30.猫の店~従魔のおやつ屋~
『猫の店、開店にゃん!』
開店お知らせGPS付メールを希望者各位に送って、露店を開く。フロントの露店で相互理解に失敗してから開いてなかったので久しぶり~でもないか?
買取は『ガラス瓶』の高品質と最高品質、『ビー玉』。魔物素材はまだ余ってるから今回は買い取らなくてもいいかな。
農家レイドに参加したり、お使いクエスト進めたり、ギルド報告や本屋さんを巡ったりしている内にはや2日は過ぎ去った。昨夜は赤月夜。
案の定、全然間に合いませんでしたね!
ティアラさんからは、無事コロップで『精霊使役』を覚えられたと報告があった。よかったよかった。
実験として身動ぎせず待ち続ける班と、動いたりする班と別れて試したところ、待ち続ける班しか精霊契約は出来なかったらしい。行動的な精霊は仲間になってくれないのかな??
精霊契約出来なかった班もいるし、2匹目の契約がどうなってるのかもわからないので、次の青月夜も精霊スポットへ行って試してみるそうだ。
『張り切っていろいろ作ってみますから、楽しみにしてらしてね!』とのこと。キラッキラの輝きになっちゃうんだろうか。楽しみなような、金額がおそろしいような…。
ティアラさんは情報料代わりに精霊関係のアクセサリーは無料で作ると請負ってくれているけど、あまり頼りっぱなしになってしまうのもよくない。
お金を稼がねば!
そんなわけで買取だけじゃなくて販売も何かしよう。
でも露店で販売できるものって、あまりないんだよねえ。魔法玉とかはマケボで売る方がトラブルがないし。
とりあえず売れそうなほどあると言えば『チッギョ』とか、農家の豊作セール野菜などだ。
後者についてはルイのためにといろいろ買っていたが、ルイは最近うちの庭で自分で黄キャロ掘って食べているので、あまりおやつをほしがらない。あげれば食べるけど、そこまででもない、みたいな。贅沢を覚えさせてしまった…。いや、単純に黄キャロが好きで、赤ラコラやその他はそうでもないんだろう。
おばちゃんとは話しついでについ野菜を買ってしまうのでいつも野菜はインベントリにあふれている。『料理』するぞ! 施設借りなきゃ…。
うむ、今日は最低品質『赤ラコラ』『緑ラペ』のまとめ売りにしよ。
『緑ラペ』はなんかキャベツのようなブロッコリーのような?謎の野菜だ。以前、おばちゃんが豊作過ぎて困ってたので買ったものの、なかなか使いどころがない。
両手の平よりでかいが、このサイズはいわゆるオバケブロッコリーみたいなもので、育ちすぎちゃったからこうなんだって。ほんとはもっと小ぶりらしい。でもこれでもまだ蕾の状態だから食べれるし、美味しいそうな。
蕾というから植えたら花が咲くのかな?と試したのだが、そもそも植えられなかった。残念。根っこがないから仕方ないね。
ルイはこれ食べないけど、レトはわりと好き。しかしレトのサイズでは1個食べきるのに一ヶ月かかるサイズよ。だから在庫としても自分が料理する分も合わせて10個もあれば十分なのだが、おばちゃんとこの豊作まとめ売りはいつでも100個だから…。
販売用のザルにもなんとかふたつ積んだけど、それ以上は乗らん。うーん、2個20zでいいか。なお私は100個200zで買った。バラ売りするならこんなものだろう、たぶん。
『赤ラコラ』は5個20z。テイマーギルドで買うよりかなり安いしこっちは問題ないはず。赤ラコラが好物って子はあまりいないのでそこまで需要はなさそうだし。でも庭に植えるとラコラ交配に使えます。なおこれは100個100zの破格で買ったやつ。
うむ、今日はテイマーのための従魔おやつの店ってことで! 猫の店の商品ラインナップはいつでも気まぐれにゃん。
開店してしばらく経つと、ボチボチ『赤ラコラ』が売れていく。まいど~。
そして露店の前で立ち止まり何やら考えているらしい灰色の髪の人族青年、装備は初心者ではないのでLVはよくわからない。何をお悩みなの。
「この『緑ラペ』?ていうのは何の魔物用?」
猫に聞かれても困る。
「雑食系は食べるんじゃないかにゃ? 好きか嫌いかは別にして。従魔が出せるなら味見させてみるにゃん?」
「いいのか?」
青年は驚いたような顔をしたが、すぐ従魔を呼び出した。
はあん、わんこ…。いや、フルクですな。灰色で大きな犬だ。ふさふさのよい毛並み。さては愛されわんこだな。
「フルクはどうかと思うにゃんね~~」
「あ、いやそっちじゃない」
「にゃん?」
フルクの首の辺りの毛並みから、もふ!と毛玉が出てきた。なんだこれは。
「……にゃん??」
「ミモモだ」
ミモ…?? この子のお名前?
猫がわかってないのがわかったのか、青年はこほんと咳払いをした。
「種族名がミモモだ。ミミットのようなマルモのような生き物だ。毛玉のようにモフモフしていて中身がよくわからないのでケダマとも呼ばれる」
おお? ケダマの方は知ってる、図鑑で見たことある。ただこんな小さいサイズじゃなかったし、あれは鶴のような長い足が生えてるはずだから、別物のはずだ。
ミモモもこんな毛玉も、見たことも聞いたこともない。やはり、本だけではわからないこともあるんだなあ。
「にゃあ…従魔にゃん? 召喚獣にゃん?」
「従魔だ。食事は牧草を食べるが、好物がわからない」
「にゃん~。マルモは結構『緑ラペ』好きだからお口に合うかもにゃ」
ザルに盛ったのとは別の『緑ラペ』を取り出して、ナイフでショリショリと房を削る。自分ひとりだったらバリ!と真ん中から割っちゃうんだけど、飛び散るし。レトが肩から下りてきてチョーダイするのでついでに小さな房をあげた。ぺろりと食べてしまう。お早い。
「はいどうぞ」
緑ラペの一房を青年に渡すと、彼は礼を言ってミモモへ差し出した。毛玉の中から小さな手がニュッと伸びてワシッと緑ラペを掴んだかと思うと、あっという間に緑ラペが消えた。ぺろりだ。
「えっ」
初めての早さだっただろう青年がびっくりしている。
レトもそのくらいの早さだから気持ちはわかる。黄キャロはチマチマ齧るのに、緑ラペはなぜか早い。
「従魔は好物はいくらでも食べちゃうから注意が必要にゃ、たぶん今くらいの量でおやつなら十分にゃん。買うにゃん?」
この毛玉、見た目はモフモフで大きく見えるが、中身はたぶんレトより小さい。手がレトよりはるかにちんまいもん。おやつのあげすぎ要注意だ。
ちなみに中途半端に減った野菜は、インベントリ内で1枠分別に取られる仕様。『緑ラペ(部分)』となり、分割具合で数量表示される。マルモのおやつサイズだと20~30個くらい。
「あ、ああ。この1山…、いやあるなら全部買い取りたいんだが」
「にゃん? 80個くらいあるにゃよ?」
「そんなに?? あー…いや、でもどうしよう、もう見つからなかったら困るし、30…、いや50個買わせてほしい」
「まいどありにゃ~ん」
かなりの量になるが、インベントリがあるから問題ないだろう。野菜は重量かなりあるので、持ち歩くのは大変だろうけどね。500zで50個を販売。うむ、元が取れた。
「マルモの性質が強いなら、ホッパーも好きかもしれないにゃん」
「ホッパー?」
「にゃ? 知らない?」
「いや、『キラーホッパー』はサイズが…」
キラーホッパーは80cmくらいのバッタ魔物だ。この辺には出ない。この辺に出るのはリーフホッパーで、30cm前後のバッタ魔物。そしてそれじゃない。
「草原で『虫取り網』振ってたら採取出来るにゃん。うちの畑で取れたのでよければ渡してみるにゃ?」
「ああ。珍しい野菜は定期的に買うのは難しいから、草原で採取出来るアイテムなら助かる」
たしかに。『緑ラペ』は私も種が未確認なので、定期的な入手は難しい。先日のレイド打ち上げでもらった野菜にも『緑ラペ』はなかったんだよね。たぶん、村独自の品種改良品なんじゃないかと思う。農村レイド後に種が入手出来ないか聞いてみたいところ。
『畑ホッパー』をインベントリから出して青年に手渡すと、ちょっと驚いたようにしげしげと眺めている。
「ほんとに普通のバッタだ…」
そんな、いたんだ…みたいな驚きを。虫、飛んでるじゃないの、草原も。
ちなみに草原で跳んでるバッタと畑バッタは同じように見えて微妙に違う。名前も『草原ホッパー』と『畑ホッパー』で違うし、色も畑のやつのが青々として、ツヤツヤしている。栄養がいいからですかね…? 滅ッ!
そして青年がミモモに差し出すと、これまた素早く奪っていってムシャムシャしている。マルモ系がバッタ食べてるとこは見ないふりをするのがお作法だ。いつも頭から行くから足がはみ出る。いや、ミテナイミテナイ。
ミモモの素早さにぽかんとしていた青年は、はっと我に帰ると猫にお礼を言ってくれた。
「ありがとう、両方とも好物に入ってるみたいだ。好感度が上がったよ」
「どういたしましてにゃあ。差し支えなければミモモは何型の魔物にゃん?」
「後衛のバフ型だ。魔法を使う」
「珍しいにゃんねえ!」
獣型で他者にバフをかける魔物は珍しい。魔法を使うとしても攻撃魔法や、自己バフが多いのだ。〇〇リーダーのような特殊個体だと全体バフを使うこともある。
「魔力以外の数値がすべて貧弱で、移動は抱えるか、こうして他の従魔に乗せるかしかない。戦闘中もこの調子で護衛が必要だが、手がかかるだけあって、バフは上手い」
なるほどなあ。いろいろな魔物がいるのね。
「『虫取り網』は冒険者ギルドや探索ギルドで扱ってるにゃんよ~。薬草の近くには必ず『草原ホッパー』がいるはずにゃん」
「ありがとう、探してみるよ!」
テイマー青年はフルクをお供に笑顔で去っていった。
ふっ、今日も善行を積んでしまったな…。
おや、『赤ラコラ』売り切れた。従魔のおやつに苦心してる人は意外と多いのかもしれん。『黄キャロ』の最低品質もあるけど、これはルイも食べるし……いや、ルイの分はこの際、もう完全に自家野菜に切り替えるか。
『黄キャロ』は好物の従魔が多いのですぐ売れそうだ。5本30zにしておくかな。1人1山制限つけておけばいいだろう。残り…70もまだあったか。14セット分。
でもペチカちゃんがくるかもしれんから、10本は取り置いておこう。12セット分を売り物に出して、と。
しばらくマケボ見たり掲示板見たりしてたけど、やはりお暇なので、錬金釜を取り出す。
いつでもどこでもレッツ・アルケミー。錬金術はお手軽だにゃん。
おっと、その前に掲示板とマケボで調べた情報を元に、スリングについての相談メールをエドさんに飛ばしておこう。エドさんもセーフティ非表示なんだよね! きぃ!
フーテンさんから『猫ちゃんの露店に行けない悲しみ~~』てメール来てたのでたぶんダンジョンかなんか行ってる。セーフティエリアで読んでね!
彼らに精霊の検証に付き合ってもらう件については、青月夜の日は既に先約があるそうで、また今度になっている。暦通りなら休日だから、仕方ないねえ。あちこちのダンジョン行ってるようだし、また予定の合うときに試してもらう予定。
さて、錬金術だ。
品質別に分別だけは先に済ませておいた『七宝魚の鱗』、最低品質の圧縮から試してみようかな。
低品質なら錬成陣の素材に使えそうだけど、最低品質はちょっと無理そうだったのだ。
錬成陣の素材は些細な欠けやひび割れはむしろ魔力が入って歓迎なのだが、完全に欠けてしまっているものや、形が残っていてもひしゃげてるものなんかは魔力が入らず使えない。『七宝魚の鱗』の最低品質はそんな感じの素材だった。
同じ最低品質でも錬成陣の素材に出来るものもあるから、なかなかややこしい。
ザラザラーっといれて、まずは水属性かな? はいチンします。
『七宝魚の鱗』の低品質、鱗の色は濃い青になった。
おや? もしかして色変出来る感じです?
さっきいれたの、特に色を気にして入れたわけじゃなかったからそうなのかも。だとしたら、これはかなりワクワクの素材だ。
同じ低品質の青い鱗と比べても、圧縮したものの方が色が一段濃いのがまた面白い。
これまで、素材の段階で既に強い属性を帯びているアイテムは使ったことがない。猫が錬成陣に使ってる素材は主に初心者が狩ってくる素材だから、属性はたぶんあるけどわからない程度の弱さのものばかりだった。無属性でもなく、でも属性反応もない。そういうのをひっくるめて『魔力属性のない素材』と呼んだりもするんだけども。
つまりこれは初の、魔力の、そして属性のある低品質素材。いいね、楽しみになっちゃう。
とりあえず最低品質をザラザラと木皿にあけて、色ごとに何となく分類する。この方が属性の入り具合がよいのではないかという目論見。色が10個に満たない分は混ぜちゃえばいいし。
そして圧縮お試し、赤は火属性で、水色は風属性、白は回復…、うんうん、予想通り出来ていい感じだ。
でも実験中、「錬金術師に依頼したい」という人に話しかけられたり、クラン勧誘を受けたりとなかなか煩わしかったので、露店生産ももうやめた方がよいかもしれないねえ。残念~。
ちなみに私は知らない人からの製作依頼は、面倒だから受け付けてない。これについては錬金術スレでも『受けない方がいい』と言われている。ドサッとしてチンなので加工賃を渋られ、まったく儲けにならないことが多い、というのが理由らしい。
私の場合は、最初のフーテンさんの依頼(?)がかなり長期になって(これは教本学習して全属性試したかった私のせいでもある)大変だったので、知らん人からホイホイ受けるのはやめておこう、て話なんだけど。
それにしても、前から露店で釜を焚いてたけど、自由都市ではここまで声かけられなかったんだけどなあ。やはり万能薬事変が大きかったし、錬金術師は売れ筋なんだろうね。
そのわりに錬金術スレはカンコだ。情報の出し惜しみしよって。猫も人のこと言えないけど!
でもあれだけ初心者装備からの圧縮シリーズが出回ってるってことは、私以外にも作ってる人がいるってことだからさ。書かなくてもいいかなと。
きっとみんなそう思ってるんだろうね…。
久々の猫の露店&ほんのり錬金術回。
従魔は好物(おやつ)が見つからないと好感度が一定以上にはあがらないという難点があるため、レア魔物最高!とはいかない。
従魔の好感度は進化先に影響するので、使役する従魔の好物が謎、というのはテイマーにとって悩みの種だ。
なお好物がわからないのも大変だけど、わかっててもそれ自体レア(例えば魔宝石とか)だったりすると、それはそれで大変。一度あげて終わりではないのが好物(おやつ)なのだ。
評価、ブクマ、イイネ、感想ありがとうございます。
次回の更新は3/18(月)です。
今週もお疲れさまでした。