5.露店始めました
露店通りをロバにのってぽくぽくと、右側通行でさっきと逆に進んでいく。
お、ガラスの店?
キラキラしている。思わず足を止めて眺める。こちらは身代わり店主のクマが座っている。クマが椅子にちょこんと座っているのはなかなか可愛い。
看板には『ガラス細工・瓶まとめ売りOK』の文字。瓶は調薬とかで使うのだろうか。
店頭に瓶は出ていなくて、代わりにガラスで出来たアクセサリーや、食器類、それに家具類が置かれている。うちにある『オシャレな花瓶』みたいなやつ。
品数の豊富さがすごい。と感心していたら、突然しゅわっと新しい品物が現れた。おお?
『ビー玉』、商品説明欄には『ガラス細工の練習にオススメ!』とのこと。
「溶かして再利用するアイテムにゃん?」
『そうですの。ガラスの道へウェルカムなのですわ初心者ちゃん!』
ぬいぐるみに話しかけてみると、すぐ返事があった。あらお嬢様タイプ。
「ガラスはビー玉から作るのかあ」
『本当は砂から作りましてよ。でも砂から作ると最初は失敗がとても多くなりますの。失敗するとビー玉になりますのよ』
「うん? 失敗作?」
『成功するとガラス板が出来ますの。失敗するとビー玉になるんですけれど、ビー玉から作ると楽にガラス板が出来ますのよ。私はもう砂から作る方がいいガラス板が出来るんですの。でもビー玉はたくさん余ってますの。いかが?』
「ビー玉は溶かす以外には使わないにゃ?」
『一時期、見た目が似てるから魔石の代わりになるんじゃないかって検証が行われたけど、出来なかったんですのよ。あとはスリングショットの弾には出来ますわね。そういう使い道でも構いませんわよ』
なるほど、たしかにちょうどよさそうなサイズ。
ビー玉は木のボウルに一杯で50zと書いてある。
「これは何個入り?」
『100個ですわね。これでガラス板5枚作れますの。ガラス板1枚で瓶20個ですから、丸儲けでしてよ?』
よくわからないけど、瓶は高いらしい。その瓶が原価0.5zで作れる分量ならたしかにお買得?
「これってもっとたくさん買えるにゃ?」
『たくさんありますわよ! スリングショットなら、大きめのビー玉で見繕いましてよ?』
「錬金術にゃん」
『あら! あらあら、錬金術でビー玉を使いますの?』
「何が出来るか知ってるにゃ?」
『スリングショットの弾は各種出来ましてよ。扱いとしては石と同じみたいですわ。錬金術師の知り合いはいないので、噂程度ですけども。それにしても錬金術ですか。…そうですわね、ビー玉以外に…』
しゅわっとビー玉が一回消えて、新たな商品が登場した。
ええと、『割れ物ガラス』か。
『危ないので気をつけてくださいましね。そういう割れ物ガラスなんかも、溶かして再利用するんですけども、割れ物ガラスからまずビー玉を作るから、ちょっと面倒なのですわ。ガラスの重さに対して得られるビー玉もかなり少ないんですの。もしよろしければ、これを錬金術で使ってみてくださらない?』
「よさそうにゃん! おいくらにゃん?」
『うーん、これ、私にとっては回収するとお金がもらえるアイテムですのよ。なので横流ししてお金をもらうのは申し訳ないのだけれど』
「じゃあ、これで作れるビー玉の量と同じくらいの価格?」
『そうですわね…、あ、そうだわ。ビー玉も買ってくださるなら、オマケという形でお付けするのはどうかしら?』
「お姉さんがそれでいいなら猫は願ったりですにゃん!」
『では交渉成立!ですわね!』
そんなわけでビー玉300個と割れ物ガラス300個を150zで入手した。思ったよりはるかにオマケの量が多いよお姉さん…。
……ガラス、重い…! しかし今の私にはルイの鞍がある! 買っておいてよかった。
「お得なお取引ありがとうにゃん!」
『こちらこそ在庫処分のご協力ありがとうなのですわ! よかったら何が出来たか教えてくださる?』
「もちろんにゃん!」
ガラス職人のお姉さんにフレンドになってもらい、別れた。お姉さんの名前はティアラさん。イメージぴったりの名前だな。
それにしても『ビー玉』に『割れ物ガラス』なんてあるんだね。生産の失敗品とか、錬金術の材料には向いている気がするから、もっといろいろ知りたい。
そこからは生産の失敗品とかあるかなーと思いつつうろうろしたけど、特になかった。たぶん、あえて露店で売るようなものではないんだろう。
そうして歩いているうちに、露店通りの真ん中辺りでぽつぽつ空いてる隙間があったので、ポンっと足を踏み入れてみると、ここなら露店を開けるらしい。メインジョブを『見習い商人』にして、と。
にゃん!
売るものは特にないけど猫の店、開店にゃん!
ゴザを敷いて店名(売り物の列挙でも可)を掲げたら、アイテムを並べるだけの簡単作業。店名はそのまま『猫の店』だ。
売るものは『薬草玉』と『投石玉』くらいしかない。空いたスペース(販売枠ではない)に錬金釜を置く。
準備は出来たのでフーテンさんにメールしておく。現在地を添付出来る機能は便利だね。
『猫の店開きましたにゃん!』と、送信。すぐに『初心者シリーズ集めてもらってるから少し時間かかるかも~ごめんね!』と返信があった。
集めてもらってるならば文句はない。『猫は待てる子ですにゃん』と。
錬金釜もあるし、暇潰しの材料もある。では早速、『割れ物ガラス』から試してみようかな。
まずは圧縮から。火をつけてチン。予想は出来てたけど、やはり『ビー玉』だ。
次に合成。
『ビー玉』5×『割れ物ガラス』5で『ガラスタンブル』が出来た。丸くてつやつやしたガラスの小石だ。おはじきというには大きい。普通の石ころのガラスver.だな。
『ビー玉』10個圧縮も『ガラスタンブル』。これは圧縮より合成のがお得っぽい。
『ガラスタンブル』を合成で10個まで増やして、圧縮してみる。なぜか小さくなって『ガラス瓶』になった。
もう一度『ガラスタンブル』を10個作って、今度は『ビー玉』と合成。これも『ガラス瓶』。
『ガラスタンブル』と『割れ物ガラス』は『硝子玉』。これは組み合わせ失敗か、成功かどっちだろ?
ティアラさんに結果を報告してみると、『ガラスタンブル』は一番簡単なガラス細工だそうだ。しかし何にも使えない、ジョブ『ガラス技師』用の納品アイテムらしい。よければ回収すると言ってくれた。うむむ、量産は控えた方がよさそう?
『割れ物ガラス』10個で『ビー玉』1個、『ビー玉』と『割れ物ガラス』で『ガラスタンブル』ならば、炉を動かす薪がいらないことを考えると、錬金術の方が効率がいいそうだ。ひとつずつしか出来ないのが難点でしょうね、とのこと。そして『ガラス瓶』はガラス工のが効率よい。
なるほどなあ。
それから『硝子玉』は聞いたことがないアイテムだそうだ。
ティアラさんが作る似たようなアイテムは『ガラスドロップ』らしく、これでアクセサリーを作ってるんだって。買い取らせてほしいとのことなので、また後日露店で会う約束をした。
『割れ物ガラス』と『ビー玉』を合成して『ガラスタンブル』を作って、『ガラスタンブル』と『ビー玉』を合成、がいちばんアイテム少なめで『ガラス瓶』が作れるのか。
『ガラス瓶』は有用なアイテムらしいので、錬金術はここでおしまい。
『硝子玉』10個の合成もやめておいた方がいいだろう、今のところゴミアイテムかどうかわからない。
残りで作れるだけ硝子玉を作ろうか迷ったけど、ティアラさんに硝子玉を調べてもらってからにしよう。ビー玉や割れ物ガラスも他の合成に使ってみたいし。
手が空いてしまったので、今度は初心者ポーションを別の魔法で圧縮するやつを出来るか試してみる。
あ、魔法で思い出した。マケボで初心者の杖を買うんだったわ。
…2zの投売を入手した。
杖というか、タクトみたいな小さい杖。ついでに初心者状態異常回復ポーション……は、軒並み売り切れているな。昨日買い占めたし、ポコポコ増えるものでもないから仕方ないだろう。
よし、杖の装備完了。
いつもは火を入れる釜の引出しに『流水』や『微風』を入れてみるのだ。
出来るかな?
かぱっと下の引出しを出してみると、石がセット出来る窪みがついていた。あ、ここに魔石が入るようになっているのか。
ただ魔法をかけるだけで動いていたけど、どういう仕組なんだろね?
とりあえず引出しをいつものように開いた状態で『流水』をかけてみると、水は出ずにMPだけ引っ張られる感覚がした。
うまくいったのかな?
グツグツというより洗濯機が回るようなギューンという遠心力(?)で錬金釜がゴトゴト揺れる。
チン!と圧縮されると『小児用ポーション』が出来た。
なんぞ???
説明をみると、12歳以下の子どもにのみ効果を発揮するポーションらしい。調薬系の納品アイテムかな?
次に『微風』を入れてみると『初心者霧ポーション』。
霧ポーションは回復量は大幅に落ちるけど範囲回復が出来るやつ。テイマーとしては持っていて悪くないアイテムだ。
『耕土』を入れると『初心者強化ポーション(防御)』。強化ポーションは持続時間長めのバフがつく。これはかなり有用じゃない?
とりあえず地水火風揃ったな。あとは光と、『経過』はなんだろ、時間属性?空間属性?
試しに『光源』を入れると『初心者聖水』、『経過』は『初心者強化ポーション(加速)』。
すべてLV20以下にしか使えない・効果が及ばないポーションとはいえ、なんか大盤振舞じゃない?
通常ポーションでこんな風になるって話は、錬金術スレでは見なかったけどな?
有用そうなのは強化ポーションと、霧ポーションかな。聖水はLV20以下では使い道なさそう。
……。
圧縮初心者potを各属性で圧縮すれば下級だけどバフpotになるかも? やってみるか。
圧縮potは35個あるから、あと5個圧縮potを普通に作る。これで100個消費か。まだまだ遊べる。
『暗源』も覚えたいな。MP回復の間に教本よんでおくか。むむい、むむい……。
チュートリアル中は教本からの魔法が覚えやすかったのではないか?と疑惑があるほど、なかなか頭に入ってこないな。うーん、気長にやろう。
圧縮pot40なので、あと20個作る。
MP回復potとかも各属性圧縮すると別の結果が出るんだろうか。大変そう。
『暗源』むむい、むむい…。うんMP回復した。さて、圧縮初心者potが輝くかの実験だ。
まず『流水』は『風邪薬』。うん、たぶん調薬の納品アイテム。
『微風』は『下級霧ポーション』。お、予想当たってる?
『耕土』は『下級強化ポーション(防御)』で、『光源』は『下級聖水』、『経過』は『下級強化ポーション(加速)』、よしよし。
『暗源』覚えたい! 『浄化』は光属性だから聖水になるだろうし。
そういえば『生活魔法教本2』は何が書いてあるんだろ。開いてみると『製氷』『発雷』『腐敗』『渦』『発芽』の5つ。氷と雷と発芽は気になるな。
でもまずは『暗源』。
んー…んんー? 光源のこのこれをこう…? あっ! 出来た!やった、『暗源』を覚えたぞ!
とりあえず初心者potでお試しだ。
「猫ちゃんお待たせ~」
と思ったらフーテン兄さんが到着してしまった。無念。
「猫の店にようこそにゃん!」
「わー、開店祝です~~」
なぜか花束をもらった。露店だが?? よくみるとこれは……綺麗に束ねてあるだけの雑草!
「ありがとう、雑草探しの手間が省けたにゃん!」
「経験値とランクアップの足しにしてね~」
気を使わせず地味に役立つ冗談っぽい贈り物、フーテン兄さんは気遣いの人だな、さては?
「ランクアップするとLVが上がっちゃうにゃん」
「はっ、それがあったねえ……」
フーテン兄さんの後ろには人間族の男女がいたので、首を傾げる。
「猫の店にようこそにゃん?」
「あっ、これはどうも、フーテンのフレンドで商人のモルタです! 猫ちゃん…猫ちゃんでいいのかな? 検証に付き合ってもらえると聞きましたが大丈夫です?」
「大丈夫にゃん!猫でもランでもどちらでも」
「可愛い猫ちゃんねえ! 私も錬金術師をしてます、リーリンカーです。リーと呼んでね。新しい錬金術師ちゃん、嬉しい!」
「リーにゃん先輩? いろいろ教えてほしいにゃん!」
「そういえば猫ちゃん、さっきなんか閃いた!て感じだったけど、話しかけて大丈夫だった?」
「閃いたんじゃなくて魔法を覚えたにゃん」
「おや教本? 魔法が覚えられるなんて、真面目だねえ」
「不真面目だと覚えられない?」
「教本から魔法を覚えるのはすごく大変らしいっていう噂だけは聞くねえ。みんなインプット使うし」
「みんなお金持ちにゃん。猫の『生活魔法』は戦闘には使えないから教本も簡単にゃん」
にゃんにゃん。
にゃんのつけ具合に迷うところにゃん?
「『生活魔法』とはまた珍しいのを取ったねえ。猫ちゃん、スローライフ系?」
「ロバ旅するにゃん」
「なるほどね~。早速だけど、シャツの圧縮してもらっていい?」
「シャツは10枚だけ?」
「うん? 一応、合成も試してもらおうと思ってたから20枚あるよ」
「シャツだから燃やすより洗う方がいいし、先に水で試してもいい?」
「ランちゃん、魔石を使えるの? 初心者の釜だと燃費が悪いと思うけど」
「『生活魔法』で釜に魔法を入れるにゃん」
「…え、生活魔法なら釜に直接魔法が入るの?」
「猫は最初から『点火』で火をつけてたにゃん。でも錬金術ギルドには魔石があって、釜の火力としてセットするって書いてあったにゃ。火の魔石以外にもあったから、別の属性でもいいことに気づいたにゃん。やってみたら出来たにゃん!」
「フーテン、この猫ちゃんすごい!!」
私が胸を張るとリーさんはパチパチと手を叩いて誉め称えてくれた。
「20枚なら水と風、それとも光にゃ?」
「猫ちゃん、何属性使えるの?」
「ええと、七属性? 氷と雷はまだ覚えてないから待ってにゃん」
「ランちゃんすごい! 七属性目は空間?」
「『経過』だから、空間か時空?とかそんな感じだと思うにゃん」
「うーん、時属性っぽい」
「時魔法師が発狂しちゃう」
「あー。どうしよ、ズボンも20枚だっけ?」
「20枚だねえ。合わせれば4属性実験出来ちゃう?」
「まずは水、風、光で試してもらいますかね?」
「差がなければ火もやってもらう感じで」
「わかったにゃん!」
初心者のシャツを受け取り、くるくると丸めて釜に詰めていく。
「猫ちゃんは詰めこみタイプなのね」
「ドサッとしてチンにゃん」
几帳面なことは求めてはいけないのだ、猫だから。
「まずは水でお試しにゃん」
釜の引き出しを開けて『流水』をかけると水色の魔力が吸い込まれていく。
チン!と音がして出来上がる。どれどれ。
「『木綿の布』にゃん」
「おお、素材に戻ったね~。この量だとシャツなら2枚分くらいかな」
「なかなか変換効率いいですね!」
「次は風にゃん」
くるくる詰め込んで『微風』を入れてチン。
「あ。違うのが出来た。『羽衣』にゃん?」
「そうきたか~。初級の魔法師とか斥候に人気の上着装備だねえ。『亜麻布』から作るアイテムなんだけど、素材をすっ飛ばしたなあ」
「『亜麻布』は素材としては優秀過ぎるんで『羽衣』でバランス取れてる気がしますね。とはいえ木綿の布よりはいいアイテム?」
ふむ?
どうやら一定確率での回避効果のある装備らしく、中級になっても世話になる人もいる人気装備らしい。ただ素材である『亜麻布』が他の更に優秀な装備の材料になるため、今は『羽衣』が作られることは少ないそうだ。お古がときどき市場に流れるとか。
「光いくにゃん?」
「いってほしいにゃん。はい、ズボン」
モルタさんが動かないのはたぶん、連絡とって初心者のシャツとかを集めてくれてるのはなかろうか。頑張ってね。
猫はくるくるして『光源』してチンする作業。
「はい、『蜘蛛の巣ヴェール』にゃん」
「うわ~。上位レシピが出て駆逐されちゃった懐かしの初級装備シリーズなのかなあ…?」
こちらは『白蜘蛛糸』の編み物装備だったんだけど、この糸で布が織れるようになったので、糸で消費されることがなくなり市場から消えたらしい。
ちなみに回復魔法に補助があり、見た目装備としても女子に人気。姫に貢ぐのに最適アイテムだったとか。
「ズボンから頭装備出てることを考えると、これは部位関係なく初心者の布装備くくりで初級のちょっといい装備が出てくる感じかしらね?」
「うん、そんな気がする。じゃあ最後のズボンは、闇でお願いしていい?」
「闇にゃん?」
「うん。似たような感じで消えた初級装備に闇属性のがあるんだよねえ」
なるほど、この流れで予想がつく装備があるわけか。では早速、覚えたての『暗源』でチン。
「『影走りのスカーフ』にゃん」
「あっ、そっち!? 外れた~」
「『闇糸マフラー』かと思ったのにねえ」
『影走りのスカーフ』は作るのも集めるのもめんどくさくて廃れてしまった斥候装備で、すぐに互換性のある装備が出たので日の目を見なくなったアイテムらしい。
今現在も普通に作れるは作れるけどそこまでして作ることもない、という趣味アイテムみたいなやつ。見た目も普通の黒い布装備なので、見掛けなくなってしまったとか。
「懐かしい~。改めて見ると、全然悪いアイテムじゃない、というかいい品だよねえ」
「作り方と材料が頭おかしかっただけで、当時は破格の性能だったのよ。すぐに新エディションが出て中級装備が出てきたからダメだっただけで」
そういうのあるよねえ。タイミング悪すぎると、記憶以上に悪い品と思い込んでしまうことある。
ちなみに『闇糸マフラー』も『闇糸』での機織りが可能になったので消えた装備らしい。裁縫は激戦区なの?
「よし、シャツ10枚ズボン20枚集まったぞ!」
モルタさんやはり集めていたのね!
「よくやったモルタ! 俺もフレンドにかき集めてもらってる~。革というか防具系?とか、ナイフとかはどうなんだろな」
「ソードとかもいけるかな」
「杖も多そう」
そういえば初心者装備引き換え券をまだ使ってなかったことをふと思い出す。後で引いとこ。
「火、土、時でいいにゃん?」
「それでお願い~~」
それぞれチンすると、火は『木綿の布』、土は『土糸玉』、時は『初心者ラーニング手袋』だった。
「『初心者ラーニング手袋』!?」
「わあ…、LV20以下での技術系ラーニング効果が20%上昇。1スキルラーニング、もしくはLV20を越えると破れる。ここに来て新アイテムが来てしまいましたね…」
「懐かしのアイテムシリーズじゃなかった…」
ちなみに『土糸玉』は初級編み物におすすめの糸、
この分量ならセーターが編めるだろうとのこと。素材枠が火・水・土てところか。一概に外れとも言いづらいが、他のラインナップを見ると金額的には外れなのかな?
「たとえ『木綿の布』でも初心者シリーズ買い取るには十分なアイテムだよ~。あとはランダム要素があるかどうかも気になるかな?」
「出来ればランちゃんには他の属性の『生活魔法』も覚えてもらいたいのだけど、いいかしら?」
「元々覚えるつもりだったからいいにゃん!」
「ありがとう! この猫ちゃん連れて帰りたいわあ……」
「お巡りさんこっちです」
「迷子じゃないにゃん」
「わんわん」
ノリのいいお兄さんだ。
「そうそう、初心者ポーションも属性魔法で遊んだら面白いことになったにゃん」
「お、どれどれ?」
初心者potシリーズを並べるまでは「へえ~!」とかで楽しそうだったのに、下級potシリーズを並べたら静かになってしまった。
「こっちは圧縮potから作ったから量が大変だったにゃん。お高く売れるにゃん?」
「下級とはいえLV制限なしだし、あまりお高くはないけど普通に売れちゃうな~。闇属性がないのは?」
「闇はお兄さんが来たときに覚えたにゃん」
「なるほどさっき言ってたやつ!」
「これから作ってみるにゃん」
初心者ポーションをガラガラと突っ込んで、『暗源』でチン。
「猫ちゃんほんとワイルドにゃん」
「あんな勢いよく放り込んだことないわぁ」
ドサッとしてチンだよ!
「『初心者呪いの水』にゃん!」
「初心者に持たせていいものじゃないやつ」
「使いどころないわね」
『呪いの水』は『聖水』の逆で闇属性を授けるやつだ。第三エディションで出来た新ダンジョンの上階に生息する天使モンスターとかを攻撃するのに使う。初心者には無用の長物だ。
「いらないものは合成するにゃん」
『初心者聖水』と『初心者呪いの水』を5個になるように作って、火で燃やす。合成は火しか使えないんだよね、なぜか。まあ使えると検証めんどいので逆に助かる。
「『初心者救済水』にゃん!」
「ここで『救済水』出るの??」
ええ…とドン引きしてるフーテン兄さんを尻目に鑑定してみると、『救済水』とは、LVはそのままでステータスのリセットが出来るアイテムらしい。
……なんか課金アイテムっぽくない?
「普通のやつはもちろん課金アイテムだよ~」
ですよね!
「脳筋プレイでLV20まで駆け抜けて、救済水使って生産転向とか出来るねえ」
「お使いクエストすればよくない?」
「そこからお使いクエストすれば、23くらいまで戦わずにあげられるね~。ランクアップ経験値入れたらもうちょいあげられるかも」
「25あると、生産職にオススメのダンジョンに入れるんですよ。だから20からの5LVあげるのが純生産ステには地獄と言われてます。うーん、これはクランによってはかなり欲しがるかもしれませんね」
「なるほど。パーッと売り抜けてLV20越えるにゃん!」
「猫ちゃんは賢いね~」
マケボで売ると手数料がすごい額になるし、いくらになるかわからないとのことだったので、『初心者救済水』はフーテンさんに丸投げした。
「『初心者ラーニング手袋』は猫ちゃんが使ってねえ。後のはどうする~?」
「『羽衣』と『影走りのスカーフ』はほしい、後はいらないにゃん」
「はいはい。初心者pot類は買えないけど、下級potなら相場で買うよ?」
「売るにゃ」
「はいはい。あと検証結果の取り扱いはどうする?」
「お任せするにゃん。猫は自由が好きにゃん」
「ん~、じゃあ掲示板に載せちゃうねえ。ついでに万能薬もツルッと載せちゃおうねえ」
「情報統制的な」
「なくもないけど、なくもない程度だから。猫ちゃんも自分で気づいたでしょ?」
「言われてみればたしかに? なら魔力potやスタミナpotも試してる人がきっといるはず? 猫はもうめんどくさくなったにゃん」
「あー……。そうか、魔力potとかから『スキル救済水』も出ちゃう可能性あるねえ。まあLV20までのスキルでそこまでスキルの失敗なんてないだろうけども」
『スキル救済水』は任意のスキルを削除してポイントに戻すことが出来るアイテム。こちらは全リセットではなく、スキル1個につきアイテム1個必要になる。ラーニングやガチャで取ったスキルは対象外。
なお当然ながら消したらスキル経験値は消えるし、そのスキルで取っていたジョブも消える。消す前に「これも消えるけどいいね?」て確認は出るので、事故ることはあまりないそうだ。
「使うとすれば脳筋で駆け抜けるのに攻撃スキル取れるくらいじゃない? それも『ラーニング手袋』で代替ききそうだけど」
「そうかも。あんまり気にすることないかな? 猫ちゃんがお暇でやる気があるなら、初心者魔力ポーションもスタミナポーションもあるからね」
「うーん、気が向いたらやってみるかも? 猫はしばらくLVあげずに街で引きこもるにゃん、魔法覚えないといけないにゃん」
「そうだった。まだ属性あるんだったねえ。氷と雷と樹? 回復はない?」
「回復…『手当』は回復?」
「たぶん?」
「やってみるにゃん」
初心者ポーションで試してみると、『初心者中級ポーション』になった。
「これは初心者には必要ない回復量?」
「うーん、タンク職ならギリ…、いやこれは多いわ。中級は中級でも品質A並に回復するじゃん」
「じゃあこれも圧縮しちゃうにゃ」
「猫ちゃん、ゴミかどうかで判断してる?」
「そうにゃん。錬金術は説明にも『いらないアイテムを有用なアイテムに変える』って書いてあるにゃん」
初心者ポーションはともかく、初心者装備の実験は実は私じゃなくても出来る。
私のメリットは『初心者装備を買うことが出来る』という一点であって、初心者装備を錬金することそのものはリーさんにも出来るのだ。ただ魔石使うより魔法のがお手軽なんだろう。
フーテンさんが初心者ポーションや初心者装備をやたら持ってるのは、LV制限装備の売買制限が始まる前に買い取った分か、あるいは高ランクのジョブ商人なら買取は出来る(販売はLV対象者のみ)とかそういう抜け道があるのかも。そうなるともはや初心者支援というより慈善事業よな。
「『下級蘇生薬』にゃん!」
「出ると思った…」
「100個で下級とはいえ蘇生薬かあ。初心者ポーションを本格的に駆逐する気だわね運営」
「掘り出し物屋の初心者シリーズが困るからねえ…。あれ三ヶ月は消えないから」
「定期メンテで入替説では?」
「初心者装備のレアアクセサリー眼鏡が消えなかったからねえ…レア度を考慮する説もあるけど、たぶん初心者装備のレア度はかなり高く設定されてるんだよねえ…」
なるほど厄介?
「やっぱり『錬金術』は商人向けかもねえ。『生活魔法』で魔石コストもかなり減る、と。ちょっと悩むわ~」
やはり商人には初心者アイテムを買い取れる仕組みがあるっぽい。
でも新規さん増える度に初心者ポーションが沸くし、LV20以下錬金術師探して卸すのも大変だね。
「フーテンさん、魔法師ギルドには入ってないにゃん?」
「魔法師ギルドも入ってるよ~。これでも魔法使いなのよ」
「魔法師ギルドの教本買って覚えればいいにゃん?たぶん5個覚えると『生活魔法』をラーニングするにゃん」
「そんな馬鹿な」
「生活魔法のチュートリアルは掲示板で見た他の魔法のチュートリアルと全然違って、教本だけ渡されてひとりでお勉強にゃん。先生がいて『それでは魔力を感じてみましょう…』とかじゃなかったにゃん!」
「うーん、俺が始めたときは今みたいな個別チュートリアルなかったからなあ」
「私はたしかにそんな感じの魔力の感じ方から始まるマンツーマンレッスンでしたね」
「他の魔法は、師事しないとラーニング出来ないらしいにゃん? 教本も買えない。でも生活魔法教本は買えると思うにゃん」
「教本売店とかたしかに見てないな~、そもそも魔法師ギルドに全然行ってないわ。今度見てみるねえ。『錬金術』だけなら魔法よりはSP軽いし、考えてみるか~」
「フーテンもついに生産するの? 錬金術楽しいよ、あっという間にアイテムが消えます!」
「そこなんだよね~破産こわい。あ、そうだ、すっかり忘れてた! お約束の三脚と木べら、それからこっちがスリングね。スリングショットとどっちがいいかわからなかったから両方持ってきた」
「スリングショットのことをスリングと思ってたにゃ! でもどっちでも便利そうだからいいかと気にしないことにしたにゃん」
「素直な猫ちゃんには両方あげるにゃん」
「貢がれたにゃ~ん」
アイテムももらい、ついでに圧縮したアイテムの買取精算(下級蘇生薬も売却)、検証協力料、情報料と渡されそうになって焦った。
「検証協力料は頼んだアイテムで相殺にゃ!」
「それはフーテンさんの分なので私が払う分とは別です」
とモルタさんがなぜかお金を払ってきた。モテる猫はつらいぜ??
「あんまり初心者がお金や装備を貢がれるのはよくないにゃん」
「ド正論ですわぁ」
「たしかに…!!」
モルタさんはならば貸しひとつということで、と今度何か欲しいものがあったら言ってねの約束をもらった。うん、そういうのだと気楽だな。
だって情報料とか買取分でも50万くらいにはなってしまうんだよ。万能薬の売却額を軽く越えてしまった。
モルタさんの知り合いからの初心者装備は早めに集まったが、フーテンさんの知り合いの分はログイン時間が噛み合わなかったようでまだらしい。
「申し訳ないけど、また協力よろしくね~」
そういえばこんな露店であれこれしてたら情報の秘匿も何もないのでは?と思ったら、露店で交渉中、露店に並んでいる以外のアイテムをやり取りしているとき、その交渉をしてるパーティー以外には声が聞こえないし、何のアイテムをやり取りしているのかなども一切見えなくなるらしい。
「意外と露店での生産検証って多いんだよ~そのせいで露店通り混んでたりもするんだけどね」
そんな感じなんだねえ。
次もフーテンさんが集めた初心者装備を私に一旦売却して、私が錬金術、出来たものの中で必要なものは私がもらって、残りは買い取ってくれるそうだ。モルタさんも同じく。
初心者装備は買取価格が決まっているので、利益が見込めないと一ヶ所に集めるのが面倒なんだそうな。
「商人さんの錬金術師はいないにゃ?」
「このゲームのジョブ商人は、基本的に物理と魔法で上げるから生産職は少ないんだわ~。中には市場調査とか物流頑張って上げる人もいるんだけど、戦闘しまくって魔物素材売ってる方が商人ランクが上がりやすいっていうね。大半の商人の中身はゴリラよ」
「商業ギルドはジャングルにゃん?」
「強いものしか生きられない緑の掟ウホ」
パーティーで狩った素材を一人がまとめて売買するというのがいちばん商人ランクが上がりやすいので、ガチ戦闘職が上げてるパターンが多いそうな。
「まあこのゲームの商人の位置付けが、戦闘職からの還元とか、そういう感じなのよ、たぶん。昔は攻略上、交易スキルがないと越えづらいとこがあってねえ。それに商人ランク上がってくると、素材を生産職に回す依頼が出てきたり、初心者救済っぽいのが出てくるんだよねえ」
「猫は種族スキルにゃん?」
「そうだねえ。今は上位職が大商人しかないんだけど、第三エディションでは上位職が増えてるらしいから、猫ちゃんはそっちに素質があるんじゃない?」
そんな話をしつつ、モルタさんやリーさんともフレンドになってもらい、今回は解散した。
まだちょっとログイン時間に余裕があるので、ゴザを片付けてルイとお散歩に行くことにする。
新鮮な牧草を食べさせてあげるぞ。
40話ほどストックがあるのでここからは予約投稿でチマチマやっていきます。
リーリンカーの口調にお嬢様になってたところを修正。
240429 表記揺れ修正(魔術→魔法)