25.突撃となりのお宅訪問
続きものです
ガーデンベンチの深皿からあふれるバッタ。
思ったよりこの庭、バッタが大量だったみたいよ。ひえ…。
バッタは『畑ホッパー』という種類らしい。収納してみたら30匹いた。ひえ…。
これはレトのおやつにします。
レトは心なしかご機嫌にベンチで教本を読んでいる。頁のめくりかたを覚えたようで、一人で読めているのだから学習能力が高い。やっぱり内容は全然わからないようなのだが。
レトのMPは、マルモとしては標準的な50だ。なので教本は覚えられるはずだけど、まあ、文字だよね。文字を覚えられるような本があればいいんだけど。図書館か、本屋かなあ。資料室にはないだろうことは想像がつく。
レトが頑張ってくれたおかげか、プランターや植木鉢のバッタ被害はゼロだった。庭の雑草や、雑草に紛れて生えてる薬草はかなり被害を受けているが、それは仕方ない。たぶん薬草はバッタ被害を受けやすい植物だ。
アブラムシはついてたけど『浄化』で除去、芋虫の卵も『浄化』出来た。虫が小型だと滅することが出来るんだろうか??
植えておいた『毒草の種』はぎゅうぎゅうだったので4本を摘芽して『毒草(根つき)』4個を収納。残り1本はそのまま育てる。
葉っぱからしてやはり『ヒールミニトマト』と同じ種だったようだ。種を採らずともトマト農家出来そうで安心。
『マリッソ』の収穫もさくさくと終えた。マリッソは2回収穫だったようで、今回枝を取ると消滅した。『マリッソ』はまた30個ほど。
高品質なのでうれしい。数本だけ刈り取らずに種を採った。種は通常品質なんだよなあ。
プランターの『赤ラコラ』は無事種が出来ていたので、種を収穫すると消滅した。
こちらは同種で受粉したからか特に品質にばらつきはなく、全部通常品質。その代わり種の量はぐっと少なく、10個ほど。
それでも通常品質の種の量でいえば全然多い。ふむふむ。
次も花の咲いた『赤ラコラ』を植えようかと思ったが、やはりここは『白ラコラ』が気になる。
『白ラコラ』の種は大まかに最低品質が50、低品質5、通常2だった。最低品質は圧縮して低品質にしたので、今は低品質が10個ある。低品質は圧縮しちゃお。たぶん通常品質になるんだと思う。なった。
『紫ラコラの種』も気になるが、こっちは『白ラコラの種』が確保できてから考えよう。
ということでプランターに植えるのは『白ラコラ』の種3個。
例のごとく『雑草玉』を混ぜた土に種を植えて、水やりしてから種に『発芽』をかける。するとぴょんと芽が出た。おお。
3個すべての芽が出たら、肥料入りの土を足しておき、水やりと『経過』。雑草の芽が生えてきたので抜く。
先に発芽させておくと、雑草と間違わなくていいな。
このまま一気に育てたい気もしたが、今日はフーテンさんとの約束がある。
時間はまだ少しあるのだが、何分初めて育てる植物だ。なにかイレギュラーがあると困る。やめておくか。
でもログイン中は時間経過が庭も早めなんだよね。せっかくの白ラコラ、虫に食われたら悲しい。
少し考えて、おもむろにプランターを持ち上げ(重い!)、そのまま収納してみる。
うん、やはりプランターや植木鉢は育成途中でも持ち歩き出来るんだな。
たぶんこうして収納しておけばログアウト中の虫被害は防げるのだろう。成長もしないけど。
白ラコラをあきらめて余った時間で錬金術だ。
昨日の内に錬金釜に無属性と風属性で圧縮放り込んでおいた『星鳥人の風切羽根』が完成し、両方とも『星鳥の風切羽根』になっていた。
人部分が…消えた…??
よくわからないがこのアイテムには『錬金道具(消耗品)』と表示されている。おお? やったぜ。
ちなみに中級釜で3時間でした。初級釜だと12時間。
今日は中級釜使うけど、初心者釜は空いてるので放り込んでおこう。
今度は、うーん、星だから闇にしてみようかな、それとも光? まあ闇でいいか、次に光を試そう。闇属性で、ドサッとしてじっくりチンにゃん~。
……あとは錬金釜が頑張るだけで猫の出番はないにゃん。
…よし! まだまだ時間あるし、庭を片付けるか。
雑草をザクザクと刈っては収納。なかなか大変。
そのまま『耕土』でコンバインのように巻き込めないだろうかと考えたのだが、そううまくは行かないようだ。
しかし猫は鍛えられたエリート猫なので雑草採取もお手のものよ!
ヒイコラしながら雑草(たまに薬草や香草)を刈り取り終え、残ってる根っこは巻き込んで『耕土』をかけていく。
うーん、『初心者草刈り鎌』では力不足かもしれない。新しい道具がほしいな。
畑の草刈りも『採取』になるみたいだから、今度また冒険者ギルドで見て来なければ。
ときどき『雑草玉』も巻き込んで、庭一面にせっせと『耕土』をかける。
MP足りなすぎ問題!
仕方ない、レトに一旦帰ってもらい、初心者魔力potを呷る。200MP回復なので1本で全快だ。
試しに『拡大』で範囲を縦に広げてかけてみると畝のように出来て、更に時短出来た。よしよし。3回で庭を縦断出来そう。横に…畝を7本くらい作れるかな?
魔力potを飲みつつ、少しずれては拡大『耕土』、とかけていく。
更にpot3本ほど飲んでようやく終わった。ヒイコラ。
『雑草玉』は30個ほど使っただろうか。巻き込めるだけ巻き込んでみました。『雑草玉』200個もくれたリーさんに感謝である。
庭の大きさ的に畝は全部で5本にした。別に飽きてやめたわけではない。これで2/3が埋まるので、残りの1/3にガーデンベンチと植木鉢、プランターなどを置くことにしたのだ。
植木鉢にはその内、背の低い木を植えてもいいかもしれない。柚子とかレモンとか。
これ、庭拡張するとどうなるんだろう? ただの土だけの場所が増えるのかな?
畑第一段の収穫がどうなるかで、拡張するかどうか決めるつもり。
畑第一段は『薬草の種』2列、『マリッソの種』2列、そしてたぶんトマトと思われる『毒草の種』1列で行くことにした。
薬草とマリッソは種が多めにあるので密集させて育てて摘芽する方針。トマトは『発芽』させて10粒、間隔を開けて植えた。
『流水』で水まき、『経過』。広いと大変。それぞれ魔力pot3本ずつ使った。ああ~~しまった、生えてきた雑草の芽も抜かなきゃ。
畑は…大変…!
次からは畝1本ずつ処理していくことになりそうだ。
雑草抜いてたら危うく時間に遅れるところだった。
レトとルイを呼び寄せて、ギルド通りへ急ぐ。
今回はフーテンさんのマイルームへお邪魔することになった。「なんか話が長くなりそうな気配がするし…」とのこと。まあ露店だと立ち話になるからね。
猫のマイルームの方が錬金釜とか持っていかなくていいので楽なのだが、「初心者のお部屋に押し掛けるとかそんなこと出来ないよ~」と反対されてしまった。
まあよく考えたら椅子もひとつしかないし、何の持てなしも出来ない。フーテンさんは正しい。
そんなわけで中級釜を持ってきている。
「お待たせしましたにゃん~!」
猫がつくと既に揃って待っていたので焦った。
今日の面子は前回の図書館ダンジョン面子だ。前に会ったモルタさんはフーテンさんと商人繋がりで仲がよいだけで、普段から一緒に遊んでいるわけではないらしい。いつメンではなかった。
「いまきたとこ~~」
フーテンさんが手を振って、チリリと鈴を鳴らしてマイルームのドアを出す。
ドアが…でかい…!!
もしやマイルームのサイズに比例して大きくなる!?
「許可だしたのでどうぞ~」
「お邪魔しますにゃん~!」
集まった皆がドアをくぐるのに合わせて中へ入る。
突撃となりのお宅訪問!!
ひ、広い…!!
「ドア潜ってすぐ居間って味気ないけど、増築して玄関作るほどじゃないんだよねえ。てことでその辺座っておいて~」
どっしりとした飴色の木の壁と床。
まるでログハウスの中のような部屋で、天井にはなんかファンが回っている。あのアレだ。凝ってる!
これは壁紙としてついてるやつなんだろうか、それとも家具?
壁にはキリムのタペストリー、床には絨毯、そして暖炉、木のテーブルに、なんかもふもふのソファー、人をダメにしそうなクッション各種。
大きな窓辺にはロッキングチェア。
ちゃんとログハウスしてる…! すごい!
飾り格子の木製パーテーションで区切って部屋を分けているようで、見えない部分もあるが、すごく雰囲気のある空間だ。
いいなあ!
「ランちゃん目がきらきらしてる」
「綺麗なおうちにゃんね!」
「フーテンは凝り性やからなあ。俺はもっと適当な部屋に住んでるで。ほとんど倉庫やな」
「ヤマビコの部屋はそれはそれでやばい」
「あの虚無の箪笥部屋、まだ拡張されてるの?」
ソファに座らせてもらいつつ、話していると、レトが興味津々に腕へ下りてくる。
「おやマルモ。猫ちゃん、召喚獣まで不人気の子にしたの? ていうか『召喚』も持ってたのね」
「『召喚』はスキルガチャに斡旋されたにゃん。フーテンさん、壊したりしないように言うから放し飼いにしてもいいにゃん?」
「いいよ~~。家具は壊れないから、特に言わなくても大丈夫よ」
「ありがとうにゃん! 行っておいで」
許可を出すとレトがタカタカと走っていく。
「久しぶりに味方のマルモ見たなぁ」
「図書館には山ほどいるけどね」
「ビブリオマルモが魔法を使うから、マルモを見直す動きがあるらしいねえ」
猫を見られても、その話は初耳にゃん。
「マルモの中には本が好きな子がいるって司書さんに聞いたにゃん。個体差あるけど、読む子は熱心に読むって。司書さんいわく、レト、うちのマルモは読む方らしいにゃん」
「それってまさか文字が読める?」
「文字は読めてないけど、絵は理解するにゃん。昨日は絵本を読んでたにゃん~」
「内容まで理解してるのか?」
「もちろんしてるにゃん。あの本にあったアレ、みたいな感じで指定するとわかるにゃん。マルモは地図も読めるって本に書いてあったにゃん?」
マルモは小さいサイズならカマキリも捕食するらしいのだが、レトはちゃんとカマキリは生かしていた。雑草刈ってたときに、レトが狩ったバッタと同サイズくらいのカマキリが何匹かいたので、間違いない。
ちなみにカマキリは『虫取り網』で保護してプランターで暮らしてもらっている。
「わあ…、第三でのアップデートなのか、前からあったけどマルモを喚んでなくて気づかなかっただけなのか」
「いや、マルモが地図読めるって話は前からあったで。ただ本を読める場所がこれまでそんなになかっただけで」
「え……待って、本が読めたら教本が読める…てコト!?」
「そういうこと!?」
「教本も読みたがるし、読むというか眺めてるけど魔法は覚えてないにゃん。たぶん文字を覚えないと無理にゃん。読めない本でもすごく熱心に眺めてるから、何十冊も読んでたらいずれ覚える気がするにゃん」
これは猫の希望も混じっているけど、召喚獣はスキルをラーニングするそうだから、そういうことじゃないかと思っている。知らんけど。
「え、ええー…。マルモがビブリオマルモになるならマルモが輝くって話は第三で図書館ダンジョンが出てきた当初からあったのよ。それで、一時期マルモ連れで来る人すごく多かったの。でもマルモ、ダンジョンにいると当たり前だけどすぐ死ぬのよ…」
でしょうね……。
レト、猫よりも貧弱だもの。
「偵察に行って死に、範囲魔法で死に、流れ弾で死に、放し飼いにしても死に、結局ダンジョンではどうにもならなかったという…」
「図書館にいるのは選ばれしマルモで、在野の草原で拾ったマルモとは格が違うんだ…て話になってなかったっけ」
「ならビブリオマルモと契約すればいい!て契約したらただのマルモだったオチがついてた」
「それな。だからビブリオマルモの持ってる杖が本体説が出てきて、マルモがまた消えたはず」
切ない…。
しかしビブリオマルモは杖を持っているのか。レトも杖とか装備出来るようになるのかな?
「学園都市には普通の図書館があるって聞いたにゃん。一緒に行かないにゃん?」
「それが、図書館内は召喚禁止なんだな~~」
「図書館は界が揺らいでいるから、界に干渉する召喚は御法度らしくて。召喚禁止を施されないと中に入れない仕組みになってるのよ」
界が揺らいでるってダンジョンのことじゃなかったっけ??
でもこの図書館はダンジョンではないらしいから、世界の狭間の図書館みたいな? 異次元に広がっていていくらでも本が収められる~みたいなのだろうか。すごく気になる。
学園都市も早く行ってみたいんだよねえ。自由都市もまだ回りきってないけども。
「あ。すまん、お茶も出さんと話してもうたな」
ヤマビコさんがインベントリからカップを出して配る。
…おうちはフーテンさんちなのに、お茶担当はヤマビコさんなのね。
「ランは紅茶? コーヒー?」
「紅茶でお願いしますにゃん!」
自分で淹れたなんちゃって茶は飲んでるが、紅茶はここでは初めてだ。
ほわ、いい香りする。ちょっと柑橘系で、アールグレイっぽい。
は。ここはあれを出すべき。
「『カラメルプリン』のお裾分けですにゃん!」
テーブルの上にプリンを人数分出す。
「おお!」
「わ~~ラーニングおめでとう~~!」
パン!とフーテンさんがクラッカーを鳴らして祝ってくれた。
これはアイテムではなくアクションというやつだ。露店だとアクションの音は横にも聞こえるので非推奨なので、実は初めて見た。
パンパン!とみんながクラッカーを鳴らしてくれるのでちょっとうれしい。
「ありがとうにゃん~! 材料揃えてもらったおかげで達成出来たにゃん!」
「茨道のわりには早かったねえ。やはりラーニング手袋のおかげ?」
フーテンさんに『初心者ラーニング手袋』の性能を説明すると、なるほどねえとうなずいていた。
「初心者装備の集まり具合にもよるんだけど、『初心者』がつくなら、ラーニング手袋も圧縮の対象じゃないかという話があってねえ」
「それだと『初心者救済水』も対象になるにゃん?」
「…そういえばそうね? でもポーションと装備じゃ必要量が違うし」
「『初心者ラーニング手袋』は初心者には有用なアイテムにゃん? 売ってたら買わない初心者はいないにゃん。だから更なる進化はたぶんしないにゃん~。錬金術で伸びるのは主にNPC売りするしかないアイテムにゃん」
「うん、私も錬金術師としてその意見に賛成ね。いいアイテムほど伸びないのよねえ」
「ん~~、なるほど、一理ある。ならもったいないしやめておこうか。いずれ誰かが試すでしょ」
そんなわけで、紅茶飲んでプリン食べつつ、初心者シリーズの報告会だ。
ようやく庭が畑になったし、初心者シリーズの圧縮実験~生活魔法を添えて~も始まります。長い道のりだった…。
大きなまとまりでは4話ほど、その後の情報交換などを含めると+2話と、少し長めの話になります。
虚無の箪笥部屋を持つプレイヤーは多い。箪笥迷路ともいう。ウォークインクローゼットとはとても呼べない。
自分でもどう配置したかさっぱり覚えていないのが箪笥部屋である。
収納と金はあればあるだけ使うのが人の業というもの…。
評価、ブクマ、イイネ、誤字報告、感想ありがとうございます。
私は書いてて楽しいので、読んで楽しんでいただけているならとても嬉しい。ありがとうございます。