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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
2章 金欠猫には旅をさせよ~魅惑の海旅編~
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31.初心者ちゃんの近況

 釜を片付けてあっという間に売り切れた『黄キャロ』の代わりに何置こうかなーと考えていると、ペチカちゃんがやってきた。


「ランさん、お久しぶりです!」

「いらっしゃいペチカにゃん~」


 今日もミミットを腕に抱いている。

 …ミミット、ちょっとどころでなく太ってない? 重くない?

 やはり重かったのか、ヨイショ、とペチカちゃんがミミットを下ろす。


「ずいぶん…たくましくなったにゃんね?」

「どうも魔法タイプじゃなくて、前衛タイプのミミットだったみたいで。今ではポルクスもがっちり受け止めてくれます」


 あー。希少種のマッスルミミットってやつか…。カンガルーみたいな威嚇ポーズしちゃうお強いミミットだ。ペチカちゃんはミミットをなでなでして、ねー、て笑ってるのでこれはこれで可愛いみたいだし、まあいいのだろう。

 本人も初心者シリーズを卒業して違う装備になっていて、リュックサックを背負っている。羽衣はそのまま。


「初心者装備を売ろうと思ってたんですけど、もう買取り出来ない、ですよね?」

「そうにゃん~、出来なくなっちゃったにゃん。靴と杖は5000z、ローブは3000zくらいでマケボで売れると思うにゃん。すぐマケボを開けたいなら1000で即売にゃ」

「わかりました、ありがとうございます。すごい高くなりましたねえ」

「あのとき猫に安く売って後悔したにゃん?」

「いいえ全然! 実はあの後『初心者装備なんでも300で買ったげるよ』って露店通りで声掛けられたんですよ。でも『今はもう売れるものがない』ってお断りしたんです。そうしたら『靴と杖は後で他のを買ったらいいよ、マケボに100zからあるし』って。もしランさんに会う前に声掛けられてたら、私はあの人にローブ以外全部売って、裸足に素手ですごく困ったと思います。だから、よかったなあって」


 ニコニコ嬉しそうで、猫も気分がよい。


 初心者に声をかけて装備を巻き上げる話はやはりちょっと前に話題になって、ペチカちゃんの言うように靴や武器まで取っちゃう悪質なのもあったそうな。

 マケボで売ってる100z装備は主に生産失敗作で、いろいろな意味で初心者装備に劣る。見た目も悪いし、強化は初心者装備を上回るように見えるが、耐久値が紙だ。すぐ壊れて使い物にならなくなる。

 それを勧めて装備を剥ぐとか、ひどい話だ。しかも武器と靴なんてさ。

 ちなみに初心者装備や初心者ポーションの買取が唯一出来る『大商人』は初心者相手にあこぎな商売をすると財産が大幅に減るように出来ているらしい。初心者支援しないとランクが上がらないというのだから、『大商人』は初心者の味方だ。

 だからペチカちゃんに声をかけてきた商人は大商人ではなく、LV20以下の錬金術師を確保したクランとかの人で、買取や製作をそのLV20以下の初心者が行うようになっていたのだろう。

 そういうのは周囲で見てた人が通報して、割とすぐに捕まってなんらかの処分は下ったらしいんだけどね。商談内容は聞こえなくても、露店から無手裸足に剥かれた初心者が出てきたら、そら通報されるわ。猫でもする。

 露店は出店者の名前がわからなくても、区画番号で通報出来る仕様。見える範囲の近くなら、自分の露店区画から推察できるのだ。もし売買してたら履歴に名前載るし。

 そんなわけで犯人は捕まりはしたけど、結局装備を売っちゃった初心者には特に補填はなかったそうな。あらためて説明しなかったのはたしかに悪だけども、売ったのは自分だからね、という。

 …うん、引っ掛からなくてよかったね。


 そんな話をしたあと、ペチカちゃんから自由都市の行政施設で見たオススメ本の話題を提供してもらった。韓流ドラマみたいな歴史の本があったらしい。

 は、韓流ドラマみたいな……??? たしかに猫にはない視点だ。自由都市の歴史には詳しくないので楽しみ。


「すごいんですよ、なんでそうなっちゃうのぉ!?てなりますから」

「そんな波瀾万丈な歴史にゃん??」


 いったい自由都市の過去に何があったっていうんだ…。

 他にもテイマーギルドにある『ミミットの飼い方』を読んでマッスルミミットの可能性に気づいたことや、冒険者ギルドの猫のオススメ本『冒険者の知恵~採取すべき植物について~』に実は続編があるらしいことなどを教えてくれた。


「続編!?」

「続編というか、シリーズ展開してるみたいなんですよ、『冒険者の知恵』。著作者は毎回違うんで、出来に当たり外れがあるとも言われているそうです。とりあえず魔法師ギルドに『冒険者の知恵~まず学ぶべき魔法について~』がありましたよ。かなり読みにくい文体でしたけど、言ってることはたしかに理に適ってて、すごくためになりました」

「なるほど、たしかにシリーズ展開しててもおかしくないタイトル…、盲点だったにゃん。探してみるにゃん! 楽しみが増えたにゃん~」


 ひとまず、猫もオススメとして『森の仲間たち』や各種図鑑をあげておいた。

 錬金術ギルドにある『羽根大全』や商業ギルドの『宝石図鑑』など、オススメしても資料室へ入れず読めないだろう本があるのがもどかしい。これは学園都市の図書館に行くと解決するんだろうか。するといいな!


「廃都の方にも面白い本があったにゃんよ~、あっちは技術というより、一般常識とかの本が多かったにゃ」

「そうなんですか!? そういうの知りたいんですよ! わあ~、どうしよう、廃都なら道中、わりと安全なんですよね?」

「安全すぎてなーんにもない中を歩いていくのはなかなかしんどかったにゃん。歩かずルイに乗ってる猫でさえすごくお暇だったから、歩きながら出来る暇潰しを考えておくか、馬車で行く方がいいかもしれないにゃ」

「徒歩だと片道5日なんでしたっけ…。旅もいいなと思うけど、何もないところをひたすら歩くのは、それはそれでしんどそうですね」

「片道でよければ、猫が戻るときに港町ポーツまでは一緒に連れていってあげられるにゃん」

「えっ?」


 『リターン』はPT単位の移動なので、PT人数までは無料で送迎可能だ。

 これを利用してPT全員がホーム拠点を別にしておき、ポータルがわりにするという手段もあるらしい。全滅したときに復活地点が全員違うのがデメリットだそうな。デメリットでかいわ。


「帰りは徒歩か、或いはホームを自由都市のままにしておいて『リターン』にゃんね」

「『リターン』は覚えてない、というか魔法はまだ買ったことないんですよ。高いですし」


 『テレポート』から『ポータル』までの転移系魔法は、どの属性魔法を持っていても特殊枠として売店に現れる。

 中級者を名乗るには確実に必要な魔法と言われており、初心者はこのインプットのためにお金を貯めるんだそうな。お高いやん…。


「インプットじゃなくて、教本買って覚えるといいにゃん。まずは『生活魔法教本』から始めてみるといいにゃ」

「ああ、『生活魔法』! 私持ってます。教本もチュートリアルでもらいました。そのときは読めたのに、なんでか読めなくなっちゃったんですよねえ…」


 なんとさすがエンジョイ勢、『生活魔法』の初期取得仲間だったとは。


「教本は読み方とタイミングにコツがあるにゃん~。『生活魔法教本』は、生産とかで疲れて何も出来ない隙間に読むとうまく読めるにゃん」

「疲れてると読めるんですか?? …あー、でも実はまだ、全然生産は出来てなくて…」

「あ。そうだ、ペチカにゃんにお土産があるんだったにゃ」


 すっかり忘れてた。『七宝魚の鱗』の通常品質、調べたところ色は青(水)と茶色(土)、透明(無)しかなかったのだが、全部で30枚弱ある。


「わあ…!なんですかこれ、綺麗!」

「『七宝魚の鱗』にゃん。レインボーフィッシュという魔物のドロップで、色とりどりの鱗が特徴にゃん。最高品質や、高品質の鱗は大きなボタンやアクセサリを作るのに使われるにゃ。これは通常品質なんだけど、薄いから装飾品には向かないらしいにゃ。でも、小さなボタンや、ビーズには加工できる。初心者向けの裁縫素材らしいにゃ」

「そうなんですか!? え、買います! おいくらでしょうか」

「お土産にゃんよ~。強そうなお姉さんが通常品質以下ごちゃ混ぜのひと山いくらで売ってて、とっても安かったにゃ。猫は低品質や最低品質の素材が欲しかったから、通常品質はいらないにゃ」

「なるほど、錬金術の素材ってことですよね。そうだ、私も貯めておいたんです、品質低めの素材! あっ、でももしもう不要ならギルドで売っちゃうので全然気にしないでほしいけど!」

「にゃん~作って売る宛はあるから素材はいくつでも買い取るにゃんよ~」

「いやいや、これは貢ぎ物っていうかお礼なのでそのまま受け取っていただければ!」

「ならこの鱗と交換してほしいにゃん」

「にゃん…ッ! 卑怯! 卑怯ですぅ!」


 わあっと顔を覆って泣き真似をしておられる。


「…いらないなら余所で売るにゃん」

「もらいますぅ! またこのパターン!」


 きぃ!と悔しがっているのが面白いなこの子。

 悔しがりつつもちゃんと露店の機能でトレードは行われた。おお、結構素材量多いな? 売ってもらって、買ってもらう方がペチカちゃんには得だったかもしれん。まあ言っても気にしないだろうから、いいか…。


「小石と一緒に洗うとビーズになるって本で見たけど、よくわからないからやり方は自分で調べてほしいにゃん~」

「もちろん自分で調べるので大丈夫ですよ、これでも調べものは得意なんです! 最近は掲示板もちゃんと読んでます」


 あれで得意だったというのか?と思わなくもないが、予想以上にいろいろなところで本を読んでいるようなので、実際調べものは得意なんだろう。


「猫は明日の朝にはポーツへ行くから、もし一緒に行くなら今日中に連絡がほしいにゃん~」


 オススメされた本は気になるが、韓流ドラマみたいな歴史本はなんか長そうだし、旅行終わってからじっくり読もう。


「わかりました、しっかり悩んで考えてみますね!」


 ついでに勝手に取置しておいた黄キャロを10本60zで押売した。「安くないですか?なんかおかしくないですか!?」と疑ってたが、さっきまで同じお値段で売っていたし何もおかしくない。

 ミミットが『緑ラペ』にも興味を示したので、味見させたところ、気に入ったらしい。そちらも10個買っていった。毎度ありにゃん。


 ペチカちゃんが帰っていったので、猫もそろそろ店仕舞。

 『緑ラペ』が20個ほど売れ残ったが、あとは完売。

 従魔用の野菜って案外、売れるもんだなあ。これからもおばちゃんの豊作作りすぎちゃった大セールは欠かさず買っておくようにしよう。いや、今までも毎回、使う宛もなくついつい買っちゃってたんだけども。だっておばちゃん困ってるし、安いし、余っても錬金術に使えばいいか…てついつい。役に立ってよかったね。おばちゃんにもまたお礼にいこうっと。

 猫の露店は買取がメインだから、販売の時間効率とかは完全に度外視だ。

 なおガラス瓶の高品質、最高品質は買取できず。ざーんねん。ビー玉は結構買い取れるので、ガラス工はいるけど、瓶製作で止めてる人がそれだけ多いってことなのかね。



ミミットやフルクなどの下級従魔の中にはレア進化個体が結構な確率でいる。レア進化個体には『元々レア進化するはずだった個体』と『飼い主の行動によりレア進化することになった個体』がおり、前者の方が出来ることの範囲が狭い。例えばミミットはLVが上がると簡単な魔法を1つ覚えるはずだが、マッスルミミットになる個体は覚えない、など。

そのためレア進化条件が確定するまではこのような個体は『ハズレ個体』と言われていたのだった(なお現在もミミットは魔法型が人気なのでマッスル型はハズレ扱いではある)。



評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

今週も金曜まで連日予約投稿しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] ペチカちゃんエンジョイしてるようでなによりわよ 前衛タイプのマッスルとはお互いに補い合う良い主従ね!
[一言] これは一緒にポーツ行って青月夜の精霊を押し付けるフラグ……! 独自路線歩くタイプだからおもしろい進化が期待できる
2024/03/18 20:12 退会済み
管理
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] マルモにもレア個体がいるのかな?
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