思い出の散歩道と狸
「爺さんや、良くこの道を二人で散歩していたのぅ、爺さんは女が通ると鼻の下を伸ばしておったがな」
婆さんは、去年亡くなった爺さんと良く散歩した道を歩いていた。
すると、道の先に亡くなった爺さんが手を振っていたのだ。
「爺さん、そろそろお迎えに来なさったか?わしもそろそろ寿命かのぅ」
「婆さんや、そろそろ婆さんも寿命じゃ、あの世への道のり迷子になったらあかんから迎えて来たで」
「爺さんは優しいのぅ…何て騙されるか、このぼんくら狸がぁー」
すると、爺さんが一回転して狸になったのだ。
「なーんだ、婆さん騙せれなかったか」と狸が喋った。
「騙されるか、あの爺さんが迎えに来る訳ないじゃろ、女好きの飲んべえで、亡くなるまで女の尻追っかけ回しておったんじゃからの」
「ちぇっ、騙しがいのないつまらんくそ婆だなぁ」
「なんじゃとーこの化け狸がー狸汁にして食ってやるー」
「わぁー婆さんが山姥になったー」
「この麗しいわしを山姥だとー許せん」
そして、狸と婆さんの追いかけっこが始まった。
その頃、あの世では爺さんが女の尻を追いかけていたとか。