35.冒険者と失われた宝石・後
後編です。
ドアを開けて潜ると、部屋番号は10100だった。00番なのでセーフティ。
ちなみに部屋番号は、前の部屋より上の数字しか出ない。ワープと罠は別だけど、ドア移動する限りはどんどん数字は増えていき、難易度は上がっていく寸法。
階層をなるべくすっ飛ばして深いところへ行くルートなども日々開拓されているらしい。ラビリンスの攻略はいろいろな意味で大変そうだ。
さてさて、部屋はさっきの部屋より全然狭くて、六畳くらい。圧倒的マイルーム感…。
下は床一面の絨毯で、丸と矢印が書かれている。
ふむふむ、この丸から魔力を込めて、矢印で戻るわけね。なるほど、読める、読めるぞ。
ちなみにドアは三つあるので、もし矢印で戻れなかったらドア移動だね。スクショしとこ。
では魔力、というか魔法を入れていくぞ。
プールポートは魔法を留めておくためのシステムなので、魔法三回分、水晶玉が吸収する。そして四回目で一気に全ての魔法が中央に流れて、完成する、はず。
やったことないけど。予習は完璧だぜ!
初めての錬成陣はやはり無属性魔法を入れたいので、『インパクト』を三回入れて最後に『渦』で押し込む…でいいだろうか?
最後に押し流す手順は『魔力を込める』というニュアンスだったので、錬金釜を使うのと同じく生活魔法を込めるのがいいと思うのだ。
よし。
使うのはスーパーハッピータイム…ヤバいたっぷりハッピー…鳥?? ……執事さんが変なこというから本名が思い出せなくなった、あの鳥の羽根を圧縮した指揮杖アイテムだ。
風、闇、光と特に変化はなかったので、これは変化無し素材かな?と思いつつ200枚あるし全種類試していたところ、氷と雷で変化があった。
魔力補正がついたのが氷、器用補正がついたのが雷。これって初心者ポーションでも強化になったやつ、なるほど??
そんなわけで、今回は魔力補正のついた『星鳥の魔羽根』を使ってみようと思う。ちなみに器用が上がる方は『星鳥の技羽根』。
魔羽根の方は羽根先がくるんと少し丸まっていてなんかかわいい。技羽根は根本がしっかりしていて、ペンのように尖っている。実際、羽根ペンに出来そうな気もするけど、ちょっと大きすぎるかな。
この羽根、指揮杖として使うとなると、補正値がびっくりするほど大きい。青ブナの杖とは比べると雲泥の差。でも装備じゃなくてアイテムだからか、要求ステータスとかLVが存在しない。
まさにLVガン無視が横行する錬金術のためのアイテムって感じだ。
『黒烏の風切羽根』? あれは実験中にあっという間に壊れたよ…。羽根って儚い。
プールポート大きいし、魔法をこめるアイテムも大きい。ついでに宝石はもっとも魔力を貯めこむ性質があると言われていて、更にヒビだらけでいくらでも魔力を吸ってくれそうだ。
『拡大』しておいた方がいいかな?
猫の今のMPはレト召喚済、帽子付きでざっくり350ほど。インパクトは20MP使う魔法なので、最大で15倍拡大。猫は『拡大』のLVがまだ低いので、10倍以上の拡大は5刻みでしか出来ない。
とはいえ、錬成陣は魔法を込め始めたらスピード勝負らしい。
魔法師と組んで魔法を込めてもらう場合でも、タイミングよく素早く魔法を込めていかないと失敗すると本にも書いてあった。
だから最大拡大で魔法込めて魔力potをあおって次の魔法、とするよりは、猫のMP内で4回、回復無しで出来る『拡大』にしておいた方が良さそうだ。
てことは5倍拡大か。
5倍拡大『インパクト』を3回して、と。
拡大『インパクト』は拍子抜けするほど簡単だった。
猫がこれまでしたことのある拡大は10倍だけど、生活魔法だったから使用MPは50だった。初心者の杖はそれでも負荷を感じたし、青ブナの枝にしてからもちょっと杖先がぶれるみたいな感じはあった。
でもこの羽根は、100MPを使う5倍拡大『インパクト』でもなーんにもない。普通の、拡大もしない生活魔法を使ってる感覚でいける。それでいて、たぶんこれ私のMP以外もなんかすごい乗ってる。なんか羽根全体がぼんやり光ってるもん。杖の魔力補正って、こういうことなんだなあ。
そんなわけで楽々ポンポン『インパクト』、そして『渦』。
……これで合ってるんだろか? 何もわからん。
魔法は完成したけど発現せず魔力だけが吸いとられていった、という感じなので、何らかの仕掛は動いたと思うんだけど。
なにげに教本学習のときに成功して以来初めて使う『インパクト』だったけど、吸い込まれていったから、不可視の盾とはどんなものだったのか、わからず終いだった。
行き当たりばったりがすぎる。だって猫だもの。
ちなみに『星鳥の魔羽根』は砕け散りました。羽根は儚い、ほんとそう。
上位アイテムの圧縮品をたった数回の使用で消耗品として使い捨てるこの極悪、まさしくブルジョワスキルの名に恥じない。
うーん?
見ていても変化も特になく、わからないので、矢印を踏んでみる。
ズズッと後ろへ引っ張られるような感覚と、ふしぎな浮遊感。
……おお、部屋が戻った。10000番だ。
さてさて、石はどうなっただろう。
プールポートに置いた『水晶玉』は消えて、中央部分には大きな光の繭がある。
あれえ?
思ってたのと違う。猫の予想ではそこに石が落ちてるか浮いてるかしてるはずだったのに。なぜ光の繭になってしまったんだ?
わからんけど、光の繭なのでアイテムが取得出来るのだろう。手を伸ばして中身を取る。
するもキラキラした光が一面にパアッと散って、――目の前が真っ白になって暗転。
……あれえ!?
冒険者ギルド前に戻ってきてしまった。
せめて何が出来たかくらい確認させてくれても――
はっ!?
あわててインベントリを見ると、入手したはずのアイテム――宝石類も『ラビリンス帰還石』もすべて消えてしまっている。
タイトルの『失われた宝石』ってこういうこと!?
えええ~~めちゃくちゃ騙された気分だわ~~と不貞腐れつつインベントリをスクロールしていると、見覚えのないアイテムが入ってる。
『魔法オーブ』。
細かいアイテムは覚えてなくても、これは絶対持ってなかったぞ。
スキルオーブみたいなもので、使用すると魔法を覚えられるオーブだったはず。教本をインプットするのと同じ機能。イベントで魔法を覚えたり授けられたりするときには、こうしていったんアイテムの形になって送られたりする。
何の魔法を覚えるかは説明に書いていない。
譲渡売却不可、おそらくこれが報酬なんだろうし、さくっと使ってみるか。
はい。
『ジュエル』を覚えました。
知らない魔法ですね…。まあ猫、全然魔法には詳しくないんだけど。
説明によると、魔力を固めて宝石にする魔法らしい。この石はアイテムではなく、3分経つと消えてしまう。なお無属性魔法。
???
3分経つと消える宝石を造る魔法??
詐欺魔法か?
アイテムじゃないってことは錬金術には使えないし、どう使えばいいのかさっぱりわからん…。
これもまた『失われた宝石』なのか…? ダブルミーニング的な…?
何もわからんまま第二回ダンジョン体験版は終わった。
なんだったんだ……。
『ただいまにゃん。狐につままれたにゃん』
『おかえり~~、ぷに? 死んじゃった?』
『戦闘はなかったにゃん。でもなんだかすごく騙されたにゃん~~!』
『にゃん~? 猫ちゃんが行ったの何処の書庫か、差し支えなければ教えてもらってもいーい?』
『冒険者ギルドの書庫にゃん』
『あれ、やっぱりそこか。そこ、図書館ダンジョン行った後に一応みんなで行ってみたけど、光でランプ着けても何もなかったんだよねえ』
『にゃん? 猫も一回目は何もなかったけど、二回目行ったらあったにゃあ』
『おや~?』
秘密の書庫トラップをクリアしてから行くと出るタイプかと思ったら、フーテンさんたちは何もなかったのか。
ふむ?
『もしかしたらソロ専用かもしれないにゃん。最後の報酬はどうやってもひとつしか手に入らないと思うけど、譲渡売却不可のアイテムだったにゃん。猫が今回入れたのは、もしかしたら入る順番があったのかもしれないにゃあ。完全に錬金術師向けのリドルだったにゃん~』
『ほうほう?』
『行くなら長い棒かマルモを持っていくのがオススメにゃん』
『おん?? あ、天井付近に繭があるのね。了解~』
「さっきぶり~」
「あ。来たにゃん?」
メールで話してたら本体が来た。
「ソロ専用かもならお試しに見るだけ見てみようと思って来てみたよ~~」
「『光源』覚えたにゃん?」
「覚えた覚えた。5個覚えたら猫ちゃんの言う通り『生活魔法』ラーニングしたよ~~ありがとうねえ。でも5個じゃまだ『生活魔法教本2』は買えないみたいよ。また魔毒飲まないとだわ~」
「MP多いと大変にゃんね~」
「山ほど『大樽』買って『浄水』作ったりしてるわ。猫ちゃんも大樽いる?」
「欲しいにゃん! 『浄水』で農業するとどうなるか気になってたにゃ。虫除けと水やりを同時に出来ないか考えてたけど、難しいにゃん」
「『浄化』と『流水』を同時に使うってこと? なら『二重詠唱』だね~」
「受付のお姉さんにもそれを勧めてもらったにゃん。スキル取らないとダメにゃんねえ」
「魔法師は取るスキルが大量よ~~。大変なのよ…」
「にゃん…」
実感こもってるなあ。
スイッチとなった本があった付近を教えるために、フーテンさんとギルドの資料室まで戻る。
私も本を読む必要があるので、ついでだ。
ポルクスとマンドラコラについて調べに来たのに、うっかり罠を踏み抜きに行ってしまったからな。
フーテンさんにランプを着けてもらい、一緒に書庫へ。
「あるねえ。なるほどソロ専用か~」
「猫にはもう、はみ出し本は見えないにゃんね」
「一緒に入ってても見えないんだねえ。さては結構危険な罠だな?」
「だから事故らないように前のをクリアしてないとダメなんじゃないかにゃ?」
「なるほどねえ~~。フラグ管理でソロ専用ね。ややこしいわあ」
図書館ダンジョンも仕掛け的にはソロで問題なかったし、メインターゲットはソロプレイヤーなのかもしれない? 知らんけど。
「猫は冒険者ギルドなのになんでか錬金術系だったのが気になるにゃん」
「それは自由都市の出た第二エディションで『錬金術』が追加されたからじゃないかな~。学園都市のダンジョンと繋がっている以上、これが第三で追加されたのは間違いないだろうけど。たまたま錬金術用のを猫ちゃんが見つけただけで、こういう専用クエがあちこちに生えてる可能性は十分あるねえ」
うーん、なるほどそれなら納得?
そうすると他の職業クエが気になっちゃうところだな。たぶん魔道具がスイッチになってるから錬金術で、他のは他ので、職業柄詳しいものにスイッチがあるのかも。
今のところ何も思いつかないけど、ギルドでちょっと探すようにしてみようかな?
「フーテンさんはこれから行くにゃん?」
「どうしようねえ。猫ちゃんは30分くらいで戻ってきたけど、錬金術系のリドルなんだよね? リーリンカーに話してからにしようかな」
「リーさんなら『真円の書』読んでたし安心にゃん!」
「猫ちゃんは俺だとダメだと思ってたの?」
「シロートには無理にゃんね」
ふう、と肩をすくめて見せると笑っていた。
なおフーテンさんは確認だけして去っていった。
あ、スイッチ入れた人が出ていったらなぜか書庫から追い出された。こ、これが噂の強制退去…!
わりと重要な情報が出ているが、気づかないまま過ぎ去る猫であった…。
『黒烏の風切羽根』→19.ラコラ種と低級素材 にて、冒険者ギルドの素材取引所で購入。ダークロウという鳥の羽根。その後まったく話題に上がらなかった。ちゃんと実験してたにゃんよ~。
『星鳥人の風切羽根』→23.新しい羽根 で執事セルバンテスが売り込みを掛けてきた羽根。猫が思い出せなかった鳥の本名はスターベリーハーピー。
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
未だに読んでいる人の実在を疑っているところがあるのでいつでも新鮮な感動があります…。ありがとう…