9.フロントの残したもの
地下遺跡って、遺跡の石垣みたいなのに近づくとたまに吸い込まれるというあれか。ダンジョンではないけど、仕組みはほぼダンジョンという謎の場所。
罠が大量にあって、かなり攻略に苦戦してたそうだけど、第三が出る前に完全攻略がされてたはず?
………。
うん。はい、これ攻略サイトで見たやつ。
地下遺跡ダンジョンの罠とその攻略について書いてある本でした。
有志が人柱というか、死にながら明かしていったらしい道程が解説付で書いてあったわ…。
隠し要素だから罠が鬼畜なのでは?とか噂されてたけど、最終的に辿り着いたら手に入るものがショボかったんでガッカリ仕様と言われていた地下遺跡、ちゃんと解説書があったらしい…。
というかヨハンの職業、斥候だったんだねえ。魔法師って話だったんだが、メイン魔法師のサブ斥候、もしくは逆? だったんだろうか。だから『ロック』も使えたということか。
……地下遺跡についてはすべてを明かせぬまま、探索を終了した。封印されているものがやばすぎる。
あれがいずれ地の蓋を開けて出てくるかと思うと、人である我が身がひたすらに悔しい。おそらくそのとき、私はいないだろう。――
『君がこれを手にしたとき、おそらく私は生きていないだろう』てやつだ!? いやちょっと違うか?
……そのとき私の意志を継ぐものが彼女の傍にあることを願うばかりだ。――
はい。
メインストーリーは残念でしたね……。
本を最後まで読んで閉じようとすると、裏表紙のところに何か書いてある。
『魔力の目で見よ』
魔力の目、てことは『マジックセンス』かな? 早速使ってみると、書庫の中がぼんやりと光る。
お、おお??
これは採取スポット的な何か、な訳はないので、魔力が入ってる本が光ってるのかな? 資料室とかってこんな仕掛けもあるのか。へええ!
感心しつつも再び本に目を落とすと、ぼんやりと文字が浮かび上がっている。
あれ、この文字は読めない……けどなんか見覚えが……あ! 逆さにして読むのか。
この本、やたらと上半分に文字が寄ってると思ったんだ。
『図解を参照して……』とか書いてあるわりに図がないから、後で書き加えるつもりで未完成だった本なのかなとか臆測していたのだが、どうやらこういう仕掛けだったらしい。手が込んでる。
ええと………わあ、教本だなこれ。
途中までは読めたけど読めない。マジックセンスが切れたから、というのではなく、教本部分に差し掛かったら読めなくなった。
どうやらこれはヨハンの作り出した魔法の教本だ。
マジカルシーフ、と本人は自称しているのだが、この魔法を使う斥候技術は、ダンジョンや古代遺跡の探索には必要不可欠だと考えているそうな。
……私の知る技術のすべてを残すことは出来ないが、道標となればと思い、これを残す。
これを覚えれば君もトレジャーハンター!――
表向きの本とずいぶんテンションが違うな??
魔力が少なくても使える魔法って書いてあるから、たぶん魔力を減らせば読めるな。
猫も教本を読むうちにちょっとわかってきた。消費MPが少ない本は、MPが少ない方が読めるのだ。逆に消費が多い本はMPが多めじゃないと読めない。『アンチポイズマ教本』が帽子被っても読めないのは、あれが200MPも消費する重い魔法だからだろう。いつになったら読めるだろうね…。
そろそろ『マジックセンス』が切れるので、効果時間を『拡大』して重ねがけしておこう。…お、読めそう……あっ読めない。もうちょい減らすか。
『ジュエル』を『拡大』して作る。よしよし、読める。レトが欲しがるのでこの宝石はあげよう。レトはマジックセンスが出来ないから読めず、暇らしい。ごめんよ。
……無属性魔法は魔力を実体化して変成させるものが多い。
『パウダー』などはわかりやすいが、あれは魔力を粉にして散らす魔法だ。魔力のまま散るので、魔法が生じる瞬間にかかると魔法に飲まれる。うまく使えば相手の魔法を暴発させたり、こちらの魔法を拡大したりすることが出来る。
このように、無属性魔法は単体では機能しづらく、補助的に使うものが多いのも特徴のひとつだ。――
なるほど、『パウダー』ってそう使うのか。
錬金術で媒介の粉ってのがあるからそれには使えるかな?くらいにしか思ってなかった。でもその為だけの魔法ってのもさすがにおかしいよなあと。七不思議ラビリンスの繭を作ってた粉も、何かの魔法を補助してたりしたんかな?
……この魔法は『フック』。
壁や天井に魔力の鉤爪を作ることで、足場やロープをかける場所を作り出す魔法だ。対象接触。ただしこれは術者本人しか使うことが出来ない。
またロープをかけるのも、『マジックロープ』しか掛からないので注意が必要だ。他人に使わせたいならば、自分が『フック』を打った場所に新たにアイテムでフックをつける必要がある。――
おお、まさにマジカルシーフでトレジャーハンターっぽい魔法。ちょっと便利そう。壁走りとか出来ちゃう? 忍者じゃん。
効果時間は10分、5個作ると先に作ったものから消えてしまう。壁には刺さるというより吸着するため、壁そのものに対魔や封魔がかかっているとくっつかない。
ダンジョンの壁にはほぼくっつくけど、念のため低い位置で試してから使おうね、とのこと。
……落下対策には『インパクト』の他、『パラシュート』、それから『ターゲット』と『テレポート』の組み合わせは練習しておくこと。
落ちると痛い。――
落ちると痛い。
それはそう。
しかし『ターゲット』+『テレポート』、これは発想がなかったな。あらかじめ指定した位置に飛べるのか。いいね!
『パラシュート』は知らない魔法だけど効果の予想はつく。
そういえば『マジックロープ』はアイテムなのか魔法なのか?
…掲示板で検索したら魔法っぽいな。でもアイテムにも『魔法のロープ』があるらしい。ふむ?
『マジックロープ』は猫の売店には出てなかった気がするけど、LVやフラグ管理でラインナップは増えるようだから、また確認してみないとな。セットで覚えておきたい。
応用編まで読み進めると、マジカルシーフは『理力』『魔力操作』をとにかく鍛えろという話で終わった。
『理力』は発動体を使わない魔法の行使で鍛えられるらしい。実戦でやると事故るから普段の魔法で試すように、とのこと。
普段の魔法とは??
錬金術を指揮杖無しで使えるようになった方がいいってことだろうか。いや、でも指揮杖ないと魔法込めるの失敗しそう。金策か、スキル上げか、悩ましいな。
……いや、よく考えたら錬金術に使うより農業に使う方が多いな、魔法。その辺を杖無しでやるようにするか。
『理力』のLV上げについてはまた掲示板で調べておこう。戦士職とかが鍛えてたはずだから、なにか方法があるはず。
もちろん瞑想してくるくる回すのもやるけど、あれは『魔力操作』っぽかったし。
時々『ジュエル』を拡大して宝石を作りつつ、無事読了して『フック』を覚えた。
よし!
これでもうこの本の仕掛けはないな?
元通りに鎖を絡めて、鍵をかける。そして『ロック』。ロックそのものにも暗号を設置出来るみたいだけど、これは番号錠とセットになってるから暗号なしロックで大丈夫なはずだ。
念のため違う数字にしてアンロックをかけてみたけど開かなかった。よしよし。
改めて『マジックセンス』をかけ直して、書庫内の光る本を調べてみると、本の間から『不思議な栞』や『動く文字』というアイテムが出てきた。
え、まさかの採取スポットなの??
『動く文字』は知ってる、本屋さんが集めてるアイテムだ。
これを集めて瓶に詰めておくと特殊なインクが出来るらしい。本屋さんは『製本師』というジョブだそうで、このインクは仕事道具だとか。
錬金術の実験中に出来た『ガラス瓶』がいくつかあったので、これに入れて採取出来た。しかし『動く文字』は摘まむと暴れるし、『ガラス瓶』に入れると更に大暴れする。容量的にはまだまだ入りそうなのに、採取1回分の3文字ほどで1瓶取られてしまった。
瓶が足りなくなったので『試験管』も使ってみたところ、こっちは3回分9文字ほど入った。よかった、ギリギリだが足りた。
やはり硝子の方が上位アイテムなんだなあ、と改めて。
それにしても思わぬものが必要になるな。実験したときだけじゃなく、ちょいちょい予備も作っておいた方がいいかもしれん。
『動く文字』は本につく虫と同じようなもので、またそれよりも厄介なものだそうだ。
本のある場所ではインクに魔力がたまって動き出すことがあり、これがそのうちに本の頁を蝕んで欠落させてしまうらしい。そして抜け落ちた頁は収まる場所を探してさまようようになるのだとか。
本屋さんできいたとき、図書館ダンジョンにいるっていう紙切れのmob、『エフェメラ』ってもしかしてそれなのかもって思ってたんだよね。郵便物じゃなくて儚いものって意味の方だったのかもね。
『不思議な栞』は落ち葉の形をしていたり、四つ葉のクローバーっぽかったり、あるいは絵が描かれて型抜きされたカード?だったりさまざまだ。いろいろあるけど、全部まとめて名前は『不思議な栞』となっている。
こっちは本から出てくるという妖精?の『ブックマック』と関係があるんだろうか?
栞については本屋さんでも聞いたことないなあ。
挟まっていた頁や本も見てみたけど、特になんということはない初心者向けの本だった。
一応挟まっていた本と頁をメモしておき、行政施設の受付に渡してみることにする。これが忘れ物でチェーンクエストになる可能性もなきにしもあらず?
「ああ、『不思議な栞』が出来てしまってましたか。資料室もそろそろ虫干ししないといけませんね」
「にゃん? 栞は出来るものにゃん??」
「本は閉ざされた扉ですから、そこが異界に繋がることがあるのですよ。栞は異界への扉が繋がりかけている目印ですね。そこに新しい頁が生まれようとして、紙片となるのです」
「栞に釣られて開いたら異界の扉が開くにゃん?」
「いえ、栞が見える内にむしろ取っていただく方がいいんです。完全に本の1頁となってしまうと本が改編されて、異界の住人の住みかにされてしまいます」
「それって『ブックマック』のことにゃ?」
「そうです。かの学園都市の図書館ダンジョンは、そのようにして図書館ごと異界へ飲み込まれてしまった場所だと伝えられています」
おお…蔵書の管理不行き届きで図書館がダンジョンになっちゃうの? うちの本棚も気をつけないといけないんだろうか。
「この『不思議な栞』はどうしたらいいにゃ?」
「コレクションとして集めている方もいらっしゃいますので、そういう方にお譲りになられたらよろしいかと思います。もし面倒であれば、こちらで処分いたしますが」
「返却の必要がないならもらっておくにゃん~」
もしかしたら本屋さんがコレクターかもしれないし。
それにしてもインクが本を乗っ取って頁ちぎったり、本自体がよその世界から乗っ取られて頁が増えたりと、本を取り巻く環境が不穏だ。
自由都市に帰ったら、各資料室も『マジックセンス』で見ておかねば。司書さんとかいるし大丈夫とは思うけど、気になる!
・ヨハンの書(表)は既に何人もに読まれているが、やはり何人もがそっ閉じして見なかったことにしている。だってこんなのあるなんて、ノーヒントで挑んだ人たちが気の毒じゃん…。
・マジカルシーフは今のところ残念ながら自称に過ぎず、ジョブはない。第三で何かあるんじゃない?そろそろヨハンの故郷とか出てきてもいいんちゃう?とマジカルシーフ先輩たちは探している。なおマジカルシーフでいいんだよ派と、いや俺はニンジャになる派がいる。
・製本師はプレイヤーもなれる生産職。読み専の猫はフラグをスルーした。(気づかなかった)
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