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第3章2 『攻めなければ唐変木は砕けない』

 朱華、祈、仁、帝、花恋を除いたクラスメイトによる休み時間毎の追及にゲンナリしつつも、水樹は何とか適当に言葉を濁しに濁して放課後を迎えた。なお、これより5人による追及が始まるので水樹の苦難は終わらない。

 話は九州ではメジャーであるファミレスのジョイ○ルへ舞台を移し、ボックス席に注文したポテトとドリンクバーにてそれぞれが飲み物の準備を終えてから始まった。


「――で、婚約者ってどういう事なん?」


 単刀直入に打ち込んできたのは祈だ。流石は切り込み隊長を自称するだけあって怖いもの知らずである。

 さて、どうしたものか――と、水樹は考える。

 素直に「静流は神様なんですよ」とは言い難いところ。水樹の家族が受け入れた(1人だけ受け入れてない気もする)のは流れと勢いが全てだっただけに目の前の5人が大丈夫かと言われれば何とも言えない。

 下手したら「騙されてるので?」と有らぬ誤解と心配を与えかねない。

 少し思考を巡らせて、水樹は口を開く。


「小さい頃に結婚するって言った事があったらしくてな。それを彼女――静流が覚えていて夏休み中に押し掛けて来たって話なんだが……」


「つーことは幼馴染って事なのか⁉」


「仁、うるさい! まー、幼馴染とは違うんじゃない?」


 仁の声に叱責しながら、花恋は言う。


「花恋の言う通りだね。正確には昔馴染みかな?」


 帝は言う。

 それも少し違うような気がした水樹だがそういう事にしておく事にした。

 そして、ずっとダンマリの朱華を祈「おーよしよし」と何故か頭を撫でている。


「しかし、なんて言うか――いやしか女ばい」


「うん、とりあえず千峰の印象が随分とおかしな事になっている事はわかった。あとずっと百面相なんだが大丈夫か、西野?」


「ひ、ひゃい! 大丈夫でしゅ!」


 大丈夫そうじゃないな――水樹は言葉にしないが思う。

 しかし、何が彼女をそうさせているのかは水樹にはわからない。


「で、実際のところ水樹はどうなん?」


「……どうとは?」


「だから、静流だっけ? 彼女の事はどう思ってんの?」


 花恋の問いに水樹は言葉を詰まらせた。

 「好きか? 嫌いか?」で問われれば、「嫌いではない」と答えるだろう。では、「好きか?」と問われれば、迷いなく「好き」と答えるだろうか?

 そんな水樹の反応を見て、花恋は溜め息を吐く。


「ま、アタシがどうこう言える立場じゃないし、何となくだけど言ってない事もありそうだわ。だけど、今のままズルズルいくのは彼女にも失礼だから、ちゃんと考えた方が良いんじゃない?」


「……ま、確かに、そうだな」


「ついでに朱華の事も考えてくれると良いんばってん」


「祈ちゃん!」


 祈の言葉に朱華が顔を赤くして止めに入る。

 が、水樹は首を傾げつつ、不思議そうな顔をして口を開く。


「……何故、西野が出てくるんだ?」


「…………水樹、君って奴は……」


 どうしてか呆れ顔の帝。


「はあ、アンタのその感じが不思議で仕方ないね。寧ろ、よくもまあわかりやすいのに気づかないもんだわ」


 花恋も失笑気味に言う。


「ま、それが水樹っしょ!」


「何か、酒匂に言われるとムカつくな」


「何でっしょ⁉」


 仁の言葉に水樹が突っ込んでいる最中、朱華と祈がコソコソと話をしていた。


「とりあえず、まだ間に合う余地ありばい?」


「そ、そうだけど……どうするの?」


「ここは攻めるんばい。じゃなきゃ、この唐変木は気付きもせんよ」


 祈の言葉に朱華はコクリと頷く。

 こうして水樹の知らぬ間に、静流VS朱華の恋愛空中戦が勃発するのであった。

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