41.不思議な果樹園
ガラガラ入れてはチンして、ガラガラ入れてはチン。
やることが単純ということは、やることが単純なんですよね。何を言っているのかわからないと思うが、猫もわからない。
アイテム欄に『真鍮屑』を収納する、10個ずつ『錬金術』で圧縮チンしていく、終わったら次の山へ……、という単純作業だが、山を3つ消化した辺りで猫はすでに飽きてきた。これをせっせとこなしていたリーさんはすごい。
フーテンさんの様子はどうかなと窺ってみると、さすがシンデレラ。猫より持てるアイテムが少ないようで、山を収納しきれていない上、出来たアイテムで重量オーバーになるのか、ポイポイと床へ捨てていた。
「不法投棄にゃん」
「重いにゃんよ~~!」
フーテンさんが嘆くのもわかる。『錬金術』は何気に所持重量が重要になってくるのだ。このゲームの『錬金術』に質量保存の法則はない。元の材料より軽いアイテムが出来上がることもあれば、重いアイテムになる場合もある。
今回は初回の『圧縮』が重いアイテムになるパターンのようだった。
重量制限を越えると、アイテムを捨てるまで動けなくなるんだよね。
「魔法師に『錬金術』はなかなか厳しいのかもしれないわね」
「まあせっかくだからやるけどね~」
リーさんも覗き込みながら思案顔だったが、フーテンさんはポイポイアイテムを捨てつつも『圧縮』を続けている。あ、弾けた。
ボンと錬金釜から煙が上がるのは見たことのない光景でちょっと面白い。いや、猫もやらねばな。
フーテンさんのポイ捨てしたアイテムを拾って、猫も『錬金術』をチンする。
『真鍮屑』だったアイテムは『真鍮片』になり、更に圧縮すると『きれいな真鍮』の最低品質になる。だいたい『真鍮屑』の20倍の重量になるだろうか。まあ屑から塊になるのだから、そのくらいの重量アップは当然か。
そうして作業することしばらく。
「お」
「にゃん?」
隣で圧縮を成功させたフーテンさんが顔を上げた。
「『錬金術(釜)』をラーニングしたみたい~」
「『錬金術(釜)』!?」
それはもしかして懐かしの『料理(焼く)』みたいなラーニングスキルだろうか。まさか『錬金術』にもそんなスキルがあったとは知らなかった。
「てことは錬成陣も使ったら完全にラーニングできるのかしらね?」
「たぶん~?」
「にゃあ、そんなシステムだったとは…。ひとまずはおめでとうにゃん~!」
猫が言うと、リーさんも「おめでとう!」とクラッカーを鳴らすアクションを放つ。
ハッ、クラッカーのアクション、猫まだ手に入れてないな!? お使いクエストで手に入ると聞いていたけど、たぶん猫ったら取り忘れているんだな。
仕方なく今回はぺちぺちと肉球拍手をする。やることリストにメモしておかねば。
再び釜と向き合う。フーテンさんが爆発しなくなったので、ガラガラチンの音だけが室内に響く。さ、さみしい。
「あっ!」
今度は『真鍮屑』の山を取り込んでいたリーさんが声をあげた。
「あったわ、『真鍮の操骨』!」
「にゃあ、やったにゃん!」
「やった~~解放される~~!」
ひとしきり喜んだ後、リーさんが操り人形くんに『真鍮の操骨』を持って話しかける。
『真鍮の操骨』は十字架のような形のアイテムだった。
「お探しものはこれで間違いない?」
「ああ、ありがとう、これだ、これだよう! 僕にくれるのかい?」
「もちろんよ。どうぞ」
操り人形くんはふるえる手を伸ばして『真鍮の操骨』を受けとると、自身の手足から伸びる糸を結びつけた。
ふわりと十字か浮かび上がり、操り人形くんが立ち上がる。
「体が動く、動くよ! ありがとう!」
「どういたしまして」
操り人形くんはふわふわと浮かびながら踊っていて嬉しそうだ。
「鍛冶師はいるという話だったのに、修理してもらえなかったの?」
「ああ……、僕たちはいま、過渡期を迎えているんだ」
「過渡期にゃん?」
「僕たちは長い時を経たからね」
操り人形くんの言うことには、この城で生きている人形は長く生き過ぎたらしい。そのため体のあちこちに不調を抱えているが、それを直すものはひとりきり。
「おまけに近頃では素材も足りなくて……」
素材が失われつつあり、『錬金術』で屑から素材を作ったりしているが焼け石に水。どうしようもなくなったものは自ら悟り、城を出て廃墟へ向かっていくという。
「廃墟に行くと何があるの?」
「わからない。でも廃墟へ行ったものは、もう戻ってはこないんだ」
『うーん、異界に取り込まれて魔物になっちゃうとか、そういう感じかな』
「にゃん~~」
ちなみに操り人形くん、錬金術師であるらしい。
「僕まで壊れかけてしまって、どうなるかと思ったよ」
「素材はここ以外では補充出来ないにゃん? たとえば、どこかで採掘出来るとか」
「鍛冶師のゴーレムが育てているけれど、なにぶん時間がかかるんだ。僕たちがすべて消えるのが早いか、あれが追いついてくれるのか」
「んん? 育ててるの? ゴーレムが素材を?」
「そうだよ」
フーテンさんが首をかしげると、操り人形くんはうなずくように膝を折った。動きが大仰なところがほんと人形劇みたいだ。
「中庭へ行ってみるといいよ。鍛冶師は最近、いつでもあの木の下にいるからね」
「にゃあ、行ってみるにゃん~。途中まで圧縮したの置いてっちゃって大丈夫にゃ?」
「大丈夫だよ! ありがとう、あとは僕がやるよ」
操り人形くんは両手を上にあげて、ひらひらとさせた。頑張るよ~て感じだろうか。
あれだけの素材をひとりで圧縮しているのだとしたら孤独で途方もない作業だなあ。ワンオペなのはよろしくない。
しかし中庭にいるという鍛冶師のゴーレムも気になっちゃう。
『順路は中庭ってところね』
『いってみますか~』
『了解にゃん~』
中庭は一階からは行けなかったが、二階の中廊下から階段を降りていけるようだった。城って迷いやすく出来ているもんだけど、アライアンスで探検しているので地図が出来上がっていてありがたい。
すでに中庭へ降りた人がいるんだな~、などと思いつつ向かってみると、なにやら人集りが。というか結構な人数が集まっているな?
あ、ノーカさんが出てきた。
「こんなところで何してるにゃ?」
「ランさんたちもお揃いで。お暇なら手を貸してもらえますか」
「にゃん? 猫の手で良ければ貸すにゃんよ~」
手伝いの要請とは、なんだろな?
「あっ、ランさんたちも来たんだ。手が足りてないから助かるよ」
「たしか皆さんは『農業』を持ってらっしゃいましたよね」
「『農業』にゃん?」
アルミハクさんとアベルさんにも誘われて、中庭の奥へと導かれる。するとそこにはたくさんの木が整然と植えてあり、まるで果樹園のように皆が木のお世話をしていた。
「にゃん!?」
「これは予想外」
「おっ、フーテンたちも来よったか」
「『錬金術』の方は片付いたのかい?」
「結構かかったな」
神官さんたちに混じって、ヤマビコさんにポユズさん、エドさんも参加している。
「これはどゆこと?」
「謎の果樹園へようこそ!」
大きな籠を持ったユミーさんが出迎えてくれた。
「果樹園にゃ?」
「成るのは『メタルの実』の、不思議で謎な果樹園よぉ」
「『メタルの実』」
「はいどうぞ」
ユミーさんから渡されたのは猫の両手で持てるほどのちょっと大きな赤い実で、見た目に反してかなりずっしりと重い。
そしてなにやら中央に線が入っていて、きゅっと捻るとガチャガチャのカプセルのようにパカッと開いた。
「にゃん!?」
「それ面白いわよね~、中身ランダムなのよ」
中には種のように鈍い灰色の球体が入っている。この部分がランダムらしい。
「これって何にゃん?」
「鍛冶師いわく、金属素材ですって。私はスキル持ってないからよくわからないけど、わかるやつだとただの『鉄』だったりするわね」
「にゃあ、なるほど『メタルの実』にゃんね!」
中身が金属のガチャの実だ!
「ちなみに当たりは『ゴーレムメタル』で新素材だよ」
「鍛冶師が求めているのがその素材です」
「つまり我々のすべきことは、収穫?」
フーテンさんが猫の手の『メタルの実』を覗き込みながら尋ねると、ヤマビコさんが笑った。
「甘いなフーテン。『農業』やで!」
「まだまだこっちの木は花が咲いてない」
「そのままにしておいたら実が成るのは3年後とかいうんだもん。そりゃ手を貸すしかないよね」
「ああ……『タイムパス』かあ~!」
こんなところで時短農業が求められている!
「ちなみに果肉は食べられます」
「ええ……」
食べる気があまりしないなあ。
単体でみると、種(金属)を取り除いたあとの果肉は赤くて瑞々しくてちょっとライチのようなぷるんとした感触なんだけども。中身が金属だったと思うとちょっとな。
今は収穫のグループと、花を咲かせるための『タイムパス』グループと、それから花が咲いたあとの受粉をするグループに別れていたそうだ。
MP豊富なフーテンさんは『タイムパス』班。リーさんはポユズさんと同じ受粉班。
MP少なめだけど『育樹』持ちで『運搬』もある猫はあーだこーだと迷われた結果、とりあえず収穫班に回ることになった。『育樹』は果樹の収穫にも効果を発揮する。
籠を片手に、ルイに乗りながら不思議な果樹園を回る。どうやら同じように『タイムパス』をかけていても、樹によって花が咲くものと咲かないものがあるらしく、収穫する樹は固まってはいない。
赤い実が丸々と成っているからわかりやすいけどね。
同じく収穫班のユミーさんと並びながら、赤い『メタルの実』をもいでいく。重いので片手じゃ取れなくて、なかなか大変。もぎもぎ。
「そういえば、肝心の鍛冶師さんはどこにいるにゃん?」
「鍛冶師は素材をみんなが採ってきてくれるなら、てことで今は鍛冶場に戻ったわ。鍛冶師に用があったの?」
「にゃあ、城にいる人形から話を聞いたにゃんよ。それで鍛冶師が詳しく知ってそうだったから、中庭へ来てみたにゃ」
「ああ~、もしかして、もうこの城の人形たちは滅びる運命なんだ…みたいな話かしら」
「猫が聞いた話では、過渡期にいるって話だったにゃんね」
鍛冶師さんの方では滅びる運命まで言ってしまっていたのか。悲観的なNPCなのか、操り人形くんの方が楽観的だったのか、はてさてどっちだろうな?
評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。
『オズの魔法使い』の続編の、オズマ姫の話だったかで、ドロシーがおべんとうの木を採るシーンが好きだったのを思い出しつつ。本によってはサンドイッチの木だったり。




