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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
6章 猫はいつでも風まかせ

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28.霧の迷子

 霧の迷子。

 屋台のお姉さんから聞いた、魔物のような魔物じゃないやつ。ただひたひた足音がついてくるだけ、振り向くと足跡があるだけで、実害はないらしい。

 でもまあ気持ち悪いので、振りきる方法が2種類ほどある。

 ひとつは振り向いてそのまま逆方向へ戻ること。もうひとつは、角を曲がること。


 一応掲示板でも調べてみたんだけど、『霧の迷子』という名称での報告は少なかった。どうやら霧の濃い日に街で会った人が、知らないうちに振りきっていたパターンが多いみたい。角を曲がれば振りきれるから、振りきるの自体は簡単そうだ。

 とはいえ柱廊はゆるやかに弧を描きながら円形に進んでいる。振りきろうとしなければどこまでもついてきちゃいそう。


 それに、迷子なんだよなあ。

 猫、こういうの気になっちゃう方。形のないホラーは苦手ではあるんだけど、足跡小さいしな。

 迷子というからには、帰る場所があるんじゃない?


 とりあえず一周、振りきらずに歩いてみよう。気にしない素振りで神像探しを続ける。『錬金術』の神、本当にいるのか怪しくなってきたぞ。

 ……。

 だんだん足音が近づいてきて、しゃくりあげるような子どもの泣き声も聞こえてきた。霧が出てきたようにも感じるし、なかなかホラー演出。


「迷子にゃん?」

「……」


 話しかけても返事はなし。

 街中でも現れるというから違うかもだけど、猫としては神さまのひとつなんじゃないかなあと疑っているところ。かくれんぼの神みたいな。イレギュラーな感じの神さまがいるかもしれない。

 あ、でも悪神の可能性もあるのか。うーん。まあいいや。


 だんだん泣き声がひどくなってきて、わんわんと反響するように響きわたる。子泣き爺ってこんな感じだろうか。背中におぶってないから全然違うか? こういう現象系ホラーになってくると、猫ぜんぜん平気。

 足跡が猫のまわりに突然増えたりし始めて、走り回ってるような足音が聞こえたり、「ねえ」と話しかけるような声が聞こえたりしはじめる。

 だいたい全部をスルーして進む。

 話しかけられたやつには「何にゃん?」と返事をしてみたんだけど、会話が全然弾まなかったよ。残念。


 お、魔法陣を持ってる神像を発見。『錬成陣』に似てるけど、どうだろう。

 神像のお顔を見上げると、顔が二つある。男性神と女性神。体はひとつで、男女が融合しているようだ。男性的な右手が天井を支え、女性的な左手は魔法陣を抱いている。

 ちょっと悪神ぽさもあるけど、気になる。祈っちゃうか!

 『錬金術』の神さまと信じて、『錬金術』で作ったアイテムを捧げることにする。『錬成陣』を持ってるっぽいし、奮発して『魔硝子クリアビジュー』をあげちゃうぞ。

 加護くーださーいにゃ~ん!


『浄化のアルベドを経よ……』

「にゃん?」


 加護もらえたし、実際みてみると『錬金術の神』だったので大当たりだったんだけど、今のお言葉はなに??


 浄化のアルベドってなんだろ。

 調べてみると、『錬金術』の段階の話?らしいな。腐敗のニグレド、浄化のアルベド、そして輝くルペドを経て賢者の石は成る、的な。

 そういえば『錬金術』って賢者の石が関係あったね! て前もそんなことを思った気がする。

 そうそう、このゲームの『錬金術』が最終的な目的として求めるのは、金の錬成ではなく生命の創造なんだよね。その目標にめちゃくちゃ似てる!というんで参考にされているのが『精霊石』、という話。

 てことは浄化のアルベドを指定された猫はすでに腐敗のニグレドの段階は過ぎてるってこと? いつの間にか段階を経ていた説。

 考えられるとすれば、錬金術士のランクだろうか。


 ちゃんと加護をもらえたので、もう一度お祈りアクションをしてお礼。


 さて、先へ進もう。

 霧が濃くなってるのもだけど、神像がおどろおどろしくなってるのもちょっと気になってる。これって霧の迷子のせいなのか、それとも元々こういう神像なんだろうか。

 気になるけど、振り払わないと決めたので連れていくぞ。


 明らかに悪神ぽい辺りはもはや立ち止まることなく進む。

 ひたひた、ひたひたと足音がついてくるし、泣き声も聞こえるけど、新しく増える怪異はなさそうでちょっと拍子抜け。


 そのままゆっくり進んでいると、今度は犬の唸り声が聞こえてきた。一応振り向くけど、何もない。これ走って逃げたら、追いかけられて怖いのかもなあ。

 それでも気にせず歩いていけば、耳元で人がぶつぶつ呟くような声が聞こえはじめ、風が強く吹いてくる。猫の周りを歩く足跡も、赤く染まるようになってきた。ぴちゃぴちゃと水音。

 盛り上がってまいりました?


 ゴールが近いってことなのかも。そろそろ一周、歩き終わりそうだし。真ん中にいたのは知識の神さまだったから、そこまで連れていったら終わりかな。


 ふと風が止んだと思ったら今度は濃霧が立ち込めてきた。先が全く見えなくなる。こうきたかー。あと少しなんだけども。

 どうしたものかと思っていると、ルイが進み出た。猫を振り向き、サムズアップの吹き出し。おお、頼もしい!

 ルイの後ろを着いていくと、やがて霧の向こうに本の柱が見えてくる。

 大声で泣く子どもの泣き声が、後ろから前へと駆け抜けていった。


『霧の迷子を帰しました』

『学園都市の七不思議『霧の迷子』をクリアしました。SP10とプレゼントボックスを入手しました』


 おや。

 これ、七不思議だったのか。


 霧が晴れると、知識神の背後には本を整理しているとおぼしき子どもの像が増えていた。子どもの背には鳥の羽根とコウモリの羽根が生えており、悪魔のようにも天使のようにも見える。


 迷子をお返し出来たようだし、お祈りしておこう。

 監督不行き届きはダメにゃんよ~、と。


『知を求めよ、知は答える』


 お返事じゃなかったけど、加護はもらえたようだ。

 んん、知力+2か~。なかなか渋い。でもそう難しいクエストでもなかったから、こんなもんかなあ。


 本殿へ入って、お布施を払ってお参り。本殿の中は神像がなかった。控えていた神官さんの話によると本殿の中では、自分の信じる神に祈りを捧げることが推奨されているらしい。それで神像とかは置かれていないんだって。

 猫の場合は運送神さまってことになるのかな。聖印を握って、お祈りアクション。

 運送神さま、『ターンアンデッド』役にたったにゃんよ~、と。

 お返事はなかった。猫は結構、運送神さまに加護もらってるから、そう簡単には増えないね。


 神殿の柱廊を出るとき振り返ると、また子どもの像はなくなっていた。

 笑う子どもの声が猫を追い抜いていった気がした。

 ……蔵書管理大変なのかもしれんね。




 さて。魔法学校も神殿も行ってしまったし、やることが片付いてしまった。いや、深掘りしようと思えばいくらでも出来るけども。

 目的を見失ってしまったので、ちょっとメインストーリーのおさらいをしておこう。


 学園都市のメインストーリーは、七不思議を追うことにある。

 順番は特になく、やりたいようにやっていい。基本的には依頼人から話を聞いて、依頼のアイテムを持ってきたり、指定の階層まで行ったり、指定の魔物を倒したりすればクリア。

 お使い感のあるクエストばかりかと思いきや、レイドバトルを命じられたりとなかなか大荒れであったらしい。今はレイドボスは倒されてしまってるので、もういないみたいだけどね。

 後続が恵まれているという割に、こういうこともあるのでこのゲームは妙なところでバランスを取っている。まあ最前線にしか味わえない世界があるのは、どのゲームも同じではある。


 『這いずる銅像』『霧の迷子』はクリアした。あとは『図書館の悪夢』『迷宮の糸車』『講堂で泣くオルガン』『消える塔』『力が欲しいか』の5個のクエストがある。

 七不思議といえば、残りひとつが見つからないのが七不思議、というのがお約束。実は『霧の迷い子』は共通クエストじゃなかったらしい。いろいろな七不思議クエストが埋まってるんだって。

 プレイヤーによって分岐して、その人それぞれの七不思議に仕上がるのだとか。

 『霧の迷い子』以外にどんなクエストがあったのか気になっちゃうところ。いろいろな不思議があるっていいね。


 ちなみに共通の七不思議クエストは以下の通り。

 既に終えた『這いずる銅像』は学園と墓地ダンジョン。

 『図書館の悪夢』は図書館ダンジョン。

 『迷宮の糸車』は七不思議ラビリンス。

 『講堂で泣くオルガン』は講堂。

 『消える塔』はアルカディアの双塔。

 『力が欲しいか』は学校内の公園から。


 猫が行ってみたい、やってみたいのは上からふたつ。図書館ダンジョンと七不思議ラビリンスにはクエストでお邪魔したことがあるから、一度本格的に行ってみたい。

 図書館ダンジョンには噂のビブリオマルモがいると聞くし、レトの新しい本も見つかるんじゃないかと期待している。……といってもまだ前の教本を読み終えることは出来ていないようだから、様子見なんだけども。

 七不思議ラビリンスは、『錬金術』に関係してそうだったから気になっている。件の『錬成陣』部屋は特殊な機構だったのかもしれないが。


 『講堂で泣くオルガン』は話を聞いてオルガンの音色を聞かせてもらうだけのクエスト。もうレイドボスが出て終わってるやつだ。


 『消える塔』は双塔のどちらかを20階まで攻略すればクリア。力の塔と知の塔っていう、要は筋力か魔力かみたいなダンジョンだ。猫の場合は知の塔になりそう。1人では全然無理そうなので、誰か一緒に行ってくれる人を探さなければ。


 『力が欲しいか』はちょっとめんどくさいクエストで、学園都市内のダンジョンで一度倒れてホーム帰還する必要がある。すると悪魔の『力が……欲しいか……』という囁きを聞けるので、『はい』と答えてクエストを進めていく。ちなみに『いいえ』を選んでもクエストは進むんだけど、『はい』の方がスムーズなんだって。

 猫はそれほど強くないからいつかどこかでホームに帰されるだろうし、そのときにやってみればいいかな。


 メインストーリーについてはそんな感じだ。

 さて、どこから行ってみようかな。

評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。


同時連載中の『微睡みの上に花は咲く~大規模異世界転移、掲示板つき~』が12/6に完結を迎えます。

https://ncode.syosetu.com/n6753le/

合いそうならばこちらもよろしくお願いします!

(今更すぎる自作宣伝)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新にゃーん [一言] ホラー全般ダメなタイプだから、霧の迷子が割り振られたら振り切って別のモノにすることになるんだろうなぁ……
更新ありがとうございますにゃーん。 これはゲームならなんとか耐えられるかもだけど、生身だとガチびびり一直線にゃん。 でも見つからないはずの七不思議最後の一個枠を先に引き当てるところは流石。 錬金術の神…
更新乙ニャン! 霧の迷子めっちゃホラーじゃないですか、ヤダー ルイが頼りになる!カッコいい! 図書館ダンジョン!レトちゃんはどんな反応するのかなぁ 他の七不思議も猫ちゃんはどう攻略していくのか楽…
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