36.読書と東平原
改めて資料室に入り、ランプに明かりをつける。
えーと、さっき読んでた魔物の本。それからマンドラコラは、魔性植物でいいのかな?
あ、『冒険者の知恵~採取すべき植物について~』はもう一回読んでおこう。これは絵が多いし、レトにも見せねば。
レトは本より絵本が好きだが、絵本ならなんでもいい派で、内容には特にこだわりはない。なので冒険者の知恵本を渡し、机の上に広げてやる。こうすると自分で読めるのだ。
早速読み始めたのを確認して、私も本を読む。
『魔物覚え書き』。
この本は冒険者の手記らしく、自由都市周辺の魔物について書き留められている。ところどころに追記や訂正も書かれていて、かなりごちゃごちゃ。こういう手書き本もあるんだなあ。
ふむ。
すごい汚い字で解読に時間がかかるところもあったけど、でも現場の話ってためになるよね、という感じの本でした。
魔物の見つけ方から動きの特徴、また足跡の形や習性などなどいろいろな情報が書き込まれていて面白かった。
たとえばポルクスはミミットを狙うので、巣穴があるとそこに気を引かれる。それを利用して、崩れやすい巣穴擬きの小山を作っておくと、隙が出来て狙いやすくなる、と言ったことなども書かれている。
へえ~、罠というほどじゃないけど、そういうのもあるんだなあ。
ポルクスそのものはそれほど強い魔物ではないそうだが、希に毒持ちの個体がいるので注意が必要らしい。あと、鼠も食べるようだから、レトには十分注意をしておかねば。
いや待って、森には蛇も出るし、レトは放し飼いにしないほうがいいのでは?? なんか考えないとな…。
次は『魔性植物~動き出す緑の怪物~』を読む。タイトルがつよい。
マンドラコラ系列の話かと思ったら、魔性植物って結構いろいろいるのね?
草の形のまま動かず、罠で誘い込んだり、枝や蔦を触手として伸ばしたりして生き物を捕まえるタイプの捕食植物。ハエトリグサ系列。
根や蔦を使って動いて、生息域を変更するタイプの歩行植物。トレントなどはここに入る。
更にそれに加えて、栄養に関係ない行動も行い、人や動物などに擬態?している妖精植物。
この三つが主な魔性植物の分類だ。
マンドラコラは、三番目の妖精植物に当たる。
基本的に魔性植物は、光合成のための日光を求めるとか、肥料にするための獲物を求めるなどの生存本能によって動く植物がほとんどだ。その中でマンドラコラのように、交代で出てきて畑をパトロールするような、群れに近い概念をもつ妖精植物は異質だ。
これらは妖精が植物に悪戯した結果生まれた、と昔から言われているが、その真実のところは誰にもわからない。
アルラウネという、根ではなく地上部分が人型になる植物もいるが、これはかなり自由に生きていて、人と関わることも珍しくはない。『アルラウネ族』というひとつの民族として交流をしている集落もあるとか。
その生態は妖精に似ていて、意志があり、独自のルールで暮らしている。他者を認識し、場合によっては友誼を結ぶこともある。
一方で妖精植物たちは敵対すると苛烈で、群れ全体で殲滅にかかることも珍しくない。なるべくなら手を出さず、お互い不可侵で生きていきたい植物であるらしい。
しかしマンドラコラなどはその有用性から狙われることも多いため、しばしば全面戦争が起きる。とはいえマンドラコラは死を悟ると爆散する習性があるため、この侵略で残るものは何もない。友好的にしていれば、死後の体を譲り受けることは可能だ。友の体をすりつぶす覚悟があればだが――って重いわ。
なおアルラウネは自身の体を剪定する感覚でお手入れして、その枝葉を売って対価を得たりするらしく、同じく希少であってもかなり差がある。
マンドラコラ、爆発するのか…。
でも花が咲いてからでも収穫は問題ないみたいだったから、花を咲かせた後に根を収穫が安全っぽい? 問題は白ラコラもそれでいいのかということだが…。
まあ野菜売りのおばちゃんも「めんどくさいからやらない」て感じで危険とは言ってなかったし、なんとかなるなる。
庭の土から飛び出すのを見てみたいような、あまり見たくないような。複雑な気持ちだ。
農業ギルドでは見るのうっかり忘れてたのよ、白ラコラ。今度見ておかないと。
私が本を読み終えると、レトも読み終えていたようで満足げにひげをぴるぴるしていたので回収して本を棚へ戻す。
うっかりダンジョンへ行ってしまったから、今日の外散歩は無し、また後日!
あ、うっかり忘れそうになったけどちゃんと『草刈り鎌』は買いました。冒険者ギルドにあるのが罠よな。採取道具だから、仕方ないのだけども。
これで雑草採りもはかどることを期待!
今日こそ東側平原に来ています。
門を出たらルイが牧草を食べるのを見守りつつ、横で採取。牧草はなぜか根付きでは取れない。庭に植えたいのに、根がちぎれちゃうタイプ。残念。
レトはあまり離れないように言い聞かせて、周辺で放し飼い。
私の真似をしてか、草を抜こうとしたりしていたが、それはさすがに難しそうだったので、石拾いを頼んでおいた。好きな石は自分のものにしていいよ。
ポルクスに会う前に、試しに『インパクト』を使ってみた。思ったよりチャージは短く、取り回しもいい。MP消費が20だからか、それとも防御用でもあるからこういう性質なのか。
不可視の盾というから何も見えないのかと思ったけど、シャボン玉のような感じで見える。ぽわわん。術者だから見えるのか、他からもこうして見えるのかは不明。
試しに杖なしでやってみたけど、これは全然違う。動きがかなりもったりする。てことは、スリングショットを撃ちつつ咄嗟の魔法、はかなり大変ということか。
やっぱり『理力』は取った方がよさそうかなあ。あるいは戦闘用と割りきって指輪発動体をするか。
考えつつレトと石拾いをしていて、ふと思いついて『ジュエル』を使ってみる。
手のひらに魔力を込めるとそれが固形化する。消費MPは5、生活魔法と同じだ。出来たのは水晶みたいにキラキラした小粒の宝石、これは無属性魔法らしい。
レトが寄ってきてチョーダイするので、出来た宝石をあげる。それ3分で消えるけどね。がま口にしまえなくて首を傾げている。なんか罪悪感があるな…消えてもまた作るから許せ。
もう1個作る。レトにあげたものも消えてないから、何個か作っても大丈夫らしい。
これを試しに『コズミックシュート』にセット、ちょうどよくいたミミットに放ってみた。
ボッと鋭く飛んだ石がミミットにあたったかと思うと、ぽんとドロップに変わる。
…おお、一撃か。
コズミックシュートは、MP1を使用して撃つ専用で、物理の弾は撃てない。でもMPの塊であるジュエルは撃てるらしい。
なるほど?
ブリッツに出来るのは意外と有用かもしれない。でも宝石作る→セットだとちょっともたつくな。構えながら宝石を作れたら結構、使えるかも?
しかしこれでは『ジュエル』ではなく『ブリッツ』では?? まあいいか。
ちゃんと戦えそうだし、行くぞ東の森!
目指せ香辛料! でも出来ればポルクスは会いたくない!
結論から言うと、ポルクスは特に苦戦しなかった。
というのも、ルイが一緒に戦ってくれたからだ。いきなりルイがやる気になって猫はびっくりした。
後で調べてみたらロバは、群れを持たない害獣の類には戦う意志を見せるらしい。たとえフルクであっても、相手が一匹なら立ち向かうようだ。
すごいぞロバ、すごいぞルイ!
とはいえロバの戦闘能力は低いため、無理をしないように使役主が注意をする必要がある。はい。
猫はポルクスにやる気を出すルイの『手当』担当だった。なんか強くなる装備をルイに贈りたい…。
森のなかでもルイがポルクスを警戒してくれたので、採取が捗った。
そうそう、レトがいつの間にか『隠れる』をラーニングしていたので、放し飼いも問題なかった。私が持っているスキルで、おそらくマルモとしても持っていたスキルだったのでラーニングしやすかったんだろう。
実はレトは既に進化可能なのだが、今のところ先送りしている。だってまだスキル1つしか覚えてないし。コスト重くなると運用難しくなりそうだし。マルモ系はサイズの割にコストが高い。スキル2つめを覚えたら、進化を検討する所存。
森の中では香辛料として『ペパの実』『リミカの実』『レモベナ草』『ロレン葉』などを入手した。胡椒、山椒、レモングラス、ローリエ……に似た何かだ。似てるけど全部ぜんぜん違うやつ。
リミカもレモベナ草もなんか絶対違うんだけど、柑橘系のいい香りなので取った。リミカは山椒っぽいけど辛くない。料理での用途としては柚子の粉に近い。香りつけ用。
レモベナ草は根付きも取れた。増やせるかな?
ペパもリミカもロレンもかなりしっかりした樹木なので、庭で育てるのは大変そうだ。木もいずれは育ててみたいとは思ってるのだが、うーん、農家になりすぎてしまうのも悩ましいんだよなあ。
『赤ベル』『紫ベル』も鈴なりになってたので取った。ベルはベリー系。振るとなぜか鈴の音がする。どうなってるんだ。音はさておき甘酸っぱい果物はいくらあってもよいもの。そのまま食べられるし、ジャムにも出来る。
鳥も食べにくるのか、予想外にでかい鳥に出会ってびっくりした。しかし特に気にされてないようだったので、並んでベル摘みをした。
立ち去った後には羽が落ちていて、拾うと『赤苺鳥人の羽根』だった。
お前、ハーピーだったのか…。全然わからんかったわ。目を合わせないようにしてたから…。
自由都市の東側の森には徘徊ボスとして熊とハーピーが出るって話は聞いてたし、念のため姿も攻略サイトでチェックしてたんだけど、わからんものだなあ。敵対しなくてよかった!
そんなわけで、比較的安全に東門側での狩りと採取を終えたのだった。
いやあ~、東平原で狩りが出来るなんて、猫もめちゃくちゃ成長したにゃん?
まあ頑張ったのは主にルイなんだけどね!
読書回にはちょっと物足りない感。
評価、ブクマ、イイネ、感想ありがとうございます。
投稿からはや1ヶ月。
なろう投稿について右も左もわからないまま勢いで始め、右往左往して、とても楽しい1ヶ月でした。
まだまだ続けていくつもりですので、今後もよろしくお付き合いください。
次回から1章のエピローグに入ります。