48.金貨を運ぶ羽根
これも100万で買い取ってくれるらしい。ほんとに?? あっという間に200万手に入って猫は今、更なる銀河を背負っている。ビッグバンしちゃった……。
猫、騙されてない? 大丈夫?
後でセルバンテスさんの連帯保証人にされてたりしない?
「今のところ独占市場なのです。そもそもがロックランドバルバトロスのドロップですからな」
なるほど、それがあったか。
ロックランドバルバトロスってもちろん超強いのもあるけど、追いにくい、狩りにくい、ドロップ渋いで人気がない鳥らしいから。
そんなん追いかけて九十九供養までしてる執事さんは立派なゴリラなのである。
「所詮外れドロップですし、鳥追いが倉庫を逆さにしても、出てくる量は大したことないでしょうな」
まあ黒いお顔。
執事さんは猫と知り合ってから、羽根類は供養分を超えて保管しておくようにしてたそうな。
「よろしければ、新たな依頼を、と思うのですが、ご都合はいかがでしょうか。圧縮にも時間が相当かかるようですから、無理にとは申しません」
「もちろん承るにゃんよ~! でも猫はこれからちょっと自由都市を離れる予定があるにゃ。仕上がり遅くても大丈夫にゃん?」
「時間がかかることは存じておりますし、もちろん構いませんよ。完成しましたらまたご連絡ください」
現状、羽根単品での売却額は多少上がった程度でそこまで変化がないらしい。今後市場在庫が消えれば価値は上がるかもしれないが、現段階では加工してくれる錬金術師を見つける方が大変なので、素材そのものはまだ飽和気味だろうとのこと。
執事さん的には羽根はいくらでも取れるし単価が上がるのを待つより、加工してもらって今売り払っちゃえ、と思ったそうな。
なるほど、強者の発言…!
そしてそういう現状なので、加工賃はかなり弾んでくれる。というか、加工品が1枚売れる毎にその半額をくれるというのでこの執事、あまりにもガバである。
「いくらなんでもそんなにもらうわけにはいかないにゃんよ~!」
「いえいえ、大陸羽根ロマン砲はおそらく、飽きられるのが早いと思うのですよ。彼らが求めているのは劣勢からの目を瞠るような大逆転、そしてあるはずのないものを作り出す『ロマン』でありましょうから」
あー…。
前に誰か言ってたなそういえば。希に活躍するから『ロマン砲』って。いつでも安定した高火力が出るならただの砲台、そこにあるのはもはやロマンではない、の法則。
「それにもし砲台としての地位を獲得したとしても、『大陸羽根』は些かオーバースペックと申しましょうか。いずれ代替品でちょうどいい具合の羽根が出てくるはずです。そうなるとただ超高級品なだけで、またほとんど売れなくなる可能性も高いのです。つまり今が売り時、ドキドキチキンレースなタイムセール。これには錬金術師の確保が不可欠です」
「にゃん~、言いたいことはわかるけど、やっぱり多いと思うにゃん。猫的には1:9……いやこれでも10万…? 多いにゃんね…??」
「6:4でいかがでしょう?」
「増やすな危険にゃん」
執事さんは討伐慣れしすぎてて、巨大怪鳥を狩るコストが絶対わかってないんだよな!
でも猫も強欲なのでお金は欲しい。それはそう。マネーイズマネーにゃん。何者にも変えがたい黄金の輝き。
「んんんん~~! 絶対取りすぎだけど3:7でどうにゃん!? これ以上はびた一文もらえないにゃん!」
「おやおや、よろしいのですか? 儲けるチャンスは今だけかもしれませんよ?」
「猫はお金好きだしビッグウェーブは乗りたいけど、素材代金の方がはるかに大きいから半額は絶対もらえないにゃんよ~~。猫としては思いっきり欲張らせてもらったにゃん!」
「フフフ、了解しました」
そんなわけで羽根を50枚、ドサッとお預かりした。ご指定は『大陸大羽根』。任せろにゃん!
初心者釜なら5日分か。中級釜もログアウトのときに入れれば3日で出来そう。中級釜は8時間なので、ログイン中に2回目を入れるのはかなり厳しい。『タイムパス』拡大しても、8時間を短縮するには猫のMPでは結構大変だし。MPポーションがぶ飲みしても全然元は取れるけどさ。
いや、でも裏技を使って納期を短縮するのは他の錬金術師に迷惑がかかる、かもしれないし止めておくか。
うん、やはり3日以上かかりそう。黒月夜前には間に合わない。不測の事態に備えて納期マージンは取っておこう。
「全部出来るのには5日ほどかかるにゃん~、出来たものから渡してもいいにゃ? 猫は明日からまた旅に出るから、運送ギルドから配達になるにゃん」
「なるほど、出来たものからいただけるならそちらの方がありがたいですね。メールで連絡いただければ送信先を返信しますので、着払いでお願いします」
あるのか、着払い。
送りつけ詐欺とかありそう…。
「あ。あと、例の器用補正のある『技羽根』と魔力補正のある『魔羽根』になる組み合わせは、試してみるにゃ?」
『星鳥人の風切羽根』の圧縮結果は狩猟祭イベント後にちゃんと送っている。
執事さんは顎に手を当てて、ふむ、と呟いた。
「錬金術は、失敗した場合はどうなりますかな?」
「圧縮すると他のアイテムになるとわかっているアイテムなら、属性を変えてもそのアイテムになるだけにゃんね~」
基本的に錬金釜での合成に失敗はなく、なにかしら出来る。
ただ一応、失敗例もある。
猫はまだ経験ないが、10個圧縮したら同じアイテム1個になって出てくるパターンが希にあるらしい。元から有用なアイテムだとそうなると言われている。
ちなみに代表例は魔石。全部の魔石がそうなのかはわからんけど、そういう失敗例を見ると及び腰になるのが人類というものである。
大分前の掲示板の話だから、フェイクだったり、その後仕様変更があった可能性もなきにしもあらずだけど、まあもったいないし試したくないよね。
さておき、基準属性を無属性として、属性変更しても変化のないアイテムなら、無属性と同じアイテムが出来るだけだ。
「では『技羽根』と『魔羽根』もお願いします。…そうですね、あと10枚足しますので、1枚ずつお願いしてもよろしいですか?」
「大4技1魔1にゃんね。了解にゃん~! 同じようにしてもならなかったときは、普通の『大陸羽根』になるにゃ。それで構わないにゃ?」
「はい、お願いします。新商品ならばもっと上乗せ出来ますので、楽しみですね」
今日中級釜も稼働すれば、明日には2枚出来るので、先に新商品のお渡しを約束した。
3割でも1枚で加工賃30万。時間だけは長くかかるけど放り込むだけだから楽ちん、これぞまさに錬金術ですなあ。んっふふ。
「今回は『星鳥人の風切羽根』はいかがしますか? 前回と同じ価格でお売りしますが」
「買うにゃん! あとそう、相談したいことがあったにゃんよ~」
「おや、ランさんから相談ということは素材のことでしょうか?」
聞きたかったのは鳥の糞のことだ。掲示板では鳥の糞について見当たらなかったので、鳥を追ってる執事さんなら知ってるのではないかと思って。まさかペングーからしかドロップしない、なんてことないはず。
「鳥の糞について知りたいにゃん」
「……気づいてしまいましたか」
「にゃん?」
「鳥追い人のタンスが真実肥やしに満ちていることに……!」
「そんな悲壮な顔で言われると笑うべきか慰めるべきか戸惑うにゃん」
「ここは渾身の笑うところでした」
「ごめんにゃん」
「ぷんぷんでございます」
「糞だけに」
「ええ、糞だけに。……さて、鳥の糞。ええ、種類から大きさ、色、各種取り揃えてございますよ。数もみっちりございます。鳥追い人はみな糞専用タンスがあるくらいですからね」
「嫌な世界を知ってしまったにゃん…」
「何事にも負の側面というものはあるものです。鳥の糞は一部は『調薬』で利用方法があるのですよ。あとなぜか『料理』。レシピを知るものが頑なに何に使うかを明かさないので何に入ってるか未だに謎という」
「そんなのあるにゃん!?」
「あるのですよ、まったく闇深案件でございますね。『調薬』の方は塗り薬と、あとは肥料などですね。飲み薬はないはずなのでご安心ください。…いえ流用してたらわかりませんからやはり真実は闇の中ですが。しかしこれらがあるからこそ、上位レシピが出てくるのでは?新しい糞が求められるのでは?と一縷の希望を抱いて一通り糞を保管してしまうわけでして。消耗品だと数も必要ですしね。ついでに細々と、おそらく実験のためでしょうが需要があるのも鳥糞界隈なのです」
「そんな界隈が…」
「今作りました」
でしょうね!
需要があるなら、じゃあ錬金術するために分けてもらうのは無理かな? というか『調薬』で肥料があるなら、錬金術での利用は難しいかもしれない。
「購入されますか? 今なら狩りたてほやほやの糞がございますよ」
「やっぱりドロップで出るにゃん?」
「確率的には通常ドロップというよりプチレアに近いドロップですね。しかし巣の採取をすれば、そこそこ採れるアイテムでもあります。基本、巣は放置なのですが、ドラゴンと名に入ってる鳥の巣は稀に宝石類が採れるので巣の解体もします。するとそれはもうモリモリと山のように」
「物欲センサーにゃんね」
「まさにまさに。ちょうどフレアドラゴンバードの巣を解体してきたので、在庫が豊富ですよ。これ幸いと押しつけようと思います」
「くれるのは嬉しいけど、店売りか冒ギ買取代金くらいは出すにゃんよ~」
「残念ながら冒ギは糞の買取を拒否します。いわく、置く場所がないとのことで」
「にゃん…!」
石ころさえ買い取るのにそこは拒否なのか。
いや、たしかに糞系のアイテムって素材買取所では見なかったような。肉とか扱ってるし、考えてみれば横で売られてたら衛生上よくない感じもする、か? うん、よくない、のかも??
「農業ギルドでは買取があるという噂も聞きますが、糞ならなんでもというわけではないそうですよ。そんなわけで持て余しているアイテムですので、どうぞどうぞ。もし何か面白いものが出来たら、また教えてください」
「にゃん~、何か出来たらまた持ってくるにゃん!」
「ありがとうございます」
もらったのは『火竜鳥の糞』。字面が既につよそう。こいつを釜にいれたら24時間取られそうな気がします。今ある分だけということで50個ほどもらった。多いな!?
実験がたくさん出来るしありがたいけども。なおトレードでやりとりしたので現物は見てない。
『星鳥人の風切羽根』も300本もらった。
写真で報告したときに、矢羽根には出来そうにないから『星鳥の風切羽根』の買取は無しとなったのだけど、『大陸羽根』が売れたし他のも売れるかも、とお試しで預けることに。
『星鳥の風切羽根』『星鳥の魔羽根』『星鳥の技羽根』をそれぞれ1枚ずつお渡し。プレーンのは属性実験したときので、魔羽根と技羽根は実験して余った50枚をそれぞれ圧縮しておいたやつ。
価格がわからないので、ひとまずは圧縮したの1枚で素材100枚もらう、という物々交換方式にしてもらった。
猫としても完成品1個渡したら10個分の材料をくれるのは嬉しいから構わない。こちらに関しても、もしお高く売れたら分け前をくれるそうだ。
んふふ、楽しみ。
ちなみに『火竜鳥の糞』も出来上がったアイテム1個と交換の物々交換とした。
なにしろ釜をチンして暮らす猫と鳥をツンして暮らす執事は相場がまったくわからぬ。商人の強アーツ『精算』も新商品と売れないアイテムに対しては無力なのであった…。
懐がほくほくと温かくなったところで、そろそろ待ち合わせの時間が近くなってきた。
別れ際に、セルバンテスさんにもお土産の『ポーツクッキー』を渡す。
「おや、これは…」
「ポーツまで行ってきたからお土産にゃん~」
「これはご丁寧に、ありがとうございます。黄金色のお菓子でございますね」
「袖の下にゃん」
「お主も悪よのぅ…」
「あーれー」
「展開が早うございます」
猫はいつもそう思ってるにゃん!
ばいばーいと手を振って、また露店通りの流れに乗る。どんぶらこっこ。
今日はこれから、冒険者ギルド前に集合ということになっている。
フーテンさんから返信入ってて『3日後了解~~露店開店待ってるねえ』て言ってたんだけど、例の本が買えたから読んだ方が早いかも、て返信したら、本読むのは露店だと難しいからとおうちにご招待されたのだ。
二度目ましてのログハウス訪問ですな。
みんな来るって言ってたからヤマビコさんのお茶とお菓子楽しみ!
さてさて、次はどんな冒険になるかな~!
これにて2章完結です。
ここまで読んでくれてありがとう、そしてお疲れさま! 楽しんでもらえたなら幸い。
楽しかった!という方はブクマや評価、イイネ、感想などもらえるととても嬉しいです。
すでに下さった方、また、いつもイイネやコメントくれる方々は本当に本当にありがとう!
当初廃都方面は今章ですべて回る予定が、猫の寄り道が多すぎてとても回りきれず。そんなわけで、次の3章とは章自体が前後編のような構成となっています。
2章が海の旅なら、3章は山の旅。隠者の村、アルテザ、ドゥーアなどを巡る予定です。
幕間に番外編1話(フーテン視点)と、掲示板1話(ロマン砲スレ)が入ります。ま、まにあうぞ…!