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退屈世界の破壊神  作者: ぽぬん
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10‐②.邂逅と会合

街の明かりと月の光に照らされた綺麗に整備されている大通りを北上し、住宅の建物の中でひときわ目立つ大きな屋敷へと向かう。先端の尖った背の高い鉄のフェンスに囲われている屋敷の正門の前には警備兵が姿勢正しく、槍を携えて門を守っている姿がふたつ。


「孤児院に警備兵か」

「え!ココ孤児院なの?へええぇ~~!……時代は変わったんダネ?」

「ま、変わったと言えば変わったな」


建物の外観は大きな宿舎で、夜でも温かみのある色の外壁がわかるくらいの親しみが持てる雰囲気なのだが……異質な存在が目に入ると途端に怪しさをかもし出す。その怪しさに拍車をかけるように、ファインが口を開く。


「ねね、ゼン!ここ魔力の壁に囲まれてるよ?見えるようにしてあげる!」


ゼンの瞼に軽く触れ、金色の魔力の粒がファインの指先から弾けて消える。


「なんだ?こいつは?」

「見えたカナ?よくある単純に外敵から守るための壁じゃないネ。ん~……情報を分析……記録?」

「お前がいて助かった。こういう小賢しい魔法は得意じゃないからな。」


魔力を持たないゼンとクロエは魔力の感知はほとんどできない。こういう時の為のファイン……と言っても過言ではない。魔法をほどこされた目を開き、ゼンは青く揺らぐ光を帯びた瞳で孤児院全体を見て少し考える。


「壊しちゃえばいいんじゃないの?」

「『あなたは私の光』」

「黙れ黒ブタ。」


ゆっくりと歩いて合流したクロエが意味あり気にひと言。ピキっと音が聞こえるくらいに、ゼンは不機嫌そうにクスクスと笑うクロエを睨んだ。なんのことだかわからないファインは不思議そうにゼンの顔を覗き込むが、グイっと押しのけられこちらも不機嫌になる。


「空気さいあくなんだケド」

「ゼンがいつものように動かない理由を言ったまでですが?さ、どうします?」

「わぁ……クロエちゃんって受け身のくせにドエスだよね」


煽りに応えたのか、答えがでたのか。


「記録って言ったな?最優先はそいつを奪う。可能であれば村を変えた奴を消す。」

「持ち出したい情報の記録があるから簡単に壊さなかった……という認識でよいですかゼン?」

「ふくみのある言い方ダネェ……」

「そうだ。それ以外ない。王都に挨拶しにいくのに手ぶらじゃ失礼だからな?」


お互いに不敵な笑みを浮かべるゼンとクロエ。ふたりを観察して引きつった表情をしているファインに同時に視線を移し、記録を奪取する手順を話し合う。

壁を『破壊』することは単純で簡単はあるが、壁が無くなったことで記録も無くなってしまう可能性がある為ファインの持つ魔法知識が要になる。


「たしかに!繊細なトコロはゼンには難しいもんネ」

「さっさとやれ。」


視線を屋敷に向け、自分の眼前に魔法陣を何重か重ねて展開し、静かに壁を分析していく。

一つ目の魔法陣で屋敷全体をトレースし、二つ目の魔法陣で魔力を持つ物体や生態を見つけ、三つ目の魔法陣で壁に紐づいている魔力と魔力そのものの構成を解析する。


「ゼンの言った通りで壁を破壊したら記録も無くなるみたい。記録や情報が漏れないための保険なんだろうね……あ!朗報!正面から行くと面倒だけど地下から行けば壁の影響を受けないし……記録媒体もそこにアル!」

「珍しく慎重になってみたものの……結局単純な構造だったわけですね。」

「そう言うと思っておもしろそうな情報を追加ダヨ!厄介そうなのが地下にいること……果たして本当に単純~カナ?」


追加の情報を聞いて静かに微笑むゼン……ファインのいう厄介な相手がもう一つの目的である村を変えた人物であれば退屈せずに潜入ができる……と。

情報の共有を終えて孤児院の裏手側にある地下への入口へ街の裏通りを経由して大回りをして向かっていく。建物がある場所から少し下った場所。草木に覆われ、色見の悪い水が流れ出ている水路に少し錆び付いた鉄格子が取り付けられている古いレンガの壁。以前ここにあっただろう建物の水路をそのまま使用しているようだ。扉にはなっておらず、鉄の棒を壁に埋め込んでいるだけだが人が入れる隙間はない。


「万が一で鉄の強度を上げる魔法が掛けられているみたいだけど劣化してる……今孤児院にかけられてるあの壁の魔法とは繋がってないから壊しちゃっても大丈夫ダヨ」

「それなら遠慮なく。」


ゼンが軽く鉄格子を撫でる仕草をする。サラサラと音を立てて鉄の棒が風に乗って粒子となって風に溶けていき、出口が解放されたせいか暗闇から鼻をツンとつく強い匂いを3人は全身に浴びてしまった。ファインは少し嫌そうな顔をし、水路の中に足を踏み入れることを躊躇したが、ゼンとクロエは何も感じていないかのように進み、明かりをよこせと最後尾のファインに催促するほど平常だった。


魔法の壁の範囲外の地下とはいえいつ侵入に気付かれるかわからない。照明魔法の出力を通常より抑え先頭に置き、ぼんやりと捉えられる通路を進んでいく。水路を少し進むと壁に突き当り、幅の狭い階段が左右に見えた。上った先に明かりを動かし確認すると、右は木材で雑に打ち付けられて塞がれ、左は鉄格子。厳重さから見て左が怪しいのだが……。


「右だ」


魔法で一度確認してから上がれば確実ではあるが、ゼンは迷うことなく右を選び木材を破壊し……上る。


「……あらためて聞くけど孤児院だヨネ?」

「そうですよ。ここを取り仕切っている人物がまともではないだけで」


薄暗く、かび臭い。空気の抜け道の無いじめじめとした小部屋。ぼんやりとした明かりでわずかに反射して目に入ってきたもの。床にしっかりと足を埋め込ませ動かないように作られた手枷と足枷が付いた鎖がぶら下がっている診察台のようなもの。


「まぁさすがに今は使ってねぇんだろうな。隠れてんなことしなくても今の事業の商品使えば簡単だからな。」

「まってまって……その、ここ使ってたって人今いくつ?」

「鋭いですねファイン?」

「深入りしてなかったからな。村を変えた奴がそいつじゃなければ別の後始末も追加か」


異世界転移後、ギルドの仕事でこの村を訪れ依頼を終わらせたゼン。この時は『この世界を楽しむ』を軸にしていたこともあり、善行を行っている人物に対し、クロエの力を使ってある程度の『不老と寿命』を与えていた。アダルヘルムはゼンとの繋がりも近くある程度理解が深かったく力のある人物であった為、与えられた内容は半ば遊ばれてしまっているものだったのだが、力を持たない一般人にとっては人格を狂わせるほど甘美な毒であったようだ。


「力の幅を確かめる為の『被検体』のつもりだったがまさかこうなるとはなぁ」

「てめぇのけつはてめぇでふく……ってやつだねゼン!」


ため息交じりで部屋を出て、ファインの魔法で記録媒体までの道を確認する。一本道の通路に扉が4つ。


「みっつめ。」


少し静かに、真剣な声で場所を示す。警戒している理由は『厄介な存在』もそこにいるから。扉に鍵は無い。魔法による障害もなく、古い扉らしくギィっと油が抜けた鈍い音を立てながら……開く。


「よぉ。」


部屋の中央にゆらゆらと揺れる光の柱は天井に伸びており、そこから孤児院を覆う壁が作られていることが明らかだった。光の柱の中心に少し上下しながら分厚めの本が浮いているのも見える。記録媒体であるのは確かだろう。目的のものを確認し、意味もなく声を発したわけではない。


ゼンが声をかけたのは光の向こうのロッキングチェアに揺られている人物。


「あら懐かしい……英雄様の声が聞こえるわ」


絞り出すように出したその声は少しだけ嬉しそうで……少し無邪気な老婆の声だった。

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