12.港街で買い物
さて、まだLV20までしばらくあるけど、またうっかりLVが上がってしまうとも限らない。
今のうちに、アイテムが半端に余らないよう初心者装備を買い揃えておこうっと。
マイルームの箪笥にしまった分もあるのでいったん部屋に戻って、初心者装備を全部しまって…、よし、端数把握。
部屋を出て、屋台広場のベンチに座って、マケボで端数を買い集める。
マイルームで作業してもよかったのだが、ここはベンチの上にパラソルがあって、日陰になっていて雰囲気がいい。ビーチが見えるし、海風は気持ちいい。座ってるだけで観光気分が味わえる。
通りを歩く人々の姿が開放的なので、着込んでる猫はちょっと浮いてるけど。でも脱いだところで毛皮は脱げないしな。
それにしても、ずいぶん高くなったよなあ、初心者装備。もはや1000zでは買えない。
ペチカちゃんなんて、売り時を間違ったと後悔してるんじゃなかろうか。まあ、靴とローブと杖はまだ持ってるだろうから、売るものはあるだろうけど。
3000までは微妙~、と前は思ってたんだけど、あともう少しで買えなくなるし、ポーションと違って出品数も限られてるので、さくっと買っちゃえ。
うーん、ポーションはどうしようかな。『下級蘇生薬』『下級転移石』と考えると確保しておいた方がいいか? 今ある分で十分といえば十分かなあ。こっちも端数が出ないように買って、作る分は作っちゃうか。
いや、でも使う分もあるかな? 20になる前に、MPポーションがぶ飲み農業をしたいとは思っている。LV上げにもなるし。
でも旅行中に上がりきっちゃう気もするし、がぶ飲み農業は無理かも。今は白ラコラ畑だしなあ。
あ、レトの『ポーションポケット』にも、下級ポーションを入れておかないと。
初心者ポーションに比べると、やはり下級ポーションは一気に重くなる。初心者ポーションのありがたみもだけど、重量1000のポケットのありがたみもしみじみしちゃう。
まだ旅行資金は潤沢にあるけど、バンバン散財しそうなのでドンドン稼がなければ。
ひとまず現在の金策鉄板品の『蜘蛛の巣ヴェール』をマケボに置いておく。まあまあ値下がりはしたけど、それでも高値で売れるありがたいアイテムだ。
オシャレアイテムってなんでこんなに安定して売れるんだろうね?と思ったら、クローゼットがあるかららしい。つまりコーディネートで登録しちゃうから、普通の装備と違って何個も予備が必要になるんだって。
『蜘蛛の巣ヴェール』に変わるヴェール系の頭装備が、『裁縫』のオーダーメイド品しかないというのも大きいとか。金があっても縁がなければ買えないアイテムってやつ。
なるほどね~。
魔法玉も売れた分を補充。夜、落ちる前にちまちま作りためてるので、在庫も復活した。
しかし、やはり金策してると万能薬が恋しくなっちゃうな。あのすぐ売れてポンとまとまった金が入ってくる感覚を味わってしまうと…。
『蜘蛛の巣ヴェール』も初心者装備を購入出来る今だけの生産品だから、今後の売るものを考えておかないとな。
楽して儲かるアイテムがほしいにゃんね~~。
荷物の整理をしたら、また『1日漁業権』を買って釣りにいそしんだ。
昨日のような大物との格闘はなく、ほどほどの大きさの魚が釣れて、楽しい。
『ピッグシー』というピンクの魚がよく釣れた。この辺ではよくある雑魚らしい。焼いて食べたり、すり身にしたりする。
あとは『イワッシー』。洒落か? 鰯の仲間ですね。ピッグシーは元ネタがなにかわからんけど、こっちは明らかですわ。ツミレ汁にしたい。
たしか自由都市の生産総合施設には、フードプロセッサーがある。使用にはMPかかるんだけど、あれで作れば楽チンだろう。ツミレもすり身もみじん切りも楽々。
食料品店があったので、醤油と味噌と塩を購入。
ヤマビコさんから「ポーツにおるんやったら醤油と味噌、あと塩も買うてきてくれんか? 後払いで悪いけど」とメールが来てたので、ついでにお土産、というか買出しだ。
そう、海といえば塩だよ、すっかり忘れていた。ヤマビコさんに感謝だ。狩猟祭で在庫は使いきって、あとは以前マケボで買ったハーブソルトもそろそろなくなるところだったのだ。次は自家製ハーブで自作してみたい。
調味料は購入制限がついていて、1人10個までとなっていた。ヤマビコさんの分と、自分の分と、2個で十分ではあるが、インベントリも倉庫も余裕があるしお金もある、またポーツに来るのがいつになるかわからないし、上限まで買っておこ。
なお味噌は合わせ味噌でした。
昆布とかワカメのようなものもあったが、猫は出汁取るのが苦手だし、見送った。出汁で売ってほしい。
ポーツで醤油が売ってるのは海の向こうの国との取引で、こちらでも作っていいよ、て許可をもらってるからなのだとか。そして特殊な妖精?を樽に住まわせて作らないと出来ないので、ポーツの専売特許なんだそうな。
特殊な妖精……麹菌さんだな。
レシピはあるんだけどプレイヤーには作れないので、『召喚』で麹菌さんと契約しないといけないのではとかささやかれてるらしい。
そんなわけでポーツ土産の鉄板、味噌と醤油。地中海どうしたの?
なお醤油とか売ってるけど、ポーツは特に米は推してない。米は別の街の特産で、売ってるけど特に安くはないし品質も普通、といったところ。
自由都市でも米は売ってるしね。猫に炊飯器も使わず焚き火で米を炊くほどの情熱がないから買ってないだけで、そこまで高くもない。
料理ラーニングを経て、やっぱりドサッとしてチン以外のことは猫には難しいと思ったにゃ。無理はしないにゃん…。
あ、屋台で見てたときに赤ワインを買っておこうと思ってたんだった。店員さんに料理用っていったら安めのを選んでくれた。
これでビーフシチューも出来ちゃうぜ。……肝心の牛を狩る予定がまだないけど。
日本酒?のようなお酒もオススメされたので、小さいサイズを購入してみた。
NPC商店って、探してるもの以外のオススメとかあまりしてこないから気になって。何かのイベントアイテムだったりするのかな? まあ、違ったとしてもそこまで高いアイテムじゃなかったし問題なし!
露店広場にきた。
フロントと違ってほどほどにプレイヤー露店もあったので、見て回る。魚が多いなー。それだけ釣りプレイヤーが多いってことか。
魚の鱗が大量に売ってるのは、魚のmobとかが何処かにいるんかな? ざっくり調べた限りでは海中のダンジョンとかなかったはずだけど、船で魚に会うんだろうか?
「これはドロップにゃん?」
「いらっしゃい。それは海フィールドに出てくる魔魚のドロップだね」
売ってるのは日焼けした肌色の眩しい茶髪の女性、人間…じゃないな、獣人だ。狸? 熊? 頭の上の獣耳が丸い。
「海フィールドって船でいくにゃ?」
「そうだよ。学園都市まで船で行けるんだ。個人で船持ってるやつもいるけど、大体は商船の護衛クエスト受けて、船に乗せてもらう」
「学園都市まで船が出てるにゃ? それは知らなかったにゃあ」
「最近、海のボスが討伐されて海路が通じるようになったんだよ。お約束のクラーケンだったね」
「ド定番にゃん~」
お姉さんに断って、手にとってアイテムを見せてもらう。ドドンとはみ出るほど器に盛られた魚の鱗。露店アイテムはまとめ売りされてるとアイテム詳細がちゃんと見えないので、チェックは欠かせない。
これは『七宝魚の鱗』か。レインボーフィッシュのドロップだな。『海魚大全(上)』で読んだ。
この魚はさまざまな色をしていて、それぞれの色に因んだ魔法を放ってくる。この魚の色とりどりの鱗は、アクセサリやボタンなどの装飾品として『裁縫』や『装飾工』が使える素材だ。
「これは通常品質以下、ほとんど低品質と最低品質の詰合せ。初心者のLV上げ用アイテムだね。色もごちゃまぜ、数だけはたくさん入ってるよ」
品質が高いほど大きな装飾品が作れるんだっけ? 品質の悪いやつは、川の小石と混ぜて洗って、角を取って、小さなビーズにするらしい。
この鱗はサイズ的に錬金術に使えそうだし、『裁縫』に使えるならペチカちゃんのお土産にしてもよさそう。あの子も今は街観光楽しんでるし、ジョブランクアップでちょっと懐に余裕も出来たようだ。そのうち生産したくもなるだろう。
「くださいにゃん!」
「はい、毎度あり! 裁縫用の素材なら『魔魚羊の毛』もあるけどどうする?」
「今のはお土産で、猫は『裁縫』はしないにゃん。『魔魚羊の毛』てLV帯はどのくらいにゃ?」
「裁縫LV15~て聞いたよ」
「うーん、全然ダメにゃん。たぶん5にもなってないにゃん」
「ありゃ。もしかして純生産の『裁縫』かい?」
「エンジョイ勢にゃ。スキル構成は謎にゃん」
「ああ、なるほど。なら特に裁縫クランとか紹介しない方がよさそうだね」
「互助会的なやつ?」
「そそ。完全ボランティアみたいなもんらしいけど、初期『裁縫』の純生産で生まれちゃったようなのを保護してるのが知り合いにいてね」
おお、面倒見のいい人もいるもんだなあ。
「あれ、なら初心者向け素材、売っちゃってよかったにゃん?」
「私も詳しくはないんだけど、『裁縫』はスキルツリー?がややこしいらしくてね。ビーズとかを加工するのと、糸や布使うのは違うんだって。両方『裁縫』は上がるらしいんだけど、やはり糸系素材が人気みたいで、こっちは余り気味なんだよ」
「にゃあ…。『裁縫』はややこしいにゃんね」
「装備生産系は話題に事欠かないねえ…」
「余り気味ならまだ在庫あるにゃ?」
まだまだあるとのことだったので、もう2山購入した。1山100個として、300個もあればあれこれお試し出来るだろう。ざっと見た感じ、通常品質もそこそこ入ってるようだったから、お土産は通常品質を見繕って渡して、残りの低品質以下の分を錬金術で使えばいい。
たくさん買ってくれてありがとうね、というお姉さんと別れてまた露店をうろつく。
NPC露店では大量の小魚が売ってたので、これも買ってみた。こういうまとめ売りはだいたい100個から。
「大漁だったのはいいけど、こんな小さいのも山ほど引っ掛かってきちまって、困ってんだってよ。市場でも売れねえからって、こっちまで押し付けられちまった」
ぼやく魚屋が売るのは小さい魚の山で、どれも『チッギョ』らしい。いろいろな魚がいるように見えるけど、全部『チッギョ』。
雑草がいろいろな草があっても雑草、と同じようなパターンか? ある程度育つまでアイテムとしては違いがない、みたいな。名前のセンス、どうかと思うな!
豊作でも畑に野菜を放棄しないように、ここでも豊漁を捨てたりすると漁業の神の怒りを買うと考えられているらしい。
丸ごと煮込んで魚スープにするもよし、魚醤とか魚油とか、あと魚肥とか使い道はなにかしらあるのでは。
なくても錬金術で圧縮すれば雑魚玉とかに……いや雑魚玉はなんか違うな。まあきっとなにかにはなるだろう、たぶん。100個500zなら何が出来ても惜しくない。
あ、従魔のおやつというパターンもあるか。ペンギン?ラッコ? 水族館の愉快な仲間たち的な海の従魔? 飼育が難しそうだから、その辺は召喚獣かもしれないけど。
そういえば、魔魚羊ってなんだったんだろ。魚で羊で毛が取れる? ヒッポカンポスの仲間だろうか。まだ見ぬ不思議な生き物がたくさんいるなあ。
「買ってくれてありがとうよ! 猫さんは観光かい? このあと暇なら、ビーチから入り江の方へ行ってみな! 今日は豊漁だったっていうから、運が良ければいいものが見えるぜ」
「にゃん??」
ビーチから入り江? そういえばまだ砂浜には降りてみてなかったな。海は眺めるだけで満足してたが、もしかして入れる?
「行ってみるにゃん~!」
「おお、気をつけてな!」
危険があるの!? いやいや、きっと定型文だろう。
既に日は傾き始めているのだけど、このあとって言ってたから、今から行けばいいはず。いいものが見れるってなんだろな?
港街ポーツの世界観が迷子になっているのは、海も近いが幽世も近いので文化がごっちゃになっているせい(公式談)。
海辺にありそうなものが全部盛りされているため、ポーツは謎の世界観になってしまった。なお屋台や土産物店は売り物が日替わりなので、和風ボーツと地中海ポーツと魔境ポーツが混ざりあいつつ行ったりきたりしている。
ちゃんとした地中海っぽい街に行きたい人には『水の街アクアラ』などがある。
なお和風っぽい街はまだない。ポーツに和風要素を盛りすぎたからと噂されているが定かではない…。
がっつり続き物ではないですが、5話ほどでゆるやかに繋がります。
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