17.アルバイトのお誘い
ここから8話ほど、続き物になります
『魔道工』は見送った。
調べたらドサッとしてチンではなく、精密機械を作るみたいなすごく大変なやつだったのだ。もちろんスキルアシストとかあるんだろうけど、チマチマするやつは性に合わないにゃん…。
錬金術ギルドの資料室は司書さんがいるから大丈夫だろう、と思った通り『マジックセンス』しても本は特に光らなかった。ちょっと残念なような、安心なような。
狩人ギルドの資料室ではやはり図鑑が充実していて、見応えがあった。
欲しい…、この『図解大型獣のすべて』めちゃくちゃ欲しい! こんなのと戦う予定全くないけど!
レトも大興奮していた。大型獣はかっこいいよね! 足型もすごい…、こういう足跡見つけたらビビっちゃうけど、いいなあ。化石でしか見たことないやつ…。
あとは『初心者から熟練者まで使える罠の作り方』の本も面白かった。縄の結び方の解説がとても丁寧で、そういえば『マジックロープ』の教本がないか調べようと思ってたのを思い出した。魔法でも結び方はやはり必要だろうか…? これも欲しいなあ。
司書さんのいない資料室だったので『マジックセンス』してみたが、こちらも反応はなし。やっぱり資料室はしっかり管理されているんだろう。
次は魔法師ギルドへ行って、まず教本売店で『パラシュート』と『マジックロープ』を探す。なかったらフーテンさんに頼む予定。
…お、あった。NEW!て点滅してるし、前はなかったラインナップだ。
ヨハンの本を読んだことがフラグになってるのか、それとも『ロック』を覚えると出る、みたいな習得魔法がフラグになっているのか。
わからんけどあったからには買わねばならぬ。いやならんことはないけど! いいの、本は買うためにあるの!
そんなわけで購入。1冊3万zとまあまあの価格。読んでない教本が貯まってしまう。いいの、本棚あるし!
他にも何か新しい教本あるのかな~と見てたら、売店、新着順ソートとかも出来るのね。これなら見逃しもなくて安心だな。
早速新着順にしたら『カウント』があった。おお、そういえばそんな魔法もあったね。すっかり忘れてました。
……。
うん、買うか。時魔法の真髄とかいうし、『経過』には世話になってますからね。こちらも3万z。
かなりの出費になったな! いいの、本棚(略)!
魔道工をあきらめたので、発動体指輪も売店で見た。うーん、お高い。マケボの方が安いかも? 露店でも見かけたこともあるし、見送り。
『理力』鍛えるには発動体無しの魔法を練習しろってあったし、無理に買わなくてもいいんじゃないかな~にまた傾きつつある。
喉元過ぎれば熱さを忘れるって? うん、はい。
発動体指輪は『錬金術』に向かない、て最初に見てたせいで、あまり心ひかれなくなってるってのはあるかもなあ。錬金術の弊害。
それから受付で瞑想室について聞いてみると、やはり自由都市にはないそうだ。
「あれはダンジョンを利用した機構ですから、領内にダンジョンを持たない自由都市では難しいのです」
他の都市ではダンジョンを利用した機構ってよく見られるんだけど、やはりリスクも大きいので自由都市では錬金術や魔道工による都市開発が行われているそうな。技術都市なんだねえ。
ついでに瞑想に苦戦してるのでコツはないかと尋ねてみると「あれは回そうと考えてはいけないのです。勝手に回り始めるまで待つんですよ」とのことだった。
まさかの…!?
『魔力操作』の練習って言うから自分で操作するんだとばかり思っていたのに!
「ふふ、もちろんその間、何もしないわけではないんですよ。そのうちわかりますので、頑張ってくださいね」
にこにことよい笑顔だ。
受付さん、実はめちゃくちゃ猛者なのでは、と思うのはこういうときだな…。
『あれ!? 猫ちゃんもしかして自由都市にいる?ご旅行1週間の予定じゃなかった?』
おや? フーテンさんからメールだ。
フレンド欄には大まかな所在地も表示されるようになっているので、フーテンさんはこれで猫の帰還を知ったのだろう。
なお、現在地をフレンドに知らせる機能にはオンオフがある。さらに個別に設定も出来たりする。猫はこまめなオンオフとか面倒なのでフルオープンにゃん。
『ちょっと問題が起きて一時帰宅したにゃん~。問題は解決済にゃん』
『解決済ならよかったにゃん~。転移pot便利ねえ。猫ちゃん、今お暇?』
『暇になるかどうかはご用事次第にゃん』
『さすがこの猫手堅い。畑レイド知ってる?』
『農家専用レイドのことにゃん? 掲示板で見たにゃん。害獣大変にゃんねえ』
『それそれ。レイド今夜なんだけど、現場になる畑の収穫が間に合わないらしくて、『農業』持ちで『経過』使える人を募集してるのよ。ヤマビコが駆り出されてるんだけど、俺らは『農業』持ってないから、畑入れなくてねえ』
『ヤマビコさん、ラーニング出来たにゃん?』
『今朝方ね~~。猫ちゃんにお礼言ってたよ。薬草種の収穫と、あと庭に生えたマリッソを育てて種を収穫したらラーニング出来たみたい。喜びもつかの間、畑に引っ張られていったねえ。よく野菜買わせてもらってた農家さんがレイド参加予定らしくて。猫ちゃんもお暇ならアルバイトしない?』
『ラーニングおめでとうしておくにゃーん! 猫はMP多くないからあまり役に立てないにゃん? 拡大ドーンって出来る魔法師じゃない、チマチマ魔法師にゃん』
『生活魔法はそもそも10倍拡大までしか出来ないからみんなチマチマよ~。ヤマビコも魔法かけるより移動距離がきついって文句いってる。ちなみにレイド参加予定者たちが『トランスファー』してくれるからMPは潤沢よ~』
生活魔法って10倍が限度なのか。そもそも10倍までしか試したことなくて知らなかった。
ふむ、それなら人の畑も興味あるし、行ってみようかな? 農業の手伝いならもしかして、スキルLVも上がるかもしれない。
『にゃあ、ならお手伝いいきますにゃん、でもちょっとだけ時間がかかるにゃん。農業ギルドに行けばいいにゃん?』
『ありがとう~~、そう、農業ギルドにいます。あと時間は遅れても大丈夫よ~ヤマビコの走る距離が増えるだけだから…』
『フーテンさんもラーニングしろにゃ』
『ポユズが今頑張って薬草と解毒草育ててる~。両方種収穫できたらラーニング出来る見込みよ。他二人と俺も今やってるけど、ヤマビコたちほど進んでないから今日の今日は無理じゃないかな~?』
ポユズさんも頑張ってるようだ。なお解毒草は毒草種ガチャのランダムで入手出来る種のひとつだが、ポユズさんは根付き採取で他所から引っこ抜いてきたそうな。
猫はハーブにベランダを捧げ、畑を白ラコラに乗っ取られたので、まだ種ガチャ出来てない。おのれラコラ。
それにしてもヤマビコさんが走り回って終わらんって、どんだけ広い畑を持ってる農家さんなんだろ? それともレイドする範囲の畑の収穫ってことなんだろうか。だとしたらかなり大変そうな。
さて、猫は一旦マイルームへ帰る。
せっかく山ほど魔法使うアルバイトなら、生活魔法じゃなくて、時魔法のMP5魔法、『タイムパス』を覚えようと思って。時間かかるようならあきらめるけど、似た魔法らしいからたぶんさくっと覚えられるはず。
魔法でアルバイトするならジョブはメイン『魔法師』でサブ『小さな農家』がいいかな。
このゲーム、ジョブについてなくてもスキル経験値や実績は換算される親切仕様だが、補正がつくのはジョブについているときだけだ。
ジョブランクに応じて関連スキルに補正が入るので、うっかり生産ジョブになるのを忘れて生産大失敗~なんてのはよくあるミスらしい。それに狩り場についてから生産ジョブじゃん!ていうのもありがちなミスとか。
猫? 猫は必ずサブ『魔法師』だから。…いや、前はそれで十分だったけど、今は『見習い狩人』があるから、転職気をつけないとねえ…。
まず帽子を脱いで、ブローチもはず、さなくてもいいのか、ロニに違う『白月明』に移ってもらう。水桶に導かれる…そんなにここが好きか。
教本読むのにMPを減らすので、ついでにめいっぱい『ピュリファイ』をかけて、ちゃぽんと沈めておいた。
大樽に『流水』入れて『ピュリファイ』して、バッシャーと畑に撒く。最近は『白ラコラ』まで浄水がいいと暴れるようになった。ワガママ大根は土へ帰れ!!
早く『ミスト』覚えたい『ミスト』。大樽ぶん回すのはか弱い猫にはしんどいのよ。
液体肥料を薄めた水方式で浸かってくれると楽なのだが、浸かってるとちゃんと給水できる前にアイテム化してしまうことがラコラたちもわかっているらしく、やってくれない。お互いに水の掛け合いっことかしてキャッキャやってくれればいいものを。
浄水かけてるからやらなくてもいいけど、魔力を減らしたいので『浄化』もかけてやる。
なんて輝く白さの大根なんだ…。うちのラコラはもう純白ラコラとでも名乗れるのでは?
よしMP0!
ガーデンベンチに座って教本を開く。うむ、読めるね。
属性構造の図解は同じ、術式もほぼ同一だけど、一部だけ違う。
生活魔法の方は、安全策として、危険な魔法にならないよう制限がかかってるそうだ。というか、制限のあるものを『生活魔法』と呼んでいる、が正しい。
『発雷』なんかは危険な気もするが、あれは接触の護身用魔法なんだって。光と音がすごくてスタン(行動キャンセル)は入るけど、ダメージ自体はほんと大したことないっていう。
マグロは水で濡れてたから効果が高かったのと、マグロ自体が弱かった(初心者だと特効が入った)だけっぽい。
それに生活魔法はフレンドリーファイアを完全に消し去ってるから、猫はマグロに抱きついてても感電とかしなかったのである。『ライトニング』だったら確実にセルフダメージ入ってたね。結果オーライ。
閑話休題、『タイムパス』教本だ。
簡単な解説と使い方、応用編だけ目を通したらさくっと覚えられた。5分もかからない。まあリミッターついてないだけで同じ魔法だしね。
これなら『クリエイトウォーター』か『クリーン』も覚えられそう。畑ならスプリンクラーはありそうだし、『クリーン』のが使うかな?
回復してた魔力を『微風』で使いきって、パラパラしてさくさくと読み終わる。よし『クリーン』も覚えたぞ!
帽子を装備し直して、ロニはどうするかな?と思ったらふんわりと水から出てきた。あ、沈めっぱなしでもいいのか。ならその『白月明』はそこにいれとこう。
ロニがブローチに入ったら、マイルームを出て農業ギルドへ。フーテンさんがギルドにいるだろうから、『トランスファー』もらえばいいや、ということでMPはそのままだ。無理なら魔力pot飲みます。
「お待たせしましたにゃん~」
「今来たとこ~~」
うむ、様式美。
農業ギルドには畑への入り口ドアがあり、その前には待合い所のようにベンチが置かれている。フーテンさんはそこに座って待ってた。あれ、ひとりしかおらんな?
「フーテンさん、猫は200MP欲しいにゃん」
「トランスファー? なにしてきたの?」
聞きつつもMPを譲渡してくれるのでありがたく回復。
トランスファーはMP減ってないと受け取られず、相手に衝撃だけ与えて、MPは戻ってくる仕様。レトは減ってないのでよくひっくり返っている。
ちなみに魔物にやっても魔物はいくらでも魔力を吸い取るので衝撃を与えることはないそうな。召喚獣は魔物ではなく召喚獣という生き物だから、MPの概念がちゃんとある。
「せっかくだから時属性の『タイムパス』と聖属性の『クリーン』を覚えてきたにゃん。これで拡大は最大30倍までいけるにゃん~!」
「有能~~!」
やんやと褒め称えられていると、畑のドアから人が出てきた。
わあ、大きい。これは巨人族? それとも獣人のでっかい種族かな。黒い短髪、背が2m以上ある。そこそこ高いフーテンさんより更に頭ひとつ大きい。
「フーさん、その子が?」
「そうよ~~、この子、MPは少なめだけど有能なのでよろしくね」
「どうも、出来る猫ですにゃ」
「これはどうも、初めまして」
大男さんは猫の前に膝をついてくれる。それでも大きくて見上げてしまうが。あ、耳の後ろに角ついてる。牛の獣人かあ。農作業してるはずなのにカソック着てるのはどういうわけなのか。MP上昇装備?
そんなわけで、幕間スレの農家たちと畑仕事編が始まります。なんと8話もある。
まったり寄り道をお楽しみください。
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このところちょっと体調を崩しておりまして、後書きを編集するのもなんだか久しぶりです。小ネタが書けないとちょっと寂しいですね。