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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
2章 金欠猫には旅をさせよ~魅惑の海旅編~
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24.打ち上げはBBQで

 あちこちに煌々と灯火や光源を掲げて始まるキャンプファイヤー、いやバーベキューはなかなか本格的だった。

 ダッチオーブンどころかピザ窯まで出てきたし、飯盒でご飯が炊かれたり、カレーが煮込まれたり、焚き火で燻製まで始まった。

 広々とした畑が休耕だからと、みな思い思いに火を焚いて料理している。

 大きな長テーブルをいくつか主催の畑主神父さんが出してくれて、その上にサラダやオードブル、それに出来立ての料理がどんどん並べられていく。

 どうやら農家料理人は多いらしい。ヤマビコさんもせっかくだからと腕を振るってくれた。このカプレーゼは猫んちのトマトだろうか。あらまあこんな立派になって…。


 いつのまにか取れ立てのノシシ肉も調理され始めたらしく「地産地消ゥ!」とか叫びつつねじり鉢巻きのお兄さんが肉を焼いていた。

 野菜と交互に刺した串焼き、スパイスと塩、醤油ダレと二種類。ノシシ肉、意外とやわらかくて癖もなく、大変美味しいお肉だった。


 そして農家のBBQだからか野菜料理もとにかく種類豊富。

 こんがり焼いた焼きとうもろこし(なお名前は『焼きコン』)にホクホクの『ポテバター』、焚き火に埋めた『石焼甘ポテ』に、自家製ピクルスやサラダ、スープに煮物、野菜を混ぜこんだパンやケーキやクッキーと種類豊富にどんどん出てくる。

 それに炊きたてご飯にじっくり煮込まれた野菜カレーのおいしいこと! トッピングは焼き野菜とノシシ肉ステーキ。

 実に至福の味だった。焚き火を囲む外ご飯の王道! 最高!


「もしかして打ち上げのお料理持ち寄りだったにゃん?」


 気になって近くにいた牛獣人さんに聞いてみる。


「いえ、まったく。掲示板では打ち上げの予定は特になかったですし。ですが農家たるもの、インベントリに自慢の野菜のひとつやふたつ、みな入っているものですから」


 そういうものなのか…。

 「これ食べて!うちで採れたやつ!美味しいよ!」がいつでも可能な農家つよい。

 ありがたく農家自慢の逸品を堪能させてもらった。うまうま。


「こういうときは『料理』とっておけばよかった!て思うわね」

「そうだね、おやつのパンやケーキくらいは多少インベントリに入ってるけど、とても物量では敵わない…」

「『調薬』には青汁しか作れない…」

「そこは戦いじゃないんだから! 楽しんで美味しく食べてくれればそれでいいのよぉ」

「そうですよ。私など場を提供しただけで何も用意していませんでしたからね」


 リーさんやポユズさんが噛み締めるようにお肉食べてるのを、お色気カソックお姉さんがなぐさめて(?)いる。どうやらお姉さんも料理農家のようだ。

 その隣の畑主神父さんは『料理』はなさそう。穏やかにニコニコ笑ってるけど、すごくよく食べる。上品だけど早食いだこの人。


 猫もスキル上は料理農家だけど、インベントリに自作の野菜料理は入ってない。残念! 残ってた自作料理は旅行中にすべて食べてしまったし、やはりマイルームに施設がないとなかなか難しい。生産ってほんとお金かかるぅ!

 料理そのものじゃなくても何か今出せるようなものはないかな、とインベントリみて思い出した。

 そうだ、『ビギナーツナ』があったじゃない。

 せっかくなのでヤマビコさんに渡し、この打ち上げで使ってもらうことにした。買ってくれる予定だったヤマビコさんには悪いけど。


「いや俺は食べれたらそれで全然かまわんけど、ええんかラン、マグロめっちゃ高いで?」

「狙って採ったわけじゃないし、問題ないにゃん~!」


 こういうのはパーッと使うのがいいにゃん!


 急遽BBQ会場でヤマビコさんによるマグロの解体ショーが始まることとなり、盛大に盛り上がったし、マグロはとても美味しかった。とろける~。

 なお包丁は畑主神父さんがマイルームから持ってきて貸してくれた。なんで『料理』ないって言ってたのに持ってるんだ…。包丁は神父の嗜みなの?


 ちょっとお腹いっぱいになってきたところで、今度は農作業。

 誘い出すために植えた最低品質の種を育てた野菜畑、結局ノシシにもウリボーにも見向きをされず(…)無事だったのだ。捨てるわけにもいかないので、この打ち上げ中に『タイムパス』で収穫してしまうことに。

 白変種や黒変種が育ったり、すごい変な野菜が育ったりして、それはそれで初めて見るもので面白かった。品種改良の研究してる農家さんなんかもいて、すごく興味深い特性の出た野菜などもあったらしい。あれこれ考察が飛び交ったりした。


 どうも種の品質の良というのは、単純に発芽率と、それから「親と同じ性質のものが成るか」ということなんじゃないかって。だから品種改良のための変異種を求めるなら、最低品質種を育てる方がいいのかもしれない、という考察だ。

 ただやはり発芽率がかなり悪いので『発芽』か『グロウシード』が最低限必要そう。木属性魔法には特殊な状態異常回復が豊富なので、農家神官は持ってる人も多いそうだ。


 ちなみに、赤ラコラの白変種を掛け合わせると白ラコラになるんだって。白変種は生える確率がかなり低い。もしかしたら最低品質種からの方が生えやすい可能性があるとか。

 へえ~~。赤ラコラからの品種改良なのか白ラコラ……。


 猫も白ラコラ農家なので、白ラコラ農家さんとは話が盛り上がった。畑で育てると、脱走しちゃうらしい。しかも脱走時に他の植物を根こそぎ収穫していく性質があるとか。よくそんな大根育ててるな!?

 赤ラコラ白変種とのかけ合わせから3代目なのだが、脱走続きでもう種がなくなりそうなんだと嘆いていた。


「猫の白ラコラの種、分けるにゃん?」

「えっ、いいの!?」

「でも猫のは、赤ラコラの白変種は通ってないにゃん。マンドラコラと赤ラコラの交雑種から育てたにゃ」

「マンドラコラ!!?」


 たまたま見つけたときに土の中にいたので『経過』をかけて収穫した話をすると「やはり時魔法便利すぎる!」と羨ましがられ、生活魔法の話で盛り上がり、そのうち誰でも気づくようになるからと教本の話もした。『水晶玉』の話まではしなかったけどね。

 リーさんやポユズさんには是非『魔法使いの毒』や『魔毒』で儲けてほしい。んふふ、猫は利己的な生きもの。


 白ラコラ農家さんは周囲にランランとかパンダとか呼ばれていたのでそういうお名前なんだと思ってたのに、フレ登録したら全然違う名前だった。パンダは掲示板でのあだ名なんだって。いろいろあるね。

 ちなみに金髪三つ編みの小柄なルイネア女性だったんだけど、周囲が「ニキじゃない!」「パンダニキは幻だったんだ…!」とざわめいて追い払われていた。


 ルイもいるので猫倉庫な私は今も種を持ち歩いている。何種類かあるけど、そういえば最低品質種は圧縮して通常品質にしてしまったなあ。あれも、品種改良的にはよろしくなかったのかもしれん。安定的に生産したいなら正解なんだろうけど。

 そんなわけで、収穫出来ていた白ラコラの種(通常品質)を10個渡すと、店売りされてないような種を無料ではもらえないと固辞されてしまい、結構な高額で買ってくれた。…1粒1万はさすがにおかしくない!?


「いや! だってこれは歩く白ラコラの種なんだよね? ならそのくらいの価値はあるよ!」


 なんでもまず赤ラコラの白変種を根付きで収穫しておき、次の白変種が出るのを待ち、出てきたら隔離して掛け合わせて種を取るのを何度か繰り返したものがまず第一世代の種になるそうだ。

 しかしこの第一世代は実態としては赤ラコラの白変種に過ぎず、名前も『赤ラコラ』のまま、歩かないし、動かない。この第一世代同士を掛け合わせた第二世代から、名前が『白ラコラ』になるが、やはり葉っぱが上下に動く程度で歩きはしないそうだ。そして第三世代で歩き始めるのだとか。

 …猫はその辺、マンドラコラですっ飛ばしてしまったんだなあ。いや、最初に育てた白ラコラは歩かなかったかな? あれは見張ってたから出てこなかったんじゃなくて、歩く世代ではなかったからってこと??


 つまり赤ラコラの白変種待ちの時間、そして白ラコラを育てて種を収穫し、また育てて世代を進める時間などを考えると、種はこのくらいの価格で全然おかしくないらしい。


「マンドラコラとも交雑するということは、いずれ畑にマンドラコラが育つときがくるかもしれない…!」


 パンダさん改めアルミハクさん(アルミ箔?)はマンドラコラをテイムしたくて白ラコラ栽培を始めたそうな。

 白ラコラは浄水が好きとか、液体肥料はかけるより浸かるとか、収穫時はアポートが便利、のようなお世話の手引きを共有した。といっても、基本うちでは野放しだから、他に言えることはなにもないんだけども。

 アルミハクさんからも白ラコラが駆け落ちする草はおそらく交雑可能なんだろうと思われる、といった話を聞いた。白ラコラ、他の草と駆け落ちするの?? どういうことなの?


 しかしうちの白ラコラだけがフリーダムに暴れまわってるわけじゃなくて、脱走する白ラコラとか、駆け落ち(?)する白ラコラとかが世の中にはいると知れてよかった。

 仲間意識が芽生えちゃうよね。



 他にもいろいろな人から農家あるあるを聞いたり、レンタル畑についての情報をアレコレ教えてもらったりした。


 レンタル畑は数撃ち農業のようで、なかなか大変そうだ。だけどこの道具はあると便利とか、この作物とこれを一緒に植えるのがおすすめ、みたいな話は面白い。気になっていた虫媒の話も聞けた。でっかくなる蝶々育てるのかぁ…。

 あと、果樹園をやってる人もいたりした。夢は『ルイネの林檎』の栽培らしい。でっかい夢にゃん~。果物育てるなら『育樹』がいるんだって。ランク5で出るらしい。ん~~、気になる!


 ちなみに農業ギルドの畑は、購入するとどこの街の農業ギルドからも行ける。そしてその畑のある街のギルドから出れる、という裏技があるらしい。レンタルじゃなくて、買った畑だけ有効。

 だから上級者の農家は三都市と、それからよく行く街にそれぞれ畑を買ってたりするらしい。

 富豪のワープ機能だ…!

 もちろん一人での移動しか出来ないが、気軽に移動できて便利なんだって。富豪農家だけの秘密の(?)裏技らしく、あまり知られてはいないのだとか。

 フーテンさんたちはかなり食いついていたので、畑を買うのかもしれない。富豪たちめ。


 そうそう、レトを許可をもらって放し飼いにしていたところ(テーブルの上は走らないよう言っておいた)、なぜかマルモが大増殖していて驚いたりもした。他の人の召喚マルモ、初めて見た。意外とマルモ持ってる人は多いらしい。

 レトが見知らぬマルモとモチモチ団子になってたり、両手を合わせてくるくるしたりしていて可愛い。親馬鹿シャッターが止まらないぜ。

 最初は素のマルモばかりだったのに、だんだんリボン付マルモやフサフサ襟巻きマントのマルモなどオシャレになっていって面白かった。着流しマルモかっこよ。

 片付けたテーブルでランウェイするの可愛いすぎるんだが。猫耳フードめちゃかわ。いいなあ~!


「めっちゃ久しぶりに喚んだ」

「そういえば持ってた…て思い出しちゃった」

「こうしてみるとマルモ、癒し…」

「街にいるときは喚んでてもいいかもね」


 マルモ可愛いでしょ。

 まあうちのレトがいちばんですけどね!



「猫ちゃんマグロ美味しかったよ!ありがとうね!」

「御馳走になりました。それから生活魔法の情報もありがとうございます。これからは農家の必須スキルになるでしょうね」

「猫もBBQのお肉も魚介類も薫製も、もちろんお野菜も、全部おいしかったにゃ~ごちそうさまでした! お話もたくさん聞けて楽しかったにゃん!」


 打ち上げも終わり、お土産にと野菜や種、それに料理もたくさん分けてもらい、いろいろな人に声をかけてもらったり、フレ交換したりした。



 こうして猫の初めてのレイドボス戦は、大満足で終わったのだった。


農家アルバイト編はこれにて終了です。次からは旅の続き……の前にまた自由都市でうろうろします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 交雑の王アブラナ科だから脱走駆け落ち上等!って設定されてそうわよ このルートはこのルートで茨の道だけど面白い進化ありそうよね 駆け落ちした二人の子?を奪う事になりそうだけどね!
[気になる点] もう白ラコラが気になってしょうがない… 駆け落ちってなにw 同じ畑の作物勝手に引っこ抜いていくのか… 略奪愛(物理)ってこと…!?w
[一言] 同種同族が集まったらマウント合戦起きるのは人の習性なので…… 有意義な農家交流会レイドで参加できなかった人が泣きそうですわ 農家フレンドも増えて更に技術交流や情報共有が進むぜ ニキは魂がニ…
2024/03/08 08:27 退会済み
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