39.人形遣いの昔
ゴーレムのお婆さんの話は大変興味深かった。
その昔、学園都市がまだ芸術都市と呼ばれていた頃、都市の中に異界の扉がたびたび開くようになった。
「当時、都市の界は安定していなかった。今もなお安定していないと伝え聞くが、それよりもなお揺らいでいた時期があった」
学園都市は街でありながらダンジョンを有している通り、異界の扉があちこちに開いている。それは芸術都市と言われていたときにはなくて、あるときから異界が開き始めたのだそうだ。
「きっと何か原因があるに違いないと、皆は考えた。そして疑われたのが、あたしたちだった」
「にゃあ……」
「あなたたち、というのは」
「あたしたちゴーレム――魔道傀儡さ」
「精霊傀儡とは違うにゃんね?」
「もちろん違う」
ゴーレムお婆さんの言うことには、まったくの別物であるらしい。精霊石を心臓に据える精霊傀儡と、魔道石を心臓に据える魔道傀儡。ふたつは異なる技術からなり、違う知識によって裏打ちされている。
「ゴーレムってのは、そもそも本来は異界でしか生まれないんだ」
異界でしか生まれない魔物、というのは数々あるのだが、そのひとつがゴーレムだ。一説には人間を模したものであり、だからこそ異界の街にはゴーレムが現れるのだ、という話もある。
そんなゴーレムを擬似的に製作する人形製作師たちは、界の歪み始めた芸術都市で、ある疑惑をかけられた。
彼らがゴーレムのために異界を作り出したのではないか、と噂されたのだ。
「疑惑は広がっていき、あたしたちは処分を迫られ、主人や製作者は身動きを封じられていった。中には都市を見限って出ていくものたちもいた」
「にゃん~、出ていっちゃったにゃん?」
「ああ、あの街にいるよりはまだ生きる道があると言ってね。それも正解だったかもしれない。それくらい皆、追い詰められたんだ。異界を作り出すなんて大それたこと、マレビトでもない限り、出来るはずがないってのにね」
「マレビトが持ってるのは異界に干渉する能力であって、異界を作れるわけではないですよー」
「そうにゃんよ~」
「おっと、ふたりはマレビトだったのかい。そいつは失礼したね」
「いえ、話の腰を折ってしまってすみませんでした」
「構わないよ。そうか、マレビトかい……」
ゴーレムお婆さんは大きく息を吐くようにプシューと蒸気を吐く。これがあるから、あまり傍へは近寄ることが出来ない。スチームパンク感。
「そんな折、職人街に大きな異界の扉が開いてね」
職人たちはあわてふためき、工房を捨てて逃げ出した。しかし中には戦うものもいた。
それは人形遣いたちだった。
……なんかそんな話、聞いたことあるな。たしか隠者の村にいた、シャイアネイラさんがそうじゃなかったっけ?
そのとき大暴れしたのが原因で、殺戮鬼と呼ばれていたとか、聞いた覚えがあるぞ。
「あたしたちは戦って戦って、異界の扉を街から切り離すことに成功した」
「おお! すごいじゃないですか!」
「ああ、あたしたちの誇りさね。……でも、異界の力っていうのはすごいんだねえ」
ゴーレムは異界の存在。
その理が働き、お婆さんたちゴーレムは、この異界から出られなくなってしまったのだそうだ。
「召喚獣とかにはなれなかったにゃ?」
「召喚獣になるには、我々は数が多すぎた」
魔道傀儡とは、精霊傀儡と違い量産型人形の技術であり、ひとりの人形遣いが10体以上を使役していたのだそうだ。
どうも軍隊を指揮するような技術っぽいな。
「もちろん何体かは主人に拾われたよ。それでもすべてじゃなかった。……ここにいるあたしたちは、見捨てられたんだ」
「にゃん~……」
話を整理しよう。
ここは芸術都市だった頃の職人街が異界化で切り離された場所。
ここにいる人形たちはゴーレムで、元は魔道傀儡だったが、異界の理によってダンジョンに閉じ込められてしまった。
元の人形遣いさんにも全員を救うことは出来ず、放置されてしまっている。
うーん。
これってもしかして、強力なゴーレム入手のイベントなんじゃなかろうか。
ここで召喚獣にすることで、名のあるゴーレムゲットだぜみたいな。
『なるほど、その可能性はありますね。その場合、このままだと使えなくて、強化イベントを挟むような形になりそう』
『にゃあ、そして『魔道傀儡』へ……みたいなやつにゃん』
『あり得ますね!』
問題はショーユラさんは召喚枠を使いきっていて、猫は『召喚石』を持っていないことだ。不覚……!
レキ、シロビで『召喚石』使いきったままだったのだ。召喚獣はしばらく迎えることはないだろうと、油断しきってました。反省!
『やはり僕ら、ここでお役に立てることなくないです!?』
『にゃん~! あきらめたらダメにゃ、そこで試合終了にゃん! きっと何かあるはずにゃんよ!!』
ふたり目配せしあってじたばたしていると、ゴーレムお婆さんが言った。
「さっき、マレビトは異界に干渉する力があると言ったね」
「はい、言いましたけど」
「その力で、あたしたちを解放することは出来ないだろうか」
ピコと目の前にウィンドウが現れる。
『ゴーレム・ウィッチにDPを注ぐことが出来ます 0 /50』
DPかあ。
それなら猫でもお役に立てるけども。
『思ったより全然必要DPが低くて逆に気になるにゃん』
『どういうタイプのDPでしょうね?』
『解放するとどうなるにゃ?』
『学園都市に復讐にいくとかだと困っちゃいますよね!』
『それは困るどころの話じゃないにゃんね!』
わからないことは聞いてみるしかあるまい。
「解放されたら何がしたいにゃ?」
「主人を探したいねえ」
「ご主人さんはルイネアです?」
「いや、あたしの主人は人族だったよ」
「……残念ながら、ご存命じゃない可能性が非常に高いですねえ……」
学園都市が芸術都市と呼ばれていたのは、百年以上前だという話だ。
「そうかい……」
再び、長いため息のように蒸気が吹き出す。
『ランさん、壁の中にGPSがありますけれど大丈夫ですの?』
『にゃにゃ、ティアラさんにゃ!?』
『そうですわ。さっきまで消えてたGPSが突然壁の中に現れたものですから、話しかけてみましたの』
『こっちには来られそうにゃ?』
『ううん、どうかしら。近くの壁まで行ってみますわね』
『『鍛冶』が必要っぽくて困ってたにゃん~、よかったら来てくれると嬉しいにゃ!』
『こちらは逆に『裁縫』『錬金術』が必要なものばかりで、わたくしにこなせそうな依頼がなくて困り果ててましたの。お役に立てるならぜひ向かいますわ!』
祝・個別チャット開通!
たぶんさっきの会話でイベントが一段落したのだろう。それで遮断されていたチャットが戻ってきたらしい。PTも無事復活したようだ。
ショーユラさんも個別チャットがきたのか、頬に手を当てて頭上を見上げている。どういうポーズなの。
『僕たち、壁の中にいるようですね……?』
『知らなかったにゃんね』
『今、タスクさんから通信きたんですけど、『召喚石』なら持ってるそうで、こっち来てくれるみたいです』
『こっちはティアラさんが『鍛冶』イベントがあるならってきてくれるにゃん~』
『いいですね~! あとは辿り着けるかどうかですね!』
『にゃんね~。ティアラさんいわく、お外には『裁縫』や『錬金術』のイベントも転がっていたみたいにゃん』
『聞きました、『裁縫』イベントあるけど来れないかというお誘いだったので。んもー、出たら回らないといけませんね!?』
『猫もにゃん』
まだ見ぬ『錬金術』イベントが気になる!
いや、その前にゴーレムお婆さんなんだけどね。さっきのDP案内を見るならば、ゴーレム・ウィッチさん。
猫としてはメタ的にオズかな? と思っていたけど、どうやら魔女の方だったらしい。
魔女といえば、あの建物の下敷きになっていた足はなんだったんだろう? あとトンボドローンも気になる。
『欠けた通行証』として集めてきたものたちは、城に入った時点で消えてしまったんだけども。
「にゃあ、猫たち、城に入る前に『通行証』を集めてきたにゃんよ。あれはいったい、なんだったにゃ?」
「『通行証』……あたしは詳しくないね。どんなものだい?」
「ウィッチボットから案山子を作ったり、スチールソルジャーからブリキの樵を作ったりしたにゃ。あとライオンのぬいぐるみと」
「それは一緒に戦った、あたしたちの仲間の残骸だね」
「にゃん……」
「きっと集めて直そうとした子がいるんだね。あたしたちは、直す技術を持ってやしないのに……」
『ん~、この集めてる子っていうのがオズなんですかね?』
『そっちも重要人物の予感がするにゃんね~』
まだまだクエストが埋まってそうな気配がするぞ。
『壁まで来ましたわ! ヒーラーのタスクさんとも合流いたしました。見たところ、特に仕掛けはなさそうですけども』
『にゃん~~?』
ティアラさんが来たのは、北側の方角。猫たちからみても、壁には何もないように見える。
猫はひとまず壁にピタリと触ってみた。
『転移扉が解除されました。転移しますか?』
『あっ。転移扉が出ましたわね。行ってみますので、ちょっと離れていてくださる?』
『了解にゃん~!』
ちょっと離れると、すぐにまずティアラさんが転移してきた。それからタスクさんも転移してくる。
「来られましたわね!」
「うぃっす、合流~。て、デッカ!」
ティアラさんとハイタッチしてる隙に、タスクさんはゴーレムの大きさにびっくりしている。
「いや……、さすがにこのでかさは予想外」
「男に二言はないでしょう!」
「召喚しても使いこなせる自信がありませんなあ!」
「修理でコンパクトになる可能性もありますし!」
「あるかなあ!?」
ティアラさんはそっとゴーレムに近寄った。
「ゴーレムさん、わたくし金属を直す術は持っていますの。でも、直し方には詳しくありませんわ。どうしたらいいか、教えていただける?」
「炎と金属の音がする、懐かしい気配だ。ありがとう、お嬢さん。あたしを直してくれるかい……?」
「ええ、きっと」
ティアラさんは周辺に散らばっている工具と炉を使って『鍛冶』が出来ることを確認出来たようで、ぐっと握り拳をつくった。
「やりますわよ!」
頼もしいにゃん~!
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ハッピー猫の日!(1日遅れ)
なんと猫も300話に到達しました(教えていただいて気づきました)
こんなにたくさん読んでくださって、いつもありがとうございます!




