5.錬金術クエスト
『変成』は最初に釜に入れたアイテムの形状に、後から入れたアイテムを変成させるのが基本だ。つまり最初に『ロングソード』を入れて、後に変形したいアイテムを入れる。
とはいえ、『ロングソード』型に変形したいアイテムなんてある??
『変成』のサイズに質量が追いつかない場合は小型化するっていうから、小さいものを変成しようとすればナイフくらいの大きさになったりするのかな?
それならまあ、需要もあるか。
ん~~材質、効果を考えるとうまくいきそうなのは『魔宝硝子』シリーズだろう。
硝子で出来たナイフ、いいんじゃないです?
てことでお試し、まずは余ってる『無魔硝子』から、もちろん無属性魔法で合成。
はいチーン。
『魔鉄』が出来た。
思てたんと違う…!
鉄の性質が継承されてしまったらしい。ややこしいな!
むむ、『魔鉄』では当然、赤字になってしまうし、特に珍しいアイテムでもない。これは失敗だな。
無属性だったからダメだったのかも。他の属性魔法だったら、属性魔鉄になったりしたのか?
ちょっと実験しておこう。
『ロングソード』を1個購入。『雷魔硝子』で『変成』、雷魔法で。
バチッと完成。
『雷魔鉄』になった!
おっ、予想的中!
属性魔鉄は、主に魔物のレアドロップアイテムで、属性武器の素材として人気がある。これが簡易に作れるならちょっとお得かもしれない。
『ロングソード』、安い内にちょっと買っておこう。『宝硝子』もまた仕入れさせてもらおうっと。
レベル上げにもちょうどいい。
レベルといえば『魔道工』は全然進んでなかったりする。レシピが、レシピがないのだ。
錬金術はレシピが肝心とはいったもので、レシピがないとスキルの持ち腐れなのである。悲しい!
インクを使うだろうことはわかっているので、インクだけは用意してあるのにな~。
まあこれについては、また魔道具マーケットにいったときに聞いてこようと思っている。でも自由都市だって錬金術の生まれた場所といわれているのだから、なにかあってほしいものだ。
さて、気を取り直してお使いクエストの続きである。
フロントまで進んだので、あとは自由都市マケットの分を進めたら、ここで受けられるお使いクエストは終わりになる。長かったなあ!
あとはメインクエストと同じく各々の街へいってお使いをこなすか、あるいはメインクエストに乗るかを選択することになる。
お使いクエストの方が要求アイテムも時間も少ないし、肩透かしもないのでオススメとのこと。
このゲームのメインクエストってプレイヤーが動いて進めていくタイプなので、ときどきとんでもない遠回りがあったりするんだよね。その辺がきれいにまとまってるのが、第三エディションで導入されたお使いクエストだったりする。
そんなわけで自由都市のお使いクエストは、行政施設から始まる。早速ルイに乗って向かう。
行政施設といえば件の、ペチカちゃんから勧められた超長編小説のような歴史本を思い出すが、まさか関係ないよね……。
はい。
歴史の話でした。あっさりめだったので、横でペチカちゃんの感想が聞きたかった。自分では読みたくないのだ…だってドロドロのメロドラマだっていうんだもん。あのペチカちゃんが! ドロドロだって!!
いやもう、怖いもの見たさも通りすぎてしまったな。
ざっくりざっくりいうと、マケットは一代で富を築いた大金持ちの商人さんが作った寄合が成長していったものである。波瀾万丈のドラマがあったりドロドロの陰謀劇があったりするんだけど、そこはまあ割愛。
魔道具マーケットはなんとなく集まってきた、という感じの街だけど、自由都市はカリスマある商人がいて、そこへみんなが集ってきた…という違いがあるんだとか。
そんな自由都市は、大都市にもかかわらずダンジョン機構が使われていないという、大変珍しい都市である。
ここでダンジョン機構って何さ?という話になってくるのだが、そこがちょっと長い話になる。
このゲームの世界は知っての通り、あちこちに異界の扉がパカパカしちゃう不思議な世界である。
そうするとあちこちにダンジョンが生まれる。ダンジョンが生まれるとそれを抑えんとして人が集まり、街になり、やがてダンジョンが人の手に負えるようになると、それを街に組み込んで街が成長する。
これが一般的な大都市の成り立ちなんだそう。だから都市には必ずダンジョンが付属している。付属していない場合は完全制圧済で公開部分がない状態、とのこと。なお廃都は大体が大昔の迷宮機構を使っているのでその限りではないとか。
マレビトにはダンジョンポイントによって異界へ干渉する力が与えられているけど、そこを人力でどうにかしているのが各都市なんだって。
ちなみに方法は都市によって違うし、弱点だったりするので内緒らしい。
ほうほう。
そこで自由都市に戻ると、この都市には異界の扉はない。ダンジョンもない。
そこを可能にしたのが『錬金術』であり、魔道具だという。
「にゃあ…、どんな魔道具があるにゃ?」
「それはやっぱり弱点になってしまいますから、お見せすることはできません」
「にゃん~、でもそれならこの街にはもっと錬金術師さんがいてもおかしくないにゃん? 少ないにゃん」
「それはお恥ずかしながら錬金釜が壊れてしまったからです」
「にゃん??」
説明をしてくれていた行政施設のお姉さんは、困ったように眉を下げた。
いわく、昔は行政施設に共用の錬金釜があって、みんな材料を持ち込んでは『錬金術』してたんだって。そしてその当時は『変成』まで辿り着いた人しか錬金術師を名乗らなかったそうだ。
けれど、老朽化で兼用錬金釜は壊れてしまい、人々は自分の釜を持ってまで『錬金術』をしなくなった。『変成』を出来る人は釜を持っていたけど、他の人から釜を貸せと押し掛けられて釜を壊される事件などが多発し、自分が錬金術師であることを隠すようになってしまった。
その名残で、錬金術師と名乗る人はぐっと少なくなってしまったような。
「特に年齢層の高い方ほど、錬金術師とは名乗りたがらないのです」
「にゃあ~…」
本来なら師匠をしているような人が名乗りたがらないもんだから、弟子が生まれず、どんどん数を減らしているそうな。
今、この街にいる錬金術師はみんな外部からやってきた人なんだって。
「なんだか大変にゃんね~」
「共用釜が復活すれば錬金術師の再興も叶うと思うのですが、予算がおりず……」
「世知辛いにゃ」
「ご寄付承っておりますぅ」
「にゃん…!」
なるほど、クエストのところにある100z~てなんで金額定まってないんだろうって思ったら、寄付額か!
仕方ない、猫は錬金術師なのでちょっと奮発して10万z寄付しちゃう。
「んまあ! ありがとうございます! よろしければ共用の錬金釜室をご覧になりますか?」
「にゃあ?」
「老朽化して使えなくなった釜ではありますが、当時を思い起こすものとして保管されているのです」
「見てみたいにゃん~」
早速、共用釜の部屋へ連れていってもらった。
部屋のなかには、猫の持ってる釜の3倍くらいでかい釜が5台ほど並んでいる。
錬金釜って、釜というだけあって茶釜のような形態をしているのだけど、この釜は米を炊くでかいお釜みたいな形をしている。鍋っぽいというか。うん、猫が煮込めそう。
「でっかいにゃん~」
「元はみなこの大きさだったそうですよ」
「開発者の努力にゃんね~」
今の形になるまでにはいろいろあったのか。
触ってもいいというので試しにペタペタ触ってみたり、中を覗き込んでみたりする。
………おや?
釜の中に紋様が書かれているけど、左半分が掠れている。
こっちの釜は下半分がない。こっちは右。こっちは上。
ふむ、全部合わせたら正しい紋様がわかりそうな気がするな。許可を取って撮影させてもらった。
五芒星をアレンジしたような図形になるのかな?
ぽよん、とウィンドウが飛び出してくる。
『錬金術師を再興せよ』
『壊れた錬金釜を修復しよう!』
クエストだ。
錬金術師だと出てくるのか? いや、事前にクエストは調べてきたけどこんな項目なかったし、たぶん『魔道工』だこれ。
「にゃあ~、猫、もしかしたらこれ、修理できるかもしれないにゃん」
「なんですって! ほ、本当ですか!?」
わかんないけど、修復しようってクエストが出るからにはたぶん猫には出来る課題なんだよね??
信じるぞ!
「たぶん出来ると思うにゃん。ひとつ調べさせてもらってもいいにゃ?」
「もちろんです!」
『魔道工』について猫にわかっていることといえば、魔道具マーケットの錬金術師ルドルフさんのところで見たものだけだ。
まずなにやら羊皮紙らしきものに図案を書いて、その上に素材を載せて、模様のついた手袋でぐっと抑えるとパッと光を放って、それを羊皮紙につけると紙が燃え上がって出来上がるという、その程度の知識である。
うん、つまりなにもわからない。
模様つきの手袋は当然持ってないし、錬金釜に使う素材の見当もつかない。あるのは『惑えるインク』だけという状態。
……まあいいか!
とりあえず猫に出来そうなのは、鍋(釜)の底にある掠れた紋様の修復だけだ。たぶん、これが図案なんだろう。直接書き込んでいいのか??とか不安はあるが、やってみなければわからない。
『惑えるインク』を取りだし、釜の図案部分に手を当てると、ニョロニョロと瓶からインクが飛び出してきた。うわわ、ほんとにインクが勝手に動く!
撮影した図案を見つつ、掠れた部分が描けるようにインクの動きをちょいちょい手助けしていく。だいたい自動でじりじりゆっくり動いてくれるけど、ときどきずれそうになるからチョンと指でつついてやるのだ。
問題はこの作業中ずっとMPが吸われることである。MP増強装備整えておいてよかった! ロニも『トランスファー』ありがとう!
よし、どうにか枯渇前に図案は書き上がった。線が無事に繋がりました。
……で?
何も起きない……。
なにか素材を使うのはわかるけど、材料がわからないことにはなあ。
首をかしげつつ、ペタペタと釜に触れてるとまた出た。
『要求素材:魔鉄5』
『魔鉄』か!
それならさっき作ったのに加え、ドゥーアで拾ってきた分があるのでいけそう。インベントリを確認すると、『魔鉄』は5個以上ある。
ポイポイ取りだしてみると、五芒星の頂点部分が光って見える。なるほど、ここに『魔鉄』を置けってことですね、わかります。
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