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20. 友人リンデンのこと

 このカリキュラムに参加している外国人は、インド人以外には、欧米の人たちが多く、私のような日本人というのは、アジアからでは稀でした。そして、やはり、欧米の人たちは、だいたい自分の国ごとに集っていることがどうしても多い。インド人とは、そこまで親しくしていなかったような印象でした。


 まして、日本人の私には、私が英語があまり喋れないこともあって、あまり向こうから話しかけてくることは少なかったです。やはり、それではいけないと思い、こちらから、色々な話題を出しながら話しかけるようにしていました。すると、1人のアメリカ人が気さくに話し相手になってくれ、彼とは時々話すようになりました。


 彼の名前は、リンデン。アメリカ人で、ものすごい長身であり、やはり、アメリカ人、とても色が白い。それに、とてもきれいでかっこいい顔だちをしている。最初は、互いの文化の話しを始めたのですが、互いにあまり話しが進まない。というのも、私の英語力では、深い話しになると、日本の文化のことを突っ込まれたところまでいくと、言葉が出てこない。それでは、こちらから、話しかけているのに、白けてしまい、彼が話しをやめてしまう。そこで、急遽、話題を色々と趣味のことなどに向けて、話しが続けられる話題を探りを入れていく。すると、映画の話題に、彼はテンションが上がり始めたので、やっとこれで捕まえたと、感触があった。


 それというのも、自分は、学生時代から、映画は一年で軽く100本以上鑑賞するほど好きなので、これ幸いの話題だと話しは盛り上がっていった。ただ最初、どうしてもアメリカ映画が多く、そのことは別にかまわないのですが、彼の言う映画の題名は、当然、原題名で、自分の知る国内での日本名とは違うのです。最初、作品名が重ならないので、少し戸惑いましたが、そこは、長年の映画好きの威力を発揮し始めました。それは、これまで観た映画すべてを映画ノートなるものを作って付けてあり、そこには、日本の題名と原題名は、もちろん、監督、脚本、音楽担当、美術担当、出演者は10人以上の名前と、そして、感想と採点まで。そこまで書き記していたので、それを思い出して、映画の原題名もわかっていたので、彼とは難なく作品の楽しさを共有することができたのでした。


 その彼ですが、ものすごい真面目で、昔から真面目すぎると言われてきた自分が真面目だと感じるほどです。授業に取り組む姿勢はもちろんのこと、普段の態度も真面目。しかし、そんな真面目さが行きすぎていて、人に厳しいところがある。あんなこと許せない、とか、あれは間違ってる、とか、とにかく、人のことが気になって許せない。


 そんな中で、あることが起きたのです。

インドでの食生活は、カレーが多いのはもちろんですが、豆類が多く使われているのです。豆料理は、たしかに美味しいのですが、豆料理ばかり食べていると、体内にガスが溜まりやすい。そして、腸まで行ってガスになるよりも、胃の中ですでにガスが溜まりやすく、いわゆるゲップが出やすくなる。気がついてみれば、自分もゲップが出る回数が増えたような気がする。他にいるインド人の生徒たち、彼らにとっては、ゲップが出るなんて当たり前のこと。私は、出そうになると、口を閉じて、うっ、と飲み込むか、閉じたまま音が出ないようにして出したり、工夫します。


 しかし、インド人は違う。口を大きく開けて、回りもはばからず、堂々と、

「ゲーっ」

っと、大音量で響き渡る。これには、私も閉口しましたが、リンデンは、とにかく、とにかくそれが許せない。もともと、アメリカでは、ゲップとオナラは特に失礼とされていて、道であっても他人でも文句を言われるという。


 しかし、気持ちはよくわかるけど、ここはアメリカではないし、ここの食事生活だと本当にゲップがでやすくなってしまうので、仕方ないとも言えないこともない。でも、彼は、とにかく、あんな失礼な人たちとはとても一緒にいられない、と、私に愚痴をこぼす。さすがに本人たちに言うだけの勇気はないですが。しかし、彼のインド人たちに対する不満は膨らむばかりで、時に、堂々とゲップするのを見ると、遠くからものすごい形相で見ていることも。そういうのを目撃した日は、彼の不満が吐き出されるのを黙って聞き役にまわることが多いのです。


 その日も、彼は不満が溜まっていて、とにかく聞いてほしいオーラがものすごい。こちらは、もちろん彼らのマナー違反は嫌でしたが、さすがにもう仕方ないのであきらめて、自分は気にしないようにしていたのですが、生真面目な彼は、そうはいかない。


 ある時も、私にいつものように不満をぶちまけます。

すると、ちょっと、うっ、となった途端に、彼は、いきなり、


「ゲーっ!」


と、大音量で。突然のことで、口を開けたままの、躊躇なしの、すごいゲップが。一瞬で青ざめて、信じられないといった顔で、


「オー!オーマイガー!ソ、ソリー、、。」


 私は、それを見た瞬間、おかしくて吹き出しそうになったのですが、彼の顔を見るなり、それは、すぐに止まりました。それはそれは、悲しそうな、居ても立っても居られない表情で、土下座して、その後は、もう言葉もなく、頭を床につけるまで、何度も何度も頭を下げ、謝り続ける。見ているこちらがつらくなりそうな、彼の反応が、本当に驚きでした。人に、どこまでも、ひどいと非難していたことを、自分がしてしまったことのショックは相当なものだったのでしょう。その後、彼は、ゲップをする人たちに対して、全く不満を言うことはなくなったのでした。


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