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第3章22 『いつだって主人公は勝つもんだろ?』

「雨柳君ッ!」


 直にでも走り出しそうな朱華の首根っこを掴みながら赤猿は溜め息混じりに口を開く。


「心配すんな。あの程度じゃ死にやしねぇよ。まあ、動けるかどうかは別だけどな」


「っ――貴方は……」


「言った筈だぜ? オレと坊主は利害が一致しただけだってよ。まあ、坊主が立てなければ嬢ちゃんの未来が決まっちまうんだが……そっちの心配はしなくても良いのかねぇ?」


「それとこれとは別問題です」


「……なるほど、水蛇が気に入るワケだ? いや、その精神性なら他の神も気に入るかもな」


 掴んでいた手を話しながら赤猿は大きくあくびをする。そして、「ふぅ……」と一息を吐くと腕を組む。


「さて、嬢ちゃんの信じた坊主は立つとは思うかい?」


 唐突にそんな質問を投げ掛けられ朱華は訝しむ表情を浮かべる。


「……どういう意味ですか?」


「そのまんまの意味だ。坊主はここで立つか、立たないか――簡単な問いだ」


 地に伏す水樹と高笑いを上げる水蛇。

 現状だけ見れば勝敗は決している。水樹は明らかに気を失っている。

 それを見て朱華は唇を噛む。


「……はぁ、確かに状況は最悪だ。だけど、それじゃ嬢ちゃんに信じられて奮起した坊主も報われねぇな」


「っ――――それは……」


「オレがどうこう言う気はねぇ。正直、坊主の実力が及ばなかったのはオレの責もあるだろうよ。だけどよ、嬢ちゃんが坊主を一度信じたんなら最期まで信じてやるのが責任ってヤツじゃねぇか? それに――――」


 赤猿の口角が微かに上がる。


「――坊主はまだ終わってねぇみたいだぜ?」


「――え?」


 赤猿の言葉に朱華は倒れ伏していた水樹の方へ顔を向けた。

 そこには覚束ない足で立ち上がる水樹の姿がある。そして、その様子に水蛇が目を丸くして驚いたような表情を浮かべていた。


「…………別の神力を感じるな。なるほど雨龍武尊の神力か。波斬にあった残滓か? それとも別の要因かは知らねぇが、坊主の命運は尽きちゃいなかったってワケだ」


 赤猿は目を輝かせて続ける。


「人間という存在は死に際にて力を覚醒させるものとは聞いていたが、この土壇場で実物を拝む事になるとは思いもしなかったぜ。力も増している。正しく主人公の風格だ」


「えーっと……」


 状況が掴めない朱華に赤猿が呆れた顔で言う。


「この戦いは坊主の逆転勝利だよ」


「え?」


 まだ立ち上がっただけだと言うのに、赤猿は確信した様子で言い切った。

 朱華としても水樹の勝利を信じてはいるが、断言できる根拠が無かっただけに赤猿の言葉に耳を疑った。


「言っただろ、主人公の風格だってよ?」


「ええ、そうですけど……」


「わかってねぇなぁ」


 赤猿は後頭部を掻きながら溜め息を吐く。


「ボロボロの中で立ち上がり、力が増した状態――こういった美味しい展開は創作物において定番だ。そして、そんな定番な展開になった時、それは総じて決まっている結末に帰結するもんだ。そう、こういった展開なら――いつだって主人公は勝つもんだろ?」


 瞬間、戦いの場から感じた事のない威圧感が膨れ上がった。

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