34.冒険者と失われた宝石・前
ポルクスと戦う準備のために、冒険者ギルドへ来た。
早速資料室で本を読むぞ。そういえばマンドラコラについても調べようと思ってたっけ。本を見て思い出した。
ランプに『光源』すると部屋が明るくなり、レトが驚いてランプの廻りを高速回転する。
本がこんなにあるのにそっちが気になるのか? まあいいか、気のすむまで回転させておこう。
本棚から魔物の本を出して、椅子にすわ………、あるな。
前回は気づかなかったけど、本棚からのはみ出し本、あるわ。
うーん。
ちょっと悩んだけど、今回は前回大丈夫だったという実績があるから踏んじゃうぜ!
本を取って、棚から引き抜く。
タイトルは『冒険者と失われた宝石』。
本が輝きだし、目の前が真っ白に染まった。
はい。
ここはどこ? 私は猫。
屋内、だだっ広い丸い部屋、ドアがたくさん。なんかすごく豪華な洋館風。柱でかい。
壁や天井付近、床、ところどころチカチカと謎に光る。
床は大理石っぽい質感で、部屋の形に合わせた丸い絨毯が敷かれている。
…これ、『真円錬成陣(Ⅰ)』にちょっと似てる。私がいるところが魔力込める素材を置くところですね。
だめじゃん。
ひとまず中央から外れる。
うーむ、図書館ダンジョンじゃないなあ。書庫からワープだし、きっと前と同じところだと思ったのにな。
壁にあるドアは形いろいろ、数は7つ。
真円錬成陣を模していると仮定すると、丸い絨毯から伸びる魔力路から推察出来るので、なんとなく導かれているドアはわかる。
それでいくと、こっちでアイテムを仕込んでおいて、ドアの向こう側から魔力を通すことになりそうだ。
プールポートを置く場所は五つ。錬成陣がでかいからプールポートの印も大きいナー。ビー玉でいいのこれ?
タイトルに『失われた宝石』とあったし、中央に置くものと、場合によってはプールポートの素材を見つけて、魔力を流してゴールと思われる。
…錬金術ギルドの書庫じゃないのに、謎解きの内容がこれでいいんだろうか? 合ってる? 大丈夫?
『光源』でランプをつけること自体が『錬金術』のトリガーってことになってるとか?
とりあえず危険はないようなので、レトも興味津々にしていたし放し飼いにした。
ついでに周囲のスクショをバシャバシャ撮っておく。
図書館ダンジョンのときは初めてのPTだし、初心者が行くような場所じゃないし、おとなしくしてなきゃと思ってあれこれ撮り損ねたのだ。
もったいないことをした。
あちこち激写したあと、ついでにイエーイしてる自撮りスクショを撮って、フーテンさんに送りつける。
なにか情報をおくれ。
『クイズ:猫はいま何処にいるにゃん?』
『猫ちゃんなにしてんの???』
相変わらず返信が早い、秒で返ってくる。暇なのか大商人。
『それは猫にもわからない。ここ何処にゃん?』
『お、おお。またなにか踏んじゃったの? 猫だけに?』
『猫は悪い猫じゃないにゃん~』
『審議にゃん~。ドアの感じとキラキラしてるやつからすると、七不思議ラビリンス? ドアの数がやたら多いからたぶん深層だなあ~。また書庫の罠?』
『大正解にゃん~! てことはキラキラしてるやつがアイテム拾える繭にゃん?』
『そうよ~それつつくと割れて中身が出てくるのよ。のんびりしてるってことはセーフティエリアなんだろうけど、気をつけてねえ~。わかんないのあったらまたスクショでも送って~』
『ありがとうにゃ~ん!』
七不思議ラビリンスかぁ。
こないだ聞いた以上のことは何も知らんな。
猫は掲示板は見るけど、ダンジョン攻略とかは全然読んでない、まだ行けないし。
とりあえず学園都市には七つのダンジョンが街の中に点在している、と伝えられており、今わかっているだけで今5つのダンジョンが開いている、てとこまでは知ってる。
そのうちのひとつが『七不思議ラビリンス』で、部屋と部屋とがドアで繋がっているタイプの迷宮だ。
部屋にはそれぞれ謎解きや戦闘などの仕掛けがあり、それを解除すると新しいドアが出現する。ドアは1~5個あらわれて、次の部屋への道となる。
部屋にはそれぞれに番号が振られているが、次の部屋の番号はドアを開けて入るまではわからない。
100番までは敵が出ない。
末尾が77の部屋はレア魔物が出る、
1000以降で末尾が0になると魔法禁止部屋、末尾5で物理禁止部屋。
そのあたりが判明している。
あと末尾が00で何もないセーフティエリアが出るらしい、が発見報告が少なく、100番と1500番の部屋しかまだ見付かってないため、たしかではないとか。
ちなみに魔物を倒したり罠を外したりしたあとの部屋は30分間何も起きない場所なので、セーフティなくてもそこまで困らないらしい。マケボは使えないけど。
魔物や罠は30分後に復活するが、宝箱や採取スポットの復活はしない。
レア魔物目当てに末尾7に居座る人もいたが、1時間後の3回目の魔物出現と同時にワープ罠が出て別の部屋に飛ばされたらしい。
これはどの部屋にもある仕様だが、同じ部屋からワープしても違う場所に飛び、再現性がないとか。
迷路は一方通行でゴールがあるかどうかもわからないため、入口で専用の『ラビリンス帰還石』を買ってから入るのがお約束。
ある意味、入場料のいるダンジョンとなっている。
ちなみに繭を狙って100番以内の部屋をマラソンするルートは今のところ37部屋まで開拓されており、そこまで行ったら帰還石を使って帰るそうな。
……猫、帰還石ない。
てことはこの絨毯で、帰還石を生成する感じ?
しかしそれが失われた宝石と言われるとなんかちょっと違う気もする。
『ルイネの林檎』がメインストーリー関連だったわけだし、これもそうなのだと仮定すると、なんかあったかな…。
宝石ねえ?
攻略サイトを開いてメインストーリーの流れを追ってみる。
宝石…、宝石なあ。
でも金のなる木がルイネの木だったし、そのものじゃなくて暗喩な場合もあるよね。
宝石、価値の高いもの。金と似たような感じだし、失われているし、『ルイネの林檎』再びの可能性もあるな。
そもそも『ルイネの林檎』て何に使うのか?というと、まず金策に使える。NPC売りはもちろん、プレイヤー相手でも高く売れる。
どうやら上位職への転職や、召喚獣や従魔の進化で求められるアイテムのひとつらしい。
持ってない場合も『ルイネの林檎』が手に入るクエストが各地に点在してるので、そこから得ることが出来る。まあ林檎関連のクエストはみんなめんどくさそうなんだけど。
そんなわけで消耗品だし、場合によってはジョブや召喚獣や従魔の数だけ必要になる、もしかしたらそれ以上に。そんなわけで常に需要はあるアイテムだ。
『ルイネの林檎』だと思っておくかなー。また庭園みたいなところに出られたら楽しそうだ。
とりあえず部屋の中にあるアイテムが手に入る繭を割ってみよう。
アイテムが採れるので採取スポットと似てるが、『採取』持ちじゃなくても取れるのでなんと呼んでいいかわからないものらしい。
その光の繭。
繭と表されるだけあって、たしかにキラキラとした糸のようなものがくるくると巻きついている。今この瞬間もどこからともなく現れた糸が絡まっていっている。糸が細いから、そうそう大きくはならないんだろう。
下の方はともかく、天井付近にもあるやつはどう取るんだろう? あ、槍とかでつついたら開くのか。繭マラソンは長い棒を持って参加するものらしい。ほほう。
レトも興味津々にそわそわしつつ、光繭の周囲を回っている。
手を伸ばして繭に触れる…と思ったら、この光、実体がないのか。
素通りして中身に触れた。ふわあっと繭がほどけていくのがなかなか綺麗。
はい。
『ラビリンス帰還石』でした。
やった~帰れる~~冒険は終わった。 ~完~
いやいや。
いつでも帰れて安心ですわね。
『そういえば猫ちゃん、『ラビリンス帰還石』持ってなくない?』
ちょうどよくフーテンさんからメール来た。気づいてしまいましたね。
『今手に入れたとこにゃん~~』
『よかった~~! というか七不思議ラビリンスで確定しちゃったか』
『にゃん。部屋番号が驚きの10000番にゃん』
『五桁来ちゃってるか~』
部屋番号のスクショも送っておいた。イエーイ。
『緊張感のないスクショありがとう~! 帰らずドア開けちゃう感じ?』
『開けちゃう感じにゃん。好奇心が猫をにゃんにゃんするにゃん~』
『それだめなやつじゃない??』
棒は持ってないので試しにレトに上へ登ってもらい、繭をつついてもらったところ、ちゃんと開けることが出来た。えらい。
中身をそのまま、がま口にしまっている。
おお、レトったら賢い。わざわざ持ってきてもらうよりは早い。共有されてるので召喚主からは鞄の中身が見れるし、取れる。
『水晶玉』だって。やたらとでかいな。
これはプールポートにしろってことかな? 上にあるやつはレトに任せて、私は地上にある繭を開封。
『金緑石』『紫水晶』『虹色琥珀』『黒真珠』『金剛石』『碧玉』『紅輝石』……ワーオ、なんかキラキラした石が大量だ。
しかも、これもかなりでかいぞ、両手サイズ。タイトルが失われた宝石だから?
やったぜ、丸儲けか? と思いつつ宝石を調べていくとひとつだけ品質がやたら悪い。
この『金剛石』、よく見たらすごくヒビが入っている。
うむ。これがきっと錬成陣に置く素材だな。わかりやすい。
猫の持ってる錬成陣ではとても入らない大きな石だが、この絨毯錬成陣なら何の問題もない。
いうて私、やり方は本で読んだけどまだ錬成陣使ったことないんだけどね。
行き当たりばったりぶっつけ本番だ。
ちなみにレトが開いた上の方は、全部『水晶玉』だったようだ。
しかしここで問題がある。
いまプールポートと素材を置いて、魔力路の示すドアに行くとするじゃない?
でもここはラビリンスだから、ドアは一方通行で戻れないはずなのだ。だから出来たアイテムの確認が出来ない。それでいいんだろうか?
『七不思議ラビリンスでは一個前の部屋に戻る方法はないにゃん?』
『自分で選んで戻る方法はないねえ。魔物とか罠とかと一緒にランダムで現れる罠で、矢印がついてる床がでることがあるんだけど、それを踏むと前の部屋に戻されるよ。前の部屋は30分経ってたら復活してる。魔物密集地帯でよく出る罠よ~』
なるほど。
前の部屋に戻る仕掛けつきのこともある、と。
ならこれはそこに賭けてやってみるか。他に方法もないことだし!
どうせ猫の錬成陣では扱いきれないアイテムだろうし、最低品質では買い手もつかないだろうから、もし前に戻る仕掛けがなくて置いていっても惜しくない。
ヒビの入っている『金剛石』を中央に置いて、プールポートに『水晶玉』を置く。
あとは錬成陣に媒体となる粉か水を……、粉か水??
粉なんて『小麦粉』と『ふくらし粉』しか持ってないや。それじゃないのはさすがにわかるぞ。
水分は『流水』があるし、ポーションとか液体は各種あるけどさ。
媒体となるってことは、注ぐ魔力に適しているものがいいんだよね、たぶん。よくわからないし無属性魔法を入れようと思っていたのだが、無属性魔法の触媒とは?
錬成陣絨毯の上で首を傾げていたら、上からキラキラとなにかが降ってきた。振り仰ぐと、レトが何かしてる。
繭になりかけていた糸の塊を取りたかったらしく、触ったら散っちゃった、みたいな感じかな?
これは粉…ではないか? でもなんかそれっぽいからもうこれでいいかも?
レトにあっちのもー、と指示して天井の小さい糸塊に触ってもらうと、やはりきらきら、ちかちかと光が散らばって落ちてくる。うむ、もうこれでよし! アイテムでもなんでもないけど。
水晶玉が三つだったので、プールポートは三つにした。
置くところ自体は5つあるんだけどね、この真円錬成陣。ビー玉置くのもなにか違うし、ある分だけでいいや。
この光の繭、完全にアイテムが出来るまで育つには相当時間がかかるみたいだし。出来るのを待ってる間に変なところへワープしても困る。
ではこの部屋ではすることないので、魔力源の部屋へ行くぞ。スクショもたくさん撮ったし。
いざ次の部屋へ!
後編に続く。
今回は猫ひとりの冒険。初めての場所で、更に調べものをしつつの進行なので、いつも通りののんびりまったり。
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