28.初心者装備の圧縮実験・後
後編です
まず火は『サラマンダークロー』。
「初っぱなから予想を外してきたなあ」
「初級属性武器シリーズ?」
「かもしれへん」
『サラマンダークロー』は格闘系の火属性武器。同材料からナイフやソードも作られるため、ランダムかも、とのこと。
無属性は『魔鉄』。
「おお? 素材で来たか。予想外」
「これはどこのだっけ、廃鉱ダンジョン?」
「の、第三で新しく繋がったエリアで採掘出来るやつやな」
「新素材繋がりか~。たしか採掘難易度はあんまり高くなかったはずだよねえ」
「だから廃鉱二層入ってすぐのエリアが激混みしてるらしいしな。周りが魔物狩るから安全ってんで、初心者も混ざってるらしい。その場で買取とかやってるってのも見た」
新ダンジョンの素材か。それにしてもダンジョン、たくさんあるな。
「ん~、でもこれ、初心者は素材LV的に加工出来なくない? そこだけちょっと気になる」
「そういやそうだな?」
「にゃん~? お使いクエストで要求されるとかもないにゃん?」
「万能薬みたいにそういうパターンもあるか。なんかサブクエでもあったかな? 調べておくわ~」
次の時属性は『カウントダウン』。時計の針を思わす形をしたナイフだ。
「ね、ネタ武器だあ~!」
「懐かしいな、1/100の確率で相手に『死の宣告(100sec)』を与え、1/1000の確率で攻撃時に壊れる……と言いながら、死の宣告を見ないまま消えた武器が何本あったことか」
「死が宣告される前に敵が死んでた説が優勢だったでしょ」
「出てくるのが早すぎる武器だったんだよなあ。今ならわりと面白く使えるのかも? この『死の宣告時のみ相手の防御力を貫通』が強キャラの予感」
「死の宣告の効果に、全ての能力を3割上昇がなければあるいはいけたかもしれんな」
ドーピングして早死にさせる的な効果なのか、死の宣告。使いどころに悩むやつだなあ。たしかにこれはネタ枠だ。
闇属性で『影走りのダガー』、毒属性で『ウィザード・ロッド』と順当な結果。
そして木は『ドルイド・ナイフ』。
『影走りのダガー』は攻撃力は低いがクリティカル増強と、典型的な斥候装備。
『ウィザード・ロッド』は魔道杖で『拡大』が杖のアビリティとしてついている。魔道杖はこういったアビリティ付きの装備が多く、更にこのアビリティは、手持ちのスキルとも重複されるので無駄にならない。
指揮杖はステータス増強だけなので、そりゃ魔道杖が人気になるよね。
ナイフを圧縮して杖が出たし、おそらく武器アイテムは共通で、同じものが出来るのだろう。『ウィザード・ロッド』はよくある捻れた木の杖だった。
『ドルイド・ナイフ』はやはり儀式用という位置付けなのか、武器というより『草刈り鎌』などの採取道具の亜種である。
蔦の『採取』時に確率で『ヤドリギ』を入手する効果。
「ヤドリギ?」
「『ドルイド』シリーズのメイン素材だねえ。煮込むと染料と糸が取れるらしいよ」
なるほど? まずナイフを作って材料を集めてドルイド装備を作るのか。
「採取できる蔦が当時はダンジョンの奥地しかなかったから微妙だったけど、今なら古城跡とか、あと廃庭園ダンジョンとか刈り放題だね」
古城跡は廃都の南にあるフィールド、廃庭園ダンジョンは学園都市らしい。
「蔦やったら廃都にも生えてんかったっけ?」
「あれはただのオブジェクトで採取スポットはなかったはず?」
「いや、いつだかのアップデートでフィールドのオブジェクトに採取スポットを増やしたやつがあって、たしかあれで採れるようになってたはず」
廃都にもあるなら割と楽に集まりそうな気も?
『ドルイド・ナイフ』の材料次第ではドルイドシリーズを初心者が作るようになるかもしれない。
さて次は空間属性で『コズミックシュート』。
「お。無限スリングショットだ。これは猫ちゃんにいい装備。持っておくといいよ~」
『コズミックシュート』は弾を消費せず、魔力を使って撃つスリングショットだそう。
MP1消費で1発撃てるので、ほぼ無限に弾が撃てる。その代わり威力は使用者ではなく『コズミックシュート』の性能に依存している。またMP弾以外の通常弾やデバフ弾は撃てないという特徴もあり、初級を越える頃には残念ながら役立たずになる武器なのだとか。
「ものすごい便利なんだけど、威力が装備固定なのとデバフ弾撃てないのが難点なんだよな」
「にゃーん! 猫は筋力も魔力も低いからそのどちらも参照しない武器はむしろ助かるにゃん! デバフ弾もまだ持ってないから問題ないにゃん」
器用さえ高ければ使える武器、最高では?
この武器も、材料あつめるのがめんどくさい系らしい。
「『水晶石』が大量にいるんだよたしか。他の材料は大したことないんだけど、石拾いが苦行だった記憶」
「『水晶石』は代用で、チェスニャッコの魔石があれば早かったはず」
「チェスニャッコは遭遇がレアな上に、魔石もレアだから…」
廃都にある地下遺跡ダンジョンに出るmobで、擬態を得意としていて、周辺で戦闘が始まると擬態を解いてしれっと混ざっているような魔物らしい。
邪魔するだけしてしれっと消えていることも多いという嫌われもののmobだ。
しかし魔石やその他のドロップもレアだったので、狙って狩ろうとするものも多くいた。しかし遭遇そのものが少なく、関連アイテムはそれほど出回らなかったそうな。
魔石が全然出ないから救済として『水晶石』を使う方法もありになったのだ…、とかなんとか。
外観としては紺色のスリングショットで、柄に流線型の銀のライン、それに星が散っている。イメージは流れ星なのかな?
弾をセットする部分が銀の星型で出来ていて、なかなかかわいい。
最後の聖属性は『鎮魂の印』。
「おお、正統派神官装備」
「これは光で出るかと思ってたわ」
『印』は神官武器で、いわゆるロザリオ的なアイテムだ。見た目には大きな飾りのついた鎖。ペンダントにしたり、懐中時計のようにベルトから下げたり自由に出来るらしい。
『印』は指定された神官魔法の性能を上げたり補助したりするというピンポイントな効果がある。
例えばこの『鎮魂の印』は『ターンアンデット』の使用MPを半減する効果。
「『ターンアンデット』専用武器やろ? つまりTUは聖属性だったんやな」
「神官魔法には聖属性も含まれてるんだろうなあ~。明らかに火属性だろって魔法とかもあるから、全部聖属性なわけではなさそうだけど」
「『ジャッジメント』な…」
『ジャッジメント』は正義神による神官魔法で、使うと本人が火に包まれる。
この火は己が正しい行いをするときは熱くなく、己の敵には炎となる。本人の行いが正しくない場合は神罰が下り本人が焼ける…というフレーバーのある魔法だ。
実際にはただの火属性付与(全身)。火属性攻撃になるし火耐性になるだけという、見た目は派手だが使いどころが微妙な魔法らしい。
このゲームはジョブ神官じゃなくても『回復魔法』スキルを持っていればヒーラーは務まる。
この世界に於ける神官の役割は『邪悪(魔物)を滅ぼすこと』と『邪悪(魔物)から人々を守ること』だ。
なので神官の運用として、メイン戦士サブ神官みたいな、神官戦士も多い。もちろんヒーラー神官もいるので、神官というジョブだけでは役割の見当がつかないんだって。
ちなみにまだ複合職というかそれこそ『神官戦士』みたいなのはまだないらしい。
フーテンさんのところではポユズさんが『神官』で、『狩猟神』信仰の『弓師』だとか。
『狩猟神』は土着信仰っぽい神さまで、弓や投擲武器の命中率を高めたり、自分の姿を隠したりヘイトを下げるバフ魔法が多いらしい。自分以外にもかけられるので、便利なのだとか。
そういう『神官』もあるんだね。面白い。
「狩猟神の魔法で、唯一聖属性かも?て思うのは『スケープゴート』で文字通りに神に羊を捧げてバフかける儀式魔法かな」
「あの儀式魔法、めちゃくちゃ邪神みがあるよね~~」
「失礼な!」
白月夜限定の魔法らしい。たしかに邪神みが……いやいや。
いろいろあるね。
ちなみにポユズさんもTUは使える。LV10までに覚える神官の魔法はどの神も共通のものが多いそうな。
そしてTUが使えると神官が輝くダンジョンがあるので、ソロでのLV上げにこの『鎮魂の印』を作るのが神官の既定路線だったらしい。
「でも材料を手に入れるのに『ターン・アンデット』しまくる必要があるのよね」
あー。
欲しいときにはそのアイテムがなくて、ようやく作れた頃には別になくても大丈夫になってるやつ…。
よくあるよくある。
最近はそのダンジョンでのLV上げ自体が下火になっているので(効率がいいのは変わらないがなにしろアンデッドダンジョンなので不人気)、『鎮魂の印』も見かけなくなっていたそうな。
さて武器も確認を終えて、最後は初心者革装備の確認、靴20個鎧20個。フーテンさんは靴と鎧は10個集まらなかったそうな。
「シャツとズボン以外はみんなバラバラにもってるからややこしいよねえ~」
フーテンさんが集めた分はまとめて私がもらっておいて、またマケボで不足分を集めることにする。
靴は『影走り』シリーズが出たことは伝えたので、毒と木は確認しないことにした。
ちなみに『ウィザード』と『ドルイド』の靴装備は、ハイヒールブーツと編み上げのグラディエーターサンダルらしく、それぞれ単品のオシャレ装備としてそれなりに人気だそうな。
猫は別にオシャレ装備はまだいいかな?
「地水火風のどれか1つ、時、無、あと空間かなあ、鞄が出るかどうか?」
「それがいいと思う」
というわけで実験。
服では土、火、水と素材だったので風で試すことにした。
「『ビッグブルの革』にゃんね」
「オーソドックスに来たねえ」
ビッグブルはでかい牛だ。廃都から自由都市の間にある草原に群れで生息している。
はぐれを狩るならほどほどの強さで安全だが、群れのを攻撃するとリンクしてえらいことになる。ちょっと調子にのってきた初心者を容赦なく轢き殺す、初心者キラーとして有名だ。
鎧に靴、鞄に籠手と、革製品ならだいたいこの革で作れる、初心者の『革工』が長らくお世話になるアイテムだとか。
次の時属性は『初心者ラーニング手袋』。
「これは防具共通っぽいねえ」
そして次の無属性は『魔法のゲル』。
「おん?? これは初見。見た感じ調薬素材?」
「っぽいわね。『調薬素材』表示が出てる。でも見たことない。ポユズは?」
「僕も初見。第三アップデートの新アイテムだとして、レアドロップか、なんらかの素材の生成物だろうね」
「これまでの流れを汲むと、採取アイテムという可能性も?」
「こんなん採れそうなとこある??」
「『魔法の~』と名がつくってことは学園都市のダンジョンだろうねえ」
「ただのゲルは前からあったにゃん?」
「ジェリからドロップする『ジェリ水』を調薬で煮詰めると『ジェリーゲル』ていうのになるね。リジェネポーションの材料だよ」
「でもアップデートで追加されたジェリ系のドロップに水ものはなかったはずよねえ。調薬といえばジェリだから、乱獲してあらかた実験済だろうし」
「うーん? 謎だな~」
考えても今すぐわかることではないので、次へ。
空間魔法は『郵便鞄』。
くすんだ茶色の革で出来た肩掛鞄で、いわゆるメッセンジャーバッグ型。アイテム名もそんな感じだし。
「これはまた手堅いのが出たねえ」
「ポシェット系がくると思ったら容量重視で来たか」
ポシェット系は鞄というよりオシャレ装備で、性能は『ポーションポケット』よりショボく、だいたい1枠で重量200増えるだけのものが多いらしい。形も色もいろいろなものがあり、今でも街着に持つ人は多い。
それでもポシェットは『運搬』無しで持てる最初のインベントリ拡張アイテムだったし、当時はアクセサリはほとんどなかったので、すごく人気だったんだって。
対するこちらの『郵便鞄』は見た目は大きくごついが、所持重量2000の効果は大きい。
『運搬』スキルは、LVに応じて自身の重量限界が増えるのだが、それとは別に、装備している鞄の性能を最大限に引き出すという効果がある。
この効果は鞄によって異なるのだが、『郵便鞄』は破格の+1000と、この鞄だけで3000も増えてしまう。すごい。
今となっては装備アクセサリも充実しているし、マイルームが出来てからは大容量のごつい鞄は不人気アクセサリになってしまったので、見かけなくなっていたそうだ。
えー、雰囲気あって可愛いけどな。すごいたくさん入るし。
ちなみに当時鞄アイテムでも容量が多くて人気だったのが、これと『探検家のリュック』だそうな。
「リュックは今でもコボルト系に背負わせてダンジョン潜ってる人見るね~」
『召喚』『使役』ともに装備品はアクセサリ3個と武器を装備させることが出来る。ちなみにルイの鞍もアクセサリ扱いだ。ロバの武器は蹄鉄らしいので、探していずれつけてあげたいところ。
一部のアイテムを除き、アクセサリは従魔(召喚獣)と共有出来る。
装備アイテムは自動サイズ調整なので、お古を渡したりも出来る。とはいえ従魔専用アイテムの方が効果は高いらしいけども。
あれやこれやと懐かしい思い出話などを聞きつつ、無事に初心者シリーズの圧縮実験は終わった。
実験は終えましたが、まだあと2話ほどお喋り回が続きます。
おそらくわかる人にはわかる程度にあるMMO(?)の影響があります。なんだかんだいっていちばん続けたゲームだったかもしれない…。
評価、ブクマ、イイネ、誤字報告ありがとうございます。
自分でも見つけたら直してるけど「そんなことある!?」てのがくるので、ありがてえ…