6.錬金釜の作り方
『魔鉄』を置く度に光は増していき、くるくると『魔鉄』の上に光の渦が出来る。ルドルフさんのやり方を思い出すに、ここで素材に手を当てればいいんだよね?
ポンポンと『魔鉄』に触れていくと、猫の手が輝きだす。猫の拳が光ってうな………いや、なんでもない。
輝く肉球が不思議で笑っちゃうんだけど、この肉球で描いた図案をタッチだ。
瞬間、燃えるように図案を光が走り始めた。
まぶしいー!
ポン!! と弾けるような音がしたかと思うと、光が収まった。
『錬金釜の修復に成功しました 1/5』
ついでにぴくりとも動かなかった『魔道工』のレベルが上がり、『錬金釜』のレシピを手に入れた。
『錬金釜』って作れるんだ!?!?
クエストの方は、5個全部直さないと次へは動かないみたい。
てことは、『魔鉄』があと20個いる。さすがにそんなに持ってないので、マケボで買わねば。
「んまあ! まあ、今の光はもしかして…!?」
「この1台は直ったはずにゃん~」
「なんと…! ありがとうございます! 早速試してみても!?」
「どうぞにゃん!」
にゃふん、試してみないとダメでした。
猫の反省をよそに、お姉さんはいそいそとアイテムを持ち出してくるとポイポイと放り込む。
書き損じの紙、かな?
そして釜の下にある引き出しを開けて首を傾げる。
「あら? 魔石がありませんね」
「あにゃ」
「あ、いえ、こちらは消耗品ですから。施設から提供させていただきますわ」
錬金釜には下に小さな引き出しがあって、そこに魔石を入れることによって釜が動く。ここを属性魔石に変更することで、属性変換出来たりするやつだ。属性変換自体は生活魔法で代替することが出来るんだけど、魔石そのものはメイン電源みたいなものなので、空だと動かない。
ふむふむ…。
自分で作るときに必要なのは、鍋釜(?)と図案と『魔鉄』と『魔石』てことになるのかな?
こんなでかい錬金釜あると嵩張っちゃうけど、せっかくならちょっと作ってみたい。釜自体をコンパクトに作ったらコンパクトになるってものでもなさそうだしな。第一、入り口が狭いと中に図案が書けないもん。
うーん、一回マイルームの錬金釜を観察してみないと。作れるなんて考えたことなかったから、マジマジと見たことがなかった。
猫が錬金釜を観察したり、マケボで『魔鉄』を購入している間にお姉さんが帰ってきた。
早速『魔石』を入れて実験。
……成功!
紙が1枚出てきた。『羊皮紙』だって。『書き損じの紙』10枚で『羊皮紙』になるらしい。
「ほ、本当に直っていますね! ありがとうございます! こちらをお受け取りください」
10万zをいただいた。寄付金が戻ってきたぞ?
なんでも、釜を修繕するのではなく新しく購入する方向で寄付を貯めていたけど、修繕できるのなら…ということで寄付金から報酬が出たらしい。お、おう。それ着服にならない?大丈夫?
猫が全部直したら問題ないか!
全部直せば40万z、悪くない。『魔鉄』代も余裕である。
悲しいことに猫のMPではひとつずつしか作業できないが、お姉さんは錬金釜部屋から出ていった。作業スピードを気にする必要はなくなったので、のんびり直していく。
『錬金釜の修復に成功しました 5/5』
『共有釜の使用が可能になりました』
『錬金術師の再興に貢献しました』
『錬金術師の再興クエスト達成者が10人に到達しました』
『ワールド全体に『自由都市の共有釜』が解放されます』
わ、わあ……?
ワールドアナウンスこそなかったけど、どうやら全体に影響のあるクエストだったらしい。やったぜ??
てか猫が10人目って少なくない? 『魔道工』の人気が無さすぎる!!
さておき、これで共有釜の使用が可能になり、街の人々が錬金術に親しむようになる……のかな? だといいね。
プレイヤー側としては、錬金釜専用の生産施設がオープンした。使用にはお金がかかるが、どうやら『錬金術』を持っていなくても使えるらしい。そこが生産施設との違いだな。
『錬金術』のラーニングが『料理』くらい一般的になるかもね。材料を湯水のように溶かす財力がないと難しいかもしれないけど、生産のラーニングとはそういうものだ。
しかしワールドアナウンスもなくひっそりオープンしたようなので、これからお使いクエストをする人とか、行政施設にくる人くらいしか気がつかないかも?
うーん、掲示板に書き込むか悩むところだ。錬金術師のスレは制限付きだから、あそこに書き込んでも意味なさそうだしなあ。いや、『魔道工』は増えるのかも?
クエスト終了報酬として残りの40万zを受け取る。
「これで錬金釜室をオープンさせることが出来ます! 本当にありがとうございます!」
「どういたしましてにゃん~」
「ああ、先人の夢だった錬成陣室もオープン出来ればいいのですけれど…」
チラッと猫を見られましても。
「『錬成陣』も壊れちゃったにゃ?」
「あ、いえいえ。錬成陣室を作れたら、というのは我々の長年の夢なのです。しかし『錬成陣』は『錬金釜』と違って乱暴に扱うとすぐ壊れてしまいますし、なかなか行政施設での導入は難しく…」
「にゃあ、壊れにくい『錬成陣』が必要にゃんね」
「あるいは、より多く揃えるためにご寄付が…」
「にゃん……!」
そっちだったか!
つまり、こっちは多額の寄付をしたり、『錬成陣』を作って寄付したりするクエスト、だったりするのかな?
『錬成陣』の寄付ならレシピもらえるならアリ寄り。
「にゃあ、規格のメモとかは残ってるにゃ?」
「いえ、ただあったらいいなあ、という程度の話ですので」
「にゃん~~」
レシピはなし! 残念。
続きのクエスト(?)については、『錬成陣』のレシピが手に入ったら考えよう。『錬成陣』は絨毯のようなアイテムなので、たぶん裁縫師の協力が不可欠だ。また裁縫互助会かショーユラさん辺りに相談してみたいところ。
『錬金釜』の釜部分も一度、硝子連合に聞いてみてもいいかもしれない。まあ、猫の『錬金釜』を観察してからかな。
さて。
ちょっと寄り道しちゃったけど、お使いクエストの続きだ。
「本当に助かりました。ここだけの話、都市機構の老朽化が喫緊の課題だったのです」
「にゃあ」
「来る未来にむけて、錬金術師の少なさは頭の痛い問題でした」
「これから増えるといいにゃんね~」
「ええ、本当に!」
世間話をしつつ、細々と発生するお使いをこなしていく。行政施設内をうろうろするだけで済むから、前よりは楽だ。
メインストーリー的には、自由都市で起きた大きな事件ってなかったらしい。ダンジョンがないから、大事件は起きにくいってことなんだろう。
でも都市機構の老朽化とかって話が出てきたし、今後なにか起こりそうな気配はする、といったところか。でも錬金術師の問題はちょっと上向いたし、この調子で錬金術師が細々と活動していけば抑えられたりするのかも? はてさて。
そんなわけで今回のお使いクエストはメインストーリーの解説というより、自由都市の観光案内という趣が強かった。マイホームタウンなので、知ってる話ばかりだったのはちょっと残念。
ここで骨董品店とか、掘り出し物屋とかの話が出るのは知らなかったな。本屋さんの話はでなかった。フフ、隠れた名店。猫だけが知ってるようで気分がよい。もちろん営業してる以上、そんなことはないんだけどね!
最後までお話を聞いたら、自由都市のお使いクエストは終了! お疲れさまでした。長かったなあ…!
次は酪農の里ですな。巡礼の旅と同じ道を辿るので助かる。
今日のところはそろそろログアウトの時間なので、マイルームへ帰ることに。
早速、マイルームの工房部屋で『初心者錬金釜』の観察。シンプルな茶釜型で、蓋まで金属で出来ている。中を覗いても真っ暗で、図案は確認できない。
ふむ、中の図案が見れたのって、壊れてたからかもしれないな。
このサイズだと小さい図案になるから、インクのコントロールが大変そうだなと予想がつく。『初心者用錬金釜』だけど、製作は初心者用ではないんだろう。
やっぱり、最初に作るなら大きめの、蓋がしっかり大きいタイプの釜がいい。茶釜じゃなくて、ご飯炊くような鍋釜だ。
前に茶器を買った通りで『料理』用のアイテムが売ってた気がするから、そこにいってみるか。いや、鍋なら『料理』ギルドで買えばいいのか? でも元々『料理』用に作られている道具を、加工できるものなんだろうか。
謎は尽きない。まずやってみないことには。
マケボを見ても、なかなか鍋や釜は売ってない。というか鍋ならちょっとあったけど釜は出品ゼロだ。道具類は元々、マケボにはあまり出ないから仕方ない。
やっぱり専門店街か、露店で見るかだなあ。
それに『惑えるインク』も、釜ひとつにつき1個使ってしまった。在庫が少なくなっている。修理で1個使うなら、製作ではもっと必要だろう。
『動く文字』は大量に手に入るアイテムではないから、新しいインクも考えないといけない。うーん、インクのレシピが必要だぞ。
たしか『迷いの木コブ』がインクの材料になるって話を読んだことがある。没食子インクなんだろうなあ。虫こぶ集めるよりはクルミを集める方が簡単な気がするけど、代用可能だろうか。クルミっぽい木の実はあるはずだから、それも探してみたい。
レシピが見つかるのが一番だけど、『調薬』や『料理』レシピは現実から逆輸入しても正解に辿り着けたりするのがいいところだ。『錬金術』とは違う。
……いやいや待てよ?
『惑えるインク』を作ったからって、インクは作ったものしか使えないなんてわけはないから、市販されているんじゃないか?
ちょっとインクの店売りも見てみたい。お手紙セットが売ってた文具店にインクもあった気がする。
そういえばお手紙を書くために『インクとペン』は持ってるんだけど、これは買いきりでこれだけあれば紙に文字が書けるアイテムだ。どうも生産には使えない。
お手紙書くのには必要なかったからスルーしちゃったけど、ちゃんとインクを見てこなければ。
ふむ。
このままだとまた忘れてしまいそうだし、先に関心事は試しておこう。
明日は自由都市でレシピ探しとインク探し、鍋釜探しをしようっと!
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