14.信仰は改変を進行させるか
ギルド主体でアダマンタイト鉱山の集落は鍛冶の町として大きく発展していくこととなった。
噂ではなく、直接アダマンタイトの採掘に成功したことをギルドから知らされた腕利きの鍛冶師が我先にと都にある自分の店を閉めてまで集落へ足を運んだ。
自身の手で扱い最高品質の武具を作り上げたい……職人として黙っていられない事態であった。
支給された道具を使い、持ち前の技術によって作り出された武器、防具、装飾品……『ギルドに登録していることが証明されれば格安でアダマンタイト製の武具を購入することが出来る』……そう通知を受けていた冒険者たちはわざわざ遠回りしても立ち寄りたいと目を輝かせて往来し、集落から町へたった数週間で姿をかえていった。
その報告をイーリカから受け取ったアダルヘルムはここまでの効果が出たことに安堵し、喜んだ。
「ゼン・セクズ、あなたのおかげでギルドの強化は成った……ありがとう」
ギルド本部のいつもの席に座り食事をしているゼンに経過の報告と感謝を伝える。
素直な「ありがとう」を聞いて少し驚くゼン。
「お前がそんなことを俺に言うのは珍しいな?まだ何か企んでたりするのか?」
「私よりも数百倍もひねくれてるあなたに言われたくない!……まったく、たまには素直に受け取ってくれ。」
「他の冒険者どもと同じように依頼を終わらせただけだろうが。そんな顔で俺のしたことに感謝なんてするな。後悔したくないならな。」
「ゼン・セクズ――……それなら……私からの追加の報酬……これは受け取ってくれるだろう?」
テーブルにはパンとチーズとサラミ……そこへ酒瓶も追加された。
アダルヘルムに酌をされながら食事の時間を優雅に過ごす。
「そういえばクロエ嬢の姿が見えないがどうしたんだ?」
「ファインの様子を見に行くとか言ってたな。」
「ふむ……あれからしばらく経つが王都にかけられた加護はそれほどまでに魔族には毒になるのか……」
元々王都は世界の中心、世界の象徴として永遠にあるべき場所。
昔いたとされる優秀で有能な魔法使い【賢者】によって創建された聖堂があり、【賢者】の思想にその身を捧げた清らかな乙女たちの祈りによって王都に結界が張られる仕組みを作り上げた。
結界と言っても何人も通さなヴェールが張られているものではなく、王都内に入り込んだ魔族たちの力を吸い上げ、力を殺いでしまうもの。
対処する間もなく対処する力を無くし絶えてしまう。その特殊な性質で自然と結界ではなく、加護と呼ばれるようになった。
「王都をどうこうするつもりは無かったが少し気になる事があんだよな。」
「気になる事……とは?」
「勇者様の取り巻きの存在、勝手になにかやってるだけだと思っちゃいたがファインにここまで影響が出るのは少し変だと思ってな。」
『白金のゼン』として王都を訪れた当時、ファインも姿を変えて同行していた時がある。
魔族としての姿はとっていなかったが、あからさまな弱体化をした。その時は、王都を離れすぐに復帰が出来ていたのだが、今回はあまりにも時間がかかりすぎている。
「勇者ソウゴの出現で彼を守る為……見目がいい彼の為に戦力としては不十分の魔力でもできる事を……と集まっただけではないのか?小さな祈りも人数がいれば大きなものなる、違うのか?」
「もちろんその線も考えたし、あり得ないことじゃねぇだろうな。だが、同質の祈りが重なったところで長期的な弱体化の影響を及ぼすのは考え難い。ひとつあるとすれば――」
話が長くなると踏んだアダルヘルムは向かいの席に座った。
「あるとすれば……?」
「勇者という存在が出来た世界にあるべきものってわかるか?」
「そうだな……倒すべき脅威か?」
「確かにその存在が無い限り勇者なんてもんはうまれねぇし存在する必要はない。今すでに勇者がいて、誰がいないのか、だ。」
「誰か」というヒントを与えられたにも関わらずアダルヘルムは唸るだけ。
「相変わらずだなぁお前は。『白金のゼン』の隣にはいつも誰がいた?」
「……クロエ嬢のことか?」
「あいつが俺にとってその性質であるかどうかは別として、世界を救う為の物語を作る上で主人公に寄り添い支え合う人物、これは定番でてっぱんで存在しなければ成り立たない、わかるか?」
答えが中々でない。たまに出るアダルヘルムの頭の固い思考にため息が出るゼン。
「相棒……相方か?」
「……お前散々各地の女を抱きつぶしてるくせになんでこれがわからねぇんだよ。」
「それとこれとは別問題だろうっ!……えぇと?つまり、クロエ嬢のように特殊な力を持ち勇者と共に行動する女性のことをいっているのだな?あなたはやはりクロエ嬢を大事にし――……」
「都合がいいから手放さないだけだ。」
「わかったわかった……で……あなたが懸念したのはその女性が聖堂の関係者で王都の加護が以前と違う形に強化され、強まっていること……後はそうだな……その人物が勇者と共に行動をしているのかどうか、というところか?」
度数の高い酒が喉を焼く心地よさをかんじながらグラスを空け、ニヤッと笑うゼン。
「なぜそんな顔をするんだ……」
「この世界は俺の為に用意された世界だ。なら?主人公は俺であるべきだろう?俺という存在を別のものに置き換えて改変されていいわけがねえ。たとえそれがあいつの思惑だとしてもな。」
「ゼン・セクズ……その発言、自分のことを脅威として認めているのではないか……?」
「はっ!向こうからしたら十分脅威なんだろ?そこだけは認めてやってんだよ、今はな。」
ケタケタ楽しそうに笑うゼン。
酔っているからという理由ではないだろう……その様子にアダルヘルムは頭を抱えるしかない。
「一応聞くが……なにを、するつもりでいる?」
「なに、ねぇ?」
悩む姿もご機嫌だった。
「ちょうど俺の偽情報が回ってるみたいなんだよ。」
「偽情報?男色だったとかか?」
「んな奴はひとりで十分だわ。情報ってのは俺が力を使う時にあえて動作をつけて見せたはったりなんだがな?それを踏まえ、この世界に習ったやり方で大冒険をするのは飽きなくて良さそうだろ?」
この世界に依存した力をゼンは持っていない。
そのことを知っているこの世界の住人はファインとアダルヘルムのみ。
それ以外の力でゼンがなにかをすることは滅多にない。
ただアダルヘルムは一度だけ……『白金のゼン』としてまっとうに世界を共に歩んでいた時の一度……みたことはあった。
「……脅威として赴かない理由はなんだ?」
「そりゃ俺の隣に置くためだ。ま、相当いい女じゃなかったらどうするかは神のみぞ知るってところだな?」
「あなたは……神は信じていないのだろうにまったく……それで?なにを用意すればいいんだ?アダマンタイトの性能もみてみたいのだろう?」
「そーいうとこは話が早いのにな、おまえは。」
受付カウンターの奥へ進み、地下室へ続く扉を開け階段を下る。
そこは武器庫になっており、駆け出しの冒険者に貸し出す為の既製品も多く保管されている。
中央のテーブルにあったのはイーリカから送られてきた試作品の武器の数々が並べられていた。
「上位クラスの冒険者は特注として一点物を注文できるが、基本的にはここにある同じ型の物を扱う方向にしている。まだ駆け出しで浅いランクの者は心構えも浅い事が多い、装備品に差が出ると揉め事に至るからな。防具の方も近々送られてくるだろう。」
「量産品になるとしてもさすがの出来だな。」
ナイフや短剣、長剣や鈍器、斧、杖……多くの鍛冶師が集まった事でそれぞれの得意から生み出された武器たち、ランタンの明かりで反射し輝く様子は鉱山内部と同じ……磨き上げられた刃は更なる煌めきを帯びていた。
「こいつ……よくあの短期間で作れたな」
「あぁ……これは……私の息子が作ったものだ。武器防具に関する古書から珍しい武器をあえて選んでいるようでな。何日も寝ずに夢中で作ったと誇らしげにギルドの前進の記念にと渡されたものなんだ。残念ながら私はこの武器の扱い方がわからない、それなら観賞用にと思っていたが……」
「いいな、これにするわ。」
アダマンタイトの出現で世界で2番目の珍しさに変わったミスリル鉱石を装飾に作られた2本のカタール。張り付けられていた説明文を軽く読み、チェーンで繋がっているリング部分を両腕に通してから刀身側の持ち手を掴み、人差し指に触れた突起を少し強い力で押し込んだ。
「はっ!おもしれぇ。」
「ほう!面白い技巧だ…………玩具じゃないのだ、扱いには注意するんだぞ」
細かい仕組みは分からないが、剥き出しになっていた刀身が小手部分に収まり、細工の細かい大きめの腕輪に変わった。技術であることは確かなのだが、小手の内部に隠せるほど刀身は小さくないことから、アダマンタイトの特異な性質を利用し作用させているのだろう。
暗器として……申し分ない作りだということが判断できた。




