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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
6章 猫はいつでも風まかせ

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16.未確認魔物

「それじゃあやっぱり、親元に返してあげるのが一番にゃん」

「ですよね。ひとまずはそれで解決です!」

「私も否やはないよ」


 話を終えたところで『サーモスタット』を掛け直す。あ、そうだ。


「『トロンポス・ベル』を吹いてみてもいいにゃん?」

「アッ、合奏ですね?」

「合奏もだけど、ヒナは回収したにゃん~て尾根の上にお伝えできたらと思ったにゃん」

「なるほど……、それ下手すると『おまえのヒナは預かったぞ』になりません?」

「にゃん…!」


 犯行声明……!


 あれこれ考えた結果、まずそのままの『トロンポス・ベル』で1回、それから『アイスブレス』付きでもう1回、さらに合奏で、合計3回吹いておけば無駄がないんじゃないか、ということになった。

 うむ、合理的だ。

 なお吹く曲は『リリー・リリー』。


 まずそのままで一回。

 なにも起こらず。ペングーのヒナが反応してくれるかと思ったけど、こちらも無反応。

 次に『アイスブレス』付きの演奏。

 こちらも何も反応無し。ペングーのヒナも反応無し。


 最後に、合奏。

 サッサさんが作っておいたという『トロンポス・ベル』で合わせてくれる。猫が『アイスブレス』付き、サッサさんはなしでの演奏。

 特に金色のオーロラが現れたりもなく、あっさりと終わった――と思ったら、終えたあとに尾根からプアー……とラッパの音が返ってきた。


「おお、なんだかお返事っぽい」

「ちゃんと伝わってるといいにゃんね~」


 金色の雪やオーロラは起きず、本当に応答しただけ、みたいな音だったな。ヒナは心なしかピチピチしていた。お腹いっぱいになっただけかもしれんが。


『猫ちゃんや~』

『にゃん!』

『ビオパールのサブクエってどこから入ったやつ?』

『たぶん楽士から入ったはずにゃん』

『楽士か~。道理で情報がないはずだ』

『たぶん合奏系と踏んで、誘ってもらったにゃんよ~』

『なるほどなるほど。5人行けそうにゃんよ~。今から向かうねえ』

『ありがたいにゃん~~!』


 持つべきものはフットワークの軽いフレンドである!




「お待たせしましたにゃん~!」

「お待ちしてましたにゃん~! 」

「ようこそようこそ!」

「よろしゅ~」

「お邪魔するね」

「久しぶりにきたけど、夏がバグりそうね!」

「あー、たしかにな」


 そんなわけで、みんなと合流。

 来てくれたのはいつものメンバー、魔法士のフーテンさんを始め、盾士のヤマビコさん、投擲士のエドさん、狩猟神官のポユズさん、治癒士のリーさん。

 各々、さすが『サーモスタット』はバッチリ完備。ヤマビコさんとフーテンさん以外はモコモコ冬装備である。

 ヤマビコさんは鎧が上着装備に当たるので装備できず、フーテンさんは重量制限に引っ掛かるので装備できないらしい。


「貧弱すぎるのでは……!?」

純魔マギカは常にカツカツの重量なのよ~~」


 アクセサリーが結構重いんだそうな。なるほど、シンデレラは大変。


 街の外なのですでにみんな戦闘装備。準備は万端だ。ロッテンさんとも挨拶して、かくかくしかじかの情報共有。


「幻のスープ、たしかに屋台があったな。気になったけど売り切れとった」


 さすが食のチェックが厳しい料理人ヤマビコさん。……と思ったら防寒具が着れないので、温かい飲み物は生命線なんだって。切実な理由があった。

 自分でも作ってきたけど、現地の食べ物がやはり暖かさの持続力が高いそう。ほうほう。


「つまり未確認魔物BOSSに加えて、不測の事態がありそうってことね」

「人間相手になりそうなのは、穏やかじゃないね」


 リーさんとポユズさんはお揃いのケープを羽織っている。どこかで見たことある、と思ったらそうだ、初心者装備で合成した『ゆきんこケープ』じゃないか。すでになつかしい。

 そういえば『ゆきんこケープ』は着ぐるみ枠なので、鎧を着てても着れるんじゃなかったっけ? と思ったら、着ぐるみを着てると使えない技とかあるんだって。なかなか思うようにはいかないものだ。


「全部倒せば問題ないだろ」


 エドさんはマタギみたいな格好になっている。クマーの毛皮で作ったベストだが、防寒以外にもいろいろな機能があるのだとか。こだわりの逸品。

 ちなみにロッテンさんは毛皮のマントを羽織っている。NPCも場に応じた装備をするのだ。


 情報共有が済んだら早速、氷の尾根へ出発!

 ペングーのヒナは引き続きロッテンさんが運んでくれることになった。

 人族であるヤマビコさんとリーさん、ルイネアのポユズさんは徒歩、小人族のエドさんはサッサさんと同じくファントム・フルクに騎乗。シンデレラのフーテンさんもファントム・フルクに騎乗だ。

 PTは猫とサッサさんロッテンさん、フーテンさんたちでアライアンスとなっている。


 道中は先ほどの吹雪が嘘のように青天。だが見晴らしがいい分、スノーウィングの襲撃が多い。

 『ファイアーウォール』での狩りが安定してるのでここは任せてもらって、フーテンさんたちにはその他の襲撃に備えてもらうこととする。

 スノージェリやらスノーミミットなどの小さいものから、スノーカリブーにシロクマーなどの大きなものまでさまざま出る。ミミットやジェリはともかく、シロクマーは絶対に無理だったので仲間がありがたい。

 ちなみにシロクマーは縄張りに入ってしまうと好戦的だが、一度ぶつかって勝てないと思った相手にはスゴスゴと帰っていく。ヤマビコさんと相撲を取るようにがっぷり組んでは放り投げられているのがちょっと面白かった。


「あれで動物タイプだし、経験値も多くないわりにめんどくさいから、ああやって逃がしたらええねん」

「なるほどにゃん~」


 動物タイプは得てして魔物より弱く、魔物より経験値が少ない。群れることもないし、なるべくなら無視していきたいところ。


 おかげさまで登山は順調、順調。猫はリカに騎乗しているのもあって、ハイキングのような心地だ。適宜『サーモスタット』をかけ直すくらいしかやることがない。

 それにみんなもぬるそうである。


「来てもらっちゃってよかったにゃん?」

「んにゃ? 全然大丈夫にゃんよ~~。特に用事もなかったし、他の純魔マギカクエが見てみたいというのもあったし~」

「それならよかったにゃん?」

「それに『氷の心臓』は気になるアイテムだよねえ。実は風のクエストでようやく接触できた風の一族が、『風の心臓』を求めていて」

「にゃん!?」

「うん、瑞獣のドロップアイテムなら手に入るわけないし、そっちは諦めるかな~てところ」

「にゃん~~」

「まあ風の純魔はわりと難関みたいだし、のんびりいくつもりよ~」


 いつもお世話になっているし、早くお手伝いにいける段階になるといいんだけども。

 風車の街ヴォーデンヒルは推奨LVが高いので、ふらふら遊びに行くにはちょっと二の足を踏んでしまう。でも学園都市のメインクエを進めたら、一度行ってみようかと思っている。


「何事もなく尾根に着けそうね」

「そうだな。特に魔物もいなかったし…!?」


 噂をすれば影、といおうか。

 目の前の雪が盛り上がり、もくもくと巨大な何かが動き出す。


「でっか!?」


 見上げるほど大きな雪の塊に、一同ちょっと呆然としちゃう。小山のようとはこのことか。


「隠密持ちっぽいぞ。中身が看破出来ない!」

「よーしよしよしよし、まあなんでもええわ、なんとかなるやろ! いっちょこい!」


 ヤマビコさんが盾をガンガン鳴らして注意を引くと、巨大な魔物はそちらへ突っ込んでいく。

 絶対に吹き飛んじゃうサイズ感なのに受け止められるのってほんとすごいよね!


「おっ!?」

「どした~?」

「いや、なんや軽いぞこいつ?」

「んん? 中身が軽いってこと?」

「『ホールド』が全然効く」

「んんん? 思ったよりLV低そう?」


 猫にはよくわからないのだが、盾士は組んだ感じで相手の筋力?的なものがややわかるらしい。『ホールド』というのは相手を固定することで、盾士のスキルのひとつだ。格上には効きづらいそうなので、『ホールド』が効くということは格下の可能性が高い。


「でっかいでっかいシロクマーというオチとみた!」

「ビッグフットの正体はクマっていいますし、その可能性は高そうです! 魔法撃っても大丈夫ですか!」

「どんとこーい!」


 そんなわけでヤマビコさんが余裕そうなので、サッサさんも参加して『ファイアストライク』などを撃つ。


「あれっ、無効!?」

「いえ、ダメージは出てないけど、周囲を覆ってる雪は溶けてるわ!」

「うん、そのまま続けてみて!」

「はい!」


 じゃあ猫もシロビにお願いして、『ファイアストライク』撃ってもらおう。

 レトはヒーラー、リカは…、リカはちょっと魔物にびびっちゃってるようなので、落ち着かせるように撫でておく。よしよし、まだ進化もしてないLV低いリカをこんなところ連れてきてごめんよ。


「あ~~風も無効っぽい~~!」

「フーテン終了のお知らせ」

「おつかれっした~」

「まだ終りたくないぃ…ッ!」


 フーテンさんも『ファイアストライク』に切り替えて雪を剥がす方に参加だ。弓や投擲も無効らしく、とりあえず雪を先に剥がすしかないみたい。

 未確認魔物の攻撃も、金属が軋むような雄叫びを上げるとか、ぶるっとふるえて雪を飛ばしてくるようなショボいのしかない。第一形態みたいなもんかな?

 みんなでひたすら炙っていく。

 じわじわと雪が溶けるに従って、未確認魔物の正体が明らかになった。


「んにゃあ、ゴーレム?」

「……に、見えるなあ」

「毛皮が貼ってあるけど、ゴーレムだよね?」


 そう、正体はシロクマーに見せかけた?と思われる、ゴーレムだったのである。


「なんや趣味の悪いゴーレムやな」

「第三の目があるクマーにゃん?」

「ミツメシロクマーを模してるんですかね」


 ミツメシロクマーは名の通り、額に三つ目のあるシロクマーらしい。シロクマーは動物タイプだけど、ミツメシロクマーは魔物。進化した形態ってことですな。

 進化順としてはクマー→魔クマー→ミツメクマーといくようなので、第三進化。なかなか強い魔物である。


「本物だったらなー」

「よかったんですけどねー!」


 エドさんとサッサさんが悔しそうなのは、ミツメ魔物が小人族の種族クエに必要だかららしい。

評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
アクセサリーより重い物は身につけたことがないシンデレラ…!
屋台のスープが実は平和な話だったら、の予想としては ペングーは実はお風呂好きの種族で、汗などの分泌物がオイシイけど、残り湯が原資なので絶対量が少ないとかね。 熱々のお風呂のお礼として合意が成立してると…
 「猫ちゃんや~」の呼び掛けも、返事の「にゃん」もしみじみと好きです! たまに、「なんです?お爺さん」とか幻聴が聞こえるような気もします(笑)
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