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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
6章 猫はいつでも風まかせ

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18.かまくら

 かまくらの中は思ったより暖かかった。そして8人+αで入っても問題ないくらいに広い。白い雪の壁かと思ったら手織のタペストリーが掛かっていたりと、なかなかおしゃれ。地面は雪だけど、クッションの効いた椅子が12脚並べられている。

 みんなのファントム・フルクたちは一旦送還されたが、リカは返しちゃうと異界では戻せないので、そのままいてもらうことになった。


「神隠しってたぶん、こういうことだったにゃんね」

「ああ、たしかに」


 ロッテンさんが椅子に深く腰掛けながらため息をつく。猫たちはプレイヤーだから雪崩に巻き込まれてもまあいいか~て感じだけど、NPCのロッテンさんにとっては生きた心地がしなかっただろうな。そう思うとちょっと悪いことをした。


「さあ、お茶をどうぞ」


 ペングーさんが出してくれたお茶は、濃い紅茶に甘酸っぱいジャムが入っていて美味しい。あったまる。


「まずは我が子を連れてきてくれて、ありがとう」

「どういたしましてにゃん~」


 同じ紅茶を飲みつつペングーさんの言うことには、近頃、繁殖地からヒナが拐われる事件が相次いでいたらしい。

 ヒナはスノーウィングに狙われやすい。なのでスノーウィングの来ない尾根で子育てしていたのに、突然ヒナが消えるようになった。これは一大事、と数人体制で見守っていると、人間がヒナを連れ去るのを目撃したものが出たそうだ。


「そこで地の子に相談したのだ」

「地の子……地鼠族にゃん?」

「いかにも」

「それでゴーレムってわけか」

「ひとまず繁殖が終るだけの時間を稼げれば、それでよいと頼んだのだ」


 それで未確認魔物が突然現れる事態になったのか。ゴーレムがハリボテだった理由も理解した。


「にゃん~、ゴーレム倒しちゃったけども」

「構わぬ、此度の繁殖はすでに終えた。みなヒナを街へ連れ帰った後よ」

「繁殖を街でするわけにはいかないんか?」

「異界で生まれては、異界のものになってしまう」

「なるほど?」


 そう言われると、異界で出産や子育てはしたくない気持ちはちょっとわかる。現世に出てこれなくなったら困るしね。


「地鼠族とは仲がよいんです?」

「我らは瑞獣としてルイネアに選ばれしもの。違うものに仕えていても、横の関係はあるのだよ」

『瑞獣ってルイネアが決めてたんか?』

『初耳ですけど!?』


 ルイネアのポユズさんがびっくりしてるけど、ルイネア関係はいつも突然出てくるな。


 詳しく聞くと、地鼠族の集落は火山ではなくこちらの異界に繋がっていて、地人族とも関わりがあるらしい。


『火山じゃなくて、冬山経由で地人族の集落へ行けるんだろうねえ~』

『道理で辿り着ける人と着けない人がいるわけだ』


 色々、思わぬところが繋がっているな。


「尾根の寒気は人の身にはきつかったろう。しばし体を休めていくといい」

「アッ、帰るときはどうしたらいいですか!?」

「街の入り口から出れば、氷湖の畔に辿り着く」


 ……湖畔かあ。もしかしたらこっちの方が真実のビオパールに近かったりしてね。

 ペングーさんはかまくらを出ていってしまったので、突然のフリータイムになってしまった。


「さて、どないしよか」

「探してたのは祭壇、だったわよね?」

「そうにゃん。『トロンポス・ベル』を合奏する祭壇を探してたにゃ」

「ヒナ誘拐事件も気になっちゃいますけど、こっちの街では何のヒントもないでしょうしね!」

「たしかに、それは元のビオパールに戻ってからの話になるだろうな」

「風の例に倣うと、氷の一派で過激派がいるって話じゃないかなあ~と思うけどね~~」

「身内が情けない……」


 フーテンさんの言葉に、ロッテンさんはがっくり来ている。まあ身内って言っても他人だしね。ヨシヨシする猫。


「つまり、今するべきことは観光にゃんね!」

「そうにゃんね~~」

「イキイキしてるわねランちゃん!」

「見知らぬ街はいつでも歓迎にゃんよ~~」


 みんなでぞろぞろ回るのもね~ということで二手に別れることに。

 ポユズさん、リーさん、ヤマビコさん、サッサさんのルイネアと楽士チーム。猫、フーテンさん、エドさんの瑞獣(楽士)と純魔チームに別れることになった。

 楽士から始まってるクエストなので、猫とサッサさんは別れる方がいいねってなったんだよね。

 ロッテンさんは一人行動を希望したので、アライアンスは組んだまま解散。

 いざ、観光の始まりだ!!




 こちらの街にも冒険者ギルドがあればそこから回るのだが、残念ながらない模様。つまりホーム更新は出来ない仕様というわけだ。ダンジョン内の街だし仕方ない。

 街の中はペングーでいっぱいで、雰囲気だけでいうなら着ぐるみの街アルテザに似ている。いや、あれはプレイヤーの仕業なんだけども。

 ちょいちょい話を聞いてみたところ、ペングーは氷吟族というらしい。


「鳥じゃないにゃんね」

「我らはペングーよ。光鳥族にはばかって、鳥とは名乗らぬ」

「にゃあ~」


 光は鳥なのか。というかペングーたち、みんな話し方が古風でちょっと面白い。地鼠族も古風というか侍っぽかったけど、こちらはまた違う感じの古さ。そして声が渋い。


 とりあえずは屋台が出ていたのでお買い物しつつの情報収集。ちなみに屋台飯はニシンのパイ、星を見てはいない普通のやつ。ちょっとしょっぱいフィリングにパイ生地のサクサクが合う。猫は好きな味。


「この街の歴史がわかるような施設ってないにゃん?」

「そのようなものは聞いたことがないな」

「にゃん~、残念にゃ」

「じゃあこの街でいちばん古いものっていうとなんだ?」

「古いもの? 石造りの建物はみんな古いがねえ……、そうだな、あれかね」


 エドさんに屋台のペングーが翼で示したのは、石造りの建物の中でもひときわ大きなもの。


「宮殿さ」

「宮殿……、王様がいるにゃ?」

「主は不在よ。おそらくはこの街が出来た頃から、もういないのではなかろうかね」


 屋台のペングーさんいわくモニュメントのようなもので、詳しくは知らないらしい。昔からある建物だけど中に入ったことないというのは、まあよくある話ではある。

 お礼を言って別れて、ひとまず宮殿とやらに行ってみることにした。


「入れるといいけどね~」

「観光施設じゃないだろうしな」

「きっと管理者はいるにゃん、お願いしてみるにゃん~」


 話しつつ石造りの街の方へ近づいてきたんだけど、なんだか雰囲気が全然違う。

 かまくらのあった街の通りはにぎやかでペングーたちもいっぱいいたんだけど、建物の立ち並ぶ通りに入った途端、人気がなくなった。


「にゃあ……」

「住んでる人がいないのか? 気配が全然ないな」

「ゴーストタウンなのかね?」


 うーん。ペングーさんたちはどうもかまくらに住んでるみたいだったから、立派な建物はあるけど使ってないんだろうか。

 進んでいくと、理由がわかった。壊れているのだ。建物のほとんどは老朽化なのか、それとも元から壊れていたのか、外から見る分には綺麗だけど、中はボロボロで崩れかけている。


「これじゃあ住めないにゃん」

「ダンジョン街だから壊しても直しても次の日には元通り……てことだねえ。こうなるとダンジョンも厄介なもんだ」


 なるほど、異界ダンジョンの建造物は破壊しても一定期間立つと元に戻っちゃうんだっけ。ペングーさんたちがかまくらで暮らしているのも、修繕しても無駄だからなのかもしれない。

 異界暮らしって思った以上に大変そう。


「宮殿にも、人はまったくいないかもしれないな」

「そうだと楽に入れていいよね~」


 途中、ちょっと入れそうな建物に失礼して入ってみたりした。

 壊れた壁や椅子、破れたタペストリーに傾いた絵画、ひび割れたテーブル、といった廃墟。人が暮らしていた気配だけは感じさせるもの悲しい空間となっており、ちょっと退廃的なホラーの趣。それはそれで雰囲気があってよかったのだけど、目ぼしいものは何もない。


「これ、絵はルイネアにゃんね」

「お、本当だ。銀髪のルイネアか~、吹雪の乙女かね」

「案外、宮殿の主だったりしてな」


 何戸か入ってみたけど、共通してるのはルイネアの絵。


「同じ人っぽいにゃんね」

「崇められていたんだろうね~」


 ふむ、吹雪の乙女が宮殿の主だった説、ありそう。

 大体どの家も同じ感じ、と納得できたので、宮殿へ向かう。


「サッサさんが、純魔マギカクエは北欧神話がベースになってることが多いっていってたにゃん?」

「あー。当主の名前が似てるとかいうやつ? 名前が似てるだけで、いかにも北欧神話ってストーリーなわけじゃないみたいよ」

「そうにゃん? 」

「うん~、元々はルイネの林檎が、北欧神話のイドゥンの林檎になぞらえたものなんじゃないかって話から来てるらしいしね、それ」


 そうだったのか。じゃあ氷の女神スカジはあんまり関係ないんだろうか。


「何か気になることでもあったのか?」

「にゃあ…」


 北欧神話の氷の女巨人スカジは、海の守り神ニョルズと紆余曲折あって結婚する。しかし山の守り神であるスカジには海鳥の鳴き声が不快であり、ニョルズには山狼の鳴き声が苦痛であった。そのため二人は自然と別れ、スカジは自分の家に帰ったとされる。


「ペングーはカモメじゃないけど、鳴き声はあったにゃ。こっちの家には吹雪の乙女はもういないのかと思ったにゃん」

「なるほど、たしかにそうとも取れるな」

「つまり吹雪の乙女は山にいるってこと?」

「でも狼のいるようなところはなかったにゃん~」

「海鳥がペングーなら、狼はシロクマーでいいんじゃないか?」

「にゃあ~、それもありかもにゃん」


 シロクマーのいたところといっても特に目ぼしい場所はなく、山の中に普通に出ていたな~という記憶しかないけども。

 うーん、まあ考えたところで、まったく違うかもしれないしな。


 そんなことを話している内に、宮殿へ辿り着いた。


「おや、奇遇」

「にゃあ」

「やあ、お揃いだね」


 リーさんたちも、ロッテンさんも同じように宮殿へ辿り着いたらしい。


「かまくらばかりだし、建物は廃墟だし、他に怪しそうなところってなかったもの」

「かまくらはペングーたちの住み処のようだったしね」

「猫たちもまっすぐここにきちゃったにゃん」


 宮殿、あやしさ満点だものね!

評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございますにゃーん。 氷吟族って呼び名、ペンギンのギンに掛けてるにゃん? 何か吟ずる特技でもあるなら楽士と相性良さそうにゃん。
更新ありがとうございますにゃ~ん 次も楽しみにしていますにゃ~ん ダンジョンですしおすし、何かありそうな予感
[良い点] 更新にゃーん [一言] なんだかんだルイネアって世界の根幹にかかわる種族なんだな…… 何でプレイアブルなんだろう、ちゃんと理由がありそうだ 光鳥族って光属性の瑞獣いるのね 猫が知らなか…
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