34.夢見る貝の対処法
(うまい切れ目が見つからず、途中で切れます)
お。あの魚の鱗を売ってた、金茶色の髪の獣人お姉さんの露店だ。
「いらっしゃい…、おや、前にも来た猫ちゃんだね」
「こんにちはにゃ! あの『七宝魚の鱗』がないかと思ってまた来てみたにゃ」
露店の品物は何かの角?牙?や、ゲソ…いや、触腕?ぽいもの、それから大きな法螺貝やホタテみたいな貝殻、あと透明の水饅頭?みたいなものが並べられている。鱗は大きな滴型でメノウのような縞模様が綺麗なものが並んでいるけど、こないだのようなのはないみたい。
「お、あれならまだあるよ。今日は他のがいっぱいあって並べられなかったんだ。また通常品質以下のごちゃ混ぜになるけど、買うかい?」
「買うにゃ!」
「まいど」
一旦露店のアイテムがひとつ引っ込められて、変更してくれるので購入する。
「これ、通常品質の色が偏ってるのは、やはり倒しやすさとかにゃん?」
「それもあるけど、いちばんは出現個体の偏りかな。青ベースと茶色ベースのが多いんだよ。透明は全部のレインボーフィッシュから出るから多い。あとは鱗自体の堅さ?も影響してるのか、通常品質以上が取れにくい色もあるね。土産物屋なんかに行くと、その辺よくわかるよ」
七宝魚ことレインボーフィッシュは、主に3~5色の鱗を持っているようで、1匹が15色全部持っているわけではないそうな。主体の色によって攻撃方法や弱点が違ったりするらしい。なるほど。
ちなみに土産物屋さんでは、七宝魚ビーズのブレスレットなどが売られていたりするのだが、大きめのペンダントなんかだと色でお値段がかなり違うんだって。へええ。というか土産物屋なんてあったのか、気づかなかったな。
「ビーチに降りると海の家があるだろ? あの隣が土産物屋だ。家具とかもあって、面白いよ」
「ビーチには夕方過ぎてからしか降りなかったから知らなかったにゃん~、行ってみるにゃ! ……この水饅頭みたいなのはなんにゃん?」
「それはシージェリのドロップ『塩ジェリ水』だね。そのままだと塩分が強すぎて調薬には使えないんだが、じっくり茹でると塩分が抜けてゲルになるらしい。ジェリ水より必要個数が少なくゲルが出来る」
そして角?牙?のようなものは、以前聞いたことがあるイッカクの角らしい。へええ、これが指揮杖素材になると噂の!
触腕はイカではなくクラゲのもので、件の着ぐるみクラゲの素になる『ゼリーフィッシュボウズ』のドロップらしい。ちなみに名称の由来は海坊主っぽいからだと言われている。そんなにでかいのか?
着ぐるみになる部分は『裁縫』素材で、触腕は『革工』や『料理』の素材になるのだとか。
「これから削ぎ落とした吸盤に、パン粉つけて揚げたのがこの街の名物『フィッシュリング』だよ」
「にゃん!? イカリングみたいなあれにゃ!?」
「そうそれ。正体知るとびっくりだろ?」
「たしかにイカじゃない不思議な食感だったけど完全に予想外にゃ~~。…でもあれ、美味しいにゃんね…」
「美味いんだよなあ…なんでかわからんけど白身魚っぽいし…」
完全に白身魚というか、主成分が水ではない肉感的なものを感じたのにクラゲとは。たしかにゼリーフィッシュとはいうけどさ、そのフィッシュから取ってるとは思わなかったわ…。
吸盤を削いだあとの触腕は『革工』の手で鞭や、あるいは弓などの弦に生まれ変わるそうな。
「無駄なく使えるにゃん」
「優秀な素材だから、遭遇するとラッキーなんだよ。その代わりこいつを狙って魔物がたくさんくるから、その後処理が大変なんだけど」
「魔物にも大人気にゃんね」
悲しい食物連鎖だね。
せっかくなのでクラゲのゲソ(?)を購入してみた。これはスリングショットの店を紹介してもらったお礼も兼ねて、エドさんへのお土産だ。彼は暇つぶしに初心者用装備を作ってたりするので、この素材は使えるはず。
「いろいろ教えてくれてありがとうにゃ!」
「こちらこそ暇に付き合ってくれてありがとね」
「お姉さんも暇つぶし露店派にゃ?」
「商人はそんなもんさ。うちのPTはみんな、他は生産もしてるしね。次の船が出るまで暇なんだ。それにしても猫ちゃんは、船に乗ったことはなさそうなのに、魔物のことにずいぶん詳しいね」
「猫はこう見えてインテリにゃん」
「インテリ……近くにはいなかったタイプだね」
わりと突っこみ待ちだったのに納得されてしまった。
いや、でもあれこれ海の魔物の話で盛り上がれるのは本のお陰なので、猫はインテリで間違いないはずよ。
「猫ちゃんはドリームブレスシェルを知ってるかい?」
「でっかいハマグリにゃんね?」
「そうそう。あいつが今、海路を乗っ取っちまっててね。ドリームブレスっていうのは、要は蜃気楼なんだけど、幻獣召喚ってもんなんだ」
ドリームブレスシェルは幻獣召喚によって、実態のない『幻獣』という魔物を大量に呼び出すらしい。幻獣は倒せなくはないが、倒してもドロップも経験値も何も手に入らないそうな。
しかし幻獣を倒して、貝もぶん殴らないと海路が通れない。貝はいつも完全には倒せず、最後は海へ逃げていってしまう。
そして毎回、海路を通る度にこの貝に邪魔されているのだとか。
「イベントなのかって調べたけど、そういうわけでもないみたいでね。猫ちゃんは、ドリームブレスシェルについてなにか知らないか?」
「にゃん…」
ドリームブレスシェルについては『大きな貝、小さな貝』という本で読んだけど、幻獣召喚ってのはプレイヤーがする召喚と似てるようで違って、何体でもおかわり召喚出来るから相手にするな、逃げてやり過ごせと書いてあった。貝自体が異界の扉となっていて、だから向こう側から引き入れやすい、とかなんとか。
そう説明するとお姉さんは難しい顔で唸る。
「やっぱり無視して通りすぎるしかないってわけか。でも海路が塞がれちまってるからなあ」
「貝が閉じてれば幻獣は召喚されないらしいにゃん?」
「近づくと開くんだよねえ。で、しばらくは何も出てこないんだが、もや~っと虹色の煙が出てきて、3分もしない内に幻獣が出てきちまう。3分じゃさすがに固すぎて貝を撃退出来なくてさ」
幻獣は貝を守るように動くので、幻獣を倒さなければならなくなり、倒してからも貝を撃退するまで幻獣のおかわりが続くらしい。そして幻獣はドロップも経験値もなし、貝は倒しきるまでに逃げてしまうので骨折り損、と。
「スキル経験値は入るけど、それ専用の魔物か?てくらい実入りがなくてね。でもあの貝を避けると、別の魔物の海域を通らなくちゃいけない。それはそれで問題なんだ。何も手に入らない上に時間もかかって面倒だから腹立つだけで、貝はまだ安全に撃退出来る魔物だからね」
実際、もし幻獣にドロップや経験値があるなら大歓迎な魔物らしい。でもそうじゃないから不評。
うーん、なるほど厄介。
「貝の口を閉じていられればいいにゃんねえ」
「そうだね。あのばかでかい貝の口を閉じさせておく方法があればいいんだけどねえ」
「うーん、ないことはないにゃん。ただ、うまく行くかはわからないけど」
「おっ? もちろんいきなりうまく行くなんて思ってないから、ちょっとでも何かあるなら知恵を貸してくれないかい?」
「にゃん~、ちょっと持ってくるから待っててほしいにゃ」
「マイルームかい? 待ってるよ、行ってらっしゃい」
持ってくるっていうか、作ってくるんだけどね。
露店広場から離れてマイルームへ戻り、取り出しましたるは錬成陣。
たぶん貝の口は『ロック』で閉まる。なにせ異界の扉になってるとかいうんだから、有効なのは鍵のはずだ。
だから『ロック』の魔法玉を作ろうというわけだ。ロックはMP10なので素材に悩むところだが、たくさんあるし七宝魚の低品質、無属性の鱗を使ってみることにする。
錬成陣にビー玉と鱗をセットして、指揮杖の『青ブナの杖』を装備して、『ロック』をかけて『渦』で押し込めておく。ちょっとドキドキしたけど、無事に仕上がりは通常品質の『鍵魔法玉』だ。成功!
これを3つほど作った。5個作りたかったんだけど、何個か弾けてしまった。残念。量産はちゃんと調べてからにしよう。ひとまずは成功した3個だけ持っていく。
「お待たせにゃん~」
「おお、おかえり。早かったね」
早速戻って、お姉さんに『鍵魔法玉』を見せる。
「おや、『鍵魔法玉』じゃないか。これはダンジョンの鍵開け用だろう?」
お姉さんも見たことがあったらしい。そう、これマケボで売ってるんだよね。でもダンジョンの鍵開け用に使われるアイテムとは知らなかった。道理でやたら高いはずだ。単純に需要があって高いのか、適当に置いてるのかいまいち謎だったんだよね。
ダンジョンの鍵といえば宝箱とか、あるいは絶対重要そうな扉とかに使うんだろう。そういうのに使われるなら、足元見た価格設定なのも納得だ。なるほどなあ。
猫も安定して作れるようになったらこれで金策しよ。
「これにこめられてる『ロック』は、魔法の鍵を開けることも出来るけど、かけることも出来るにゃんよ~。ドリームブレスシェルは、それ自身が異界の扉となり幻獣を呼び出す、ということは、貝自体が扉になってるってことでもあるにゃ? だから『ロック』することが出来るはずにゃん」
「ははあ、なるほど? それで、これをどうやって使うんだい?」
「猫も攻撃には使ったことないからわからないけど、たぶん投擲して貝に当たればそのまま『ロック』が発動するはずにゃ。そうすると扉なら勝手に閉まって、アンロックするまで開かなくなるにゃ」
「つまり、ロックしちまったら自分では口が開けられないってことか。そりゃあいい」
お姉さんはニヤニヤしている。悪いお顔だ。
「うまく行くとは限らないにゃんよ~」
「もちろんわかってるさ。でも、こいつはうまく行く気がするよ。これは猫ちゃんが作ってるのかい?」
「そうにゃん。でもまだ安定して作れてはいないから、そう数は出せないにゃ」
「なるほど。『魔法玉』って錬金術で作るんだよね? まったく詳しくないんだが、素材は何を使うんだい?」
「今回はお姉さんから買った『七宝魚の鱗』を使ったにゃん~」
「へえ! あれが素材になるのかい。道理でたくさん買ってくれたわけだ。ならこれもオマケだ、持っていきな」
お姉さんが最高品質の『七宝魚の鱗』を取り出す。おっと、それは猫は持ち腐れる素材。
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