13.鉱石は踊り、功績に至る
ギルド支部へ戻り、アダマンタイトをすべて掘り出し運び出すだけになったことを伝えると、待機していた冒険者たちが行動を開始した。そのまま抱えている者もいれば荷台を使い協力しながら運び出していく。その様子を見守っていたイーリカは、ふと違和感を感じゼンに問いかけた。
「なにかあったのですか。」
「なにかって?」
依頼を終え休憩中、あくびをしながら運び出されたアダマンタイトが大きな倉庫に次々と運び入れられていく様子をぼーっと眺めているゼン、その話題は一切興味が無いといった態度をとる。
その仕草を見て納得し、察したイーリカ。いつも通りに返事を返せたのは、事前に父から聞いていたゼン・セクズという男がどういう人物か、という情報のおかげだった。
「……なるほど。父が言っていた事、理解しました。」
「なに吹き込まれてたかしらねぇが?まぁそうだな、お前は正しい。」
「ありがとうございます。」
もちろん心の奥では「何故簡単に人の存在を無かったことにするような人と父は仲を深め、信頼関係を築き、付き従う必要があるのか」と疑問には思っている。
だが今は、父が深めたゼンとの信頼を利用して事を進める必要があること……その為に自分が余計なことをしてはいけない事。ゼンという人物を理解した上でこれから自分が言わなければいけない、父アダルヘルムから……無事に採掘が済んでからゼンに頼むようにと言付かり受け取った手紙。
初対面の自分がこの内容をゼンに伝えて了承を貰えるのだろうか?と……普通の冒険者相手であれば出ることはない額をにじませている汗をグッと拭い、イーリカはゼンに伝えた。
「ゼン様、お疲れのところ申し訳ありませんが父……ギルド長からもうひとつ協力の要請が。」
「ん~一応聞いてやる。」
「クロエ様にも協力をしていただきたいこと……アダマンタイトを加工するための道具を提供してもらえないかと。」
「そりゃそうだろうな。採掘から出来なかったものをどうやって使うんだって話だわな。」
軽く伸びをしながら立ち上がりイーリカを手招くゼン。
声にした返事はもらえていないが拒否されているわけではない……そう感じたイーリカは素直にゼンに付いていく。
男たちが指示を出し、声を掛け合う騒がしい倉庫……その裏でゼンは立ち止まった。
「ゼンさ……きゃっ?!」
「お?意外といい声が出るんだなお前」
「な、なんです……か!急にこんな……!」
ドンっと力強く……イーリカが動けないように体を密着させ、両腕もしっかりと壁に押さえつける。
じっとゼンに見つめられ、イーリカはだんだんと恥ずかしさを覚え顔を赤らめさせていく。
男性とここまで距離が近く、ふたりだけになることの経験がないイーリカ。ゼンは面白がっているのかイーリカの股に自分の片足をグッと押しつけながら動かし、どんな反応をするかを見ていた。
「やめてください……!父に……いいつけます……よ!」
「別に構わねぇよ?お前の父親はこんなことよりももっとすげぇことしてるんだからな?例えば――」
「……な……あっ?!」
首筋にゼンの吐息がふっと触れたかと思うと次に感じたのは生暖かいヌルリとした刺激……ビリビリと脳に伝わり今まで出したことのない声を出してしまう自分に驚き涙目になっていくイーリカ。
「……うぅ」
抵抗という抵抗はしていない……抵抗の仕方を知らない。
それをいいことにゼンはシャツのボタンに手をかけボタンを外しにかかる。
「ゼン……またアダルがうるさくなりますよ?」
「あぁ?暇だからちょっと構って遊んでただけだろ。」
「遊びの割にはそこそこ元気になっていたようですけれど?まぁそれより、準備が出来ましたよイーリカ」
「……え……え?」
ゼンから解放され、その場でへたり込んでしまったイーリカを支え立ち上がらせたクロエは、準備が出来たという場所へ彼女を導く。倉庫の横の掘っ立て小屋、そこにあったのは複数の木箱と布で覆われた大きな何か。
「これは……?」
「アダルに言われずとも……といったところです。」
布をはぎ、木箱の蓋を開け……リーリカが目にしたのは冒険者たちに必須の装備品を加工する数々の道具たち。艶めくその道具たちは見慣れたものでもあり、初めて見るものでもあった。
「やるなら徹底的に、だ。強さを求めるなら原石だけあっても意味がない。どれも採掘したアダマンタイトを武器や防具に加工する為だけに用意した最上級品の道具だ。この俺が、苦労して取ってきたもんを無駄にされちゃあたまらねぇからな。」
「すべてを加工済みにし提供することはギルドの為にも、冒険者の為にもなりません。冒険者たちが楽に強くなれると思い込んでしまうことは逆効果です。力を手に入れる意味をしっかりとりかいしていただきませんと、ね?……この鉱石自体の価値は相当なもの、それが独占できているというだけでもギルドにとって大きな功績です。さらに加工する技術を持つ唯一の存在になること、今だけでなくこれから先もギルドにとっての武器となり、発展と繁栄を導く糧となるでしょう?バカみたいに吹っ掛けられた徴収金も関係なくなるほどに。」
まるで未来を見て知っているような口ぶりでクロエはイーリカに一つ一つ道具の説明をし、直接加工を手掛ける鍛冶師たちに説明もしやすいように、と。
絵と説明文が記してある紙の束を渡した。形としてギルドに残すのは違法な手段を使って入手したという事実が無いよう記録を残すため……入手先は鉱山内の洞穴として。
「なんらかの調査が入った場合に必要になる可能性があります、一応確認をさせてください。書面には『隠れ住んでいた凶悪な魔物を討伐。遺物を回収後、洞穴を完全に封鎖し脅威を封印した。』とあります……その洞穴というのは存在しているものなのですか?」
小屋の外で会話を聞いていたゼンがふっと笑った。
「俺たちは帰る。あとは好きにしたらいい。が、俺の名を前面に出すことだけはするな。これは『ギルドの成果』だ。今一番世界に対して効果のある結果ということは理解しろ。」
「質問の答えになっていな――?!」
「私たちはも帰ります……そんなに気にするのであれば落ち着いてから自分の目で確認なさったらよろしい……さようならアダルの娘。」
ゼンに詰め寄ろうとしたイーリカ。
その両目をクロエは後ろから優しく抱くように両手でふさぎ、耳元で囁いた後ゼンを追って集落から去っていく。ゼンから受けた辱めもだが、クロエの甘い囁き声に当てられしばらく動けなくなってしまった。
「本当にわからない……父はなぜ……ううん……ダメだ、仕事をしなきゃ。確認を……」
大きなアダマンタイトの塊のほとんどが運び出され、細かく散らばった欠片を集める者が数名、その中のひとりがイーリカに気付き手招きする。
「イーリカさん!なんかここ、ちょっとおかしいんですよ」
男の足元を見ると、あからさまに、雑に、新しい土と周辺にあった砕いたであろう岩盤を寄せ集めて埋めたであろう直系3mの色の違う地面の円。
すぐに確認が取れたこと自体は良かったのだが、足元から伝わる異様な気配が背筋を寒くさせる。
「皆さんに伝えてください、アダマンタイトをすべて回収後……この鉱山全体を完全封鎖し監視を付けます。報酬はギルドから潤沢に……いいですね?」
元々父アダルヘルムから今は消えてしまった人物のことは伝えられていなかった。
手続きに手違いがあった程度の認識でしかなった。
でもそれは意図的なものであったこと、父がそれを承知し、容認していた事実。
「お父さん……これ以上彼と一緒にいないで……お願い……」
イーリカは父は正しくあってほしいと願った。
アダルヘルムはその命を終えるまでゼン・セクズという男に縛られ、捕らえられ、呪われ続けている……そうして生きてく中で自分も逃れられない生を受けたことを……知らないまま。




