。
「幼くても聡い者もいれば、大人でも子供みたいな子もいるんだぁ……ね?アダルくん」
「個性ということにしてくれ……あいつのあの明るさで、殺伐としがちな場所でありながら冒険者や依頼主の間での問題は起こっていない」
「人の心をつかむのが上手なのですね」
「そこに全振りしているせいか、生活力含め、片付けがなにひとつうまくできんのが……困りごとくらいだ」
円卓がある部屋に集まり、中心に備えられている地図を見る。
「魔界にいた時間が思いの外長くなっちまったな」
「時の流れが違うこと……うっかりしていた」
そこまで大きな時間経過の差は無いものの、魔界で過ごした約2日の間、地上では約ひと月程度先に進む、時の流れとしての差が出る。
「ま、ここからはのんびり過去を辿る旅をするだけだからな」
「過去をたど……ならばゼン――」
「あ〜!クロエちゃん!ボクが言う!」
最初の目的地を指刺そうとしたゼンを止めるファイン。
「おチビ忘れてる!」
「あいつ、また俺と旅する気あると思うか?」
「そうは言いますが、変化の影響を知るには必要になるのでは?」
「確かに……サリエルという存在が出たように、もしかしたらがあるかもしれないこと、確認すべきだろう?そうなってしまっていたのなら、早急に手をうつべきだ、仲間としてな」
「アダルくんけっこう過激なこと言うね」
この面子のなかで、1番の常識人であるアダルヘルムから出た発言にうれしそうなファイン。
「ゼンなら……そうするだろうと言ったまでだ!私は、そんなこと……そんなものを見たくはない」
理解が深くなるのも、考えものだと、アダルヘルムはため息を吐いた。
「……ともかく、ここへ寄ったのは私の留守を各支部に伝えるため……どうするかは、あなた達で決めてくれ。私は私の仕事を済ませてくる」
アダルヘルムは退室、世界地図に視線を戻し、相談を再開する。
「そこまで正確にやる必要は無いだろ」
「先ほど帰還した魔界を含め、事前に立ち寄った場所には何も変化は――いえ、無いのではなく、私達が起こしたと言うのが正しいのかもしれませんが」
「ボクが起きたっていうのも、それにはいるってことネ」
「それを神側が行っている変化と同等と見るならな?神が俺を勝手に見限る判断をしたのが、ヒロインをよこした時点から、と考えるとおよそ20年前くらいか」
トントンと、人差し指でとある森を指したゼン。
「気乗りしないが、やっぱここか」
「賢明かと……彼女はこの世界に唯一ですからね」
「おチビ元気かなぁ?ゼンの次にボクと遊んでくれたから嫌いじゃないんだよネ!」
「変態の思考だなお前は」
ちょうど仕事を終えたアダルヘルムが戻ってきた。その手には人数分のグラスと大きめの酒瓶を携えて。
「気が利きますね、アダル」
「さすがに、話し通しで喉も疲れてるだろう?」
「ゼンはお話好きだもんネェ〜?」
「神墜ちのアホと同じ事言うな」
久々にファインは弾け、すぐに再生をする。
「んふふ~!ごめんネ、ゼン、許してェ?」
「はははは……知らない人間が見たら卒倒ものだな」
「してるネ」
「していますね」
「……すまない」
アダルヘルムのあとから入室したジェイ、直立したまま倒れ、酒の肴を台無しにしていた。
その後、ギルド支部内の空き部屋でひと晩過ごし、早朝に出発した。
目的の森まではかなり距離がある。が、もちろん、徒歩で行く。その道のりは、簡単なものではない。ファインが各地に目覚めさせた眷属である魔物たちは、容赦なく襲って来るからだ。
「気配が多いですね……認識させていないのは仕方ないですが」
「暇つぶしにゃなる」
「ボクもそれはそれでいいんだけど〜……アダルくんはどう?」
「え?」
一番うしろを歩くアダルヘルムに声と、視線を送るファイン。
「腕、なまってない?」
「進むことを選ぶなら……私が相手をする必要は無いと思うのだが……」
「つまんないの〜」
「つまらなくて結構……あなた達と比べれば、そこら辺にいる一般兵と同じ程度……仕方あるまい」
納得していると思わせるような返事をしたが、腰に下げた剣を握り、少し寂しげに、悔しそうな笑顔をするアダルヘルム。
「お前は別に弱くはねぇだろ」
「ゼン・セクズ……世辞か?」
「アホ、お前の体は当時のままだってこと、忘れてんのか?精力だけが全盛期だと思うな」
握っていた剣から手を離し、その手を上げ、背にあるなにかを掴み、笑う。
「奮って思い出せ」
上空から高速で獲物に向かって飛び込んでくる凶鳥。
「豪腕のアダルヘルム、だろ?」
「……ふっ」
アダルヘルムが振り下ろしたのは、巨大な刃をもつ大斧。禍々しい色の狂気をまとわせたその一撃に、凶鳥は砕かれ、地に落ちた。
「わ、えぐ〜い……でも久々に見れた!カッコいいよアダルくん!」
「健在なのに謙遜して……アダルったら、ふふふ……嬉しそうですね?」
「声に出して言われれば、やらぬわけにはいかないからな……例え――」
「素直に喜んでろっての、本心だぞ?」
かつての乱世で名を馳せ、ゼンと肩を並べて旅路を共にしていたアダルヘルムが、弱いわけがない。
もちろんそれは、手にしている武器によるものでもあるのだが、それを簡単に扱う事ができる実力は、しっかりと、秘めている。
「戦うことを捨てたわけではない、ただ、効率を求めるなら今のやり方は必要ないと言うだけだ」
「いや、1番効率がいい」
「そう〜?」
「黒ブタ、お前は派手にやりすぎる。ファイン、お前はわざと欠損させて遊ぶ。俺じゃ、簡単すぎて面白みがない」
「贅沢なことだぞ、ゼン・セクズ」
襲って来る魔物たちを蹴散らせつつ、森を抜け、山を越え、目的地の深い森へ。
【原初の森】とも呼ばれるここは、人も魔物もほとんど近づくことがない場所だ。
「相変わらず穏やかなところだな」
「おチビどこかなあ?」
「かつての集落でしょう」
魔物の脅威に怯えることなく暮らす動物たち。
食物連鎖、弱肉強食の世界ではあるものの、外敵がいない分、その表情は動物らしさのある穏やかなもの。
ガシャンッ
「え、ゼン?」
「ンブフッ……いや、すまない、大丈夫か?」
「動物襲わすぞアダルヘルム」
「謝っただろう!すぐに外すから、動くなよ」
この森の道という道は、動物たちが通る道だ。
ここに住む、彼女が生きるために必要な罠を数ヶ所、設置していたのだろう。
そのひとつが、ゼンの足に噛みついていた。
「おチビ、大物捕れたぁっ!て喜びそうダネ〜?」
「急に人間らしくするな、調子が狂うぞゼン・セクズ……よし、外れた」
「ふふふ、熱烈な歓迎でよかったですね、ゼン?」
「黙っとけ」
トラバサミを蹴飛ばし、わずかに見える集落を睨む。
動物を襲わすのも、黙っとけというのも、2つの意味がありますわよ〜




