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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
6章 猫はいつでも風まかせ

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4.お使いクエスト~廃都編

 ふにゃあ。

 あっちへ行ったりこっちへ行ったりのお使いクエストはゲームの始めたてじゃなくても疲れるものだった。それはそう。

 猫はルイに乗ってるだけとはいえ、伝書鳩よろしくあっちで話を聞いてはこっちへ行き、こっちで話を聞いてはあっちへ行き、と繰り返していると、それがクエストとわかっていても徒労感はある。


 鍛冶屋のクエストは出来上がった『刺し身包丁』を料理屋にお届けに行ったりするのがメインの流れ。そのなかでちょっとした受け渡しの行き違いがあって、ウロウロさせられるのだ。すでに知っている猫としては指摘したいが、ここで指摘すると話が更にややこしくなるらしいのでじっと我慢の子。

 こういうとき、選択肢のないゲームって時に不便よな。ジレジレ。


「最近はポーツじゃ海が繋がって、漁に行ける範囲が増えたって評判じゃないか。料理屋も喜んでるだろうな」

「にゃあ、海が繋がるってどういうことにゃ?」

「ああ、マレビトにはちょっと理解しがたい話かもしれんが、ポーツの海はちょいと前まで離れていたんだよ」

「にゃん??」

「海と海が繋がってなくてな。それで七つの海があるって言われていた」

「七つの海(物理)!?」

「そうそう。もっとも、昔はちゃんと繋がってたらしいんだよ。海のなかに異界の扉が開いちまって、海が飲み込まれちまった。それが最近になって、扉が閉まったんじゃないかって」

「にゃあ~不思議なこともあるにゃんね」


 これがかつてあったメインストーリーの流れ『異界の扉を塞ごう』の話だ。第二エディションの出たばかりの頃のポーツは、海の真ん中にブラックホールよろしく渦があったらしい。


「マレビトが集まってきて、いろいろなものを投げ込んでいったらしい。そうしたら渦が詰まって、扉が閉まったんだとさ」

「詰まらせる(物理)にゃんね…」


 そう、プレイヤーの人間倉庫たる物量にものを言わせて『岩石』とかをガンガン落としていった人がいて、それでちょっと動きが鈍ったっていうんで『岩石』祭が起こった。皆が『岩石』を掘りにドゥーアに籠り、マケボは高騰した。いまでも『岩石』ってたまにすごい価格のがマケボで出てたりするんだけど、それって価値ある『岩石』とは限らなくて、この『岩石』祭の名残だったりするらしい。

 来る日も来る日もプレイヤーが採掘に明け暮れて夜は更け、ついに渦が詰まったんだそうな。

 そんな馬鹿な。

 たぶん……、たぶんだけどメインストーリーの解決方法間違ってないか!?

 猫が思うように、メインストーリーの流れ違うんじゃね?と思う人は多くいて、いずれまた渦が現れると睨んでる人は多い。そうだよね、あまりにも解決方法が脳筋だよね。


 あー、そういえば運送神リュガさまが『深海ふかみでは水の異界が開いている』って前に言ってたっけ。それで深海を覗くものがあれば喚べって言われたような覚えが。

 というか大きなものを運ぶときに喚べって言われてたのも、もしかして渦を塞ぐためだったりしたのかもしれない。


 ワー。

 そのうち、本当にポーツに穴が開きそう。猫の別荘地が!!

 ことが起きたら、解決に向かいたい所存。そのためにも猫は運送神の神官になっておかないとな!


「さて、注文は『ペティナイフ』だったな。これを持っていくといい」

「にゃ、にゃん」


 本当は『刺し身包丁』なんだけど! ここで突っ込むと話が更に拗れるのでグッと我慢して『ペティナイフ』を受け取る。

 何故なら猫はまだ料理屋さんから注文を聞いてないからだ。料理屋さんの注文はシュレディンガーの猫ちゃん。開いてみるまでわからない。

 どうせすれ違うのがわかってるのを運ぶのって、どうしてこんなにやる気が失せるのだろうね…。未来予知ってきっといいことばかりじゃないんだろうな。


「アイヤー、俺の注文は『ペティナイフ』じゃなくて『刺し身包丁』だよ」


 知ってる~~!


「今、手が離せんから、お前さんもう一度お使いを頼まれちゃくれんか? 帰ってきたら昼を奢ってやるからさ」

「任されたにゃん~」


 さて、これで戻ると、『刺し身包丁』じゃ料金か『鉄鉱石』のどちらかかが足りないという話になるのだ。ややこしいね……。



 ややこしいけど行き違いがあるだけで平和に終わるポーツのお使いクエストを終えた。

 足りなかった『鉄鉱石』の一部は依頼した冒険者(料理屋の常連)がガメていたことが発覚し、きついお灸を据えられてエンド。


 そして次のお使いクエストであるフロント編は、この怒られた冒険者から始まったりする。

 鍛冶屋へ『鉄鉱石』を持ち込んだり、出来上がった『ロングソード』を初心者冒険者くんにお届けに行ったりするのがメインの流れだ。その中で初心者冒険者の細々とした思いつき、いやお手伝いに駆り出されるのである。


「僕にはもう頼れる家族はいないんだ。だから自立しないとね!」

「がんばるにゃん~」

「ここで装備を整えて、フロントで仲間を見つけたいんだ! おっと、君は……ううん、やめておこうかな」

「そうにゃんね~」


「……うっうっ、ジェリにナイフ取られちゃったよう…。やっぱり僕、冒険者は向いてないかもしれない。もうやめようかと思ってて……」

「そんなことないにゃんよ~」

「ううう、新しい武器を手に入れなきゃ冒険なんて出来ないよ! ねえ君、この『鉄鉱石』をあげるから僕に武器を見繕ってくれないかい?」

「う~ん、足りないと思うにゃん」

「もちろん、お金は払うよ! 見つけるだけでもいいからさあ! あ、ナイフじゃなくてもっと強そうな武器がいいな!」


 鍛冶屋へ~。


「こんなちょっとの『鉄鉱石』じゃ武器なんか作れやしねえよ。ああ、そうだ、マレビトが持ってるっていう『初心者のナイフ』ってやつ、あれをくれたら安くしておくぜ」

「にゃあ……仕方ないにゃん」

「最近じゃあフロントには不穏な動きがあるっていうし、初心者じゃ何があるかわからねえ。暗黒夜は特に危ねえって聞くぜ。あんまりおすすめはしねえって伝えておいてくれるか」

「わかったにゃん~」


 トンテンカン~~。


「ああっ、お金が足りない! どうしよう、今から『ロングソード』をキャンセルしても怒られないかなあ?」

「怒られると思うにゃん」

「そうだよね……、あっ、そうだ! 君、ちょっとお金を貸してくれないかい!?」

「仕方ないにゃんね~」

「ありがとう、恩に着るよ!」

「フロントは初心者にはおすすめじゃない街らしいにゃんよ?」

「ハハッ、何を言っているのさ、『ロングソード』を手にした僕はもう初心者なんかじゃないよ!」

「に、にゃん…!」


「冒険者かぶれはもうどうしようもねえさ。はしかみたいなもんだ。ほら、ちょっと前にフロントでドンパチあったろう、ルイネアとフロントの議会が衝突してな」

「にゃあ、そんなことがあったにゃん?」

「おう、古い切り株をどうするかってんで揉めに揉めたらしいぜ。ルイネアのいうことにゃ、あれは生命の木の切り株で絶対燃やしてはいけない、なにが起きるかわからないってな。でも議会はたとえ生命の木だろうと、枯れ果てた切り株なんかなんの役にも立ちやしねえ、取っ払って街を広げちまおうってもんさ」

「平行線にゃんねえ」

「おうとも。そんで揉めてる間に夜がきて、とんでもねえバケモンが来てすべてをなぎ倒していっちまった。切り株は燃えて、ついでに議会の長老もおっちんじまった」

「にゃあ…」

「その戦いで冒険者が大活躍したっていうんで、憧れるニワカがやたらと増えたのさ」

「そういうことだったにゃんね~」


「あっ、こんにちは! ほらほら、君にお金を返そうと思って、ちゃんと働いているんだよ!」

「えらいにゃんね~」

「あ、あれ!? ちゃんと『薬草』を取ってきたはずなのに、ひとつ『ニセ薬草』が混ざってる!? どうしよう、これじゃ依頼達成出来ないよ!」

「にゃあ…、『薬草』分けてあげるにゃん」

「ありがとう! ……あっ、薬草採取の報酬ってこんなに少ないんだね…。うっ、く、し、仕方ない、借りたお金だもんね。これは君に渡すよ」

「足りないにゃん…」

「そこはまけておいてよ!」

「にゃん~~」


 ……はい。

 このポンコツ初心者冒険者くんがなかなか徒労感を煽りよる。

 事前にクエストがわかってる分、アイテムを用意して挑んでいるので猫の心は凪いでいる。ちなみにプレイヤーが怒ってしまうと冒険者が逃げ出してしまい、また別のクエストに派生するらしい。

 それはそれでなかなか大変らしいので、粛々と無の顔で言われたとおりにアイテムやお金を渡すのみだ。


 いや、もし本当に冒険者になるならもうちょっとなんとか……と思うんだけど、この初心者冒険者ったら、裕福なおじいちゃんが迎えにきて最終的には冒険者にならないのである。なんということでしょう。


「わあ、おじいちゃん! 生きていたんだね!」

「ふははは、勝手に殺すでないぞこの馬鹿孫め。家出などしよってからに。その脆弱な根性を一から鍛え直してやるからな!」

「ワーッ! 許しておじいちゃん! 助けてえーー!」

「お手柔らかににゃん~」


 屈強な裕福おじいちゃんの小脇に抱えられて去っていく(連れ去られていく)家出少年を見送ってクエストクリア。


 最終的にはメインストーリーで起きたフロントの出来事を回想しつつ、格安で『ロングソード』が手に入るというクエストとなっている。

 ……のだが、現行マケボ相場で考えると『初心者のナイフ』の方が『ロングソード』より高い。逆転現象が起きており、まったく旨味のないクエストになってしまった。


 まあ、このクエストをこなさないとお使いクエストが終わらないのでクリアしましたけども!


 それにしても『ロングソード』のマケボ相場は安い。一昔前の初心者装備の投げ売り価格と似たようなものだ。消耗品でもないのに定期的に供給があり、需要はほぼない、仕方ないことではあるが。

 鍛冶師には武器を溶かして再生するスキルがあるそうだが、そもそもそのスキルの人気がないのに加え、『ロングソード』は『鉄鉱石』ひとつにしかならない、というのも悲しい話だ。


 そういえば、『錬金術』で武器って作れないんだっけ?

 『変成』で剣の性能を持ったアイテムとか作れそうなもんだけど、そういう実験をしている人もいそう。

 ざっくり調べてみると、属性剣の劣化版とかが作れるらしい。あくまで劣化版。投げナイフとかなら使えるかもね~くらいの。ふむふむ。


 せっかくだから『ロングソード』で『変成』試してみるか~。

評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
圧縮してみたいね。 意図的に刃を欠けさせたりしたら出来ないかな?
……不用な物、価値の無い物っていう基準が流動してる、のがシステムにも組み込まれてるなら“今”ならロングソード君は何か有用なモノになってくれる可能性も?現実はそんなに甘くないニャンってなるパティーンでも…
物理的に分たれた七つの海を物理で埋め立てる脳筋思想、古参勢の悪ノリが垣間見えるにゃん もしくは農家のノーカさんならぬ漁師のリョーシさん的な道なき道を切り開いちゃうプレイヤーがいそうな気配
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