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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
6章 猫はいつでも風まかせ

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19.氷の宮殿

 宮殿は近づいてみると凍りついていた。『サーモスタット』をしていても冷え冷えとした気配が伝わってくる。


「ここを人が訪れるとは珍しい……」

「にゃっ!」


 誰もいないと思っていたら、突然声が聞こえて驚く。目を向けると、真っ白なペングーが宮殿の前に立っていた。ほ、保護色!

 よくよく見ると、毛がポワポワしているのでまだヒナかもしれない。サイズでは違いがないので、色が異なるとわかりづらい。

 心なしか嘴のオレンジも薄いペングーは、猫たちをぐるりと見回した。


「ルイネアと楽士か。氷の試練を求めるか?」

「試練?」


 ポユズさんが首を傾げ、もう一人のルイネアであるロッテンさんを見上げる。ロッテンさんは首を振った。


「申し訳ない、氷の試練とやらはどんなものだい?」

「人から伝承は失われたか。まあいい、我らとて同じこと」


 ぺちぺちと小幅に歩いてきたペングーは、ロッテンさんを見上げてうなずいた。


「氷の魔力が十分に巡っておる。御主おぬしには試練を受ける準備がある」

「僕ではダメってことかな」

「血筋は十分、けれど属性が満ちていない」

「ふむ」

『たぶん氷の純魔マギカかどうかって話だねえ』

『ロッテンが選ばれるなら間違いなさそうだな』

「案内しよう」


 ペングーは踵を返すと、ぺちぺちと宮殿へ歩いていく。


「にゃあ、ロッテンさんは氷の試練を受けてみるにゃ?」

「よくわからないが、宮殿の中で行われることに興味がある。受けてみようと思っているよ」

「俺らも気になるし、一緒にいってみよか」

「そうね。どうやら試練のための建物みたいだしね」

「はい!」


 ペングーの後についていくと、宮殿の大きな扉に張った氷にぴしりとヒビが入った。そして軋みながら開かれる。中から更に冷たい風が吹いた。


『さっぶ!!』

純魔マギカには酷な環境なんですけど~』

『そういえば、ロッテンさんは純魔のわりに体力があるにゃんね?』

『ランちゃん、シンデレラがシンデレラなのは、装備品も魔力関連で埋めてるからなのよ』

『筋力体力は雀の涙だから、あきらめて魔力を推すってのが鉄板ですね!』

『ロッテンはその辺、しっかり少ない体力筋力を補う装備をしてるんだと思うよ。ルイネアでもそうする人は多いしね』

『なるほどにゃん~』


 ひとり旅だし、装備まで魔力推ししてないってわけか。というか魔力推しでアクセサリーまで揃えるのって、復活できるプレイヤーならではのやり方なんだろう。


 あったかドリンクを補給しているヤマビコさんとフーテンさんを尻目に、白ペングーを追いかける。歩き方が歩き方なので、急がなくても問題はない。


「氷の試練について、教えてはくれないのか?」

「更なる属性の力を得て、礎に近づく」

「ここでは氷属性の力が得られるっちゅーことか」

「然り」


 宮殿の中は石造りというより、もはや氷で作られている。廊下に柱、天井まで透き通って、ほのかな水色の光を放っていた。外観と中身が一致していないのは、さすが異界といったところか。

 うーん、ひんやり。まだ時間はあるけどついつい『サーモスタット』をかけ直してしまう。


「人から伝承は失われたって言っていたけども、ペ…、氷吟族には伝わっている話があるにゃん?」

「然り」

「教えてほしいにゃん~」

「私からもお願いしたい」


 ロッテンさんの加勢。

 白ペングーはちらりと猫たちを振り返ると、ふすんとため息をついた。


「ビオパールは古くよりルイネアに守られた地であった」


 元々氷属性の力が強かったビオパールだが、火山の異界が開かれて、世界の均衡が崩れつつあった。そんなときルイネアが現れ、身を投じて火山を封じた。

 ビオパールはルイネアを崇め、そして有事の際にはルイネアが身を捧げる。そのようにして維持されてきたそうだ。


「林檎の木を植えようとはしなかったにゃん?」

「属性強き地に生命の林檎は育たぬ」

「にゃあ~……」


 てことは、ビオパールに身を捧げたルイネアたちは救えないのか。残念。


「しかしルイネアにばかり業を負わせるのは忍びないと人族は思い、我らも同調した」


 そこで人族の中でもルイネアの血を少しでも引くものが代わりとなれないかと、試し始めたのだそうだ。


『ルイネアに支配されることをよしとしない層とかもいそうね』

『アッ、そういうのもありそうです!』


 そうして生まれたのが、氷の属性の力を高めた氷の純魔マギカたちだ。


「氷の試練を経てよりルイネアに近づき、ルイネアの代わりに礎となる力を得た」

『……つまり純魔マギカの最終形態はルイネアってこと??』

『ルイネアは純魔の血筋(マギカ・ブラッド)ってこと??』

『ちょっと混乱してきたな』

『これ、純魔のサブクエストっていうか……、流れ的にはメインでやるべきところじゃない~~?』


 頭上をはてなが飛び交っていたが、ペングーの話はまだ続く。


「力を得た人族は、次第にルイネアを追い出し始めた」

『あ、やっぱりそういう流れになるのね~~』

『人間ってそういうもんだ』

「そして、かの雪崩が全てを分かつてしまった」

「この異界の街が出来たという雪崩ね?」

「然り。我ら瑞獣を救おうとして、当時の若き女王――吹雪の乙女は、犠牲になった」


 瑞獣の繁殖地に開いた異界によって雪崩は起きた。瑞獣が巻き込まれた異界を取り戻そうとルイネアは身を捧げ、この瑞獣の街が出来たそうだ。

 しかしまだ若きルイネアと瑞獣が、人間の街から同時に失われたことで混乱が起きた。

 ペングーたち氷吟族も新しい異界の街に慣れるのに時間がかかり、ようやくビオパールを訪れたときには、ルイネアは人間を見捨てて何処かへいってしまった、という話になってしまっていたのだそうな。


「雪崩が街を襲うことは、いかなルイネアといえども防ぎようがなかった。余計に人間は見捨てられたと感じたらしい」


 そしてルイネアを庇った氷吟族とも袂を分かつてしまった。


「にゃん~~」

「我らと分かつた人間たちは、氷の試練も忘れ果てたらしい。試練なくしては礎にもなれぬ」

「火山の異界は広がるばかり……ということか」

「然り」


 ふむふむ、雪崩から先、ルイネアもしくは純魔が身を捧げてないから異界は広がり、氷の力が失われてきている……というわけか。

 つまりロッテンさんが生け贄に、という話になったのは、ルイネアが身を捧げたことに繋がっていたんだな。


「氷吟族はルイネアを失っても語り継いできたのだね」

「生き証人が残っているだけのこと」

「氷吟族は長寿種族にゃん?」

「いいや。ただ、異界生まれがいるのだ。我のように」

「にゃあ……」


 この白いペングー、ヒナっぽいかと思いきやとんだご長寿さんなのか。

 ペングーさんたちが異界生まれの子を避けるのって、こういう長生きヒナの前例を見ているせいもあるのかもしれないな。


 ちらりとロッテンさんを見上げると、なんだか覚悟が決まったお顔をしてらっしゃる。


『にゃん~~、このままだとロッテンさんが身を捧げる流れにゃん??』

『にゃん~~、それは困ります! ロッテンがいないと進まないクエストも多そうです』

『そうはいっても、林檎は育たないっていわれてしまったしねえ』

『代わりのルイネアを連れてくるって話でもないだろうしな』

『これ、プレイヤーだった場合はどうなるん? 身を捧げるって、無理やろ?』

『それよね。だから、生け贄以外の方法があるはずなのよ』


 うーむ。

 猫が異界を封じる方法で知ってるのは3種類だ。ひとつは林檎。それはダメって話。すると残るは精霊。


『考えられるとしたら、シャラ様みたいな精霊を連れてきて神様になってもらうしかないにゃん~?』

『それだ』


 パチッと指を鳴らしてエドさんが猫を指した。


『にゃん?』

『プレイヤーが精霊を育てて連れてきて、神を増やす』

『気の長い話にゃんよ~~!』

『最終目標みたいな話よねえ』


 シャラさまくらいの精霊を育てるのっていったいどのくらいかかるのさ!

 でもまあ、出来なくはないのだ。たぶん。

 そして最後のひとつはダンジョンポイント。


『あとはDP注ぎ込んでマレビトダンジョン化するか、だろうねえ』

『大量のDPが必要そうよね』

『クランの拠点とかになるんやろなあ』


 どっちにしてもプレイヤーが関与してどうにかする事態ではあるのだろう。名のあるNPCが消えてしまうのは、やはり避けたい。

 目下の目標はロッテンさんに生け贄をあきらめてもらうことだな!


 話しつつも宮殿の奥へきた。脇道を無視して真っ直ぐきたから、結構近かったね。予想通りそこには祭壇があった。


「準備が出来たら、楽士は奏でるがよい」

「奏でると何が起きるにゃん?」

「氷の追憶があらわれる。全てを退けたとき、氷の力を授かるであろう」

『追憶系BOSSかな~。氷縛りで倒すのかね?』

『『精霊の涙』を求めるなら氷縛り、特にいらないなら縛らなくていいんちゃう? 氷縛りきついやろ』

『きついです! 氷まったく持ってません!』

『うん。縛らなくていいと思う』

『了解~~』


 追憶系BOSSは実体がなく、風景で現れるタイプのBOSSらしい。風景を攻撃するので範囲が広くてやりやすいが、逆に全方位から攻撃が来るので守りにくくもあるという。


『攻撃回数は少ないけど全体攻撃なのが厄介やねん』

『一撃は避けるのでなにとぞ~~』

『介護は任せて!』

『猫も気をつけるにゃん~』

『ヤマビコはフーテンよりロッテンを気にしておいた方がいいかもしれないわね』

『せやな~、奴さんも純魔やもんな』

『守りが薄くなる……っ!』


 あーだこーだといいつつ、戦闘の準備。といっても猫は『サーモスタット』をかけ直して、念のため温かい食べ物を食べておくくらいしかないんだけども。ヤマビコさんからもらった『ミネストローネ』おいしー。


「『リリー・リリー』を奏でたらいいにゃん?」

「そうだ。楽士はふたり、曲はひとつ。異なる音色が、この地に身を捧げたルイネアの追憶を呼び覚まし、子孫に力を与える」


 儀式ってそういう流れだったのね。てことはボウフォルでの儀式はいったい…?


「氷の力をもらって、受け取らずにここに返したらどうなるにゃん?」

「集められた力が霧散するだけ。なにも変わらぬ」


 にゃあん。

 つまりボウフォルでやったことは無意味!

 まあサブクエストでしたしね!



評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。


今週はこの1話のみの更新になります。

身体に気をつけてよきお盆をお過ごしください~

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― 新着の感想 ―
更新ありがとにゃん! ようやく更新に追いついたにゃーん! 暑いとこで摂取する夏季氷イベ(超略)は最高にゃん! ……だんだん、扇風機の音が吹雪や虎落笛に聴こえてくるにゃ〜ん(自己催眠のジツ)
更新ありがとうございますにゃーん。 異界生まれの氷吟族さん、普段は宮殿で一人なのかと思うと切ないにゃん。 でもそのおかげでボウフォアでは分からないままだったことを教えてもらえるからありがたい。 次回の…
更新ありがとうございますにゃ~ん。 次も楽しみにしていますにゃ~ん。 やっぱり説明役が必要なんよ
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