78. 焼身自殺のお祓い
今から、20年くらい前の話しです。神社に、ある家からお祓いをしてほしいという依頼がありまして、ある家に向かいました。実は依頼者は都内在住で、依頼者の夫婦は小さな一戸建てを県外に買って、その家を高齢者の女性が借りて、ここに一人で住んでいたのでした。
ところが、この女性がノイローゼになってしまい、ある日突然、灯油をかぶって焼身自殺をしてしまったのです。ご夫婦は、それをしり、片付け等が済んだのち、急いでお祓いの依頼をしてきたのです。
お祓いに行った日は、自殺してからまだ2週間ほどしか経っていなく、その家と自殺した庭の現場をお祓いするのですが、家の外の門から入って庭に行こうとすると、なぜか足が動かない。というか、入る前から、庭がものすごい黒いような悪いものが渦巻いていて、身体が具合が悪くなる感じがするのです。そして、さらに、その庭に入ろうとすると、足が止まってしまってふみこめない。
そこで、神様の名前を何回も何回も唱えていると、ふっ、と身体が動いて足を踏み入れることができました。そして、庭の、まさに焼身自殺して燃えた遺体のあった場所に行くと、そこで、なんと、衝撃的なものを見てしまいました。
それは、自殺した高齢者の遺体の形に黒い焼け跡が地面にはっきりと残っていたのです。
これでは、とてもこの家に人が住むことは当分できないし、今回お祓いをしても、ここが住めるほどに清まるまでには、相当に長い時間がかかる。
自分が感じる体感だけでも、具合が悪くて倒れそうな、そんな強烈な悪いものが漂っていて、長い年月が過ぎても、果たして人が住めるのだろうかと思いました。
そして、やっと、この場所と、家のお祓いを済ませて、依頼者の夫婦に、まずは、この黒い跡を消してくれるように話しをしました。とても、ここには、人は住めないと思ったので、この家はこの後どうするのか聴きました。すると、誰か人に貸すというので、とてもここには人は住めないから、貸さない方がいいと伝えて、この後は、本当なら、定期的にこの自殺のあった場所に向かって供養の祝詞をあげることが必要だとも伝えました。
とにかく、亡くなった人が成仏できて、この場所を清めることができれば、ゆくゆくは住めるようになるとは思う、と話しました。まあ、こういうことを言ってもやる人は皆無かもしれないとは思うが、立場としては言うべきことは言わないと仕方ないと思うので、とにかく、この場所について、必要なことは、正直にすべて伝えました。ところが、これに対して思わぬ返事が返ってきました。
「その供養の祝詞、教えて下さい。」
意外にも、祝詞をあげてくれるというのです。それで、いつも持ち歩いている供養の祝詞を渡しました。
その後、6年ぶりに、仕事で近くを通ったので、その家に行ってみると、なんと夫婦で庭で祝詞をあげているではありませんか。車を降りて、声をかけてみました。
「祝詞、あげてくれていたんですね。」
「あっ、こんにちは。ご無沙汰してます。神主さんから、あげるように言われましたから、月に2回くらい、ここにきて、あげてますよ。もう5年以上になりますか。」
「すごいですね。今まで5年間も続けて、絶対にいいことありますよ。」
「実はね、もうあったんですよ。実は、私、柔道を教えてて、都内での教室が都合でできなくなってしまい、新しいところを探していたんです。それで、はたと思いついて、この家を改装して、去年から、毎週日曜日にお参りがてらきて、ここで教えているんです。」
そう言われて、改めて現場を見に行ってみると、何やら雰囲気がかなり違っていて、前回はとても暗い感じだったのに、新たに灯で照らしたかのように明るくなっている。こんなにも変わるものなのか。すると、
「どうですか。何か変わってますか。でも、まだ5年ですからね。神主さんから言われた、住めるようになるには、やっぱりまだかかりますよね。だから、それまで、あと10年は人に貸さないで、空手教室をやっていきますよ。」
正直言って、これほどきちんとお参りもして、人に貸さずに管理して、頭が下がりました。なかなか出来ないことです。もしも、このまま人に貸したりして、誰かが住んでいたら、その家は大変なことになっていたことでしょう。家庭崩壊とか、誰かが病気になったり、あるいは誰かが亡くなっていたかもしれません。
その後、数年ぶりに家の前を通りかかって、見ると、柔道教室の募集看板が出ていたので、どうやらお参りは続いているようで安心しました。




