15.アクセサリーの製作依頼
続きものです。途中で切れます
翌朝、マイルームのドアを開けると砂浜だった。はい。入り江の前から入ったんでしたね。
採取スポットがたくさん出てるので拾っていく。ついでに『マジックセンス』もかける。
波打ち際にも採取スポットがあるのでちゃぷちゃぷと。まだ早朝なので水は少し冷たい。長靴が潮に漬かってもすぐ引いていくのは楽ちんだな。でもなんとなく心配なので浄化はする。
入り江の、洞窟まで行かない手前辺りに転がってる岩なんかは採掘ポイントになってるようだ。
採取アイテムはやっぱり『砂』か『石ころ』なんだけど、ひとつだけ『精霊砂』が採れた。
採掘は全部『石ころ』だったので、私の採掘LVか道具かステータスのいずれかが足りないと思われる。うーん、残念。採掘全然してないから仕方ないね。
順番通りに来ていれば採掘の街ドゥーアを経てからの港街ポーツなので、たぶんこの辺の要求採掘LVはちょっと上。
採掘道具も揃えないといけないなあ。
採取を終えたら『初心者転移ポーション』をぐいっと飲み干す。無味、どころか飲んだ感覚もない不思議な感触。キラキラが足元から涌き出るエフェクト。
『転移魔法が使用可能です』
行先 →『自由都市マケット』『冒険者の街フロント』
これはすぐ使わなくてもいいようなので、砂浜を戻って採取してから自由都市へ行くことにした。
昨日拾っていった道程だけど、採取ポイント復活してたし、ティアラさんに会いに行くのだから『砂』がお土産になればと思って。
『精霊砂』も拾えれば、と期待したが、残念ながら出なかった。採取LVが足りてないか、精霊がいた場所しか出ないか、どっちかな。
さて、それでは『自由都市マケット』へ転移!
シュワッと足元から光がわいた後、空を飛んでいく星のエフェクトが見えたかと思うと、最初にスポーンしたように都市の外へ転移していた。あっという間。街中転移じゃないのね。まあ街中に人が沸いて出たらたしかに危険か。
念のため、転移前にルイとレトは帰してたので、門を潜った後で再び呼び出す。
うーん、この雑踏のにぎやかで騒々しい感じ。私は帰ってきた! 一時帰宅ですけど!
ティアラさんが今日は露店ではなく商業ギルドの前で待っていてくれるそうなので、早速ギルド通りへ向かう。
私にとってのティアラさんはくまのぬいぐるみなので、実は初めての対面だ。といってもフレンド欄から姿はわかるので、まったく見たことがないわけではない。
「あっ、ランさん、こちらですわ!」
ぴょんぴょんと跳ねながらティアラさんが手を振る。小人族で水色の髪。ゆるふわ~な感じの小さなお嬢さまである。
街着はふんわり白いレースのカーディガンに、紺地に銀の刺繍が入ったワンピース。学園都市装備セットの改造品かな? 可愛いしとても似合っている。
「ティアラさんこんにちはにゃ!お待たせしてしまったにゃん?」
「今来たところですのよ、うふふ」
様式美だ。
フーテンさんたちならルイに乗ったままでも目線が合うのでそのままだが、ティアラさんは背が低いのでかなり見下ろしてしまう。これは120cmないと見た。エドさんも小人族だけど、彼は身長は種族最高値にしてるらしいから結構差があるね。
ルイから降りると、だいたい目線があう。ティアラさんのがちょっとだけ高い? ちなみに猫は100cmくらいにゃん。
「では、参りましょうか」
連れだって商業ギルドの中へ。
商業ギルドには商談室という、商談のための設備があって、喫茶店のように利用できるらしい。喫茶店と違って隣の会話が聞こえるということもないので安心なんだそうな。
もちろん利用できる人は限られていて、ランク7から。猫は足りてないけど、ティアラさんの商談相手ってことで入れる。
早速ギルドの職員に案内してもらった場所には、広いスペースを衝立で区切ってあるコーナーがいくつか。ところどころにある観葉植物と、大きな窓から差し込む光で明るい。なんだか開放的なオフィス空間? ミーティングスペース? そんな感じだ。
喫茶システムは先注文のセルフサービスになっており、紅茶とクッキーを買って衝立の奥へ。
「露店で商談でもよかったのですけれど、わたくしの露店はオーダーメイドを望む人が来ることもあって、そういう人は前の商談が終わるまで隣で待っているものですから。隣にずっと立っていられると、聞こえなくてもちょっと落ち着きませんでしょう?」
「それはたしかに落ち着かないにゃあ」
「ランさんの露店にお邪魔しようかとも思ってたんですけども、わたくしに直接依頼しにくる方もいらっしゃるから、やはりご迷惑になりそうで」
「有名人は大変にゃんね~」
「ガラス工は瓶で十分金策が出来るものですから、それ以上のレシピへ手を出すものが少ないだけですのよ。同じものを作っていてもスキルLVは頭打ちですし、初級止めが多いのですわ。『ガラス工』は習得人数そのものは多いのですけど、高LVの少ないスキルなのです」
同じように習得人数の多い『調薬』は進んでいくとポーションの回復量が不足するので、新レシピに手を出しやすい。けれどポーションで使用する瓶はすべて『ガラス瓶』のため、新レシピに手を出さなくても賄えるし、それだけ作って売るのがいちばん儲かる生産なのだそうな。
『ガラス瓶』以降のガラスレシピが、用途の微妙なアイテムか、食器などの道具類か家具類、それに魔力を入れられないファッションアクセサリーなのも大きいのだとか。
「もしかして、わたくしがガラスアクセサリーを手広くやり過ぎていたというのもあるのかしらと反省しておりまして、最近は露店も控えめにしてますのよ。新素材の研究もありますしね!」
その新素材『硝子』については、これまでの『ガラス』では出来なかったカット加工が出来ることがわかっているらしい。ただ色づけがまだ出来ないそうで、すべて透明なのだけが悩みなのだとか。
「ランさんのお話を聞いて、もしかして硝子は精霊さんと組み合わせるアイテムなのではと疑惑がわきましたの。それで、よろしければその『白月明』に入ってらっしゃる精霊さんに、わたくしが用意した硝子にも入れるかどうかを見ていただけないかと思って」
「もちろん構わないにゃん! 今のところ猫が用意できたアイテムで入れたのは『白月明』『月明』それから『光玉』にゃん。『ムーンキャッチ』には最初は入ったけど、今は入りたがらないにゃ」
「光ってるアイテムがお好きなのかしら…?」
ティアラさんに断って、ロニをマイルームまで取りに行く。手に持って歩いてると落としそうで不安だったので、水桶の中に『白月明』ごと沈んだままなのだ。
ここもセーフティエリアだが、マイルームへの出入りは商談相手が許可した場合のみと制限されている。アイテムをマイルームに持ち逃げされたり、話途中で帰って来なくなったりすると問題になるからだって。
ちなみに露店通り内では、そもそもマイルームを開けない仕様。あそこでドア開くと邪魔だからね。露店主がマイルーム使えないのは不便なんだけど、商人するならアイテムはたくさん持ち歩けてないとね、てことなのだろう、たぶん。
ロニを持ってマイルームから戻ると、ティアラさんは硝子の裸石を机の上に並べているところだった。
天鵞絨を貼ったような小さな箱に納められたルースはキラッキラに輝いている。宝石に負けず劣らずの光だ。
「うふふ、今わたくしに出来る五種類のファセットタイプと、カットなしで表面を丁寧に磨いたカボションタイプをご用意してみましたわ」
ファセットとは宝石を輝かせるために面をカットする加工のことだ。ダイアモンドのブリリアントカットとかそういうやつ。
ティアラさんが用意したのは、ラウンド(丸)、マーキス(ナツメ型)、スクエア(四角)、オーバル(楕円)、ペアシェイプ(梨型、いわゆる涙型)の5種類の形状だ。これにカットなしのカボション(半球)を入れて、目の前の箱は6種類。
なお『ファセットカット』は『ガラス工』ではなく『石工』の上位スキル『宝石加工』のアーツなのだとか。
うーん、まばゆい。
「綺麗にゃんねえ~」
「『宝硝子』という新アイテムになりましたの。硝子は宝石と違ってサイズが自由ですし、石の性質や不純物に囚われることもありませんから、カットの練習にも最適な素材なのですわ。宝石に手を出す前に出会いたかった素材ですわね…!」
宝石のカットは難易度が高い技術らしい。ついでに素材を用意するだけでお金もかかるし、失敗もするし、すごく大変だったそうな。
生産は練習やら研究、LV上げでばんばん金が飛んでいくのだから、オーダーメイドが高いのはやむ無しだ。猫も気合いを入れてお金を用意しています!
すごく! 高そう!!!
散財の予感にふるえていると、ティアラさんが机の上に天鵞絨の布を広げてくれた。その上に猫も『白月明』を置く。
「鑑定失礼しますわね」
手に取る許可を出して触れてもらう。
「……こちら、アイテムとしては『白月明』ですけれど、根本的に違う別のアイテムになってしまっていますわね。これは出ると元に戻ってしまいますの?」
「猫には名前以外の何が変わってるのかわからないけど、こっちの『白月明』のどれかは入ってたことがあるにゃん」
あの月夜のときに『白月明』に変わった『ムーンキャッチ』は5つ、そしてロニは2個ほど渡り歩いていた。どれがどれかはわからないので、5個全部出してみる。
ティアラさんはひとつひとつ丁寧に手にとっては眺めて、うん、とうなずいた。
「こちらはすべてごく普通の『白月明』ですわ。ということは中に精霊が入っているときだけ、アイテムの性質が変化してますのね…」
私も許可をもらって、『宝硝子』をそれぞれ手に取らせてもらう。…す、素手で大丈夫? よかった。でもドキドキしちゃう。
最近は『ジュエル』で作った宝石を適当に扱っているけど、やはり職人の手による石はたとえ硝子でも輝きが違うな。
『ジュエル』ってもしかして術者のイメージ力とかで宝石が出来てる? だとしたらオモチャな宝石が出てくるのもやむなし…。
『宝硝子』は、特にそれぞれの表示に違うところはないみたいだ。見た目の形が違うだけみたい。
「ロニ、この中に好きなのはあるにゃん?」
許可をもらったアイテムは従魔や召喚獣でも触れることが出来るので、精霊もきっとそうだろう。そう思って声をかけてみると、ぽわっと『白月明』からロニが出てきた。
「まあ…、本当に光の玉、ですのね」
「中になにかいるとかでもない、本当に光そのものみたいにゃん」
ロニはウロウロとさ迷い、試しに入ってみたのはラウンドとオーバルだった。カボションとペアシェイプは気になるけど入らない……入れない?のだろうか、周辺でうろうろする。
「角ばってるのがお嫌いなのかしら?」
「言われてみると、たしかに丸っこいのが好きみたいにゃ? ペアシェイプには入ってみたい、でも無理、て感じにゃんね…。スクエアとマーキスはまるで興味を示してないにゃん」
「ううん、ヘキサゴン(六角形)やペンタゴン(五角形)もご用意しておくべきでしたわね」
「ラウンドとオーバルならラウンド、ラウンドとカボションならカボション、オーバルには入れるけどそこまで惹かれてはいない、カボションは…うーん? 気になってるけど、どうも弾かれてる感じがするにゃん」
「正円に近い方がお好みなのかもしれませんね。そして球に近いほど入りやすい…? カボションに弾かれるのは意外ですわね。表面がつるつるしているとダメなのかしら。それなら、細かいカットならば入りやすくなる…?」
ティアラさんは考えこんでいる。
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