15-①.それは真か真実か
「私はやはり踊らされているのだとよくわかるよ……クロエ嬢……」
ベッドに座り、ふうっとひと息ついて肩を落とすアダルヘルム。
その姿を見て隣で横たわるクロエはくすくすと笑う。
「そこが素直でかわいいところだと……ゼンもわかっていますよ」
「あなたも……か……ははっ!そうあるように生きている私も私だったな」
朝焼ける空の薄明りが窓から差し込む。
遠くから昇る朝日の方角、ひとり旅だったゼンの向かった先……ふと彼の動向が気にかかるアダルヘルム。
「クロエ嬢は……心配はしていない?」
「心配する事などありません、ゼンの持つ力は相手が簡単にどうこうできるものではありませんし……『この世界のやり方をする』……それに際して出発前、必要なモノも『作り』ましたし――」
「いや……そうはなく心情的なことなのだが……私に……体を許していることも本当は理解できていない……のであって……」
「あら……ふふふ。ゼンは私に惚れたあなたを敬っているのよ?アダル?」
「うぬっ!?」
いつからバレていたのかと焦るアダルヘルムは、慌てて立ち上がり、クロエから離れた。
照れ隠すようにテーブルに用意してあったグラスの水を喉を鳴らして一気に飲み干した。
「この行為は……敬ってなどいない……私の心をもてあそんでいるだけに過ぎない……まったく……」
「でも……いやではないのでしょう?あなたの腕に抱かれ眠る……私は好きですよ?」
「…………」
「あら、かわいいこと」
返事をすることなく浴室へ消えるアダルヘルム。
「私とゼンに……そんなあたたかな感情はいらないのです。だからこそ……その心を持っていながらゼンから離れずにいるあなたを大事にするの……分かってくれなんて言わないけれど、ね?ゼン?」
クロエはアダルヘルムを追いかけ……長い湯浴みの時間をゆっくりと過ごすことにした。
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国王ローデリック・ロフ・ウベル=ケーニヒこと、アルベアトが王座から退き、勇者ソウゴが国の建て直しを自らの手で行うことを世界に宣言してしばらく経った王都……今は、勇者という存在が大きいものだと知らしめるように、前王の噂や影が無くなったと思わせるほど、街は華やかさと活気に満ちていた。
その光景を象徴するのが、中毒者の姿が路上から消えているということだ。
フォンゼルがいち早く行動したのだろう、自身の開発した薬の使用と、重症者を収容する施設を作ったことで、民からの不信感を「まずはここから」と、薄めていった。
「まぁだわからねぇんだとよ」
「あら……心配ねぇ……」
そんな王都の変化を肌に感じながら入った酒場……奥の席に選び、安酒に合う『興味深い噂話』を肴に腰を落ち着けた。
「俺は姿をみたこちゃねぇけどさ、相当な美人さんなんだろ?」
「ここを護ってもらっているっていうのはわたしも知ってるけど……確かに姿は見たことないわね?」
「だーれも見たことねぇんならよぉ?美人って言われてんのも、行方不明っていうのも……ほんとかどうかわからねぇんじゃねぇか?ヒック……」
赤ら顔の職人の発言に噂話をしていた数人が頷いた。
勇者ソウゴのように、表立って世界にその存在を知らしめているわけではないらしく、民にとっても不思議で奇妙な存在であるらしい……で、あるものの、自分たちが実際に加護を受けているという事実は理解しているため、行方不明になったという大事件に王都の民はざわめいていた。
「なになに~?なんの話?」
「うわ、でた……なまぐさ神官」
フラフラと足取り軽く、酒場にいるべき者ではない……背中に聖堂の印の刺繍をした白い神官の正装をしている若者が近づき、会話に加わった。
「お前のとこの【乙女様】の話しかないだろ、今は……だからな?ティオ、ここで油売ってんじゃないぞ?」
「そんなことないさ、これでもしっかり捜索をしているんだよ?」
「説得力ないわよねぇ?毎日来ては飲んで潰れて……王都を護る聖堂の神官が聞いてあきれるわよ」
ティオと呼ばれた神官の男、酔っぱらった常連にぼろくそに言われていた。
最初は笑って流していたが、さすがに言いたい放題にされて黙っていられるわけがなかったらしい……タダの酔っぱらいの仲間だとしても、神官としてのプライドはあったようだ。
「そんな風に口だけなのは君たちじゃないか?僕はひとりでも【乙女様】を助けることはできるんだよ?ただ聖堂の意向で動けないだけさ……今だってただ単にここで酒を飲んでいるわけじゃな――」
「……酒場での情報収集と見合った協力者を探している……そうだろう?」
「?!」
背後から声をかける。
「き、君は……?」
「失礼、自分の名はゼクス、しがない冒険者……ティオさん、でしたか?自分と協力しませんか?その口ぶりだと相当優秀な治癒士とお見受けします……だとすれば前に立つ者がいれば問題ないということでは?」
「……へぇ、君、見る目があるね?」
目深に被ったフードを取り、名を名乗り、挨拶をした。
「あら、いい男ね?」
「いえいえそんな……ティオさんには及びません」
「そんなに僕の気分を良くしても酒は奢ってやらないよ?まぁ……【乙女様】の件は承諾してもいい……明朝、西の門で落ち合おう」
「よかった……噂を聞いて心を痛めていたところ、あなたのような勇敢で優秀な神官に出会えて光栄です……腕には自信がありますので護衛はお任せを」
ハーフアップにまとめられた橙色の髪を揺らし笑うゼクス、差し出されたティオの手を強く握り、約束を交わした。
「ギルド所属の冒険者が王都に潜り込んでいるということ……それだけで君の実力は信頼に値するよ」
「あははは……その事実を理解し、協力することを選んだティオさんも、ね?」
腹に一物を抱えているのはお互い様といった様子で別れ明朝、まだ日が昇りきらない時間の西の門……探り合うように再び顔を合わせて言葉を交わす。
「それにしても……昨日もおもったのだけど、戦士の割にはやけに軽装だね?」
「自分は戦士ではないですよ?前衛にも色々な方がいるので……自分の戦闘スタイルには鎧は合わなかったというだけ……問題なくティオさんに合わせられるので『自由に動いて』もらって、大丈夫ですよ」
「そう……では、お言葉に甘えさせてもらうとするよ」
門を抜け、目の前に広がる野原に作られた道を歩いていく。
行方不明と言われているはずの【乙女様】がいるだろう場所へ向かっているのか、協力関係であると思わせておきながら惑わしているのか……その駆け引きが面白いのだろう、誠実に、真っ直ぐに、ティオに従い進んでいくゼクス。
小一時間ほど真っ直ぐ進んだ先、朽ちて幾年も経っているだろう小さな聖堂が遠くに見える。
「……どうしたものかな」
しっかりと全体を目視できる位置で立ち止まり、ティオに質問をされるゼクス。
「君にはあの場所がどう見える?」
「廃墟の聖堂にしか見えません、そこがなにか?」
「ははは……さすがの君も……あれは見えないようだね」
「……あれ?」
髪をかきあげながらティオは自慢げに語りだした。
「共に【乙女様】を探し出す仲間の君には伝えておくべきだろう……うら若き乙女たちが集う聖堂、若い男である僕が神官として仕えることは本来あってはならない……それが許されている理由を……」
空を見上げながら熱く自分を語り始めるティオを冷ややかに見つめ……「少し癖があるくらいなら問題ない……と、思っていたのは間違いだった」と……ゼクスはその場に座り込む……ティオの話が終わるまで。




