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退屈世界の破壊神  作者: ぽぬん
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10‐③.邂逅と会合

水路を上がった部屋とほとんど変わらない薄暗いジメついた部屋。違うところがあるとすれば生き物がこの部屋で生活していることを示す程度の空気穴として作られただろう猫が通れる幅の小さな窓。


「こんなとこでなにしてる?」


ファインとクロエに記録媒体の抽出を任せ、老婆の隣に立ち話しかけるゼン。


「わたしの部屋ですよ。すこし息苦しいですが食事もお風呂もトイレもお世話してもらっていますので不便はないですよ」

「そうじゃねぇ。質問を変える。ここで何をされた?」


目を閉じたままゼンの声のする方向を向いて不思議そうな顔をする老婆。


「クロエちゃん……あのおばばって目、見えてないの?」

「えぇ。彼女は幼い頃病気にかかって失明しています。当時私の力で元通りにすることは可能でしたが断られてしまいましたので。あと歩くこともできません。」


記録媒体の本を取り出す作業をしつつ、光の柱越しにゼンと老婆の様子を伺いながら当時の話を聞くファイン。老婆の名前はイルザと言い、あの花をゼンから受け取った少女でギルドの依頼の救出対象だった。


「彼女の特異体質を知った過激派が村を襲い誘拐。相手が相手だけに村人だけでは対処できずギルドに依頼し……ゼンがそれを請け負い彼女と繋がりが出来ました。」


記録媒体の抽出の為の魔法陣を操りながら『特異体質』という言葉が気になり、イルザの体内の魔力を覗き見るファイン。しばらくしてハッとし、小声でクロエに伝える。


「『溢れ出す魔力(オーバーフローター)』?!ニンゲンで珍しい……魔族の間ではよく生まれるよ!ま、そのまま吸収しちゃうことが多いけどネ。」


溢れ出す魔力(オーバーフローター)――通常生命体が持てる魔力量は生まれた時に一定に決められているところ、許容量に関係なく無尽蔵に魔力を作り出す魔力器官を宿している者の事を指す。魔族に多く見られるが稀に人間の中にも生まれる事がある。魔力と繋がりの強い魔族にとってはファインの言ったように吸収することで強化に繋がるというプラスの器官ではあるが、人にとってはマイナスになる事がほとんどだ。イルザの失明も下半身が動かなくなった理由も……マイナスの弊害。


「人間はその器官と相性が悪いからね。赤ん坊や子供じゃ魔法の知識なんてないから作り出しても基本放出できないし……ましてこんな辺鄙な村じゃ取り上げ方の知識のある人とかいないデショ」

「だからゼンは彼女の余分な魔力を触れるだけで吸収する効果を付与した花を……でも――」

「ゼンがわざわざヤバイ花になるようにクロエちゃんに作らせることはないもんね?そこはボクにもまだわからないし謎だけど……今見る感じだと過激派は退けたけど溢れ出す魔力(オーバーフローター)の力を村の人間に利用されてる感じだヨネ?だってもう――」


未だに嚙み合わない会話を続けているゼンとイルザに視線を移すファインのその表情は少し険しく見える。


「――そうそう!お花も沢山増えたの!お父さんのおうちのお庭くらいの広さになっているの!あ……しばらくお花畑にいけていないのだけれど……あら?体はおもくかんじないのが不思議だわ?」

「だからお前の魔力を吸い取って孤児院に魔法の壁を作ってんだよ」

「わたしの?まぁ!お友達を守ってくれているのね!ステキだわ!」

「……」


少しずつ察していくゼン。苛立ちと腹立たしい気持ちが入り混じり、けれど……決してイルザに対して声を荒げはしない。ピリッと肌に当たる衝撃を感じて振り向き、ファインが記録媒体を無傷で取り出したことを確認する。そしてもうひとつ……壁が消えても問題がないことも確認をした。


「ふぁぁ……なんだか眠たくなってきたかもしれないわ」

「そうか。なら……おやすみ、イルザ。」

「うふふ……あの時みたい……乱暴な撫で方……やっぱり…………あなたはわたしの――」


……頭皮の脂も絡んだフケまみれのごわついた真っ白な髪。粗末に結われたお団子頭からほつれた髪がシワシワで垢だらけの首筋の肌にまとわりつき、ボロボロの古着と何日も取り換えられていないだろう下着は異臭を放ち……ロッキングチェアは木の枠が取れかかっているがイルザは深く腰を掛けユラユラと揺れながら静かに――眠った。


ゼンがイルザの頭から手を離した途端、煌々と輝いていた光の柱は消え去り、ひとつだけ壁にかけられていた蠟燭の火がぼんやりと入口の扉を照らしている。


「ゼン……大丈夫?」

「なにがだ?さっさと行くぞ。厄介な奴ってのはこいつじゃねぇだろ?」


イルザの部屋を後にし、足早に地下から上層へ向かう階段を探す。いつも通りの冷静さも感じているが、やはりどこか違うように感じたファイン。


「ねぇゼン……器官……『破壊』したの?。」

「それを聞いてどうする?」

「愚問ですよファイン。ゼンも私も理解した上です。そうですね……理由をひとつ付けるとすれば彼女を食い物にした相手は私たちが彼女に与えた命をも魔力に転換して奪った……過度な老化と認知の低下が見られたはそのせい……つまり――」


ゼンに喧嘩を売って、ゼンは喧嘩を買ったということ。


「……そんな単純でいいの?」

「今更人ひとりの命が消えたとこでどうでもいい。俺にお涙頂戴の理由なんかいらねぇしそんなもんのために『ここ』で生きてる訳じゃねぇからな。」

「確かに!じゃあ早く行って殺しちゃお!ん……こっち!」


元魔王で命を奪うことに躊躇無いはずなのだが、少しばかり人間味を身につけたせいで感情というものに敏感になりつつあるのだが、ゼンの言うことが正しいと基本的に思っているファインはちょろかった。

魔法の壁が消えたことと記録媒体を手にしたことで孤児院内にある大きな魔力が消え、それでもなお残っていると思われる厄介な奴の大きな魔力を見つけやすくなっていた。


入ってきた地下の廊下から内部に近づいていく。鉄で作られているだろう重たい扉を粉にして抜けた先は孤児院とは思えない作りになっていた。


「まるで貴族のお屋敷ですね。」

「ここに『お客様』ってのを通してたんだろ。地下に作られていることで秘密のやり取りだという事を心理的にわからせつつ、視覚的効果を出す為にあえて豪華に作られた地下室で金回りの良さをだして、商品がそれだけ品質が良く競合がいることを教えている。まぁまぁ取引しやすい環境って感じだな。」

「……なんでそんなことわかるのゼン」


謎の知識を披露しつつ、綺麗に清掃された絨毯の敷かれた廊下で靴の汚れを落としながら進んでいく。そこまで広く作られていなかったようで、目的の階段はすぐ目の前に現れた。わざと音を立てながら上り、目の前の大きな両扉をジッと見つめる。


「こっちは後でいいな」


シュッシュッシュッと……暗闇の廊下の奥からものすごい速さで風を切ってゼン達に向かってくる何か。


「これが厄介だぁ?」


ゼンに触れた瞬間、地下にあった扉同様粉になって消えていく恐らく投げナイフだったモノ。こちらからは見えないのだが、攻撃を加えた相手からは見えたのだろう……身じろぐようなガシャガシャという不思議な音が聞こえた。


「不意打ちしたとでも思ったか?」

「ね~?こっち来なよ~?」

「私達はもう隠れたりはしませんよ?」


少しの間のあと……先ほどと同じ不思議な音をさせながらゆっくりとゼン達に近づくファインの言っていた『厄介な奴』


「あぁなるほどな」

「ファイン、頼みました。」

「え?ボクなの?」


驚いているファインの後ろに下がったゼンはゆっくりと階段の一番上に腰かけ、クロエはその隣に立ち見守る体勢になっていた。

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