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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
2章 金欠猫には旅をさせよ~魅惑の海旅編~
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32.投擲専門店と投石玉

 エドさんからお返事きてた。


『投石玉ならダメージ固定だし、必要なのは飛距離と照準だろ? 飛距離が伸びるスリングはそのLV帯にはない。照準と放てる石のサイズ、あと耐久値が違うだけだ。マケボざっと見たところ、ランに合うようなのはNPC店売りの方が質がいいから、店で試させてもらって買うといい』

『ありがとうにゃ~! 早速いってみるにゃん』


 GPSがついてたのでそこへ向かう。おお、ギルド通りの西…、鷹の目商店街ですな。初めての場所。

 武器防具とか売ってるNPC店舗、まったくノーチェックだったんだよねえ。初心者装備の圧縮でそこそこのが手に入っちゃったし。それに冒険者ギルド内に出張店みたいなのがあって一通り見られるから、それでもう見た気になってたというか。


 通りをナビの通りに更に曲がっていく。なんか道が狭くなってきたぞ? この並びは武器屋…というより革や木工の装備が並んでるようだ。

 お、到着。なんと投擲武器の専門店だ。わあ、こんなのもあるんだ。お隣の姉妹店は弓のお店。


 畑レイドのときにエドさんがボウガンみたいなの使ってるのを見て、ボウガンだったら非力な猫でも撃てるのでは?と考えたのだけど、調べたらあれはあれで思ったより筋力がいる装備だった。そもそもボウガン自体が結構重いんだそうな。なるほど、滑車とかあれこれついてるもんね。

 マシンガンのような装備もあるらしいけど、まだまだ実践で使えるレベルのアイテムではないらしい。ちなみに学園都市でダンジョンから産出するレア武器だとか? 研究や製造を『魔道工』さんに期待だ。


 さて、投擲武器の専門店『緑の軌跡』へ入店。

 お、珍しい、店主さんが小人族だ。


「いらっしゃい、何をお探し?」

「スリングが欲しいにゃ。どれがいいのかさっぱりわからないから、出来たら試し撃ちをさせてもらいたいにゃん」

「もちろん試し撃ちも出来るとも。撃つための石は持ってきてるかい?」

「投げたい石はこのくらいのサイズにゃ」


 レイドが終わってから、『石ころ』をかき集めて作っておいた『投石玉』だ。デバフ弾にするために拾い集めた石ころは、うっかり目的を忘れてすべてこれになりました。


「おや、もしかしてそれは『投石玉』かな? さすが風猫族、いいものを持っているね」


 風猫族は目利きに優れ、よく掘り出し物を見つけてくる商人種族というのがNPC認識だ。


「にゃん~これがあれば猫だって大規模討伐で貢献出来るにゃ」

「それはすごいな。もし余分に持ってるならうちにも売ってくれないかい? お求めのスリングも安くするよ」


 おや、交渉だろうか? NPCからアイテムを売ってくれって言われるのは初めて……じゃないな、串焼きのおじちゃんにはいつも肉を求められている。猫はそのために『ミミットの腿肉』を常に持ち歩いているのだ。たまに焼いて食べるけど。


「『投石玉』は売れるアイテムにゃん?」

「 もちろん。君も言ったじゃないか、大規模討伐で貢献出来るって。それは大きなことだよ。それに、どこかのダンジョンでは防御力がものすごく高くて、でも生命力はほとんどないって魔物がいるらしい。そういうのにも『投石玉』は有効なんだよ」


 なるほど、某金属なスライムみたいなのがいるのか。たしかに有用に使えそう。そのわりに露店で売れた試しがないんだが。


「猫は『投石玉』はたしかに持ってて便利なアイテムだと思ってるにゃん。でも売れたことがないから、いくらなのかもわからないにゃんよ」

「おや、君が仕入れてきたわけじゃないのかい?」

「猫がギュッてしてるにゃ」


 ギュッのところでおにぎり作るように手を合わせてむぎゅっとする。


「なるほど、錬金術師なんだね! それならぜひともうちに卸してほしいところだけど…、どうしようかな」


 店主さんが言うには、ここではそれほど高くは売れないので、買取価格もあまり出せないらしい。というか、それで標準価格ではあるんだけど、その金属スライムみたいな魔物のいるダンジョンの近くの街で売ればもっと高額で売れるそうな。うんうん、映画館のコーヒーみたいなやつね。


「もし君がそちらへ行く予定があるなら、うちで卸さず、貯めておいた方が得だと思うんだよ」


 この店主さん、すごくいい人なのでは?


 というかもしかして風猫族特性かも?

 風猫族って、商売で騙そうとすると痛い目を見ると言われてる種族なので、NPC相手の交渉は元々しやすいのだそうな。その分、非力な上に魔力が少ない、器用ではあるけど生産には向かないというデメリットの多い種族でもある。まあ交渉のしやすさに胡座をかいてると、交渉自体をしてくれなくなったりもするらしいけど。

 種族特性を感じるのは初めてだな…と思ったけどもしかしてNPCみんな優しいのってそのせいだったりする?? それはそれで寂しいような……、いやいや、猫は猫だから猫なのだし。にゃんにゃん。何も変わらないにゃん~。


「石集めが大変だからたくさんは卸せないけど、それでもいいなら売るにゃん~」

「ありがとう! あ、『石ころ』なら冒険者ギルドの素材取引所に行けば譲ってもらえると思うよ。あそこは食い詰めてる新人のために『石ころ』買い取ってるからね…」


 冒険者ギルドの慈善事業……!


「集めなくてもいいならとっても楽に作れるにゃん!」

「それはよかった。暇なときにでも作って、また卸しにきてくれると嬉しいよ」


 『投石玉』おいくらになるんだろうと思ってたら180zで買取してくれた。ちなみに売価は200zだそう。与えるダメージから考えると、1発の弾代としてはかなりお高めでは?? なお『石ころ』は売ると1z(慈善事業)。


 ちなみに件のダンジョンの街なら500はするだろうって。ほほう。猫、これまで50zで露店に出したりしてた。反省しよ…。

 …あれ、でもフーテンさんも何も言わんかったな?


『フーテンさん『投石玉』店売200zだにゃん! 知ってた?』

『えっ!? それは知らんかったな~~! どこで売ってた??』

『今、猫が卸したからこれから売り出すみたいにゃ。エドさんから紹介された投擲武器の専門店』

『あ~。あそこか! そこ隠れた名店なんだよ~本屋さんみたいに紹介ないと辿り着けない店。でも店売り始まるってことは『精算』に影響が出るねえ。リーにも伝えておくわ~、ありがと~!』

『某金属スライムみたいな堅くて弱い敵が出るダンジョンの街なら500zって言ってたにゃん』

『堅くて弱い敵の出るダンジョン?? 『投石玉』で倒すのがいいような防御極めててHP5しかないような敵ってこと? そんなのいたかなあ……いたら『投石玉』もっと売れてると思うんだけど。うーん、ちょっと調べてみるねえ』


 おや? もしかして新しいダンジョンの情報だったんだろうか?


「にゃん~、店主さん、その『投石玉』が高く売れる街ってどこにゃん?」

「廃都の東にある『石壁の街ボウフォル』だよ。あちらは魔物が強いから、君にはあまりおすすめできないかな」

「いずれ行ってみたいにゃんね~」


『廃都の東にある『石壁の街ボウフォル』らしいにゃんよ~。猫が行くにはまだLV足りないみたいにゃん』

『にゃん??? 知らない街にゃん……。第三での廃都エリアの拡張は謎が多かったんだけど東か~。情報ありがとねえ~~』

『行ったらお土産よろしくにゃん~~』


 猫は情報を適当に投げるだけで、他に何も出来ることはない。後はお任せである。



 『投石玉』は20個作っておいたけど、ひとまず全部卸すことにした。冒険者ギルドで『石ころ』買えるなら何も惜しくないぜ。

 店主さんにあれこれ教えてもらいつつスリングを選び、更にレトの装備についても教えてもらった。

 店主さんによるとレトはどうも、投擲は出来るけどそんなに得意じゃないんじゃないかって。なんですと。


「君がしているから真似してるだけみたいだね」

「にゃあ…そうだったにゃん?」


 つんつん、とレトをつつくと、はっしと指を捕まれた。握手握手。


「たぶんスキルを覚えるまでには、かなりかかると思うよ」

「覚えたいなら時間がかかるのは全然構わないんだけど、無理に覚えてほしいわけではないにゃんよ~」

「うーん、本獣もやる気はあるみたいなんだよねえ。嫌がってはいないみたいだから、気長にいくのがいいかもしれないね」

「助言ありがとうにゃ~」


 ちなみにマルモには木登りが得意な子がいるらしく、そういう子は身体能力が高くて、投擲も得意だそうだ。逆に言うと木に上れないマルモは、身体能力がそこまで高くない、という…。ま、負け組……?

 いやいや、その辺は進化の方向が違うんじゃないかと言われているそうだ。『木登りマルモ』は投擲などの戦闘能力に優れていて、『草原マルモ』には他の特性があるんじゃないかと。そうであれかし!

 ……レトは『草原マルモ』なんだけど、実は進化先に『木登りマルモ』がある。あともう1つは『シティーマルモ』なんだけどね。ちなみにマルモの進化先は掲示板だと「どっちもハズレ」と言われていて、まったく参考にならない。なお『シティーマルモ』の方が特殊進化で斥候技術が上がる方。しかし召喚コストが増える割に出来ることが釣り合わない、愛玩用なら進化必要なしって話らしい。

 猫にとっても召喚コスト問題はあるので、どうにかうまく行くところを探したい。


 まあ、レトは特性なくても虫退治してくれてたらそれでいいんだけど。でもレトは、戦いたいみたいなんだよなあ…。

 非力な召喚獣や従魔の中には、戦闘を嫌がるタイプもいて、そういう子は生産向きなんだそうな。せっかく契約したのに戦闘で働いてくれない話とか、わりとよくあるみたい。その辺は運というより、スカウトする個体は正しく選ぼうねって話らしい。逃げたり隠れたりしてる子は生産向き、でも後衛バフタイプも逃げたり隠れたりするので、その辺はなかなかわかりづらいそうな。

  ルイもレトも戦闘させるために仲間にしたわけじゃないので、猫はその辺は本獣の意志次第でいいや~という適当な感じだ。

 まあ、だからこそちゃんと戦闘用の子をスカウトしないととも思ってるけども…。


 店主さんからオススメされたスリングは『丈夫な牛革スリング+』で、ビッグブルの革を使用した、すごくオーソドックスな何の飾り気もないスリングだ。

 威力は固定、『狙う』スキルと器用値の高さから照準性能はそこまで必要ない、耐久が高くて、あと出来れば飛距離が伸びたらいいな、という条件で選んでくれた。

 丈夫な、とついてる通り耐久値が高くて頑丈、そしてプラス効果としてわずかながら飛距離が伸びているという、イレギュラー品だそうだ。


 イレギュラー品というのは、生産でたまに出来る特殊効果付きのアイテムのこと。確率で自動的に出来る、というよりは狙った変更を加えていると希に成功する、という感じらしい。そしてそれを繰り返していくとレシピとして記憶されて、百発百中で作れるようになるらしい。

 例えば『牛革のスリング』を丈夫にしようと試みている内に『牛革のスリング+』になり、更に繰り返す内に『丈夫な牛革のスリング』のレシピが確立する、といった具合。

 つまりこれはイレギュラーレシピのイレギュラー品というわけだ。


「レシピ確立のために職人が頑張っているから、今在庫がそこそこあるんだよ。でもプラス表記の内は、あまり高くは売れないんだ」


 プラスがつくのはいいことなのだが、品質が安定しないという難点がある。この場合の品質とは通常品質とかそういう区分ではなく、例えば頑丈にはなってるけど具体的な耐久値は品物によってばらつきがある、というような状態だ。

 標準的なアイテムであれば、通常品質ならば数値はすべて同じになるように出来ている。イレギュラー品は同じ通常品質でも数値にばらつきがあるので、生産品としての価値が高くはならないのだそうな。いうなれば規格外品、といおうか。


「これは飛距離はそれほど伸びてないけど、必要筋力もそこまで増えてない。たぶんレシピが確立すると必要筋力が増えて、君では取り回しが厳しくなるだろうから、これがおすすめだよ」


 持ってみるとたしかに筋力ギリギリ。猫は風猫族にしてはマッスルなエリート猫だが、それでもそこまで筋力に振ってるわけじゃない。LV20でちょっと振ったので、しばらく筋力を上げる予定はない。

 試し撃ちさせてもらうと、うまく力が乗って飛ばしやすい。


「これにするにゃん!」

「まいどあり」


 イレギュラー品の中でも更に数値のあまり良くない方だから、ということでかなり値引きしてもらい、予算より安く手に入れることが出来た。


「また『投石玉』作ったら卸しにくるにゃん!」

「待ってるよ。今後ともご贔屓に」


 今度来たときには、『魔法玉』についても相談に乗ってもらおうっと。投擲用に改良点があったりしないかも気になるし。

 こういうのは一気に畳み掛けるとよくないから、一歩ずつね。


生産品のレシピはイレギュラーを繰り返して生まれる。イレギュラーがレシピとして成立すると、ギルドで買い取ってもらえる方式。

魔法ギルドの教本売店のようにレシピ売店があり、希望すれば売店での自作レシピ販売も可能。といってもレシピを販売するには型紙や製図を作成しなければならないので、掲示板で作り方を書いて公開する人の方が多い。

なお掲示板で教わった場合も最初はイレギュラー品が出来上がるので「作り方はいらん、レシピ登録しろ」とあしらわれることも多い。

錬金術とは違う世界…。



評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] んほぉ~レシピ認められるのたまんねー! って層がド嵌まりしそうな仕様わよ
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 魔法マルモが見れないかなぁ
[一言] >>錬金術とは違う世界…。 ホントにそうだねえ まさか掲示板の書き込みにレスがつくなんて……!
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