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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
6章 猫はいつでも風まかせ

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13.金のオーロラ

「いやいや、吹雪の乙女はもういないんだってよ。ただ吹雪の乙女に目覚めをささやく氷の乙女がいて、『氷の心臓』でこの土地を冷やしてる。そいつらがそういう風貌だって話だよ」

「にゃん~?」


 不老不死の吹雪の乙女はもういない(眠ってる?)けど、彼女に目覚めをささやく氷の乙女は残ってる。

 これだけ聞くと氷の当主っぽいけど、なんか違う気がするな。ボウフォルと違って、氷の当主はビオパールの領主ではないようだから、かなあ?

 ただ、そいつら、という言い方はあんまりいい意味では使わないよね。

 うーん、『氷の心臓』っていうのはどうもアイテムっぽいし、だとすると魔物なのかな?


「猫さんは何か探してんのかい?」

「猫はこれでも楽士にゃんよ。『トロンポス・ベル』を吹くのにふさわしい場所を探してるにゃん」

「おお、『トロンポス・ベル』を吹くのかい。そりゃいいね。それならやはり氷の尾根へ登って、街を見下ろしながら吹いたら、最高じゃないかね」

「氷の尾根にゃ?」

「ああ、たまに誰かが登って吹くみたいでね、街に音色が降りてくるときがあるんだよ」

「にゃあ、それはよさそうにゃん! 教えてくれてありがとうにゃ!」


 ふむ、第一の候補は氷の尾根かな?

 ビオパールは湖畔の名を持つ通り、湖のほとりにたつ街である。一年中氷の張る氷湖で、谷底にあるらしい。街は谷を見下ろす位置にある。

 では氷の尾根はどこにあるかというと、谷と街を囲む高い稜線にある。ゆるやかながら街よりははるか上にあるので、冬山登山になっちゃう。

 はたして上まで辿り着けるかどうか。


 ちなみにビオパールにあるという火山は氷の尾根に連なる山だ。この火山が目覚めつつあり、氷湖の水深が深くなっているらしい。つまり氷が溶けてきている、というわけ。

 火山はダンジョンになっていて、火と氷が同時に味わえるのがビオパールの魅力であるらしい。いかにもゲームな感じである。


 氷の尾根へ行ってみる前に、もうちょっと街を巡ってみよう。聞き取り調査はクエストの基本だしね。



「にゃあ、それじゃあ氷の尾根には行けないにゃ?」

「ああ、巨大な魔物が出て、一般人は通行禁止だ」

「巨大な魔物にゃん?」

「それはもうでっけえんだよ! あんなもの、見たことない!」


 聞き取り調査をしていたところ、街の猟師さんからそんな話があった。猟師さんは普段から氷の尾根に入りシロクマーを倒す猛者だが、彼らでも見たことのない巨大な魔物が姿を現したらしい。

 ううん、明らかにBOSSの予感。これはサッサさんに相談だな。


「どんな魔物にゃん?」

「まず、でけえ。山のようにでけえんだ。それから、白い。雪のなかに潜っていて、急に姿を現す。動いている間も雪を被っていて、何なのかわからねえ」

「にゃあ~、何もわからないにゃんね」

「ただ、やつが歩いたあとにはこれまたでっかい足跡がついているんだ。見間違いなんかじゃねえ」

「なるほど、でっかい足跡……」


 ……UMAかな?

 ビッグフット的な。


「冒険者ギルドに依頼してあるから、早く倒されるといいんだが」

「にゃん~」


 念のため、冒険者ギルドにも回っておく。最初にホーム更新するのに寄ったけど、新しいクエストが出てるだろうしね。


「氷の尾根ですか? たしかに巨大な魔物が出て一般人は通行止めですが、冒険者が自己責任で向かう分には禁止していませんよ」

「にゃん~……」


 これは絶対出るやつ。

 やはり最後は武力がものをいうのか……。


 冒険者ギルドの依頼を確認してみると、『未確認魔物の討伐』がある。うん、BOSSマークついてる。

 他には『スノーウィングの討伐』『ペングーベビーの捕獲』『銀雪花の採取』などなど。

 武力、武力なあ。


 ビオパールの街はそう広くはない。大半が雪に埋もれていて、外を出歩いている人も少ない街だ。屋台はホットワインにスープ、粗麦粥くらいしかなく、名物を味わうなら店内まで入る必要がある。ちなみに血のソーセージが人気だとか。

 なおギルドの建物は、冒険者ギルド1戸でまとまってる方式。行政施設も一緒になっていて、担当カウンターがそれぞれある。

 行政カウンターでも話を聞いてみるか。まずはお約束的に図書室について。


「当街に図書室はございません」

「にゃん~~。まったくないにゃん?」

「はい…、昔に雪崩が起きた際に、すべて失われてしまったようなのです」

「雪崩にゃん?」

「はい。数百年前の話ですので、詳しくは伝わっていないのですが。それによって街はずいぶん小さくなってしまったのだとか」


 昔はもうちょっと大きな街だったらしい。

 うーん、てことはもしかして、石碑とか祭壇とかは街の外にある可能性も大きいのか?


「にゃあ、それじゃあ、この街の歴史がわかるようなものってないにゃん?」

「歴史ですか…。以前は語り部の方がいて、歴史についても教えてくれたんです。でも今は旅に出てしまったみたいで」

「にゃん~」

「たまに帰ってきているようなので、みかけたら声をかけてみたらいかがでしょうか」


 今は旅に出てる語り部さんか。ロッテンさんだったりして。見掛けたら聞いてみよう。


 夏の最中であるからか日暮れは遅く、ずっと明るい。地図上でも北にあるけど近くの街は普通に日が暮れるそうなので、なんらかの加護のせいってことになってるらしい。

 ポーツも夕焼けや朝焼けの時間が長かったりするので、街の特性っていろいろあるんだよね。


 さてはて、どうするかなあ。

 悩みつつも、冒険者ギルドの外へ出たときだった。


「んにゃ……あ?」


 ラッパのような音が、どこからか聞こえてくる。空耳かとも思ったが、リカの耳もピコピコしてるので音が聞こえているのは間違いなさそうだ。

 遠くから響いてくる、高い金管楽器の音色。何を吹いているのかまではわからない。


 ラッパの音色が終わると、金色の光の波のようなものがふんわりと街の空を覆った。まるで無色のオーロラに金粉を振りかけたような、キラキラとしたベール。

 その幻想的な光景にぽかんと見惚れていると、光は街の外へとたなびいていき、大地へ吸い込まれるように消えた。


 なんかすごく怪しい!

 いまのは絶対、ヒントだぞ。


『……ていうことがあったにゃんね~』

『ええええ、屋内にいたので見れなかったです! もったいないことをした~~』

『それで、その光が吸い込まれた場所が怪しいと猫は思うにゃん』

『それはたしかにもう、バリバリに怪しい!』


 意見の一致を見たのでまずは合流し、街の外へ向かってみることにした。


「方角だけはメモしておいたにゃん。でも距離まではわからなかったにゃんよ~」

「思えば前回のボウフォルでも、泉の鐘が鳴る時間って決まってましたし、今回も二度三度とチャンスはあるんじゃないでしょうか!」

「言われてみれば、その可能性も高いと思うにゃん」


 二度目のラッパがあることを期待して、ひとまず準備を整えて出発。

 街を出ると、しんしんと雪が降り始めた。


「この辺のフィールドはいつも雪ですね。ときどき吹雪だったり、粉雪になったりという感じで」

「にゃあ、天候付きフィールドにゃんね」

「ですです」


 牡丹雪がドサドサ降るので、雪は柔らかくて深い。かなり足を取られるのだが、フルクのリカは雪に目を輝かせている。楽しそうでなによりだ。

 サッサさんもファントム・フルクを呼び出して背に乗っている。

 猫も召喚騎獣のファントム種を手に入れようと思いつつまだだな。どこかで手に入るといいのだけども、未だ見ぬファントム・ドンキーよ。

 ふたりでワンコに乗りつつ、雪道を進んでいく。


「あっ、前方、なんか光が渦巻いてます?」

「ほんとにゃん!」


 金粉を撒いたような光の帯が、くるくると地面の上を竜巻のように渦巻いているのが見える。

 しかし近づくにつれて、雪が威力を増していく。


「ああああ、これはきつい!!」

「にゃん~~」


 ついには周囲が凍りついたように真っ白になった。

 ホワイトアウトだ!


「なにも見えないにゃん~~~」

「こっちもですー!」


 このままでは遭難する、ということで一旦その場で動かず止まるが、一向に吹雪は止まないし、ついには防寒具をつけているのにデバフ『凍え』が出てきた。


「これはまずそうです! 一旦、撤退して準備を整えましょう!」

「了解にゃん!」


 そう言って踵を返そうとしたときだった。


 プアー、と空から降ってくるラッパの音。

 思わず頭上を見上げると、真っ白な視界の中に金色の雪が降ってくる。それはキラキラと舞いながら、地面に下りてくる。そして猫の少し先の雪の上でまた、くるくると竜巻のように渦巻く。


「んにゃあ……?」


 あれはなんだろう、と近づこうとしたのだが、金の光を追って、白い鳥のような生き物がバッサバッサと降ってくる。

 鳥じゃないな、身体がトカゲ……、小型ドラゴンか!

 ガツンとダメージ吹き出しが飛び散る。


「にゃっ、にゃにゃっ!?」


 ボケッと見ている間にうっかり『凍結』になっていた猫にはなす術がなく、大量の小型ドラゴンにたかられて、さくっと送還されてしまったのだった。

 にゃん~~!!




「えらい目に遭いましたね……」

「にゃん~、完全に情報不足で行動しすぎたにゃん」

「これはイケルと思ってしまったんですよねー」

「にゃ~~」


 冒険者ギルドにて反省会。

 まず、寒さ対策が足りなかった。

 これについては、猫も『サーモスタット』を覚えることにした。

 サッサさんいわく『サーモスタット』は接触の魔法なので、視界と足元が悪い状態では猫に掛け直すことが出来なかったらしい。


「たぶん吹雪の寒さについてはそれで大丈夫と思うんですけど、次に視界の悪さですよね」

「にゃん~、あの小型ドラゴンは結局なんだったにゃん?」

「あれはスノーウィングと呼ばれるやつですね。谷に巣を作るドラゴンで、街ではかなり嫌われものです」


 雑食で、谷の薬草や木の実などを食べ尽くしてしまう上、家畜も狙われることがあるようだ。巣材としていろいろなものを盗んでいくなど、かなりの害竜であるらしい。

 そういえば、冒険者ギルドでも討伐依頼が出ていたな。

評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございますにゃーん。 金色の光が発生するのはトロンポス・ベル持ちの楽士2人がPT組むのがフラグなのかにゃ? リカちゃん新加入なのに送還! と思ったけど忠誠心高めのフルクだし好感度はそんな…
[良い点] 更新にゃーん [一言] これ、楽士のクエストを進めるのに武力がいるのか、単に時期が悪いのか…… とりあえず、サーモスタットの教本を買わなきゃだ
楽士クエは演奏を聞いてくれる武力担当が必要なタイプかにゃん?謎解きやギミック解除が楽士の担当っぽいけど、まだ対策不足でそこまで辿り着いてないにゃんー
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