10-⑧.邂逅と会合
「俺はこいつに家族を殺すように頼まれたんだぜ?」
空気が凍るのをその場の全員が感じた……ゼンとクロエ以外、笑っている者はひとりもいなかった。
「第1王子は病死、第2王子は遠乗りの際の事故……当時の王は魔物に襲われこの世を去り……ひとり残される第3王子……なんと哀れな事でしょうか」
「悲劇の王子!彼を救う為にも「白金のゼン」が自らを犠牲に世界を平和にした!ってのがおめぇらボンボンが知ってる都合のいいシナリオの結末だろ?冒険者や一般人の方じゃ少し違ってるみてぇだがまぁ俺はそれが無くても飽き飽きしてたから魔竜討伐で終わりにするつもりだったがな。」
表のシナリオ……そして……
「『あいつらいらない。あいつらのせいで世界がこうなったんだ。いらない、消して。そうしたら僕がゼンの思いを繋いであげれるよ?なにもかも思い通りに――』」
「やめろぉっ!!!!!」
息を荒げ、会合の間に響く怒りと悲痛の入り混じった王の声。
「相当優秀じゃなきゃ一番下のお前じゃどうあがいても王にはなれねぇからな。その貪欲さを俺は買った。はたから見れば汚れ仕事だが俺にとっては甘い菓子を作るための準備みたいなもんだった。」
「いつまでもだらだらと付き合っていられないですし……魔物がいなくなった後の世界を任せられるなら好都合……たとえ相手が家族の死に顔をみて笑い、股間を膨らませるような変態だったとしても」
叫んだところでゼンとクロエが止まるはずもなく。王の醜態を楽しそうに話していく。
「それでも最初は真面目に各地を視察し対応をしていたのかもしれません……あの村に行くまでは。」
「あの『花』の効果を知ったお前はこれなら簡単に財政も安定して簡単に人間を楽に幸せにさせることが出来るって思ったんだろ?楽して王になったんだからその考えに至るのは容易だろうしな」
「ち、ちがう……最初はただの回復薬の原料で……鎮静剤の役割をするもので……それが精製の途中で変化が……」
言い訳を。
「それを破棄することなく裏の市場を使って広く流したのはお前だろ?」
口をパクパクさせるだけで言葉を発することは出来ない王。
「事実と現状は変わりません……精製された魔薬をご子息が楽しむ為に服用し抜け出せなくなったこと……それを治療するためにフォンゼル宰相を利用している。おおかた魔力由来の毒を盛られた、いつからか世界中でもたくさんの者が苦しんでいる……勇者も原因を探る協力をしてくれているから……などと伝えたのでしょう」
「フォンゼルが薬を作り上げたとしてもあの部屋の中だけじゃ数は作れないこともそうだが、フォンゼルをだまし続けるために表の市場に緩和剤を流すふりをして大量生産できる魔薬を流し続けて変わらぬ利益を上げるつもりだったか、逆に貴重な緩和剤を高額で取引しつつ魔薬の価値を上げるつもりだったか。どちらにしろ悪知恵だけは優秀だな。」
ざわざわと隣同士で話をし始める関係者たち。
甘い取引を持ち掛けられ承諾したことを無かったことのように、すべての責任をどうにか王へ押し付けられないかという内容の話が耳に入ってくる。
「はっ!そうかそうか。」
親殺しを当時の英雄に依頼した事で王は王であってはならない事実も含め、各々顔色を狂喜に変えて王へ詰めていく。
怒号にも近い声が会合の間に響き渡る、いくつもいくつも。
「だからこうなったってのがよーくわかるな。」
ドシュッ
パンッ
グチャッ
その声は一瞬で消えさった。
「はっ……はっ……はっ……っ」
何人の血を浴びたのだろうか。王は全身ずぶ濡れになりむせ返る血の匂いに呼吸が浅くなり、視界も赤く染まっている……それは目に入った血のせいもあるのかもしれないが、窓にもべっとりと付いた鮮血が日の光を浴びて夕焼けのように会合の間全体を照らしているからだった。
「あ……え……なにが……ゼン殿?」
一瞬で何人もの人間が目の前で消え去ったことに理解が追い付かないフォンゼルだったが、コレをしたのがゼンであることだけは理解できているようだった。
「まともに話し合いができるのであればこうならなかっただろうな。責任の押し付けをするようじゃ例え俺の納得する答えを出したとしても残しておく価値はない。」
立ち上がったゼンはテーブルに乗り、一歩ずつ王とフォンゼルに向かって歩いていく。
「こ、こないでくれ……あ……あぁ……ボ、僕がいらないっていったから……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……や、やだ……やだぁ……」
王の精神が限界を迎えた……王は思い出していた。
あの日あの時、こっそり覗いて見ていた。
ゼンが契約を執行している時の顔が、今、自分に向かってきているのだから。
「お、王……どうか気をしっかり……あぁ……」
泣きじゃくり失禁し、視点も定まらなくなっている王に声をかけ、背中を支え、献身的に寄り添おうとするフォンゼル。
「もうそいつは使い物にならねぇぞフォンゼル。」
「ゼン……殿……」
王の目の前で足を止め、上から聞こえるゼンの声。
「こんなにも献身的なお前を騙しその上更に隠し事をして自分のモノにし、お前の為に何かをするつもりなんてなかったんだぜ?」
「わ、私は……私は……どうすれば……」
「俺と来ればいい。」
手を差し出すゼンを見上げるフォンゼル。
異様な空間の中でさすがのフォンゼルもめまいのように視界がゆらめいて……王に見えているゼンの姿とは違い、フォンゼルの目に映るゼンの姿は神々しく……美しくさえ感じてしまっていた。
「俺は俺のやったことにケジメを付けることができるし嘘もつかねぇ。こいつらを処分したのもそうだが原因の『花』の存在も消してきたからな。アルベアトの命令だったかもしれねぇがお前のやっている研究の結果を世界にしっかりと示すことだってしてやれる。お前の努力と貢献を無駄にすることなんてしない。」
「……っ」
「『花』は消えてもその被害者はまだ苦しんでるんだ。今のこの世界にはお前が必要だフォンゼル。」
自分が忠誠を尽くしていた国と王は地に落ちた存在だったこと、それフォンゼルにとって生きてきた意味を無くさせる事実だった。目の前で起きた出来事が正解だったかのか……今のフォンゼルには正常な判断が出来ないのだろう。ゼンの発言は自分を救ってくれる温かい言葉に聞こえていた。
フォンゼルは未だ収まらない震える視界の中、差し出されたゼンの手を取ろうとした。
シュパッ!!
剣の走る音が聞こえ、差し出されているはずのゼンの手がボシャッと音を立て床に転がった。
「おっと?邪魔が入ったか。」
ピチャピチャと……血の海に落ちる血。
一瞬の出来事……その鋭い攻撃は綺麗にゼンの肘から先を落としていた。
「フォンゼル様から離れるんだ」
「ソ……ウゴ……?」
討伐に出ていた勇者ソウゴ、タイミングよく城に帰還し、騎士たちから王とフォンゼルの場所を聞き会合の間へ向かい、一度『見た』ゼンの力を感じ取り、走った。廊下には中の声や物音は漏れはしない。
だが、なにかが起こっていること……その理解だけで入室し行動を起こした。
「勇者様のくせに簡単に人を斬るんだな?」
「……そんな力を持って人などと語るなんてどうかしてるよ」
「ははっ!!……言うじゃねぇの。」
会合の間の異様な状況は見てわかってはいたが、それよりも先にと言わんばかりに震えるフォンゼルの肩を抱く勇者ソウゴ。フォンゼルはホッとした様子でかけられた言葉に優しい声で応えていた。
「なんだお前そっちのタイプか」
なにかを察したゼンはふたりから背を向けて窓へ向かってテーブルを降りる。
「まて!!逃げるのか!!」
勇者ソウゴはゼンに剣を向け、その剣先に魔力を込めながら威嚇し、静止させる。




