39.初心者還元・後
「学園都市に何か用事があるにゃん?」
「初心者向きのダンジョンがあるって聞いたので、ここにいるよりそっちのがいいのかなあって。でも私が行ってたところが初心者向けじゃなかったなら納得なので、南平原?に行ってからまた考えてみます」
「それがいいと思うにゃん。学園都市は周辺フィールドの適正LVが高めで、ダンジョンでLV上がるまでお外は出られなくなるにゃん」
「そうなんですか!?」
「フィールド型ダンジョンもあるし、いろいろなダンジョンがあるから外出られなくても飽きないって話もあるけど、やっぱりダンジョンじゃなくて外行きたいからって金策して自由都市来る初心者も多いみたいにゃんよ」
掲示板情報だけどね!
「ダンジョンってたしか、セーフティエリアでもマイルーム帰れないんですよね。うーん、荷物も休憩の問題もあるし、たしかに大変そうです…。前に鞄アイテムを売ってるお店があったんですけど、ああいうのもダンジョンだと真価を発揮するんでしょうね」
たぶんそれはオシャレアイテムとして鞄売ってたフーテンさんの露店じゃない? それ以外で鞄売ってる露店なんて、猫は見たことない。
鞄って、マイルームが出来てからはかなりマイナーアクセサリらしいし。
見直す向きもあるとはいえ、周辺にダンジョンがない自由都市では、やはりマイナーなんだよね。
「採取持ってると鞄はあると便利にゃんね~。アクセサリ枠の埋まらない初心者の頃にはおすすめアイテムにゃんよ」
さりげなくフーテンさんの露店を推しておこう。
扱ってるのは容量の少ないオシャレ鞄だけだった気もするが、フーテンさんのことだから容量の大きい鞄も在庫にあるやろ。
「このネズミちゃんも鞄つけてますけど、従魔も鞄を持てるんですか?」
「従魔の鞄装備は、基本はファッションにゃん。使役主が『運搬』スキルを持ってない限り、従魔にインベントリは開かないにゃんよ」
「『運搬』スキル…」
「SP余ってると気の迷いが出やすいにゃん。ちゃんと情報集めてからスキルは取るにゃんよ~」
「はっ。はい、それはもちろん!」
わりとぐらついていたな、さては。
「……実は今、かなり行き詰まってるので、何か新しいスキル取りたいな、て考えてたんです。でもこういうのって初心者の頃だけやたらポイント余るけど、手当たり次第使うと後で悔やむやつじゃないですか。だから慎重になろうと思って、スキル欲しくなっても、三日は悩むことにしてます」
意外と堅実!
「何かこれいいよ!ていうオススメのスキルとかあります?」
「そんなざっくりしたことを言われても困るにゃん~」
「ですよね…!」
「にゃん~生産は何か取ってるにゃん?」
「『裁縫』を取ってます」
おう…、この子、どこまでも茨道走ってるな。
『裁縫』は装備を作ろうとするとスキル回しが厳しくて、純生産か、裁縫仲間で集まらないと作れないとまで言われている。装備製作までいかないと金にならないので、金策としては非推奨。
『鍛冶』ではわりといる中間素材だけを作る半生産がほとんどいないため、一から全部作らなきゃいけなくて大変、というのが『裁縫』界隈らしい。
中間素材が高く売れるなら半生産の『裁縫』人口も増えるんだろうけど、『鍛冶』と違って初心者が採って作れる裁縫素材は、それほど高く売れない。
『鍛冶』は『採取』と『採掘』スキルが両方いるけど、『裁縫』は『採取』だけでいいから、とか言われているがその辺の差はよくわからない。
「それはまた、厳しいにゃんね…」
「そうなんですよねえ…。だから他の生産取ろうか、それとも戦闘スキルを取った方がいいのかも迷っていて」
「難しいところにゃん~」
それは猫も迷ってるところだからなんともいえんなあ…。迷っちゃうのわかる~。
「あの、スキルじゃなくても、猫さんのオススメの金策…というか、これなら買うよーみたいなのってあります?」
「猫は見ての通り、最低品質の素材と、ビー玉の買取りをしてるにゃん。他は今のところしてないにゃんね」
「ビー玉ってなんです?」
「『ガラス工』で出来るアイテムにゃん」
「『ガラス工』…、以前、アクセサリ販売の露店を見たことがあります」
「くまのぬいぐるみ店主のところなら有名なガラス工さんにゃんね~」
おなじみティアラさんである。
「ガラス、も良さそうですね…」
「ガラスの材料は砂って聞いたから、たぶんこの辺の素材じゃないにゃん。場合によっては移動も必要になってくるにゃんよ~」
「な、なるほど、そういうのもありますね」
この子、見た目はすごくしっとり系というか銀髪ストレートの色白さんで、おしとやかな感じなのに、すごく行きあたりばったりで生きてる…。
猫も人のこと言えないけど!
「猫のオススメはとりあえず、戦闘も生産もスキルもおいといて街巡りにゃん。特にギルドの資料室は行っておいて損はないにゃ」
「資料室ですか?」
「場所によっては司書さんもいるから、こういうのを知りたいって聞くとオススメの本を教えてくれるにゃん。魔法師ギルドの司書さんは親切だから特にオススメにゃん~」
「わあ! そういうのなら世界観を壊さず情報を仕入れられて、よさそうです! というか、冒険者ギルド以外にも、戦闘職のギルドってあったんですね!」
???
そ、そこから!?
え? 魔法師ギルドとテイマーギルドは並びにあったよな…?
いや、冒険者ギルドと商業ギルド以外はたしかに小さい建物でわかりづらいか……?
あと他の戦闘職のギルドは冒険者ギルドの中にあって、2階とか3階とかだし、わかりづらいといえばわかりづらい?
いやいや、自分の持ってるスキルからジョブを登録して身分証を発行するって話は門番さんから出たはず?
あれ、スキル毎にギルド登録できて、ジョブ切替も自由に出来るっていうのはどこで出た情報だったっけ…? あれえ??
メインは冒険者、サブは裁縫師って思ってたら他のギルド登録しなかったのもわからないでもない……、いや、はたしてそうか??
この子めちゃくちゃ縛りプレイしてたな!?
とりあえずテイマーギルドと魔法師ギルドの場所を教えて、あの並びをギルド通りといい、ギルドがぎゅっと固まってるので、自分の持ってるスキルのギルドがないかくまなく探してジョブ登録するようにと告げた。
「ジョブはセーフティエリアなら自由に切替が出来るにゃん。ステータス補正にも関わってくるし、それぞれのジョブでランク報告をすれば、経験値もお金も入るにゃん。テイマーギルドでは『牧草』も買えるし……、今までどこで牧草を買ってたにゃん?」
「マケボで……」
「にゃあ……」
高いやつ買ってたかー。
さすがにがくっと項垂れてしまった少女だったが、ぐっと手を握って顔をあげた。
「う、うう、でも、今日知れてよかったです!」
前向き!
「にゃん~、戦闘は魔法で、なるべく回避しつつ戦ってる感じにゃん?」
「そうです。さすがに体で受け止めるのは怖いので、逃げ回りつつ魔法って感じですね」
「なら猫が使わなかった装備をあげるにゃん。回避を上げる初級の上着装備にゃ」
死蔵していた『羽衣』を出すと、少女はわたわたと両手を振った。
「いやいや、さすがにもらえないですよ! いろいろ教えてもらって、お金も、売れるアイテムも全然ないですし…」
「猫は別の上着装備を着ているから、これを装備する予定がないにゃ。でもこれは人によっては中級までお世話になるいい装備って聞いたにゃん」
「でもそれなら、高く売れるんじゃないですか?」
「実は一個だけの装備アイテムって売りにくいにゃん。マケボに置いてもマイナーなアイテムはなかなか売れないし、露店で売ると値下げ交渉とかが煩わしいにゃん~」
まあそれが予想されるから、猫は今まで装備品を露店に置いたことないんだけども。
「な、なるほど?」
「かといってNPC売りするにはもったいない装備にゃん。いわゆるプレイヤーとNPCで価値が違うアイテムってやつにゃん」
「MMOあるあるですね」
「猫も初心者の頃(今もだけど)露店でお世話になったから、適当な初心者を捕まえて安く売ろうと思ってたにゃん」
「う、でもお金がですね…」
「今日は初心者装備を買い取る初心者還元祭だったにゃん? その延長線上の還元にゃん。装備してもいいし、別にマケボで売り払っても構わないにゃん。まあいらないなら次の初心者に売るにゃん」
「う、うう、い、いただきますぅ…!」
少女が差し出したトレードを受けとると、初心者装備のだぼっとしたローブの上に、ふんわりとした薄水色の羽衣が現れる。
あらかわいい。
「わあ、かわいいですねこれ! しかも回避がすごく上がる!」
キャッキャしているのをほんわかと見守る。うんうん、役に立ってよかったよ。
実は『ドルイド・ローブ』は『羽衣』より素早さは劣るが防御は高く、何より『隠れる』を強化する効果があるので、『羽衣』は不良在庫となっていたのだ。
今現在は市場にありふれた装備になっているので、価格もそこまで高くはなく、相場で売ると売れにくい商品になってしまった。
そんな不良在庫を相場で初心者に押しつけるのもなんだし、かといってここを逃すとずっと倉庫に眠らせそうな気がする。これも縁と割りきって在庫処分だ。断捨離!
「何から何までお世話になってしまって、しかしお返し出来るものがなにもなく…!」
「別にいいにゃん。あ、そうだ、もし資料室で面白い本があったら教えてほしいにゃん~。ちなみに猫のオススメは冒険者ギルドにある『冒険者の知恵~採取すべき植物について~』にゃん。採取持ちのバイブルにゃんよ」
「あーっ、いいですね、そういうのすごい好きです、読んでみます!それに本も探してみますね。どういう本がお好きです?」
「猫が好きな本は猫が探せるにゃん~。猫が探せないような面白い本を教えてほしいにゃん」
「なるほど、そういう感じですね。じゃあ私の好きな傾向で読んで、おすすめしたい本があったら教えますね! ええと、いつも露店を?」
「露店は気が向いたときだけにゃんね~」
なんだかやたらと恐縮されたがフレ登録をして、LV17なことに驚かれた。上級者と思われてたらしい。
まあ初心者装備の1000z買取りなんて出してたらそう思われても仕方ないかもしれない。でも初心者装備の買取りは大商人か、初心者のどちらかしか出来ないんだぜ。
わからないことがあれば気軽に聞いていいけど、猫だから返信は気まぐれにゃん、と言っておいた。笑ってたので大丈夫だろう。
今回の初心者交流も若干宇宙猫になりかけたけど、前の宇宙猫よりは全然よかったね!
話してる内に『薬草(若葉)』は完売していたし、買取素材もたくさん入っていたのでまあまあ満足な露店だった。
さて、次はなにしよっかな~!
初心者ともだちが出来ました。
これにて1章は完結。ここまで読んでくれてありがとう、そしてお疲れさま。楽しんでもらえたなら幸い。
楽しかった!という方はブクマや評価、イイネ、感想などもらえるととても嬉しいです。
すでに下さった方、またいつもイイネくれる方々は本当にありがとう! やったぜ。
最初の方に築いた『初心者装備の属性圧縮をする』というやることリストを片付け、ようやく初心者を脱する方向へ猫が舵を切るまでが1章でした。
万能薬バブルも終わっちゃったしね!
…お使いクエスト? 知らない子ですね……。
幕間番外編1編(3話)と掲示板回(野菜農家総合スレ)を挟みまして、13日より2章の連載を開始します。
もし1章がお気に召しましたら、引き続き猫をよろしくお願いします。
2章ではついに! 猫が自由都市マケットを旅立つ!
『金欠猫には旅をさせよ~魅惑の海旅編~』もどうぞお付き合いください。
猫の旅はいつだって気まぐれにゃん~~