33.旅の続きを
帰りに冒険者ギルドへ行って『石ころ』を買いしめた。1個2zになると思いきや、1zで売ってくれた。処分に困ってるので「買ってくれるなら大歓迎」らしい。さすが慈善事業…。
ちなみに素材取引所の人には不良品アイテムを買う猫として覚えられているので「ついに『石ころ』まで買うの!?」と驚かれた。
「錬金術は石だって金に変えちゃうにゃん!」
「うん…、いやそういうスキルだって知ってるけどね。うちでは廃棄するにも困るアイテムだから処分できてありがたいけど、君も損のないようにね?」
「もちろん大丈夫にゃんよ~これから大儲けするにゃん!」
「わはは、頼もしいな! そうそう、ヒビの入った素材、いいのが入ってきてるから見ていくかい?」
「見るにゃん!」
そんなわけでヒビの入った素材や魔石もあれこれと買った。
それから以前セルバンテスさん(執事)から聞いた『カーバンクルの魔宝石』のヒビの入ってるのも見せてもらった。なるほど、5cmほどの楕円系、そしてヒビが入っててもすごく綺麗だ。
深い青色の石なのだが、内側に入った大きなヒビは鮮やかな金色を滲ませていて、傾けるとキラキラと光る。
すごい、こういうのって遊色効果?ていうんだろうか、色の変わり方が鮮やかで、何回でも傾けて見てしまう。
「ふおお……でもお高いにゃんね」
「魔宝石だからねえ、ヒビ入ってても高いよ。どうする、買う?」
「おおお……、これは悩んじゃうにゃん」
「これヒビの入り具合がいい感じだと思うんだよねえ、ピシッとしててさ。粉々のヒビもそれはそれで綺麗だけど、こう、雷みたいでよくない?」
素材取引所のお兄さんは猫とよくヒビとか割れ素材を選んでいるので、今ではヒビに一家言ある人になってしまった。しかしさすが素材取引所の目利きさんで、彼が選んで勧めてくれた素材は、不思議と弾けたことがない。
やっぱり品質表示以外にも、なにかマスクデータがあるんだろな。知識スキルでも補えないもの。『真贋』とかなのかなあ? 気になる。
さておきお兄さんのオススメだ、これは買うべきだろう。
「ううう、買うにゃん!」
「お、ほんと? よかった、『カーバンクルの魔宝石』ってヒビ入ってても人気だからさ、明日にはなくなっちゃうだろうし、惜しいなーって思ってたんだよ。ちょうどいいときに来てくれたよ!」
「にゃん~!やっぱり猫は持ってるにゃん!」
「んふふ、いいもの作れるといいねえ」
予想外の出費になったが問題ない、懐はかなり寂しくなったけど大丈夫!!
…旅行前より貧乏になってしまった…。
金策しよ……。
翌朝。
まずは運送ギルドで荷物の受取だ。ルイの荷鞍とツールバッグ、それから猫の郵便鞄をフルに使って荷物を預かった。
『運搬』スキルは、積載量で経験値が入る。所持限界の7割以上、確実なのは8割持ってるときにしか経験値が入らないらしい。あとは運搬LVに対して総積載量が多い場合も入ってる説がある。そしてものをいうのが、移動距離だ。つまり重たい荷物をもって歩くとLVが上がるスキルなのである。
そんなわけで猫は買い物するとき以外は常に歩く倉庫状態なのだが、今日はもうミッチミチ、はち切れんばかりに積んでいます。
鞄装備って積載量が目に見えて増えるんだよね。ルイの鞍は山盛りだし、猫の郵便鞄はパンパンだ。なんならレトのがま口もパツンパツンである。なおレトのがま口はレトが勝手にアイテム入れてるので何が入ってるかたまに確認しないといけない。だいたい石ころなんだけど、たまにドングリとか水晶石とかも拾っている。
ルイがやる気に満ちているぜ。荷物持つの嬉しそうにするんだよね。猫にもさあ乗れと待っているので、重たくないかちょっと心配だが、乗る。あとでしっかり労おう。
その状態で待ち合わせの冒険者ギルド前へ。ペチカちゃんがポーツ行きを決断したので乗せていきます。
「おはようペチカにゃん、お待たせにゃん~」
「おはようございます、私も今来たとこです!」
様式美かな?
「じゃあPT投げるにゃんね」
「はい! 私、PT初めてなので粗相があったらすみません」
「猫もPT作るのははじめてにゃん~気楽にいくにゃあ」
メニュー画面からパーティー作成を選んで作成してから、勧誘を投げる、というのがシステマチックな作り方だが、両手を繋いで「パーティー結成」とか「一緒に戦いましょう」などと言って、同意してもらっても作れる。
両手を伸ばすとペチカちゃんが手を取ってくれたので、手を握る。
「一緒に行くにゃん?」
「はい、是非!」
ポワワン、と周囲に薄い緑の光輪が広がった。おお、PTに入れてもらうときはポンって緑の光が出るだけだったから、意外と違うんだな。
「わあ、こんな感じなんですね」
感激するペチカちゃんをひとしきり眺めたあとは、いざポーツへ。
「それじゃ、出発にゃ」
「はい!」
念のため、門の外へ出てから『リターン』。帰還先がちゃんとポーツになってるのを確認して、チャージを始める。今回は『自由なる魔法師の杖』を使用してみている。リターン、MP100も使うのよ。
転移石と同じように空へ向けて光が一直線に放たれるエフェクトの後、しゅばっと空を光が走っていく。これが移動してるってことなんだろな。
そしてポーツ着、やはり門の外。
「到着にゃんよ~」
「わあ、本当にあっという間ですね。あっ、海! すごい、磯の匂いがします!」
「海運と漁業の街にゃん。ホーム変更しないと冒険者ギルドの討伐依頼が受けられないのだけ要注意にゃん~」
「ありがとうございます! 一通り回ってみて、ホーム変更するか考えてみようと思います。裁縫の本拠地も近いですし、帰りは歩いて帰ってもいいかなって」
「猫も小耳に挟んだだけなんだけど、学園都市まで船が出てるらしいにゃ。護衛で乗る冒険者がいるって話してたにゃん」
「そうなんですか!? 海路があるのは知りませんでした…!」
はしゃいでいるペチカちゃんだが、猫は伝えておかねばならないことがある…ッ!
「ポーツはいい街なんだけど、ひとつだけ注意があるにゃん」
「は、はい」
「ポーツというか、廃都エリアのギルドには資料室がないにゃ」
「え……」
ペチカちゃんがぽかんと口を開けたまま停止した。
「行政施設に図書室があるだけにゃんよ~そこだけ要注意にゃんね」
「ええええー!? ギルドの資料室ないんですか!?」
やはり大ショックみたいで、両手を頬に当てて叫びのようになっている。そうよね、猫も悲しい。
「ないにゃんよ~」
「わ、わあ、楽しみにしてたのに…」
「図書室は各街にあるし、フロントには面白い仕掛けの本もあったにゃん。あ、そうだ、ペチカちゃんがもしこれからも資料室巡りをしようと思うなら『マジックセンス』を覚えることをオススメするにゃん」
「『マジックセンス』……『魔力感知』の下位互換って言われてる魔法ですね。たしか教本売店で見かけた気がします」
「実は『マジックセンス』は隠された採取スポットがわかったりするにゃ。『魔力感知』を覚えるまでわからないのはもったいないにゃん~」
「なるほど、それはたしかに…! 教本、読めるように頑張ってみますね!」
次にあった時もまだ読めてないようならネタバレするけど、もう教本の検証は十分だし、最初から話してしまうのは面白くないよな。
ペチカちゃんは送っていくだけなので、その場でPTを解散してお別れした。一緒に行動すると彼女は猫優先になってしまうだろうから、単独行動の方がいい。
同じ街にいれば、すれ違うこともあるだろうし。
そんなわけでポーツの運送ギルドで荷を卸した。軽ーいー!
距離が長いし荷物も多かったので、かなりポイントもお金も稼げて、早々にランクアップ。『駆け出し運び屋』になった。
実績解除スキルは『韋駄天』と『健脚』。韋駄天は移動速度を上げるスキル、健脚はスタミナを減りにくくするスキルだったはず。この二つのスキルは結構人気。
この手のスキルは取るなら早い内に、だけども、うーん。猫本体よりルイに欲しいスキルよね。韋駄天は素早さが上がるなら考慮したいけど、移動速度だけなら別にいらないかなあ。
次は『技術の街アルテザ』行きの荷物か。商人ギルドも確認して、お店みて、露店見て、釣りして、入り江を見に行って…、うん、荷物預かるのは別に明日でいいかな。
街中での荷運び依頼もあるようなので、これは受けてもいいかも。『漁業ギルド行き』『行政施設行き』あたりなら場所もわかりやすい。その代わりポイントも報酬もかなり控えめなお使い程度だ。まあついでなら悪くない。荷物の量が選べるので、多めにすれば結構いいかも? ルイの荷鞍と猫の鞄も計算して、うんうん、余裕でいける。
漁業ギルドへ行って荷物を届けて、ついでに『1日漁業権』を購入。これって貝とか海藻類も取っていいらしい。逆に言うと漁業権無しには採っちゃダメ、知らなかった。
びっくりして確認したけど、砂浜に打ち上げられちゃったやつくらいならオッケー、でも砂浜を掘るのは駄目なんだって。潮干狩りNG、なるほど。なお貝は貝で採取スポットがあるみたい。
桟橋での釣りは夕方にやってみることにして、次は行政施設へ荷物のお届け。無事に終えたら次は商業ギルドへ。
商業ギルドの買付依頼を確認すると、自由都市からの買取品はやはり高級志向のアイテムばかりだった。まだとても手は出せないね。
……と思ったら『投石玉』がある。220zでの買取か。自由都市で売却したから出てるんかなこれ?
『投石玉』って、石なので普通に重い。作ってここで売るならいいけど、仕入れて運んでくることを思うと、全然うまくないアイテムだ。でも500で売れるって聞いてるのにこの価格だから、この先の道中がかなり危険だったりするのかも?
露店はともかく、マケボでの投石玉の相場は元々かなりばらついている上に高い。そもそも出品が少ないのと、マケボで緊急に買うとしたらレイドでのダメージ貢献度が欲しいときくらいになるので、多少高くても売れるという判断なのだろう。そうそう売れるわけじゃないから、マケボ枠に余裕がないと出来ない売り方だ。
今は作りためておいて、『石壁の街』解禁後に売るのがよさそう。石ころはこっちのギルドでも買えるか、見ておかねば。
ちなみに石ころも15属性試したけど、全部『投石玉』で変化はなかった。予想通り。『雑草玉』も変化ないしね。
そんなわけで商業ギルドでこなせる依頼は特になかった。
次に冒険者ギルド。自由都市で出来なかった各種報告をどどーんと。
ランク3の『駆け出し冒険者』になった。
ほとんど採取系の素材納品でクリア。買ったやつじゃなくてちゃんと採ってきたやつ。買ったやつ納品すると損だし。
わりと珍しい採取植物の納品をクリアできたので、ギリギリランク上げられた感じ。
端数は常時依頼のミミットを報告してクリアした。討伐証明として素材を納めないといけないから常時依頼はうまくない。が、あとちょっとでランク上がるのに!!て時には重宝する、かも。
ちなみに珍しい採取植物はいつぞやの図書館ダンジョンの庭園で掘ったやつだ。フーテンさんに、売るより取っておいて冒険者ギルドで採取依頼が出たときに出すといいよ~と勧められていたのだった。報酬がいいから、と聞いていたがたしかによい。なんと『植物図録』がもらえる依頼があったのだ。やったぜ。他にも金銭的にかなりよい依頼もあった。ほくほく。
ついでにマケボに置いといた『蜘蛛の巣ヴェール』が売れたので、懐に余裕も出来た。安心!
そうそう、マケボも5枠になったので、置けるものが増えました。今はヴェールと魔法玉(光、闇)、薬草(若葉)、投石玉(500z)などを置いている。最後のやつはマケボの印象操作ってやつにゃん~。
ついでに冒険者ギルドでやはり心配されつつ石ころの買取、それから近隣の商店で10個制限の調味料の買出し、そうしたら荷物がいっぱいになったのでいったんマイルームの箪笥にしまって、と。
さて、身軽に露店へいくぞ!
海旅編の途中に畑が挟まりましたが、ようやく海へ戻ってきました。もう少し海旅は続きます。
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