12‐①.貴重な鉱石、消える宝石
切り立った山に囲まれる小さな集落に着いたのはフェストンを出て10日後、新設のギルド支部が中心になり鉱山開拓の準備を着々と進めているのがすぐわかる人の流れと働きをしていることが集落に入ってすぐにわかった。
いつ頃かはわからないが、国からこの土地と鉱山を所有する権利を事前に得ていたらしく、今の状況でも国から手は出せないようになっていた。
「アダルも一応裏で動いていたのでしょうか」
「さぁな。余計な仕事をしないで済むだけだ。」
「ゼ、ゼン様……お疲れではないのです?」
道中、ほとんど休むことなく歩きでここまできた。慣れない行動に無理やりついて行くことになったレーアは相当疲れていた。
「明日にするか。宿に行くぞ。」
「流石ゼン様!お優しい!!いきましょう~」
相変わらずベタベタとするレーア。
出来て日の浅い集落には高級宿などは無い。協力している冒険者たちを休ませるための宿舎は多くあるが、観光地でもないここには一応の施設という形で簡素な宿がひとつだけ。
「おや?冒険者なのにこっちに泊まるのかい?」
「男ばっかのむさくるしい所にこいつらを放り込むわけにゃいかねぇだろ?」
「はっはっは!!そりゃあそうだ!大部屋なら空いて――」
「3部屋でいい。」
女性を気遣う優しい男……宿の主人にはそう見えたのだろう。
「ご一緒でもよろしかったのに……」
「明日から労働だ。しっかり休め。」
それぞれに部屋のカギを渡し、ゼンは自分の部屋へ消える。廊下に残されたクロエとレーア……特に会話も無く、ただレーアが小さくクロエに威嚇だけし、各々部屋へ。
静かに夜を迎えた。食事をするのもそれぞれ自由に、と……一緒に依頼を受け行動する冒険者とは思えない行動だった。
更に夜も更け……虫の音だけが集落を包む静かな夜。キシキシと音をさせ、薄暗い宿の廊下をゼンの部屋へ向かおうとしているレーアがいた。
「……やめた方がいいわ」
「?!」
クロエにその行動を見られ、声をかかけられたレーアは顔を引きつらせる。
「あ、あら……クロエさんだったかしら……?こんなところで奇遇ですわね?」
「ゼンに夜這いなど……やめておきなさい」
「……なに?嫉妬してるの?」
「そんな感情、私にはありません。それに……私から求めずとも、ゼンは私を求めてきますから」
クロエは圧倒的有利であることをレーアに伝え、どこから出したのかゼンの部屋のカギを使って部屋に入っていった。ガチャリと内側からカギをかけられ、入ることが出来ない。何度かドアノブも回し、ノックもしてみたが……返事は無い。声も聞こえない。ただ……なぜか肌に感じるピリピリとした感覚があり、それ以上の事はしてはいけないと悟る。
「そう……残念……だわ」
レーアはゼンの部屋の前から離れるしかなかった。
「……ゼン」
部屋の前から気配が消えたことを確認し、クロエは寝ているゼンの髪を撫でながら小さな声で囁き掛ける。
「明日が楽しみですねゼン……ゆっくりと……『良い夢を』……」
ベッドを共にしている時とは違うじっとりとした汗をかき、時折苦しそうな声を漏らすゼンの寝息を和らげたクロエ。深く眠りについたことを確認し、髪にキスをしクロエは部屋を出た。
翌朝……朝というよりは昼近くになってからゼンはギルド支部へ足を運び、受付にいる女性に声をかける……見覚えのある雰囲気と顔だった。
「来たぞ。」
「……なにをしに?」
偉そうな態度にムッとした女性だったが、クロエが差し出した依頼書を受け取って理解した。
「あなたがゼン・セクズですか。支部長のイーリカと申します。父から連絡は受けておりました、地図をお渡ししますのでご自由に、と。」
「顔はそっくりのくせに態度わりぃなお前。もう少し親父見習った方がいいんじゃねぇの?」
「よく言われますが私は誰にでも同じ対応をしています。では、いってらっしゃいませ。」
地図を奪い目的地を確認してすぐに移動を始める。
鉱山の入口はある程度出入りしやすいように掘削はされていた。だが、少し進んだ先はそうもいかなかったらしい。
近くにあったランタンに灯をともし、周囲を照らしてみると、放置されたピッケルやスコップ、ノミやハンマーなど……色々な道具を使ってで砕こうと努力した痕跡はあるものの、青と緑の混じったオーロラ色に輝く固い鉱石は掘り出せずそのままになっていた。
「綺麗ですわ……こんなものが存在しているのですね……」
「異世界にあってこその物だろうな。そうそうお目にかかれるもんじゃねぇからよく見といたほうがいいぜ?」
黒い岩盤の合間合間から覗くアダマンタイトに手を振れ、加工前にも関わらずツヤツヤキラキラとランタンの光で輝きを増していた。女性ならうっとりとしてしまうような高級な宝石にも見える。
「アダマンタイトを囲うこの岩盤も相当硬い物質のようですね……鉄の道具では歯が立たないのは仕方がないでしょう」
「魔法でどうにかしようにもこいつの持ってる特性で吸われたってところか。」
物理的な防御力が高いのは掘り出せないという事からも分かることだが、それ以外の効果として魔力、魔法に耐性が多くある。だからこそ過ぎた力であり、求めてやまない力のひとつ。
目の前の岩盤に向かって手をかざし、なにかを弾くようなしぐさを取るゼン。
バゴッ!と音を立てて塊のアダマンタイトが黒い岩盤から外れ、ごろっと転がり落ちる。
「周りに張り付いてる部分だけをこそぎ取ってみたがこれだけなわけねぇな。」
「ゼン様……なんでしょう?奥から光が見えますわ」
「どけ」
小さな穴から光が漏れていた。もう一度手をかざし、外れたアダマンタイトの裏側にできたくぼみを砕く。すると奥から目が眩むほどの光が入り込んできた。
「はっ!こいつは圧巻だな。」
先に見えたのは空洞になっている場所でアダマンタイトの結晶や大きな塊が群生していた。光を放つ小さな虫が飛び、光を放つコケも所々に生えており、その光が空洞全体のアダマンタイトに反射し、光り輝く空間を作り出していたようだった。
「す、すばらしいですわ……!!これがあれば――」
「ギルドは相当な強化を得ることになります、ね?」
「え、ええ……!」
目の前の光景を見て興奮するレーアは喜びの声を上げたが……同じタイミングで声を発したクロエに慌てて同調する様子が少しおかしく見える。
「砕けるだけ砕く。巻き添え食わねぇように下がってろ」
「まぁ……お優しいわ……うふふ」
少しずつ前に進みながら近くにあるアダマンタイトを岩盤から外していくゼン。その様子をしっかりと目に焼き付けるレーア。中心部にある大きな結晶の塊の根元を砕いた時、その下へ続く穴が出現した。
「ふぅん?」
「これは……?」
「……どうしますゼン?」
どのくらいの時間埋もれていたのだろう、穴からはじっとりとしたカビの臭いが上がってくる。どんな場所なのか……レーアは全くわからない様子だった。
「俺らは冒険者だからなぁ?」
「うふふ……そうですね、行きましょう」
「う……わかりましたわ……」
得体の知れない、先の見えない、未知の場所へ……先を照らす光を『作り』穴へ投げ込み、戸惑うことなく飛び降りるゼンとクロエ、躊躇しつつレーアも後に続いた。
臭いで感じたとおり、穴の底は湿った土、繁殖したカビが付着した鍾乳石がごつごつとした洞窟になっていた。空気はあるものの、光はほとんど遮断された場所。
「空気の流れはあちらから……」
クロエが指さす方へゆっくりと進んでいく……そこには気配があった。
「つまらねぇまま終わると思ったが楽しめそうだな。」
「ゼン様……?」
ぺろりと舌なめずりをするゼン……道の先にあったのは壁にびっしりと張り付いている粘膜で作られた巣穴……魔物の住処だった。




