1.守るべき名誉
リビングで愛猫と戯れていた僕に、紙皿を彼女が突き出した。
「これを僕にどうしろと?」
愛猫の愛撫を止めて、僕は彼女に向き直った。
「『どうしろと?』じゃない。テーブルの上に置いておいた、私のサンドウィッチ食べたでしょ?」
「食べてないよ」
そう真実を告げるが、疑心暗鬼を生じさせている彼女は、まるで聞く耳をもたない。
「本当に?」
「神に誓って」
「あなたクリスチャンだったかしら?」
「仏教徒だよ」
「じゃあ仏に誓いなさいよ!」
「仏に誓うのは少し違う気がする」
「ああ言えばこう言う人ね!」
彼女が異様なテンションのままでは、僕が犯人にされるのも時間の問題だ。
「僕はサンドウィッチを食べてないからね」
改めて告げるが彼女はまともに取り合ってくれない。
「じゃあ誰が食べたのよ? この家には私とあなたしか居ないのよ?」
傍らに放置していた愛猫が、僕の膝の上に飛び乗ると、丸くなって、安らかな寝息をたて始めた。
「タマまであなたの肩を持つの!?」
「猫にまで当たらないでくれ」
愛猫を庇った僕に対して目くじらをたてた彼女は、「謝るまで許してあげないんだから!」とリビングから足音荒く立ち去ってしまった。
残された僕の膝元からは、仄かなツナの香りが漂っていた。