30.生活魔法
区切りが悪くて長めです
「SP取得のキーワードは教本にゃん!」
「教本かぁ……」
「…教本なー……」
反応が悪い…!
「そういえば猫ちゃんは『生活魔法教本』2冊に続いて『インパクト教本』も覚えられたの?」
「覚えられたにゃん。生活魔法教本については、たぶんこうしたら覚えられるんじゃないかという法則も見つけたにゃん。猫しか試してないけど、猫はその方法で、4つは狙って覚えることが出来たにゃん」
「お、おお!?」
希望が見えたのか皆がこっちを見る。
「……あ! もしかしてそこで『魔法使いの毒』が出てくる!?」
「そうにゃん! でも実験しようと思ったのに、猫には『アンチポイズマ教本』は覚えられなかったにゃん……。たぶん猫がこの教本の条件を満たせてないにゃん~~」
「『アンチポイズマ』覚えようとしてたの!? まあ『魔法使いの毒』使うなら必要だろうけど」
「ポイズマ使うってことは、MPが関係してるのか?」
「そうにゃん。教本を覚えるには現在MPが教本の指定する数値内にある必要があるにゃん。チュートリアルで教本が覚えやすかったのはそのせいにゃん。そのときはたぶん猫の最大MPが、生活魔法教本にマッチしてたにゃん」
「てことは、MPを消費してる状態で読まないと覚えられない?」
「そうにゃん。猫の実験によると『生活魔法教本2』は残りMPが0~70の間でしか、書かれている内容が理解出来なかったにゃん。逆にこの間にあるときはスラスラ頭に入ってくるにゃん。回復しない間に読みきったら覚えることが出来るにゃん」
「MPが0~70までとか、俺1秒以内に回復するわ~。なるほど、たしかにそれは『魔法使いの毒』がないと無理だねえ…」
「『魔法使いの毒』を調べた後に気づいたけど、『召喚』で規定値まで減らすのも有効だにゃん。最大MPを下げればそれ以上回復しないにゃん」
「なるほどなあ。フーテン、減らせるんか?」
「『召喚』で? コストばかみたいなヤツはいるけど、でかすぎてその辺じゃ呼べないもんなあ…。MP70までとか『魔法使いの毒』飲んで魔法連打しか道がないわマジで」
「『生活魔法教本』を覚えてるときは気づいてなかったから、MP基準値がどこかはわからないにゃん。猫のMP初期値は覚えてないけど、100なかったのは間違いないにゃん」
「風猫族で『生活魔法』以外に魔法スキル取ってないなら、初期値は50くらいじゃない?」
「魔力低いから、たぶんそんなもんやろな」
おお、初期はそんなに低かったのか。猫も魔力全然伸びないと思ってたけど、地味に伸びてはいるんだなあ。
「なら『生活魔法教本』は0~50くらいと思った方がいいかもしれないにゃん?? 『インパクト』はレトを呼んでて条件達成してたから、詳細値はわからないけど、120前後にゃん。170はダメで、100もダメだったにゃん」
「かなり幅狭いなあ。しかもそのMPの間に読まないと覚えられないんやろ? まじでポイズマ必須やなそれ」
「猫は召喚で最大MPがその状態だったから楽に読めたにゃん。無属性は他のどの系統とも魔力の形が違って、シンプルだけど、わかりにくいにゃん。一度覚えるとすごく簡単なんだけど、覚えるまでややこしい。だから『渦』を覚えてないとかなり難しいかもしれないにゃん~。猫は『渦』を覚えるのは、MP基準内にあってもわかりづらくて苦戦したにゃん」
フーテンさんが自分で買ったらしい教本を取り出して眺めて、首を捻っている。なおレトも寄ってきて横から教本を眺めている。
「これがMP減らすとわかるようになるねえ?」
「生活魔法に関しては猫はスキルで取ってたから緩和されてる可能性もあるにゃん~。でもインパクトはスキルは取ってないにゃん。だから仮説としてはありかと思ったにゃん」
「うん、すごく有りだよ~。誰か『召喚』でMP70まで減らせる人いない? いないなら俺がちょっと訓練所で減らしてくる~~」
「僕も考えてたけど、最大召喚しても500切れないね。召喚コストで引かれてるときの自然回復ってそのときの最大MP由来になる?」
「なるなる。だから最大召喚して魔法使って、減らしつつ読むのが最適解かしらね? 教本ってMP範囲外れちゃうと最初から?」
「どこまで理解してたかによるにゃん~。ちょっと掴んでれば途中からいけるけど、触りだけだと最初からになるにゃん」
「うーん、最初は毒なしで、どうしても無理なら毒ありって感じかねえ。じゃあちょっと俺、行ってくるわ」
「いてら~」
フーテンさんは旅だっていった。
ちなみにフーテンさんが出るのは既に『生活魔法教本』を持ってるのもあるけど、ここが本人の部屋だからだ。本人が出入りするのが、いちばん楽なのである。
「フーテンが最大召喚して訓練所で魔法ぶっぱすんの想像すると笑えるんだけど」
「何事かと思われるな」
たしかにぞろぞろ召喚獣連れた上級魔法師が訓練所来たら驚かれるだろう。そして大魔法とかでバンバンするのか。そしてマイルームへ去っていく。うん、何事かと思うな…。
それほど待たずに、フーテンさんがぞろぞろ引き連れて帰ってきた。なんかゴツそうな獣とドラゴン?が合わせて3匹、2体はファントム系騎獣、あと妖精が5匹かな? 最大召喚数10匹全部出てくると壮観だなあ。
「お待たせ~! 0にしてきたけど、回復まで全然持たなそう! MP増強装備は全部外したのに~!」
「MPバカだからさ…」
「でも召喚妖精も全部空にしてきたから、しばらくはトランスファーで稼げるはず~」
「フーテンさんはまず『浄化』を覚えるにゃ」
「おお?」
「『浄化』は拡大してかけても綺麗になったり浄水ができるだけで無害だし、マイルームでも使えるにゃん」
「MP消費方法理解~~」
早速フーテンさんは教本を開き、隣の妖精に光の玉を渡して『トランスファー』。それを二匹繰り返したところで(どんだけMPあるんだこの人)、目を見開いた。
「読める…読めるぞ!」
「大佐になっとる」
フーテンさんはせっせと『トランスファー』しつつ教本を読む、が。
「……あっ、ダメだ、全然わからん。ちょっと風ぶっぱしてくる」
「いや、待って先にこれを飲もう」
ポユズさんがフーテンさんに何かを渡す。
「『魔毒』じゃ~ん。これがあったか。やばい、味方に毒盛られてる笑う」
『魔毒』はMPに継続ダメージを与える毒で、これもPVP用アイテムらしい。『魔法使いの毒』がいると聞いて、ついでに作っておいてくれたらしい。
笑いながらもフーテンさんが『魔毒』を飲み、無事dotを食らってMPがガンガン減ってるらしい。
「なにこれすごい減る~~無駄に最高品質なだけあるわあ……あ、読める」
そして読みふける。生活魔法教本は1冊に10の魔法が入ってる本なので、1つの魔法はそんなに内容が長くない。せいぜい5頁ほどだ。
はたしてフーテンさんはdot中に『浄化』を覚えきった。
「ヤッッッタ!!」
フーテンさんが拳を突き上げて立ち上がり、きらきらした『浄化』のエフェクトを振りまいた。
「おおー!」
皆が再びクラッカーを鳴らすアクションをする。残念ながら猫はメインストーリー(お使いクエスト)を進めてないので、アクションをまだ手に入れてない。悲しい。とりあえず拍手だ。
フーテンさんは皆を『浄化』して遊んでいる。魔毒飲んでるのにMPに余裕があるのかこの人。MPバカと言われるだけある。
「なんかすごくキラキラする」
「毒効いてる内にもう何個か読んでおけば?」
魔毒は『魔法使いの毒』と違い、時間回復らしい。といっても効果時間は長い。
こちらは『アンチ・ポイズマ』じゃなくても通常の解毒魔法を重ねれば解毒出来るらしいが、PVPでは嫌がられそうな毒である。
「あ、そうしよ~。猫ちゃんのおすすめは『光源』と『経過』だっけ」
「光魔法使いがPTにいるなら『暗源』のがいいかもしれないにゃん」
「こないだのあれか。それにしよ~」
フーテンさんがぱらぱら教本を読む横をレトがチラッチラしていて申し訳ないが、フーテンさん自身は気にせずレトを撫でつつ読んでいる。
程なくして覚えたようで、フーテンさんが『暗源』を掛けると部屋が真っ暗になった。
「アッ!?」
「にゃん~」
猫が『光源』で打ち消す。
「相殺する関係なわけね~、ありがとありがと。いや、面白いわ~ほんとにMP減ってると読めるんだねえ。『生活魔法教本』は2よりもうちょい範囲が広くて、0~100あたりまではいけるっぽいねえ」
「なるほどにゃん!」
「これは私もやるわ! 『錬金術』に使えるし、無属性魔法、覚えたいし! 教本買ってこなくちゃ」
リーさんがやる気だ。
「全部覚えなくても5個覚えたら2冊目がたぶん?買えるにゃん」
「わかったわ、ありがとう」
「『生活魔法教本』、元が1万だっけ?」
「そうね~」
「ならこれでいいや」
「はっ、マケボ!?」
エドさんはちゃっかりマケボで買ったようだ。マケボにはもう1万以下はなく、リーさんは悔しがっていた。
しかしここで買っても今すぐは試せないので、ポユズさんと後で魔法師ギルドに行くと決めたらしい。
「法則がわかってるとなると、教本読んでSP取得も希望が見えてくるな」
「そうだね。教本1冊で達成できるのかな?」
「1つめは『教本から魔法を10個覚える』だったにゃんね」
「あ、ああー……なるほど、それはまだ情報出てないのもわかるわ…。たしかミラクル起こした人でも5個だったはず」
「一応ヒントも出てて、魔法師ギルドの受付のお姉さんが言ってたにゃ。NPC魔法師の間では『魔法を覚えた本を10冊集めるといいことがある』という迷信があるらしいにゃん。教本がなにかに変わるから取っておくのかって聞いたら、そうじゃなくて、あと何冊かわかるから取っておくらしいにゃん」
「はあん…、なるほどまったく知らなかったにゃん」
「教本なんて買ったのだいぶ前の話やもんなあ…」
「あ。そうか、2つめのSP取得は『15属性覚える』だね?」
「そうにゃん!」
「そうね~~、それは未達成だわ。SP20か~これは大きいわぁ。……猫ちゃんへのお礼どうしようね…。ちなみに500万zて何に使うの?」
「荷車屋台を買うにゃん」
「んんん?? 木工職人に作ってもらうの? それ素材込み価格?」
「鳩ポッポ商店街にある馬車の店で作ってもらうにゃん~」
「それって『紹介状のない方にはお作りできません』ていわれる店?」
「そうにゃん」
「んんん、これは『紹介状』をもらってる気配…!」
「もらったにゃん!」
「猫ちゃんはやることなすこと爆弾だなあ~!」
「たぶんこれのせいかなって予想はついてるけど、フーテンさんたちには役に立たない情報だと思うから言わないでおくにゃん」
「うん~それは構わないけど、俺らには役に立たないってことはLVが低くないと無理系?」
「たぶん『交易』スキルをラーニングする方法じゃないかと思うにゃん。その過程で『紹介状』がもらえるにゃん。屋台出来るなら、純生産とかの人がSP無しで店を持つためのルートなのかなって思ったにゃん」
たぶんキーはアルバイトをしたこと、その手伝いで一定の成果をあげたこと、それからお礼に行って、お店で商品を買ったこと、もしかしたら『商売が軌道に乗った』と言ったのもよかったのかもしれない。商売がうまくいってる、みたいなことを報告すること、とか。
その辺踏まえて考えると、純生産の人が店を持つ前に商売するためのラーニングルートでは?と思ったのだ。
猫はチュートリアルで踏んでるけど『街にずっといてお金がなくなる』のは戦えない純生産だけだ。アイテムが売れない・作れない・お金ないでダメ元でアルバイトを申し込むと雇ってもらえて、何回かやるとここで『交易』がラーニング出来る。
ラーニングで離れてしまえば屋台の話は出てこないけど、商売がうまく行ってからお礼に行くと、屋台の話が出てくる。そんな感じかな~という予想。
「なるほど~、街の中だけで達成出来るお使いクエストみたいなのを踏んだ感じかな? もし屋台立てたい話がこっちに回ってきたら聞きにいくかもだけど、今は詳細は聞かないでおくねえ」
「わかったにゃ」
フーテンさんは難しい顔で腕を組んでいる。
「うーん…、それでねえ、俺が思うに、猫ちゃんに屋台はまだ早いと思います」
「屋台が欲しいんじゃなくて、荷車が欲しいにゃん。ルイと荷車旅にゃん」
「あ~~、なるほど。ううーん。たぶん猫ちゃんなら調べてるだろうけど、現状、街で使える荷車屋台を手に入れた人は少数だし、馬車やら荷車持ってる人も少ないのよ。NPC産ってなると他の荷車と違う型になる可能性も高いし、悪目立ちしちゃうかもしれない」
「それはそうにゃんねえ。それなら貯金して、もうちょっと後で買うにゃんよ~」
猫は快適ハッピーライフを目指しているので、いくらミュート・ブロック機能があるとしても変な人に絡まれたり、余計なトラブルに巻き込まれるのはごめんである。
NPC産屋台(荷車)がまだ出回ってないというなら、出回るのを待つのは全然構わない。
だというのにフーテンさんはなんだか困った顔をしている。
「猫ちゃん、前にSPの情報は高いって言ったでしょ。やり方も詳細に教えてもらったわけだし、教本の読み方はそれだけでもめちゃくちゃ有用よ。これだけで俺たち5人で300万くらい出しても全然おかしくない」
「にゃあ」
思ったよりもはるかに多いな!
たしかにそれはちょっとためらうのもわかる。
猫はお金は好きだし、もらえるものはもらう主義だけど、猫にも美学というものはある。つまり『もらいすぎはよくない』であり、『情報料はお気持ち』だ。100万くらいなら両手をあげて歓迎したんだけどね。
というか前回SP10で50万だったから今回は100万と思ってたんだけど情報料の計算ってどうなってるの? 猫には相場がわからぬ…。
私は初心者の頃の金欠はMMOの醍醐味と心得ている。万能薬で荒稼ぎしてそこを飛び越えてる自覚はあるけど、それはビギナーズラックでレア拾って売るみたいなもので、まあ問題ない。
でも見つけた情報で荒稼ぎ、というのは主義に反する。だって「こういうの見つけたんだよ~」て人に話すたびにお金が絡むのって、めちゃくちゃさみしいじゃん??
今回はまあSP関連だし、滅多に見つかるものじゃないみたいだから多少は金をせしめる計画でいたけども!
うーむ。
「SP分の情報料は猫への借金につけておくといいにゃん~。猫はお金は欲しいけど、やっぱり初心者の貢がれすぎはよくないと思うにゃあ」
「それはそう」
フーテンさんは神妙な顔でうなずく。
「猫は気ままにいきたいにゃん~。どうせ生活魔法でSP20なんて、初心者が『生活魔法』を取ったら遅かれ早かれすぐ出てくる情報にゃん? 猫はせっかくわかったから知り合いに先に教えてあげよう~みたいなそんな感じにゃん」
「言わんとするところはわかるけども、そういう気持ちが嬉しいから応えたいなってのもすごくあるんだよ~~」
「にゃん~、猫はこれからもフーテンさんに無茶ぶりするから振り回されてくれればそれでいいにゃん」
「振り回されちゃうにゃん~~」
そんなわけでSP分の情報料については、現金として今すぐ直接には渡さないけど、困ったことやわからないことがあったら気軽に相談してね、あと屋台買うときは出すから言ってね、という感じで落ち着いた。
パトロンゲットだぜ?
リーさんは『錬金術』と『調薬』の『魔法薬師』で『投擲士』。
ポユズさんは『調薬師』の『神官』で『弓士』。
エドさんは『木工』と『革工』の『弓工師』で『投擲士』と『採集家』持ち。
ヤマビコさんは『調理師』の『解体屋』で『盾戦士』。
素材や生産のことでも、護衛とかでも声をかけてねと言ってもらった。
『採集家』は冒険者ギルドで認定されるジョブで、採集系依頼をこなしていると発生するそう。
ちなみにフーテンさんはガチ戦闘職の『魔法師』で『大商人』なので、生産も採取系もまったく持ってないそうな。
「砲台魔法師はスキル回しが大変にゃん~」とのことだった。でも最近はなにか生産もやろうかな~と思ったりもしているとか。
SP分の情報料は抜きにしても、初心者シリーズのあれやこれやを売却したり、情報料を別計算したりで、結局また120万zほどにはなった。
『下級万能薬』が、調薬師からの問い合わせが殺到してかなり値上がりしたらしく、前回の査定より上がり、更に補填もしてくれた。しばらくは万能薬作るより下級作る方が得っぽい?
これも結構な大金だと思うが「まあこのくらいなら猫ちゃんにはお小遣いでしょ」とのこと。お小遣いもらったにゃん。
「家具を揃えるか、庭の拡張をするか迷うにゃん~」
「庭の拡張以外の無駄使いはしないんじゃなかったにゃん?」
「猫にソファは必要だと思ったにゃん」
「たしかお使いクエスト進めるとソファは出てきたはずよ~」
「そういえばあった気がするにゃん?」
「ランちゃんはLVはまだ上げないの?」
「SPが余りすぎてるから、そろそろランク報告から始めるにゃん。取るスキルを選ばないといけないにゃんね」
「SPいっぱいいいわね~~。商人と魔法のことなら相談に乗るからねえ。斥候とか採集系はエドもいるし」
「おう、スキルに迷ったら気軽に言えよ。大したことは言えんが、使用感くらいは教えてやれるからよ」
エドさんは見た目は永遠の少年なのに渋いからちょいちょい違和感があるのだが、だがそこがいい。
「頼りにしてるにゃん~!」
6人もいると会話がどんどん伸びーる。
『初心者装備を各属性で圧縮をする』というでっかいやることリストをクリアする回でした。
次回から猫もようやくレベル上げを解禁……? といっても猫なので、はい。
だってようやく畑になったにゃん?
評価、ブクマ、イイネ、誤字報告、感想ありがとうございます。