11.適正な判断と敵勢の思惑
数日後――ギルドから世界へ記録媒体に刻まれた国王による不誠実な取引の内容と、それに伴ったギルドと国の決別の知らせが全土へ発信された。
各地に散らばっている冒険者の持っているタグについている通信機能、ゼンが数十年離れている間に付与されたもので、パーティを組んでいる者同士とのコミュニケーションをとる為、ギルドから時折送られる返信不可の連絡のみに使用されている。今回はかなりの有用な利用方法だった……どう考えても簡単に了承できる内容ではないからだ。
「一部の者はここへ駆け込んでくるかもしれないが……大量の返信を裁くことがないのは助かるな……さすが我が息子よ」
「公式のメッセージアプリみたいなもん作ってんだなお前のガキは。」
「あぷり?というのは分からないが……私のように戦いしか知らない人間には考えしえない技術魔法だとは思う」
息子を自慢できたことに誇らしげなアダルヘルム。
「何人目のガキなんだ?」
「…………」
「クックックッ!!」
愛多き男アダルヘルム……ゼンにニヤついた視線を送られながらマディに今回の件の対応を説明しにカウンターの奥へ消えた。ゼンは受付カウンター近くのテーブルに座り、酒をチビチビと口に運びながら飛び込んでくるだろう冒険者たちを静かに待つ。だが……意外にも焦りながらギルドに来るものはいない。
依頼の完了報告、依頼の受注、見知った冒険者同士くつろぐ姿さえ見て取れる。
「騒ぎにはなっていないようですねゼン」
「前提としてアルベアトのやっていた商売の話もある。冒険者に志願してギルドに登録するやつは騎士団アンチ。それなりに覚悟ってもんがなきゃ今のギルドに来ちゃいねぇはずだからな。それでもまぁ想定外といえば想定外だ、いい方向の、な。」
外に出ていてクロエも合流し、同じテーブルに座り行き交う冒険者たちを満足げに見ながらのんびりと過ごしていた。
「そう、ファインなのですが」
「あ?そーやいねぇな」
「王都の魔力に当てられすぎたらしくしばらく引きこもるとか……平然としていましたがやはり純血の魔族には耐えがたかったのでしょう」
「これだから魔力だなんだってのは面倒なんだ。」
竜に体を変えていたのもできるだけ本体が受ける王都にかけられた神聖な魔力が通らないようにしていたらしい。この世界の魔法の知識を持つファインが一時的にいなくなったことで少しだけ動きにくいと感じるゼン。
「楽はできなくなりましたね」
「もう少し遊びてぇんだけどな。アダルヘルム連れ回すか?」
「……聞こえているぞゼン・セクズ……私は動かない。できればあなたもしばらくここで大人しくしていてもらいたいものだが――」
「それはしねぇぞ?待ってる間に国の方が態勢を整える。優秀な参謀と最上級の象徴がいるんだぜ?今は有利と思えてもいずれ俺たちの方は不利に回るのは明らかだ、公表した情報も噂程度に成り下がるだろうからな。」
ゼンによる先見の明……アダルヘルムは納得しながらも悩み、考え込む。
「ここで酒飲んでるのも悪くはないがヤル事しかなくなるからなぁ。お前ベッドなくなんぞ?」
「今もあなたのおかげで無い様なものだ……新調も考えている……ってそうじゃないだろう!」
「相変わらず遊ばれてますねアダル……ふふふ」
「まったく……遊ぶのではなくギルドに所属する者として依頼でもこなしてきてくれ。そういった動きをするのであれば冒険者たちにも示しがつくだろう?」
そういえばそうだったな……と、ポンっと手を叩くゼン。わざとらしさにアダルヘルムはため息を漏らした。
「俺に見合ったおもしれぇやつでもあんのか?」
「残念ながら先日勇者によって上位種はすべて排除された。」
「あら残念……そしてあちらが一歩リード……」
「特別な相手がいるというものではないが……我々ギルドの戦力強化をするために必要な依頼がひとつある。」
マディが奥から持ってきた新規の依頼書をテーブルに広げた。
「『アダマンタイト鉱山の採掘補助の依頼』?嫌だ。」
「そう言うと思ったが……これは私直々の依頼でもある……すまないが頼みたい。あなたの『破壊』の力を存分に使ってくれて構わない。」
「俺は爆発物じゃねえぞ?使えとは言うが掘り出す術が無いだけだろーが。」
「……その通りだ。」
「だとすれば加工する術も無い。掘り出すだけ無駄な事だろ。過剰な力を求めようとするな。」
グッと悔しそうにアダルヘルムは口をつむぐが、食い下がる。
「あなたの望む先に進む為、我々も全力を持って臨む為に……必要な事だと思っている。ゼン・セクズ……あなたに及ぶ力を持たない我々はそうすることでしか力を得る事が出来ない。それを理解した上で……頼みたい。」
「弱いからこそ、か。」
冒険者になる者はそれぞれに得意はあるものの、魔法や剣術や格闘など、人が知りえる程度の力。
「いいぜ、行ってやる。」
弱さを否定せず頼る姿勢を買ったゼンは依頼を受けることを承知した。
「……ありがとうゼン・セクズ」
出発は翌日と決め、アダルヘルム秘蔵の酒を1本開け夜を過ごした翌朝、部屋を出たゼンとクロエは大きな声でアダルヘルムが誰かと口論している声を耳にする。
「わたくしはゼン様とご一緒したいの!!!いいから呼び出してくださいな!!!」
「申し訳ないがゼン・セクズはすでに依頼を受け動いている……それに貴女のランクでは……どうあがいても無理だ」
そこにいたのは豊満な胸を持ち、柔らかく長い美しい金髪を持つ聖職者のような容姿をした女性。
「朝からやかましいな」
「ゼン・セ―‐……しまった……」
「あ?おあ?!」
階段を下りきったところでアダルヘルムに対して声をかけたゼン、口論相手の女性に気付かれ飛びつかれた。朝が弱いゼンはまだ少し寝ぼけていたせいもあり、珍しく驚いた声を上げた。
「ゼン様!!ぜひわたくしをお供にしてくださいな!!そちらの方よりお役に立つはずですわ!!」
「あ?」
「……あら」
ゼンにぎゅうぎゅうと胸を押し付けながら体をクネクネさせ、潤んだ瞳で懇願する……クロエをチラ見し、馬鹿にするような発言をして。
「本気で言ってんのかお前」
「もちろんですわ!ゼン様の傷を癒し……もちろん心も体も……」
表情を変えることなくしばらく女を見た後、アダルヘルムに言った。
「こいつ連れてくぞアダルヘルム。」
「しょ、正気かゼン・セクズ?!」
「別に問題ねぇだろ。」
「嬉しいですわ!さすがゼン様!よろしくおねがいいたしますわぁ~~!!」
黄色い声を上げながらゼンに抱きつき離れない。
「わかった……こちらで処理はしておく……気をつけてな」
ベタベタと張り付く女を気にすることなくアダルヘルムに軽く手を振りギルド本部を出ていくゼン。
「パ……ギルド長?処理というのは……」
「依頼の同行者リストに名を刻まぬこと……あとはゼン・セクズが戻ってくればわかる……マディ、大きくなってもあの男には近づいてはいけないよ?」
「……は、はい」
フェストンのから北へ向かうゼンとクロエ……ともう一人の女。名はレーアというらしい。
「わたくしがんばりますわ!ゼン様のために尽くします!」
「そうか。」
相変わらず表情を変えず、自分を見ず適当な返事をするゼンにやきもきしながら腕をとりくっついたまま一緒にあるくレーア……でも、それでも良かったのだ。
ゼンと一緒に行動することがレーアの目的なのだから。




