7.冒険者の街と瞑想
それからは特に何事もなく、ぽくぽくと廃都に到着した。荒廃した都の跡地だ。
中心部となる巨大な林檎の切株の燃え跡――初期のイベントによって燃え落ちたらしい――を観光がてら眺めた後は、西へ。
そして『冒険者の街フロント』に到着。
ここが廃都エリアの北端。みんなここから自由都市へと旅立ってきたのだ。
街の門を潜るとアナウンスが聞こえた。
『おめでとうございます。新しい都市に到着しました。SP10とプレゼントボックスを入手しました』
SPやったぜ。
ジョブランクを上げるとスキルがどんどん出てくるから、あっという間にSP貧乏になるってことが私にもよくわかってきた。
ボス戦でももらえてまたちょっと余裕出てきたけど、油断するとすぐ消えそう。まだ見習いの取れてないジョブがたくさんあるんだもの。
でもこの感じだと、学園都市に行くとまたSPもらえるのかな? 楽しみにしとこ。
あとはルイのLVが上がった。騎乗用従魔の長距離移動経験値だ。
ボスでLV上がって、更に次のLVまで半分くらいまで経験値貯まってたのもあるけど、それにしてもかなり多め。やったぜ。
ひとまずはギルドへ行って、ホームポイントの更新。これをしないとここで依頼が受けられない。
冒険者ギルドの依頼だけだから、無視しても問題はないらしいけど、周辺の探索がてらクエストも見ておきたい。
さくさくと手続きしてホームポイント更新。これで『リターン』で戻る場所は『冒険者の街フロント』になった。転移ポーションで自由都市行ってもすぐ戻ってこれるようになったわけだ。…まだ『リターン』覚えてないけど。
MP減らしてまた実験してみなければ。
フロントは冒険者の街だけあって、とにかく冒険者ギルドがでっかい。自由都市のギルドも大きいけど、同じくらいありそう。
『投擲』覚えたから狩人ギルドに登録したいぞ。売店に何があるか知りたいし、資料室も見たい。
『見習い狩人』になった。
……えっ、資料室がない?? そんな馬鹿な!?
冒険者ギルドの資料室としてまとまってるってこと?と思ったらこの街にはギルド内の資料室はないようだ。
小さいけど、図書室っていう施設が別にあって、本はそこにしかないのだとか。
そういえば、学園都市が出来るまであまり本が読めなかったって言ってたっけ? あれは書庫が暗くてって意味だと思ってたけど、本自体が少なかったのか。
さっさと『リターン』を覚えて、自由都市で狩人ギルドの資料室を見たくなってしまうな…。絶対図鑑系あると思って楽しみにしてたのに!
売店はデバフ弾含むブリッツと、あとデバフ矢含む各種矢、弓やスリングショット、それから罠と、まあ予想通りのラインナップ。
もうひとつの売店には矢筒や弾専用のポケット装備、あとは狩猟用手袋などの『射撃』『投擲』に補正のつくアクセサリー。
家具は『射撃用の的』などが売っていた。マイルームで射撃のLV上げ出来るのかな? それともただのファッション家具か? 値段からすると前者の気もするけど。
いろいろなものがあるなあ。
それから、ルイで移動すると道中暇になることがわかったので、今後のために魔法師ギルドへ教本を買いにいく。
まだ読んでない本はあるけど、暇に飽かせて読み終えちゃうかもしれないから先にまとめて買っちゃお。マケボで見たけど売ってなかった。
ということで各属性の、5MP消費のいちばん簡単な魔法の教本を1冊ずつ、各1万で15万z。ドドンと買っちゃう。わはー。高いけど、必要経費よ。
あ、そうだ。受付さんに聞いておこう。
「魔力を保っておく方法とかってあるにゃん?」
「魔力を保つ、ですか?」
「教本を読むときに、たぶん魔法を放つ以外で魔力を外に出しておく方法があるんじゃないかと思うんだけど、そういうのってないにゃん?」
「教本を読むときには『瞑想』と『魔力操作』、それから『トランスファー』を使用しますね」
「『トランスファー』? 人に移すにゃん??」
「いいえ、『水晶玉』に」
『水晶玉』は魔法師ギルドで買える家具だ。
何に使うのかと思ってたら、そんな用途が。道理でお高いわけだ!
『水晶玉』が魔力を入れられる家具だって話自体は、掲示板で見たことがある。
何かの動力として使うとか? そのうち工房系と接続出来る家具が出てくるんじゃ?て話になっていて、たしかに工房系の家具は魔力を吸うものも多いからなるほどな~と思って、そこに結び付いてなかったわ。
「本来はトランスファーを使って魔力を引き出したあと、頭上で魔力操作をして球体を回しながら教本を読む…というのが古式ゆかしき作法だったのです」
「そんな作業してたら頭に入ってこないにゃん?」
「はい、難易度が高すぎました。そこで『水晶玉』を使って簡易にその状態を再現できるようにしたそうです。…もちろん、出来るなら瞑想しながら球体で回す、というのはやった方がよいのですが」
「出来たらいいことあるにゃん?」
「魔力が増えると言われていますね」
MP増強の修行か~~。
「猫みたいに種族的に魔力が少なくても希望があるにゃん?」
「魔力総量は増えずとも、魔力操作の技術が上がれば相対的に使える魔法の回数は増えますから、やらないよりはやる方がよいかと」
「にゃん…」
たしかに『魔力操作』が上がると、消費MP軽減のアビリティが出る。だから魔法師以外でも早めに取る方がお得なスキルだったりするのだが、うーむ。
「『瞑想』はどうしたらいいにゃん?」
「リラックスして目を閉じて座り、魔力の流れを感じることで瞑想出来ます。なるべく自然の中で、満月の夜に行う方がよいと言われていますね」
たぶん取得条件の説明だと思うけど、なかなか難易度が高いなこれ。夜が条件なら庭じゃ駄目みたいだし。
月夜を探す野営はまたするから、そのときに試してみようかな?
「もしよろしければ、瞑想室を利用することも出来ますよ」
「そんな部屋が!?」
なんでも擬似的に月夜の平原を再現した部屋があるのだそうな。遺跡の機構を利用したもので、言うなれば小さなダンジョン。
…え、そんなん大丈夫? なんかイベント起きたりしない?
気になったけど借りることにした。
「1回15分、1000zになります」
お金かかった。まあいいか…。
魔法師ギルドの二階へ案内されて、瞑想室へ。これ、自由都市にもあったのかな? それともこっちだけなのか。自由都市は都市内にダンジョンとかなさそうだし、あるとしたら学園都市の方かも。
中へ入ると少しひんやりとした空気と、暗闇。夜風に似た冷たい風に、草と緑のアロマ。ほの明るい蛍のような小さな光が上下していて、その足元に敷物があるのがわかった。
敷物の上に座って、目を閉じて、ええと??
魔力を感じる?? え、どうやって?? とりあえず『マジックセンス』かけとくか。
それで、そう、『トランスファー』だ。
『トランスファー』を使うと手のひらに現れるものがある。なんかぽよん、としたつるつるすべすべした水まんじゅうのようなもの。もちもち。なるほどこれが魔力…。
これを頭の上で回す……いやいや難易度高すぎだろ。そもそも浮かばないぞこれ。なんかもったりして重いもん。
回す、回すのなら出来るかな? え、回す? もったりしてもちもちで、やわらかくてデロンってするこれをどうやって回せばいいんだ??
魔力操作、魔力操作? ってどうやるのさ!?
捏ねる…いや、ちがうな。モチモチがくっついてしまう。くっつかないように、ええと? とりあえず手の上に乗せたまま、上に手を乗せてくるくる…、回らんな。両手で挟むようにしてくるくる、くるくる、細長くなってるけどまあまあ回ってる?
挟む力が強すぎるんだろうか。うーん、ぐにょぐにょ…。
…お、これもしかして浮いてる? 回してるとちょっと浮いてる!
ポーン、と音がして15分経過したことを教えてくれる。
……。
途中から目を開けてたから瞑想じゃなかったかもしれん。
外へ出ると眩しくて思わず目を閉じる。
『取得可能一覧に『瞑想』が追加されました』
どうやらちゃんと瞑想だったらしい。
『瞑想』10SPかー。うーん、どういうスキルなのかいまいちわからないし、SP取得はしないかなあ。
ラーニングは出来るんだろうか。どこまでいけたらラーニング? 頭上は難しすぎると思うけど、球体で回す、くらいならまだ頑張れそうな気がする。
「お疲れさまでした、いかがでしたか?」
「ちょっと掴めたような気がするにゃん~。瞑想は部屋の中じゃ効果が薄いにゃ?」
「部屋の中でも、もちろん効果はありますよ。慣れない内はどうしても魔力を見ようとしてしまうから、暗闇で行うのがいいと言われています。外がいいのは風があるからだそうですよ」
風を感じることで魔力の動きがわかるから~とかそんな感じらしい。
家具売店を改めて見る。
『水晶玉』『小さな絨毯』『遮光カーテン』…魔法師売店の雰囲気家具と言われていたあれこれはこのためのアイテムだったのかもしれない。
とりあえずお手ごろ価格だった『遮光カーテン』『小さな絨毯』は買った。水晶玉は高いのでお預け。
あ、そうだ。フーテンさんを人柱にしよう。
『魔法師ギルドの怪しい『水晶玉』を買ってほしいにゃん~』
『家具は人に譲渡出来ないにゃん~。キャッシュでいい?』
『猫のことタカりだと思ってるにゃん?? 受付さんに聞いたら、『水晶玉』に『トランスファー』すると魔力が預けられる?らしいにゃん? 教本読むのにうってつけにゃん』
『その手が!!??』
『あと頭の上に魔力の球を浮かべて高速回転しながら教本を読むにゃん』
『なんて??』
『教本を読むときの古式ゆかしき作法らしいにゃん。廃れたにゃん』
『でしょうね~~~』
『人柱よろしくにゃん~~』
『水晶玉は実は持ってるから試してみるねえ。ありがと~~』
持ってるんかい。まあちょうどよく有効活用出来るならいいか。
猫は今の倉庫部屋――寝室に『遮光カーテン』つけて、『暗源』『微風』かけて瞑想試してみようっと。『小さな絨毯』くらいなら隙間におけるはずだ。
あ、あと発動体指輪を買おうと思っていたんだった。
…え? ここには売ってない? 自由都市ならある?? しょんぼり…。
思わぬ散財をしてしまったが予定していた散財が出来なかったのでトントンだ。すべてよし!!
魔法師ギルドを出てから掲示板を調べてみたけど、『瞑想』はじっとしていると自然回復量(HP/MP)が上昇するスキルだって。教本学習と相性悪くない??
ラーニング条件は目を閉じてじっとしている(寝てない)時間を合わせて6時間過ごすこと。1回15分の瞑想なら24回。
魔力を回す話は乗ってなかったので、どうやらそれは瞑想とは別の問題らしい。『魔力操作』の話もしてたし、LV上げの方法だったのかも。
たしかに『トランスファー』を捏ねてる間はMP自然回復してなかったようなので、魔力を引き出しつつ捏ねて教本を読むのは有効そうだ。なんでも聞いてみるものだね。
さて、それでは街の散策へ。
新しい街へ到着!
『瞑想』は取ってしまえば目を閉じてなくても回復が早まる良スキルだが、狙って取ろうとするとかなり時間がかかる。
ただボケーッとマイルームで転がっていたい…求めているのは癒し…というタイプは簡単に取れる。特にモフ系従魔や召喚獣を持っている人に多い。
なお瞑想室を利用すると習得までの時間が早まるし、『瞑想』のLV上げも出来る。金でSP(と経験値)を買う機構。
評価、ブクマ、イイネ、感想ありがとうございます。




