55. 極寒の中の水行
3学期で、印象に残ったことの一つは、奥之院にある川で行なう水行です。これももちろん、希望者のみの参加となります。
今回の希望者は15人。今回は多い。さすがに、もう卒業まで残り数ヶ月で、あとは頑張れるだけ頑張ろうと、みんなやる気まんまんといった感じです。お坊さんの装束ではなく、作業用の作務衣に着替えて出発します。夕飯を済ませてバスタオルだけ持って奥之院へ。奥之院手前の橋に着き、近くの小屋の傍でふんどしに着替える。下はすごく雪が積もっている。この雪の上で着替えているのを考えただけで急激に寒さを感じる。
外気温は、零下15℃以下。もはや、寒いというより痛い感じがします。川の流れている途中が5m四方くらいの広さに段差になっており、その中に並んで入ります。恐る恐るゆっくり入っていくと、意外に暖かく感じる。しかし、それは暖かいのではなくて、ただ外気温より水の中の方が温度が高いだけで、暖かく感じるのは最初だけでした。あまり深くなくて、ゆっくりしゃがんで肩まで入ると、般若心経を21巻あげてゆきます。時間にして、15分ちょっとだったと思います。
とにかく、夢中で般若心経をあげていて、必死なので、ものすごく寒いけど、でも本当に必死で、そこまでつらさや寒さは感じない。無事、やり遂げて、川から上がり、急いで着替える。しかし、この時の驚き、バスタオルで濡れた身体を拭いているのだが、身体にバスタオルが触っている感覚がまるでない。あまりの寒さで身体が冷え切ってしまい、感覚がなくなってしまったのです。まるで、人の身体を拭いているかのようで、身体が拭けているのか、水気が取れているのか、身体のどこを拭いているのか、全くわからない。これまでに経験したことのない感触でした。
そして、外気温は、氷点下15℃以下なので、こんどは、それが襲ってきます。雪が足の裏に張り付いていきます。そこで、急いで雪を取り除き、雪のない石畳みの上に移動する。すると、今度は、凍りつきそうになった石畳みに足の裏が張り付いてとれなくなる。早くしないと、足の裏が石畳みに張り付いて、うっかりしていると、足の裏の皮膚が剥がれそうになる。と、同時に、身体について拭き取れていない水滴が、みるみる凍りついてゆきます。そうなると、身体を拭くのではなくて、皮膚の表面が凍りついてゆく氷を手で落としてゆく。もはや、バスタオルも凍りつき、硬い塊になりつつあり、身体を拭き取ることはできなくなっていました。
ここで、身体に多少でも水気が残って、少しでも凍り始めたら、これから30分かけて学院まで帰る道のりで凍傷になってしまいます。この水行は、川に入っている時は、まだましで、本当に大変なのは川から出て、着替えて学院に帰るまでの間なのだと思いました。本当に、着替えは、時間との戦いなのです。しかし、幸いだったのは、百日の行の時とは違って、学院に着いてすぐに入浴ができたことです。熱い湯船が、15人入ると、あっという間に冷めてしまいます。如何に、みんなの身体が冷え切ってしまったのかと思いました。
そして、週に一度の水行も、翌週の2回目がやってきましたが、先週から12人減って、自分を含めて3人になってしまいました。
普通なら、やめるのは間違いない。正直言って、2回目は、自分だけかと思ったので。
結局、週に一度の水行を、奇跡的にその3人のままで、1月と2月の2か月で7回行いました。これも、どんなに辛くてもこの2ヶ月でしかやることはできないのですから、貴重な体験でした。




