16. インド人との考え方の違い
同室のインド人、アショークとは、同室ということもあって、だいぶ仲良くなりました。インド人の参加者の中でも、本気でヨガを学びにきている1人でした。彼とはだいぶ親密になり、彼は元々、ここに来る前から、ヨガを学んでいて、これまで読んだ、彼が推薦するヨガの本のリストを書いてくれて、帰りに買ったらいいと教えてくれました。もはや彼は、初心者でもなく、ここで聞いている講義内容もわかりやすかったようで、夜には昼間あった講義について、色々と解説をしてもらって、本当に助かりました。生徒全体27人の中で、インド人と、私を含めた外国人が半数ずついますが、どうしてもインド人はインド人だけで、その他の外国人は外国人だけで集まっていることが多くて、全体としてはあまりまとまっていなかった感じでした。それというのも、インド人がみんなというわけではないと思いますが、ちょっと失礼な人が何人かいたので、外国人から敬遠されてしまったのかもしれません。
その中でも、とても驚きの習慣がありました。ある日、私が、部屋の自分の机に戻ると、机の上に置いておいたボールペンがありません。4人部屋の中の自分のスペースは、ベッドがあって、その上に寝袋をおいて、その中で眠り、脇にある机の下に荷物を置いて、使う私物は机の上に置いて使っていました。そのうちのボールペンが見当たらないのです。たしかに置いたはずなのにと思って、夕方見てみたら、戻っていました。
おかしいなとは思いましたが、まあ戻っていたので、もういいかなと忘れていました。そして、数日後、今度は持ってきたナイフがありません。今度は、自分の机の周りやスペースを探してみましたが、やはり見つからない。すると、夕方には、やっぱり戻っていました。もはや、誰かが持っていって、後から戻していることに間違いないし、今後も起こるに違いありません。
そして、その後、机の上の私物を毎日のように注意深くみていたある日、またナイフがなくなっている。私は、すぐに同室のメンバーたちの机を見まわしました。すると、隣りのスペースの親しい友人、アショークの机の上にありました。なんということでしょう。あの仲のいいアショークが勝手に持っていってるとは。これは、自分のものが彼のところにあるうちに言わなければと思い、声をかけました。
「君の机の上にあるナイフだけど、どうしたの?」
すると、彼は明るい表情で、
「君はいいナイフを持っているね。使ってみたくて、ちょっと貸してもらったんだ。使ったら返すから、大丈夫。」
全く悪いとは感じていない様子。こちらもそれ以上は、追求しないでおきました。しかし、その後も、ボールペンやらナイフやら、時々なくなっても、その都度、戻ってきたので、彼とは揉めたくなかったので、そのままほっておきました。
しかし、どうしてもこのことに納得ができなかったのと、もしかしたらインド人特有の考え方なのかを知りたくなって、インド人の生徒で中年の人の中から選んで質問をしてみました。しかし、この人がどのような考え方なのかわからないので、まずは勝手に借りること賛成派の人であれば、この話しはできないので、そこの見極めをしなければならない。どうやって切りだしたらよいものか難しいところなんです。授業が終わったあと、そのインド人の中年男性と雑談をしていました。そして、ちょっと不自然な切り出し方だとは思いましたが、話しを急に変えて、
「あの。ちょっと聞いてもいいですか。もしも、人が持っているもので、それを使いたいと思った時、自分が持っていない場合って、どうしますか?」
「それは、別に、自分が持ってないなら我慢するさ。当たり前だ。」
うーん、それは真理だ。しかし、そういうことじゃない。あくまでも、その人のものをどうしても使いたいという状況の場合、それならどうするかというのが聞いてみたいのです。
「それは、そうですね。ただ、そういうことではなくて、例えば、今、どうしてもハサミが必要になったとします。今、ハサミがなければ、今やっている作業がどうしてもすすまない、という時、隣りの人の机に、たまたまハサミが置いてあった、とします。その時、どうしますか?」
なんだか、こんな大したことがない話題なのに、どんな答えが返ってくるか、どきどきと、ワクワクしてしまった。自分は、インドで、よほど楽しいことがないのだろうかと思ってしまいました。
すると、彼は、
「いやあ、それなら、まず、そのハサミの持ち主に声をかけ、ハサミを貸してくれないか、と頼むね。それしかない。」
おーっ!そうきたか。それでいいんです。この人になら、相談できそうだ。
「そ、そうですよね。その通りです。」
そう言ったあと、これまでの、知らないうちに、ボールペンやナイフを勝手に使われたこと等をすべて、話しました。すると、
「うーん。そんなことがあったのか。それは、悪かった。彼は、別に悪気はなかったと思う。それに、君とは仲が良かったから、なおさらだ。そう、インド人には、人が持っているものでも自由に借りて使っても構わないと思っている考え方があることは、事実なんだ。あくまでも借りただけで、黙って借りても返せば構わないと思っている。ただ、それをしていると、いつしか誰から借りたのかを忘れてしまうこともある。そうなってしまうと、当然返すこともできない。もう、そうなると、泥棒だね。インド人が、残らずそう思っているかというと、そこまでではないとは思うが、そう思いたいが、非常に嫌な習慣だ。とても恥ずかしい。自分は、決してそんなことはしないけれども。外国人の君には、大変、嫌な思いをさせて悪かった。代わりにお詫びするよ。このことで、インド人を嫌いにならないでほしい。」
なるほど、悪気はないということなら、解決策は簡単だと気がつきました。その時から、自分の机の上のものは、すべてバッグに入れておき、目につかないようにしておきました。それからは、使いたい時は、自分に、持っているか、と聞いてくるようになりました。当然、無断で貸すこともあり得ないので、この問題は、喧嘩することもなく、無事に解決したのでした。




