15-④.それは真か真実か
「次から次へと……しかしまぁ……あなたはこの男より見込みがありそうで、楽しめそうですね?」
自分と【乙女様】を無視して、ティオの背中をさすりながら、落ち着かせようとしているゼクスの姿を舐めるように見て、様子をうかがうサリエル。
「…………一応、彼の護衛として来てますから」
「うんうん……内に秘めた能力は高いようだが戦闘に関してはイマイチかつ、無謀な勇み足を見せてくれただけだったねぇ…………ワタシが施設内に配置した部下たちを間引いたのはぁ……あなただね?」
顔面から出るだろう、すべての粘液をグズグズに垂れ流しながら泣き続けているティオに、行動は無駄だった……と、追い打ちをかける言葉を浴びせ更に精神的に追い詰めていく。
「ティオさんはまだまだ成長途中なんだそうです、甘く見てると痛い目をみるんじゃないですか?」
「きみ……は……こんな……情けない僕に……まだ希望を……もっていてくれるのかい……」
「自分が見えない世界を見ているあなたに興味があるので……こんなところで心も体も折れてもらってはこまりますよティオさん」
「ん……うん……そう……そうだね……彼女を……亡骸だとしても救わなければ……ね」
勇気づける言葉としてはイマイチ的を得ない言い方をするゼクスだったが、体を支えて立ち上がらせてくれたのは事実……悔しさで表情は歪んだままだったが、ティオは、それでも立ち上がった。
「ひとつ確認させてもらってもいいですか?ティオさんが『見ている』その光は感情の色でしょうか、それとも……魂の色?」
「……怒ったり、泣いたりしていてもその色は変わらない……だから、魂の色なのだと思うよ……だって……彼女からは今もまだあたたかい光が――」
「今も?」
目の前で、ニコニコと、笑顔を向け続けている【乙女様】。ゼクスが見えている彼女の姿は、魔族の手に堕ち、動く屍と化している状態……だが、ティオには以前と変わらない『慈悲の光』を放つ【乙女様】のまま。
「なるほど……ティオさん、魂が生きているのなら救い出す手はあるかもしれません」
「それは……ほんとう……かい?」
サリエルの術に堕ち、肉体を屍に変えられてしまっている。
それは、死を迎えたことであることは、彼女の容姿から見てもわかること……しかし、本来肉体から離れるはずの魂が肉体の中にとどまっていることが判明したことで『確実に救い出せる』……希望が見えたのだ。
「【乙女様】……セリハ?さんは、特殊な力を持っている……のであれば、その力で術に抵抗し、なんらかの形で魂が護られている状態なのでしょうね、王都を護る力と同じ、強い力で」
少しだけ、ティオの表情が明るくなった。
「ふむふむ……まだセリハは抵抗しているんだね?やはり自我をある程度残して従属の契約を結ばせたのは間違いだったか……さて、どうしようかなぁ??」
ゼクスとティオの会話を聞いていたサリエルは、セリハに触れてその魂の存在を確認しようと、くすぐるように、まさぐるように全身を弄りだした。
「あ……サリエル様……こんなところで……ダメです……」
「くすぐったいのかい?おや?顔が真っ赤だね?血も通っていないのにおかしな子だねぇ?もう少し我慢してくれたまえよ?」
「このっ――」
「落ち着いてティオさん、それじゃさっきと同じですって」
保護された魂の反応、巧みに隠されているらしく、上級魔族であるだろうサリエルは、探し当てることに苦戦しているようだった。
「はて?ワタシがこんなに無防備にしているというのに、なぜ向かってこないんだい?」
なすがままに全身を触れられ、小さく息を漏らし、艶やかな声を上げるセリハの様子を、辛そうに、唇を噛んで見ているティオに向かって、声をかけたサリエル。
だが、その問いに答えたのは……ゼクスだった。
「いいんですか?」
「君たちがワタシを待つ必要はないだろう?ここまできて、セリハを救う手立ての考察もして……今動くべきは、き――」
「では、遠慮なく」
声だけその場に残し、サリエルの体をセリハから剥がすため、捕らえられない程の速さで懐に入り込み、みぞおちに一撃をいれて殴り飛ばした。
「……僕は確かに武芸に秀でている人間ではない、誰かに頼るしかないことなんて、お前に言われなくてもよく分かっているよ……だから、最上級で、最大級の支援をもって……お前を倒させてもらおうと思う」
ゼクスの一撃を合図に、強化魔法を展開し、青、赤、黄色……たくさんの色のオーラをゼクスに重ねていく。
「くっ……ははっ……そこそこ効いたよ……」
室内の壁にめり込み、覆いかぶさった瓦礫の中から立ち上がったサリエルの口の端から、黒い液体が一筋流れ、ポタリと床に落ちた。
「強化前ですから、それくらいでしょうね」
「本番はこれからということかね……いいね……本当に……楽しめそうだっ!!!」
先に距離を詰めたのはサリエル、ゼクスに引けを取ることない速さで間合いを詰め、急所である心臓めがけ、魔力で練った黒い球体をぶつけるように押しつけ、体内へ直接打ち込もうとした。
「なるほど、それで対象を屍にする、と」
バチバチと音を出しながら押していくが、思うように自分の術が決まらない……ただ、ずりずりとゼクスの体を押し動かしているだけだった。
「グッ……なぜだ……」
「あなたが笑ったティオさんのおかげですよ?通常の強化に加え、あなたの属性を見極め、その力が及ばないようにかけた防護術……『聖なる盾』と、でも言いますか……だから、甘く見ない方がいいと、忠告したじゃないですか?」
ぐったりとして、甘く荒い息をしたままその場にへたり込んだセリハを介抱しているティオに、一瞬だけ視線を移して睨みを利かせたサリエル。
「潔く諦めること……それが正当な判断に至る……ヌンッ!!」
球体に込めた魔力を『対象を屍に変える』ことから、『対象を死に至らしめる』ことに、転換することを選び、黒から赤に変化させた球体を力強く振り上げ、ゼクスの胸部を焼きながら天井に向かって体ごと打ち上げた。
「ゼクス!!!」
壮大な音を立て、地下施設の天井を突き破り、廃墟の聖堂の床をもぶち抜いた。
威力は絶大、普通の人間であれば天井にぶつかった時点で押しつぶされて四散するだろう……だが、強化魔法がかかっていたことで、投げ出され、力なく宙にいるゼクス。
一緒に飛び上がっていった土や石の瓦礫とともに、再び地下へ落ち、得意げな顔で立っているサリエルの目の前に、ゴッと鈍い音を出し全身を叩きつけた。
頭からは血が流れ、腕には痛々しい青黒いアザと細かい切傷、胸部は魔傷で焼けただれ、痛々しい傷がいくつも見て取れた。
それでも、強化によって、この程度のダメージで済んでいた。
「…………血……骨も……か」
不機嫌そうな声でぼそりと呟き、ゼクスはフラフラと立ち上がった。
「厄介すぎるようですねぇ…………でも、まあ……それなりに動きにくそうになりましたか?」
「ゼクス!!大丈夫かぃ?!」
ティオがゼクスに駆け寄ろうとした。
後ろに手を出し、それを止めるゼクス。
「え……」
「あっはは!強がらず、許容を超えて剥がされた強化魔法をかけ直して貰ってくださいよ!じゃないと、ワタシと対等に戦うことはできないでしょう??」
「自分は……対等に戦おうなんて思ってないので……」
空いた天井から外の新鮮な空気が入り込み、モウモウとしていた土煙が晴れていく。
見上げた空にむかって「ふぅ」っとひと息吐き、ゼクスは両腕のリングをすり合わせカタールの刀身をあらわにし、眼光を走らせながら……笑うサリエルに向かって突き進んだ。




