12‐②.貴重な鉱石、消える宝石
開けた空間……数多くの巣穴はあるものの、複数の気配があるわけではない。
奥に見える行き止まりには複数の骨のようなものが見える。もちろん人の物ではない大きな骨格をもつ生物のもの。それを見てゾッとしているのはレーアだけ。
「出口の無いここで生まれてしまったが故の末路……」
「蟲毒みたいなもんか。」
「な、なんでそんなに冷静でいられるの……ひっ!?やだっ!!」
空気穴はどこかにあるのだろう。普段見ることの無い光に反応して小さな虫が足元をカサカサと動き回ってい慌てている。それが気持ち悪かったのかレーアは悲鳴を上げてしまった。まだ大人しく静かにしていれば狙われる心配もなかったかもしれない。
その声を頼りに……天井に張り付いていたナニかが勢いよく降ってきた。
「おぉ?でかいな」
「ゼン様……っ!ありがとうございますわ……!」
レーアを片手で掴み、段差になっている岩の上へ飛び上がって回避した。
「人の顔の皮?ムカデ……?暗闇で生活していたせいで視力はないようですね……この魔物も眷属なのかしら」
「魔物だからそうだろうな。あいつここに放置して忘れてんじゃねぇか?」
「な、なんのはなしを…………?」
無表情の白い人面を頭部に持つ巨大なムカデの魔物はゼンたちを見失ってキョロキョロをしている。
「お前には関係ない」
「へ……?」
ベシャっと濡れた地面に転がる音に反応してムカデの魔物は自分のいる場所の下を確認しているが小さい虫のうごめく音に邪魔されなにがそこにいるのかはまだ理解できていないようだった。
ゴロンっと転がったのはレーア…………ゼンは彼女を放り投げていた。
「もういいのですか?」
「ん」
クロエの問いかけにそっけない返事で返し、状況の理解が追い付かず泥と虫の潰れた汁まみれになって固まっているレーアに向かって手をかざした。
「ゼン……様?」
「最後に言いたい事があるなら一応聞いてやるぜ?」
「……は?……はぁ?!」
危機的状況に化けの皮がはがれていく。
「冗談ですわよね?ゼン様?わたくしはあなたに尽くすことはすれど害をなすことは――」
バキッと言う音と共にレーアの持っている杖が砕かれる。
「お前その杖で俺の情報売ってただろ」
「そ、そんな……ま、まさか……」
「通常の聖職者……冒険者で言うところのヒーラーの方はその色の石を埋め込んだ杖は所有しません。その色は通信用に使われるものです……それを知らないでギルドに登録なさったのですか?」
「え……」
ぽかんと口を開け、驚愕の表情をしてゼンとクロエを見つめるレーア。
「知らなかったみたいですね……そうなるとあなた……仲間に捨て駒として使われただけじゃありません?」
「そんなわけないですわ!!ソウゴ様の為にわたくしたちは!!……あっ……」
「ま、そんなこったろうと思った。」
慌てて口を塞いだところで意味はなく。震えながら立ち上がり、ゼンに向かって指を差しながら本性を現す。
「そうよ……!!ソウゴ様の役に立つために立ち上がったのよ!!……わたくしたちはソウゴ様の戦いを手伝うにはあまりにも非力……なら敵の情報を取ってあなたを倒す手助けを……!!」
「おうおう?それで?」
「あなたの力の使い方は通信を通して親衛隊のみんなに伝わっているわ……!対処法を確立させてしまえばあなたなんて――」
ガクンっとレーアの視線が低くなった。膝から下が血と肉片に変わり、地面を赤く染めていた。
「あ……ぎぃっっぃぃぃぃいいいあああっっ!!!!」
肉と骨が剥き出しになった断面が地面に自分の上半身の重さを受け押し付けられたことによる鋭い痛みでレーアは悲痛な叫び声を上げた。
今は涙でぼやけてしまっているゼンをしっかり視界に入れていた。なのになぜか……見てきたはずの動作をゼンがとることなく岩盤を砕いた時と同じ『破壊』をされた。
美しい足だった。陶器のような、誰もが見惚れ、触れたくなるような、魅了される足だった。
「いぃぃぃい……いっ……!!!ぐぅっ!!うううううぅぅぅっ!!」
「あら?失神しないその精神力は素晴らしいですが……その程度の覚悟でゼンと行動を共にしていたのね?」
「いやぁぁ……ソウゴ様ぁ……ぁぁぁうぅぅっ!!」
「親衛隊ねぇ?お前あれだなぁ、推しにガチ恋して余計な事する厄介女だな。」
「な……?なにい……うぅう……なにそれ……うう……いたいよぉ……」
ゼンの発言の意味もわからず、自分にどうやってこんなことをされたのかもわからず痛みで泣きじゃくるレーア。その鳴き声にムカデの魔物は更に反応を示し、レーアの背後に頭部を近づけていく。臭いを確認し、食糧と判断したのだろう、クパっと口を開いていく。
その動きを止めたのはゼン。
レーアが食糧……その認識を『破壊』し、クロエに目配せをして新たな認識を『作り』植え付けさせる。
「な……に……?いやぁ……きもち……わる……いぃぃ」
血が流れ出る断面をぺろぺろと舐め始めるムカデの魔物。大事に大事に優しく。
粘度の高い唾液が下半身全体を包むと断面から流れ出ていた血は止まり痛みを消した。
「なんだこいつ、治癒能力もあんのか?」
「ここでひとりで生きるために生態を変化させたのでしょうか?」
「好都合だな、どうせなら特殊で特異な高位の個体が産まれる方がいいからな」
「そうですね。彼女もあの勇者の為になるなら本望でしょう……ね?レーアさん」
痛みが消えたことにほっとしたものの、失血にせいで意識がおぼろげになっているレーア。自分の体を優しく持ち上げ懐に抱えたのがなにかをまだ理解できていない。
そこには温かさはなく、硬い外殻が背中を冷やしていく感覚に怖気が走る。
「これ……は……わたくしはなんで……殺されていないの……?」
青ざめながらも自分がどうなるかを問うレーア。
「お前がメスだから」
「え?」
「大事にしてもらえるようにしてやったんだ。優しいだろ?」
ムカデの魔物の複数の足がレーアの体をまさぐり始めた。確かな気持ち悪さを感じたはずなのに、感触が快感に置き換わって脳に直接襲い掛かってくる不思議な感覚。それは人間の男に愛されている時に感じるむずがゆさに似ていた。
「私からもよき母になるように少しだけ手助けをさせていただきました。心も体も満足することでしょう。」
「なにいって……ます……の?おかしいですわ……そんな……ありえない……ひんっ!!」
唾液まみれになった下半身をムカデの足が囲みゼンたちからは見えないが、なにをしているのかはわかる粘膜の擦れ合う音が空間に響いていた。
「いやぁぁああああ!!!!はなしてぇぇえええ!!!やめてぇぇ!!!!」
「嬉しそうな顔してなにいってんだか。じゃあ一旦帰るか。」
「いや……いかない……でぇえぇ!!許してください!!!許してぇぇぇええ!!」
トントンっと岩を渡り、出口へ向かうゼンに許しと助けを乞う。
「お前さ、勇者様をバカにするやつがいたらどうする?簡単に許すか?許さねぇから俺のこと探ってたんだろ?」
「そ……それは……んんぅっ!!動かないでぇ……やめてぇ……きもちわるいぃ……っ」
「だろ?俺の癪に触ったお前が悪い、だから俺が許すに値する罰を与えた。死でないことを喜ぶべきだぞ?」
「――殺して……ころしてぇ……こんなのいやぁ……」
うごめくムカデの魔物、段々と絶望に飲まれていくレーアの声。
「そうでした……仲間に送った情報はすべて無意味だということは教えてあげますねレーアさん?私とゼンの力はあなた方の世界に存在し、皆が周知している『魔法』などではありません。親衛隊?の中で今この世界に流れる勇者側の状況を理解し、どういった過程でギルドに来たのかは知りませんが……勇者ソウゴもそれを知っていますよ?ほんとうに馬鹿な事をしたものですね。」
「……あ……あぁぁ……」
「勝手な行動からの自業自得の結果だ。」
クロエの優しさで希望が消え去ったレーア。目から光が消え、なすがままされるがままムカデの魔物の全身を抱かれていく。
「その残された両腕は産まれた子を抱くための母親としての象徴だ。大事にしろよ?」
「あら……優しいのねゼン。」
笑い声がだんだんと遠ざかる、光が消える、暗闇が支配する。




