1.旅の準備
「旅に出ようと思うんだけど、野営ってどうしたらいいにゃん?」
冒険者ギルドで聞いたら「マレビトでそれを気にされる方は珍しいですね」と驚かれた。しかし野営用道具はあるそうで、店を紹介してもらった。
高いような、こんなもんなような。野営用のテントは、マケボでも露店でも売ってなかった。置いても売れるようなアイテムじゃないから売ってないのか、そもそも流通量が少ないのかどっちなんだろう?
まあ必要なものだし、と一人用テントを購入。休むのはセーフティエリアだし、寝てる間に襲われたりはしないらしいので、寝床としての設備さえ整ってればそれでいい。
かつて焚き火料理をしていた名残で三脚やら鍋やらはあるし、野外飯も出来る。あ、でも椅子はあった方がいいな。露店でも使えるし、小さめのを買おう。執事さんのように優雅な椅子じゃなくて構わない。
折り畳みではないけど簡易な椅子とテーブルのセットを購入して、アウトドアの準備は万端。
マイルームがあるから野営の必要がないことはわかっているが、『ムーンキャッチ』などのアイテムや召喚妖精の青月夜など、今後夜に外に出なければならないこともあるだろう。旅のついでに、ちょっと練習をしておきたい。
今回の旅は『廃都』の『はじまりの街ルイネ』まで。
廃都はかつてルイネの林檎の木があって栄えた都の跡地周辺に、五つの街がある。それを全体的に指して『廃都』と呼ぶ。本当は違う呼び名があるんだけど、プレイヤーの認識的に「あの辺が廃都エリア」という感じ。
大きな遺跡のそばにルイネアの街…というか大規模な村がまずあって、サービス開始当初はプレイヤーの初期位置はみんなこの村だったらしい。
いわゆるはじまりの街、というやつで、名前もそのまま『はじまりの街ルイネ』だ。
村の割に各種ギルドの出張所が揃っている。一ヶ所にズラッと並んでいるので、スキルのギルドを網羅するなら自由都市よりわかりやすいらしい。とはいえ、第二エディション以降で追加されたジョブには対応していない。出張所が新たに増えたりはしなかったそうな。
ちなみに牧畜、錬金術などは第二エディションからの追加だ。マイルームが出来たのも第二からって聞いた。第一から第二エディションはそれほど間が空かなかったらしいけど。
第三は久々の大型アップデート。新しい都市が出来てダンジョンが大量投下されたことがまずいちばんの変化だ。
それから上位職の選択肢が増えたこと、お使いクエストが出来てLV20まで楽にあげられるようになったこと、この辺が公式から告知されていることで、その他については「自分で探してね」のスタイル。
閑話休題、はじまりの街にはだいたいのものが揃っているが、アップデートで足されたものについては弱い。これは廃都エリアでは共通の仕様。
廃都エリアにあるのはこの『はじまりの街ルイネ』以外に『鉱山の街ドゥーア』『技術の街アルテザ』『港町ポーツ』『冒険者の街フロント』。
『鉱山の街ドゥーア』は最初のダンジョンがあり、鍛冶の施設がある街だ。
そもそも廃都エリアでは『総合生産施設』はなくて、それぞれの街の特色に合わせた施設だけしかなかったそうな。
特色のない『はじまりの街』では『料理』や『調薬』、『木工』『革工』の簡易な設備があるだけらしい。設備といっても、煮炊き用の竃と流し場(屋外)とか、野晒しの小屋みたいな感じだそうで、利用は無料だが薪は自分で用意する必要がある。
鍋や包丁などは借りられるが、そこまで多彩な道具は揃っていないし、直接利用できる売店もないそうな。小屋についても同じで、基本的な道具と場所が借りられるだけ。
そんな感じなので『鍛冶』『ガラス工』『陶芸』などの炉を使う工芸は、『鉱山の街ドゥーア』に来るまで行うことが出来なかったんだって。
初期の生産職には、次の街へ辿り着くまでが果てしない試練だったとかなんとか…。
お察しの通り、『技術の街アルテザ』は『裁縫』『木工』『革工』系列の街で、こちらもここへ来てようやく裁縫が出来るという感じだったようだ。
サービス開始当初は選べる初期スキルは3、種族スキルが2の合わせて5と少なく、生産職は生産職、戦闘職は戦闘職と結構はっきり別れてしまっていたそうで、その辺からすでに確執があるらしい。根深い。たしかにスキル5個だと半生産とか難しいよな。
しかしある意味、運営はこの頃から半生産を推奨していたともいえる。
『港町ポーツ』は海のある街で、『釣り』も出来るし船も乗れる。それから『料理』『交易』などはこの街が本拠地。
『冒険者の街フロント』は言わずとしれた冒険者の本拠地だ。各種生産の街で作られ、ギルドに納められた品々がポーツの商人たちによってここで売りさばかれたりしていたそうな。
最初はNPCがその役割をしていて、徐々にプレイヤー商人が出てくるという流れだったらしい。メインストーリーの派生でそういうクエストがあったんだって。フーテンさんもその流れで商人になったのだろう。
ちなみに『冒険者の街フロント』には総合生産施設の劣化版のような施設がある。『はじまりの街ルイネ』よりはマシだけど、自由都市の生産施設には数段劣る、というような感じらしい。
自由都市の便利な総合生産施設が初期から使えた猫は恵まれていたんだなあ…。
伝承にある『廃都』は、どうやらめちゃくちゃでかい都市だったらしい。その巨大な都市の遺構を利用して各街が点在しているため、街を繋ぐ道はしっかり刻まれている。だから街道があって、移動は分かりやすいんだって。魔物はそれなりに出るけどね。
街の外にも遺跡が点在していて、石とかあれこれ採取出来るが、一部は地下遺跡ダンジョンへの入口になっているため吸い込まれないように注意が必要、とか。
ざっくり情報収集したところ、そんな感じだ。
猫の予定としては、とりあえずぐるっと各街観光して、あちこち採取したりうろうろして、ドゥーアのダンジョンでコボルトをスカウト。あとは『ガラス工』の本拠地(?)もドゥーアにあるので、ビー玉を仕入れたい。各街にも露店通りはあるようだから、買取露店もしたい。
そんな感じでいるので、行きの旅程も含めて2週間くらいかな? 廃都エリアに滞在予定だ。
帰りは転移ポーションでさっさと自由都市へ帰るつもり。なのでLV20には上がらないようにしたい。上がってしまっても『下級転移石』や転移ポータルはあるけど、高くつくし。
行きも転移石で行っちゃってもよかったのだが、やはり旅もしてみたいもの。
まあ、途中でも転移ポーションで自由都市とさくさく行き来は出来るだろうから、初心者のうちは気楽な旅よ。
そういえばフーテンさんから送られた受付さんセレクトの教本セットに、転移やら帰還の魔法も入ってたんだっけ。後で調べて、読み込んでおかねば。
気楽な旅とはいえ、初めての遠出である。
旅の無事を祈って、これまで来たことがなかった神殿にも参っておくことにした。
自由都市の神殿は合同祭祀で、いろいろな神さまがごっちゃに奉られている。
一応メインは幸運神だけど、この神さまが大変おおらかな神なのでウェルカムオッケーオッケーて感じで自分の社にいろいろな神を招き入れて現在に至るとかなんとか。ほんとか??
おおらかな神の社だからなのか、神殿は門をくぐると広々とした庭園になっていた。ぐるりと高い壁に囲まれてたからわからなかったけど、こんもりと木が生い茂る小さな森まであるみたいだ。鎮守の森? 都市の中にこれだけの敷地を取って森と庭園を維持してるとは、神殿ってすごい。
ルイもレトも、特に断られたりせずむしろ歓迎される。従魔や召喚獣が加護を得られることもあるそうだ。神はなにものにも平等であらせられる、とな。
お使いクエストのミミット博士は受付からちょっと離れた棟にいるようなのでまずそっちへ回って、クエストを消化。
ミミット大行進もう見ちゃったし、攻略法(卵と桃探し)も掲示板でうっかり履修してしまったので目新しい話はない……、と思ったら、ミミットって卵生だから刷り込みインプリンティングがあるとか言い出してちょっと面白かった。
ミミットの巣穴には希に卵が残されていて、これを持ち帰って暖めるとミミットが生まれる。人の手で孵されたミミットは特殊個体になることが多い。他の卵生種と同じく親から魔力を受け取っている説があり、つまり温めたものの魔力を受け継ぐのでは、と言われているそうな。
博士の口ぶりからするとこの親の魔力って、属性というより、なんだかスキルっぽい。卵を拾ってきて孵すとスキルが受け継がれるの? 錬金術ミミット爆誕?
うーん、めちゃくちゃ気になるけど、ミミットは趣味従魔。猫は戦闘出来る従魔をスカウトしたいから、もし試してみるとしてもその後かな!
次のお使いクエストはミミットを10体倒して報告という討伐系。旅の途中でクリア出来るだろう。
さて、お参りだ。
まっすぐ進んだ先にある豪華な建物が本殿、その周囲に拝殿がある。参拝者が入れるのは拝殿までで、本殿に置かれた神像を見上げつつお参りする形式だ。
拝殿入ってすぐの正面には、メインの幸運神の像が置かれている。恵比寿さまっぽいふくふくしたおじいちゃんの像だ。
本殿にはさまざまな神像が奉られている。ポユズさんが信仰してる狩猟神は、女神と狼の像なんだって。見るの楽しみ。
本殿以外にも、庭園の中にも神像が立っていたり、小さな祠が建てられたりしていて、それぞれに神を祀っているらしい。
参拝者はまず、中央拝殿で幸運神をお参りする。そして時計回りに東拝殿を回り、庭園を巡り、西拝殿を回ってぐるりと一周、中央拝殿へ戻ってくる。
これが神像巡礼のお作法だ。
なんでも、神像や祠を順番にぐるりと参っていると、神像が光ったり話しかけたりしてくるらしい。神官にはならないまでも、加護がもらえたりするんだとか。ちょっと楽しみ。
加護を授けるのは行いに応じて、と言われるが、神によって加護の重さが違うので、チョロい神と手堅い神がいるらしい。
幸運神はなんでもオッケーすると思いきや、加護は手堅い方とか。
加護をもらえるとしたら、豊穣神とか、あと商いの神でもある幸運神、それから本の…というか知識神、とかもいいかな!
神像巡礼の際には、片手もしくは両手を胸に当てて黙礼してお祈りというのがお作法。というのを神殿の祭司さんに習いました今。そしてアクションとして『お祈り』を入手した。
お使いクエストが未消化なばかりに初アクションが『お祈り』になってしまった。いいですけど!
アクションは動作判定のあるイベントを確実に消化するのに有効だ。例えば今回だと、自分ではお祈りをちゃんとしたつもりだったけど、動作判定的にお祈りになってなかった、というようなミスが発生するかもしれない。それを避けるためにアクションがある。
神さまへのお祈りをアクションで、と思うとちょっと不敬な気はしてしまうが、アクションすると『ランはお祈りした』のようにログがしっかり残るので、お祈りした感(?)は逆にアクションの方がある、ような。
お祈りの作法を習った後は、巡礼の捧げ物について。
基本的にお賽銭とかは必要なく、手ぶらでよい。ただ、どうしてもこの神さまの加護が欲しい、というときには捧げ物をしてもよいそうだ。
祈りが通じて神が加護を授けるならば、捧げ物は消える。祈り終えても消えない場合は、精進が足りなかったということ。消えなかった捧げ物は放置せず、必ず持ち帰らねばならない。
捧げ物にすると品質が最低まで落ちてしまうそうなので、数撃ちゃ当たるってわけにもいかなさそう。
いざゆかん、神像巡礼!
2章が始まりました。
目指せ『始まりの街ルイネ』。
1章では石拾い出来る場所程度にしか出てこなかった廃都エリアを旅します。石拾い以外も出来るよ!
ミミットに限らず、巣穴から卵泥棒をして従魔を手に入れるのはわりと正攻法。この方法でしか使役できない魔物もいる。
猫が察した通り暖めたもののスキルが受け継がれるが、もちろんそううまくはいかないものである。
そこで問題になってくるのがいわゆるハズレ雛の放棄問題だ。ガチャ感覚で卵を孵化させてハズレなら『野に帰す』のってアリなの、ナシなの? ゲーム的に出来るんだから問題ナシ派と、孵した雛の責任は取るべき!派がおり、孵化スレはいつも熱く燃えている。
なおゲーム的には問題ないが『野に帰す』と同種の好感度が一律ちょっと下がる仕様。上がらなくなるわけではないので、甘んじて下げて野に帰す人も多い。ちょっとずつ帰すより、一息に帰して好感度0からやり直す方が楽とかなんとか。
野に帰したくない!でももう従魔の数がいっぱいです!そんな人のためにあるのが『牧畜』である。従魔同士を繁殖させて君だけの従魔を作ろう!
何世代もかけたりするので道のりが果てしなく、別ゲーと言われたりする。ライフ系スキルは得てしてそういうものである。
もちろんお肉などを出荷する『牧畜』もある。
これを書くためにちょっと読み返してて気づいたんですけど、19話で「召喚ギルドと牧畜ギルドは次話で回ります」ていっておいて、牧畜ギルドに行かずにギルド巡り終わってますね。……そういうこともある(予告詐欺ごめん)
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
表記ゆれや設定ミスの報告も助かっております。ありがたや~。